亜人至上主義の魔物使い

栗原愁

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第9章 呪怨事件編

一夜明けて

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シードレイクとの戦いから一夜明けた翌日。
フィリアたちは、領主に見送られる形で早々にルーセントから出発しようとしていた。

「この度は、ルーセントをお守りいただき誠にありがとうございます。領民を代表して改めてお礼を申し上げます」

「気にしないでください。お世話になる街が魔物に襲われていたんですよ。助けるのは当たり前じゃないですか」

「本来なら街を挙げてお礼をしたいところなのですが……」

そこで言葉を止め、領主は言いにくそうに目を泳がせていた。

(……ああ、なるほどね)

おそらく街の危機を人種である紫音の手によって救われたのが問題なのだろう。事前に人魚たちが人種を敬遠していることを知っていたためフィリアは深く追求しないことにした。

「そこまでしていただくわけにはいきません。今回私たちは秘密裏に動いていたので、公にしないほうが逆に都合がいいんです」

「そ、それならいいのですが……」

「少しよろしいですか?」

「これはこれは! エリオット王子、このような事態になってしまい、大変申し訳ございませんでした!」

「今回の件は不測の事態でしたから、そちらにはなんの落ち度もありません。損傷した結界の件についても、早急にオルディスから結界術師を派遣して修復にあたりますので、その間の警備の強化をお願いします」

「なにからなにまでお世話になります」

「いえいえ……それよりも、今回起きたことは領民にはご内密にお願いします。オルディスで起きている事件との関連性はもちろんのこと、彼女たちが魔物を倒したことも含めて」

エリオットは、フィリアたちのほうへ視線を移しながら忠告する。

「呪怨事件……でしたか。やはり、被害は拡散しているのですね」

「まだなんとも言えませんが、おそらくは……」

「分かりました。……それと、魔物の件も問題はないかと思います。目撃者はいましたが、どれも自分たちと同じ人魚が魔物を倒してくれたという発言ばかりでしたので」

「……ということは、人種の彼の姿は誰も目撃していないということですね」

「ええ。私も最初見たときは驚きましたよ。まさかあの魔物の群れを倒すばかりか、人魚に変身することができたなんて夢にも思いませんでしたよ。人種のニンゲンの中にはああいったことができる者がいるんですね」

「あんなことができるのは、おそらく彼だけでしょうから心配は無用でしょう」

その後、出発の準備が整ったということなので、エリオットはフィリアたちとともに領主に見送られながらルーセントから出発することとなった。

再び馬車に揺られ、オルディスを目指す紫音たち一行。
その馬車の中で紫音は、昨日の出来事を思い返していた。

(まさか被害がここまで広がっていたとはな……。オルディスとの友好と引き換えに事件解決を提案しようとしていたが、本当にできるのか不安になってきた)

ここまでくると、もはや紫音たちの手でどうにかなる問題を超えてしまっているため、少しだけ弱気になっていた。

「そういや紫音、あのシードレイクたちは結局どうなったの?」

紫音が物思いに耽っているところに、隣にいたフィリアが唐突に問いかけてきた。

「ああ……あいつらならこの馬車の後ろに付いてきているよ。一応魔物の襲撃に備えるよう言ってあるから付いてきながら目を光らせているんじゃないか」

「……本当のようね。出発するとき全然見なかったから手放したかと思ったわ」

「あの魔物って、海に生息する魔物の中でもかなり強い部類なんだろう。そう簡単に手放すかよ」

「それもそうね。これで海中での足も手に入れたことだし、さっさと事件を解決させて帰りましょう」

紫音とは反対に楽観的な考えを持ちながら未来を見据えるフィリア。
いつもなら呆れるところだが、今回ばかりは頼もしく見えた。

「……はあ」

フィリアに感心していると、なにやらリーシアが落ち込むようにうなだれながら大きなため息を吐いていた。

「どうしたリーシア?」

「……あっ、シオンさま。昨日のことでちょっと……」

「昨日……?」

「はい……。昨日、大見得切って任せてもらったのに、あんな失態をしてしまった自分が情けなくなって……」

呪いを解呪させた後に際、魔物に襲われそうになった時のことを嘆いているのだろう。
幸いあのときは紫音の機転により、被害は出なかったが、リーシアのそのときのことのせいで自信を喪失させている様子だった。

「呪いさえ解いてしまえばおとなしくなると思っていたんですが、どうも違っていたみたいです」

「あの魔物たちって元々、気性が荒い性格なんだろう? 呪いを解いたからってその性格まで治るわけじゃないだろうし、そこまで気にする必要はないと思うけどな……」

「で、でも……」

「それに実際、呪いは解けたわけだろう。リーシアの能力ちからがあれば事件の被害者を救えることが証明されたんだから逆に喜ばしいことじゃないか」

「そ、そうですよ……リーシアさん」

すると、二人の話を聞いていたメルティナもリーシアを慰めるような形で話に入ってきた。

「私はそのときのことを遠目でしか見ていませんでしたが、あんな大きな魔物を前に怯まずに堂々としていたリーシアさんはとってもかっこよく見えました」

「え、ええ……そうかな?」

「は、はい……。私なんて小さいころから人見知りでできることなんて、この特別な眼と弓の腕しかありませんでしたから、いろいろとできるリーシアさんが羨ましいです」

「うぅ……健気なリーシアさん、かわいいです!」

「~っ!?」

気持ちが昂ってしまい、我慢の限界に達したリーシアは勢いよく、メルティナに抱き着いた。
いきなり抱き着かれたメルティナは、気恥ずかしさと人との過度な接触のせいで、顔を赤くさせたり青くさせたりと、ころころと表情を変わっていた。

「――っ!? ゴ、ゴメンなさいメルティナさん。人見知りだっていうのに突然抱きしめてしまって……」

「うぷっ……だ、だいじょうぶ……ですよ……。ひとつ屋根の下で一緒に暮らして、お話もしていたので、これくらい平気……うっ! ……ですよ」

「全然平気じゃないじゃないですかー! 本当にゴメンなさい!」

必死になってメルティナに謝罪するリーシア。
その顔からは、先ほどの暗い表情がすっかりと消え去っていた。
結果的にメルティナの介入のおかげでリーシアの心を晴らすことができたようだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

それから数日間、ルーセントのときのような事件に巻き込まれることもなく、紫音たちは目的地であるオルディスにようやく到着することとなった。

「みなさんは、しばらくの間ここで待機していてください。到着した旨と王室専用通路の開通の申請もしないといけませんので」

「正規で入国するわけにもいかないだろうし、わかったわ」

「ガゼットとセレネも手を貸してくれ。シードレイクの件も報告しないといけないからな」

「へいへい、しょうがねえな」

「ええ! 私、もっとディアナさんと語り合いたかったのに……」

ブツブツと文句を言いながらもガゼットとセレネはエリオットとともに用事を済ませにいく。

――オルディス王宮、海皇の間。

その部屋に備え付けられている大きな玉座にはオルディスを統べる国王と女王が座していた。
二人の王たちの前には片膝をついた状態の大臣が、ある報告を伝えていた。

「国王様ならびに女王様、ご報告いたします」

「話せ」

「はっ! 先ほどエリオット王子たちがリーシア姫を連れてご帰還したとのことです。後数刻で王宮に到着いたします」

「ようやくか……。まったく、あの馬鹿娘一人を連れ帰って来るまで今までなにをやっていたのやら」

「ええ、本当によかったわ。……あのときの再来にならなくて」

「その件は忘れろと言ったはずだ。無事に戻ってきたんだ。蒸し返す必要はないだろう」

「ええ、そうだったわね」

「――っ! そ、そうでした! 一つ報告し忘れていたことがありました!」

肝心なことを伝え忘れていたことを思い出し、慌てて報告する。

「騒々しいな。早く言え」

「じ、実は、リーシア姫を保護していたという国の者も同伴しており、国王様との謁見を望んでいるとのことです」

「エリオットからの報告にそのような話がありましたね。……確かそのときに面会の約束も取り付けていたような」

「ああ、そういえばそうだったな。事件の収束に一役買ってくれるはずだとエリオットが言ってたな」

国王は少しばかり考える素振りを見せながら、大臣に命令する。

「その者たちをすぐにここへ連れてこい」

「はっ! 直ちに!」

大臣は国王たちに一礼をしたのち、急ぎ足で部屋を出ていった。

「本当に協力を要請するつもりなの? 相手はまだできて数年しか経っていない国なのよ」

「どうせそいつらには、欠片ほどの期待もしていないから、適当にやらせるつもりだ」

「てっきり断るものとばかり思っていたわ」

「リーシアはずいぶんとその国にご執心のようだからな。断りでもしてへそを曲げられたら困るのはこっちだ」

「なるほど、確かにそれはありえるわね」

「この事件は必ずや人魚族の手で終わらせる。どこぞの馬の骨かも分からぬ部外者などに終わらせてたまるものか」

国王ふつふつと込み上げてくる怒りの感情を抑えながらアルカディア空の来訪者の到着を待っていた。
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