亜人至上主義の魔物使い

栗原愁

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第7章 鬼の辻斬り編

忍び寄る鬼の影

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フリードリヒの突然の視察も無事に終わり、初日を成功に収めたその夜。

紫音は、自室にて書類仕事に勤しんでいた。
今後の貿易による商品の流通内容や、国内における国土開拓の議案など早急に片づけなければならない案件に追われていた。

それも一区切りした頃、紫音は腕を思いっきり上に伸ばしながら体の疲れをほぐしていた。

「ハア……疲れた……。そろそろ、休憩にするかな……」

休憩に入った紫音は、窓から見えるアルカディアを見ながらふと今日のことを思い返していた。

(とりあえず、視察に関しては大成功のようだな。アルカディアの防衛能力も見せることができたし、なにより他国にはない料理の数々を楽しんでもらえたようだしな)

今日の迎賓館での会食で出された料理はすべてアルカディアにしかないものばかりだった。
最初は、見たこともない料理の数々に、エルヴバルムも訝しげな顔を見せていたが、一度口に入れた瞬間、絶賛の嵐が巻き起こった。
なにしろ、エルヴバルムにはない調理法を用いた料理を出したのだから無理もない。

「フリードリヒ殿下も満足してくれたようだし、後は明日だな……。明日も視察するって言ってたし……どこにするかな? 商店街は回ったから、次の農業地帯あたりでも回ろうかな?」

などと、休憩時間にも関わらず仕事のことを考えていると、

『――オン、――シオン、緊急事態じゃ』

突然、紫音のもとに念話が送られてきた。

『その声……ディアナか? 緊急事態って言ってたが、どうした?』

『少々問題が起きた。つい先ほど、侵入者が入ってきたんじゃよ』

『し、侵入者だと!? こんなときに……クソッ!』

なんとも魔の悪いときに来てくれたものだ。
現在、アルカディアには他国の王族がいる状況。ここでアルカディアが不祥事でも起こしてしまえば、信用を失う恐れがある。

国家間における問題に発展する前に早急に倒すべきだと紫音は考えていた。

『今、侵入者は第一エリアを移動中じゃ。このままじゃと、第二エリアに入り込むのも時間の問題じゃな』

『……ん? あれ、今日お前って当番だったか? 俺の記憶だと、今日の見張りの当番は別の奴だったと思うんだが……』

『……侵入者に個人的な興味を持ったから代わってもらったんじゃよ』

『……? まあいい。それより、侵入者はどんな奴だ? 数は? 戦い方はどんなだった?』

ディアナの答えに若干の疑問を抱きつつも侵入者のほうが先だと判断し、ディアナを問い詰める。

『数は一人で男じゃな。……銀髪の長い髪で、服装がちと変わっておるのう』

『どんな格好だ?』

『あれはそうじゃな……前に文献で見た東方の服に似ておるのう。確か……和服とか言うんじゃったかな?』

『東方の……? ――っ!? まさかそいつ……刀を使ってなかったか?』

『よく分かったのう。そうじゃよ。その刀とかいう東方の剣を使って、魔物どもを斬り伏せておったよ』

瞬間、紫音の脳裏に嫌な予感がよぎる。

「もしかして……」

最後に確認の意味を込めてディアナにある質問を送る。

『まさかとは思うが、その侵入者……角とか生えていなかったか?』

『またまた正解じゃよ。確かに額に二本の角が生えておったよ。……まさかシオン、侵入者に心当たりでも?』

嫌な予感が的中してしまい、紫音は落胆しながらため息をついた。

『おそらくだが……』

紫音は、ノーザンレードで起きた事件や手配書の件についてディアナに説明する。

『なるほどの……話を聞くにかなりの実力者のようじゃな』

『ああ、場合によってはこちらも主力を率いて迎撃にあたる可能性もある』

『そこまでの相手なんじゃな。……まあ確かに、奴に挑んでいった魔物たちは全員、奴の刀の餌食になっておるようじゃからな』

『そうだ。第一はともかく、第二以降の奴らが無駄死にするわけにはいかないから手出ししないようこれから指示していく。だからディアナには引き続き監視を頼む。俺もフィリアたちを連れてすぐに行くから、それまで絶対に手出しするなよ』

『うむ、心得た』

ディアナとの念話が終わった後、紫音はすぐに部屋を出た。
突然の非常事態の発生に慌てた様子の紫音は、防衛にあたっている全員に先ほどの侵入者の情報と戦闘行為の禁止を念話越しに指示した。

「ひとまずこれで、こちらの被害は少なくなるはずだ。……さて、こっちも急がないとな」

紫音の予想が正しければ今回の侵入者は、間違いなく各地で辻斬りの事件を起こしている犯人だろう。
確実に侵入者を撃退するため紫音は、アルカディアの主力を集めるために奔走していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「グルアアアアッ!」

「ギャアアア!」

アルカディアでは第一エリアと呼ばれている凶悪な魔物たちが徘徊するエリア。
そこでは、おびただしい数の魔物たちが一人の男に挑み、悲痛の声を上げながら返り討ちにあっていた。

一体……二体……すべての魔物が刀によるたったの一振りで地に伏せている。

一通りの魔物たちを全滅させた後、男は刀に付いた血を丁寧に拭き取りながら鞘に納めた。
月の光りにあてられ、男のその姿は幻想的にも思える。

男が持つその長い銀髪がそう思わせるのだろう。
長い銀髪を一括り纏めており、侍の出で立ち。額には長く鋭い白い角が二本は生えており、腰のほうには二本の刀を下げている。
切れ長の目に整った顔立ちだが、どこか様子がおかしく見える。

まるで何かに憑りつかれているかのように足取りがおぼつかず、切れ長の目からはまるで鬼を思わせるような怒気を孕んだ眼光を放っている。
獣のような唸り声も上げており、とても常人には見えない。

男はそんな様子でなにかぶつぶつと呟きながら一歩、また一歩、奥へと進んでいた。
しばらくすると、ある変化を感じ、しきりに周囲を見渡していた。

「オカシイ……。敵は……どこにいった? あまりにも静かすぎる……気配も感じない……」

知らないうちに男は、第二エリアを通過していたのだが、紫音の指示によって魔物たちは一時避難していたため姿が見えないのも当然のこと。
それでも男は、まるで戦う相手でも欲しているかのように足を動かしていた。

「強き者を……我の渇き癒す、強き者はどこだ……?」

さらなる戦いを求め、男は周囲を威圧するような覇気を纏いながらアルカディアを縦断している。

「あれでは足りぬ……。もっと……もっとだ……。我を楽しませてくれる……。我の渇望を満たしてくれる者はどこにいる……」

しかし、歩けども男が求める相手は見つからない。
すると男は、急に立ち止まったかと思いきや、突然耳の鼓膜が破れるほどの咆哮を上げた。

「ウオオオオオオオオォォォッ! 寄こせ! 寄こせ! 我の望みを叶える強き者を我に差し出せぇぇぇぇ!」

力いっぱい叫ぶが、当然男が求める挑戦者が現れることはない。
しかしそれでもあきらめない男は、獣のような唸り声を上げ、望みを叶える強者を求めて再びアルカディアの奥へと足を進めようとしたとき、

「ウルセエな……。獣人の耳には響くんだから静かにしろよな」

「アァ……?」

男の進行を妨げるように男に前に狼の獣人のジンガが現れた。

「こいつが小僧の言ってた異国の剣士か? 確かにヤバそうな雰囲気だな……。しかもかなり強い気を纏っているようだな」

「誰だ……。オマエは?」

「小僧には手出しするなって言われたが、これほどの猛者を相手にする機会なんてそうそうにねえ。悪いがオレの腕試しに付き合ってもらうぜ」

「ほう……犬畜生が何やらほざいているな。オマエは我の望みを叶えてくれる強き者か?」

「……フン、試してみるか?」

ジンガは、鼻を鳴らしながら男を挑発していた。
今まさに戦いが始まろうとしているところにさらなる乱入者が現れる。

「チョット待った! オジサン、ダメだよ! ピューイ抜きではじめるなんてズルいよ」

「アン? 小娘がオレのジャマをすんじゃねえよ」

空から現れたのは、ハーピー族のピューイだった。
腕に生えた羽をはばたかせながらジンガに文句を言っている。

「こいつをたおしてご主人にホメてもらうんだからジャマしないでよね」

「それはこっちのセリフだ。お嬢が治める国で好き勝手する輩を放っておくわけにはいかねえからな。こいつの首を取れば、お嬢への忠誠を示せるだけでなく、猛者との戦いの経験も積むことができる。なんとも一石二鳥じゃねえか。そっちこそジャマすんじゃねえよ!」

お互いに確固たる自分の意思を持ってこの場に立っている様子だった。
相手を譲らないこの状況の中、突然それまで静観していた男の口が開き始めた。

「我は構わぬぞ。二人がかりでかかってこい。……ただし我を失望させるなよ」

「ほう、ずいぶんな自信じゃねえか。いいぜ、やろうじゃねえか。せいぜい、足を引っ張るなよ小娘」

「オジサンのほうこそピューイの足を引っ張らないでよ」

ジンガとピューイのコンビ。そして、それに相対するは東方の剣士。
紫音が知らないところで予想外の戦いが繰り広げられようとしていた。
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