亜人至上主義の魔物使い

栗原愁

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第6章 両国激突編

追い詰められたエーデルバルム

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――エーデルバルムの王城。
そこの一室で国王のグスタフは悠々自適にイスにふんぞり返りながらワインを嗜んでいた。

「あと少しでたんまりとエルフの奴隷が手に入る。まったく笑いが込み上げてくるわい」

エルヴバルムへ侵攻しに行った多数の騎士たちや冒険者たちを思い浮かべながらグスタフは朗報を待っていた。

「しかし、父上もなぜもっと早く奴隷事業に手を伸ばさなかったのかね……。こんな近くに上等な商品があるっていうのに……」

グスタフはそのことについてずっと疑念を抱いていた。
エーデルバルムは数々の商売を手掛けている商業国家だというのに不思議と奴隷事業にだけは手を出していなかった。

不思議に思ってはいるが、今となってはどうでもいいこと。奴隷事業を始めてから金がどんどんと入ってくる。
大成功を収めた今のグスタフには、父親の真意など気にも留めていなかった。

「まあ、いいか。奴隷に反対していた父上も死んでくれたことだし、今はもっともっと稼がなくてはな。……ん?」

これからまた入ってくる予定の奴隷たちに舌なめずりしていると、グラスが空になっていることに気付く。

「オイ、女っ! グラスが空だ。早く注げ!」

近くに侍らせていたエルフに追加のワインを要求していた。

「ハ、ハイ……ただいま」

このエルフは、前回の襲撃の際に捕らえたエルヴバルムのエルフの一人。
グスタフは、奴隷として捕らえたエルフの内、何人か自分の懐に納めていた。

この城に来てろくな目に遭っていないのか、エルフの奴隷は怯えた様子でグラスにワインを注いでいた。
逃亡防止の首輪を付けられ、露出の多い服を着せられていた。

「――あっ!? も、申し訳ございません!」

ワインを注いでいたエルフがうっかりこぼしてしまい、グスタフの豪奢な服にかかってしまった。

「貴様、なにをしてる! この簡単な仕事もできないカスが!」

「お、おやめください!」

エルフの失態に憤慨したグスタフが、エルフの体を足蹴にしながら叱責する。
奴隷のエルフは、泣きながら謝罪の言葉を口にするが、それでもグスタフの暴行が収まることはなかった。

「失礼します、陛下! っ!? お、お戯れ中でしたか」

そんな時、慌てた様子のエーデルバルムの宰相が扉を力強く開けながら入ってきた。

「なんだお前か……。なんの用だ!」

「そ、そうでした……。陛下、一大事です! 先ほどエーデルバルムの上空にドラゴンが現れたとの報告が!」

「ドラゴンだと……ふん、バカなことを言うな」

ドラゴンと聞いてもグスタフはうろたえたりせず再びイスにふんぞり返る。

「いいか、ドラゴンなど大昔に絶滅した生物だぞ。それ以外にドラゴンに変身できる竜人族がいるが、あいつらは自国に閉じこもっていてここ数百年、姿を見ないと聞くぞ。大方、ワイバーンとでも見間違えたんだろう」

「し、しかし……見張りの者からの報告では、ワイバーンなどではなく、ドラゴンを見たと言っており……」

「まったく……見張りも満足にできないのか! ワイバーンくらいお前らで処理しろ!」

すると、突然ガタガタと部屋の中が揺れ始める。

「な、なんだ!?」

「――ヒイィッ!? へ、陛下……」

今度は宰相が驚いた顔を見せながらグスタフの後ろに指を差していた。

「なにをそんなに焦っている」

グスタフの後ろには、城下を一望できるバルコニーが設置されていた。
怪訝な表情を浮かべながらグスタフはバルコニーのほうに顔を向けると、

「ド、ドドドラゴンッ!?」

そこにはワイバーンなど似つかないドラゴンがグスタフを睨み付けていた。

「お前が……今の王か……。随分と間抜けな面をした奴だな」

ドラゴンの背から一人の男がバルコニーから降り、そのようなことをグスタフに投げかけていた。

「だ、誰だ! 貴様は! この私に向かって無礼だぞ! 何者だ!」

「お前と同じ国王をやっている……エルヴバルムのな」

「っ!?」

グスタフの前に現れたのは、エルヴバルムの国王ソルドレッドだった。
まさかの人物にグスタフは一歩後ずさりをしていた。

「な、なぜお前がここに……」

グスタフが驚くのも無理はない。
エルヴバルムは今、自国の軍勢によって攻め込まれている最中のはず。
悪い予感が頭によぎり、グスタフは恐怖に怯えていると、

「……騎士たちだけでなく、冒険者まで雇って攻めてくるとはね……。この落とし前、どう付けてもらおうかな?」

(ま、まさか……負けたのか? バ、バカな……。前回の何倍もの戦力を追加したうえ、ニーズヘッグもいたんだぞ。……いったい、どうなっているんだ)

予想だにしない出来事にとにかくグスタフはこの事態をどう収束させるか考えを巡らせていた。

「ほう、捜索中の同胞がまさかここにいるとはな……」

「……え? はっ!?」

ソルドレッドに奴隷として飼っていたエルフの存在に気付かれてしまい、グスタフはさらに焦る。
つい先ほど暴力をふるってしまったためこれでは、また怒りを買ってしまう。

「こ、国王さま……」

「遅れてすまなかった。だが、もう安心だ」

傷だらけのエルフを抱きかかえながらソルドレッドは、グスタフを睨み付けながら言った。

「ただで済むと思うなよ……エーデルバルム」

「ひいいっ!」

情けない声を上げながらグスタフをその場にしりもちをついた。

「長年守り続けられてきた不可侵条約を破り、我が国に一度ならず二度も攻めてきただけでなく、同胞を拉致した罪、どう償ってもらおうか」

「な、なんのことかな……? わ、私はそんなことを指示した覚えは……」

あろうことか、ここでグスタフはしらばっくれるつもりでいた。
しかし、そんなことをソルドレッドが許すはずもなく、追撃する。

「こっちには証人がいる。……確か、ランドルフだったかな?」

「ラ、ランドルフだと!?」

騎士団長のランドルフの名前が挙げられ、驚くグスタフを尻目にソルドレッドがドラゴンに向かって合図を送る。

「も、申し訳ございません……国王様」

ドラゴンの背から拘束状態のランドルフが姿を現す。

「こいつから証言をとったが、それでも拒むというならこちらにも考えがある」

「……っ?」

その発言からすぐ後、大きな足音を立てながらその部屋に入ってくる者がいた。

「し、失礼します! ――っ!? へ、陛下、大変なことに……」

「こ、今度は何事だ!」

入室してきたのは騎士の鎧を着た老兵だった。
老兵は、ドラゴンやソルドレッドの姿に驚きつつ、グスタフにある報告をする。

「エーデルバルム城門付近にて魔物の軍勢が押し寄せています! その数は千を超えるかと……」

「せ、千だと!?」

そこでグスタフは、ハッとなにかに気付いた顔をしながらソルドレッドの顔を見る。

「ま、まさか……」

「その魔物たちはこちらが仕向けたものだ。こちらの一声でいつでもこの国に攻め込ませることができる」

脅迫じみた行動だが、エルヴバルムとしてはなんとしてでもグスタフを交渉の場に立たせたかった。
そのためには、どんなことでもするつもりでいた。

「この国に後どれくらい戦力が残っているかは知らないが、大多数を失った現状であの魔物たちを対処できるかな? さあ、どうする?」

ソルドレッドの言う通り、今のエーデルバルムには戦力と呼べるものがほとんどいない。ほぼすべてがエルヴバルム侵攻への戦力に投入され、ここに残っているのは、老兵と新兵ばかりだった。

やがて、観念したグスタフは覇気のない声でソルドレッドにこう答えた。

「わ、分かった……。そちらの話を聞こう……」

こうして、ソルドレッドはグスタフを交渉の場に立たせることに成功した。
しかし、グスタフにとってこれは始まりでしかなかった。
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