亜人至上主義の魔物使い

栗原愁

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第3章 招かざる侵入者編

本領発揮

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後方からの奇襲を受け、右腕に多大な被害を負ってしまったクライド。
未だに走る激痛に歯を食いしばりながらも腰に下げていた小さなバックに手を伸ばし、紫音に気取られぬように回復液を取り出し、傷口に勢いよくぶっかける。

「くッ!? はあ……はあ……」

一瞬、痛みが増したもののやがて効果が表れたのか、出血が徐々に収まってきた。まだ痛みがあるが、先ほどに比べて大分和らいでいた。

「こ、これなら……イケる!」

腕を軽く動かしながらまだ戦えることを確認する。クライドはケガを負った右腕を庇いつつ立ち上がり、再度紫音と対峙する。

クライドが立ち上がるまでの間、紫音は再び周囲に炎の球体を10個展開させ、戦闘態勢を整えていた。

(くそ、余裕ぶりやがって……。いったいどんな手を使って攻撃してきたんだ。……そういえばあいつさっき、自分はテイマーだとか言っていたよな。)

剣を構えながら先ほど紫音が発した言葉を思い返していた。

「しかしテイマーだと……あんな職業相手にオレはこんなにもてこずっているのか」

ぼそりと文句を吐き捨てるかのように呟く。
クライドがこのように思うのには理由がある。テイマーというのは即戦力になりにくい職業の1つだからだ。

紫音が規格外なだけであり、本来テイマーが魔物などと契約を結ぶには双方の合意がなければならない。
そのため魔物側に自分の力などを見せつけ契約させるようにしなければいけない。格下または同格相手なら契約を結ぶことができるが、格上相手と契約するにはそれだけ自分も相手に見合うような強さがなければならない。

しかしそれなら、もはやテイマーよりも別の職業に転職した方が断然効率がいいと考える人がほとんどである。
その他にも契約した際にはその維持のために微量だが、常に魔力を与え続けなければならないとか契約できる魔物の数もそれほど多くないだとか欠点も多数存在する。

「さっきは油断したがもう大丈夫だ。戦ってみて分かったがオレの方が強いはず。テイマーだかなんだか知らねえがもう容赦はしねえぞ!」

そう声を上げながらクライドは紫音に向かって突進してくる。周囲の炎の球体、そして後方にも警戒を向けながら紫音からの攻撃に対応しようとしていた。

「来たな……」

紫音は、周囲にある炎の球体に意識を集中させる。

2ツー4フォー6シックス8エイト9ナイン――発射シュート

頭の中で指示を送り、五つの炎の球体を前へと動かす。
横や縦、様々な方向に転換しながら移動させる。先ほどのパターンとしてはこのままクライドに当てるという手もあるが、紫音はあることを考えていた。
ついさっきテイマーという宣言をしたため攻撃の方法を少し変えることにした。

「何度も同じ手が通用すると思うなよ!」

クライドは叫び声とともに剣を振るう。向かってくる炎の球体に斬撃をお見舞いする。2つの球体が炎をまき散らしながら霧散し、残りの3つはクライドを通り過ぎ、後方へ消え去った。

「また後ろからか!」

後方に顔を向け、警戒を強める。まだ攻撃方法は分からないがクライドの後ろから攻撃が飛んでくるのは明白だった。

(まあ、そういう行動をとるよな。……勝負してみるか。これで俺のテイマーとしての力が格上相手にどこまで通用できるかはっきりする)

紫音は、森に潜ませているある者に指示を送る。

9ナイン11イレブン13 サーティーン――放出!)

「なにっ!?」

クライドは目の前に移る光景に驚愕した。森の中から3方向にわたって炎の球体が飛んできた。その球体はおそらく先ほど紫音が放ったものが返ってきただけなのだが、問題はその大きさだった。
先ほどのものより比べて2回りも大きく、炎の量も燃え盛るように赤く揺らめいでいる。

「ハアアアアアッ!」

一つめを躱し、二つ目と三つ目の球体に力を込めた斬撃を続けて喰らわせる。熱風を巻き起こし、球体は消え去っていく。
しかし、威力は先ほどとは比べ物にならないほどであった。剣を振るった左腕がしびれている。

(三方向から来たってことは少なくともあいつの契約した魔物が三体も潜んでいるはずだ。くそ……正体が全然掴めねえ)

正体不明の敵から攻撃されている恐怖にクライドはイラついていた。
そんなクライドを見ていた紫音は、小さく笑みを浮かべていた。

(どうやらまだ攻撃の正体を掴んでいないようだな。……大方、複数犯による攻撃だと思っているようだが……本当はたったの一匹にお前は翻弄されているんだよ)

攻撃の正体は一匹のスライムによるものだったことをクライドはまだ気づいていない。
紫音が最初に契約したスライムのライムには、種族としてのある能力が備わっていた。それは自身を分裂させる能力である。

分裂するたびに体積が小さくなるが、何体でも自分の分身を作り出すことができる。またこの分身たちにも紫音との視覚共有や『吸収や放出』も可能なためこれまで数々の場面で活躍してきた。
森の中での監視役や攻撃においては紫音を先ほどのように助けてくれる心強い味方となっている。

そんなスライムにクライドが手こずっているとは夢にも思っていないだろう。このまま正体不明の恐怖に怯えながら戦ってもらおうと紫音は胸中でほくそ笑みながら次の手に出る。

(全弾発射!)

打たずにいた残りの五つを前に飛ばした。今度のは、クライドに当てる目的のものではなかった。
クライドが応戦しようと剣を構えていたが、炎の球体はまるでクライドを避けるように移動し、後方へと飛んでいった。

(今度は五つ……ということは後ろには五体の魔物がいるのかよ。こんなに多くの魔物と契約できるテイマーなんて聞いたことないぞ)

先ほどと同じ攻撃が来ると踏んだクライドは後ろを振り向き、剣を構えていた。

(そろそろこの攻撃に対応してくる頃だろう。8エイト15フィフティーンは移動だ)

相手の適応力の高さを考慮し、攻撃の仕方に少し手を加える。潜ませていた分身ライムの内、二匹をクライドの左右の位置に置き、放出命令を下す。

「三つ!? ……いや横からも!」

左右からの攻撃に驚きながらもこの攻撃に対抗すべく剣技をお見舞いする。剣を地面と水平になるように持ち、体を横に捻る。

「旋風剣!」

剣とともにクライドの体を回転させる。一陣の風が吹き荒れ、それと同時に斬撃が空を飛び交う。
クライドに向かっていた五つの球体は直撃することなく、すべて斬り倒されてしまった。

「ダメだったか……。ならもう一度だ」

一度防がれてもめげずに再度、無詠唱でファイア・ボールを出現させようとするが。

「うぅ……」

足の力が一瞬抜け、片膝をついた。その後、体に軽度の脱力感が襲う。

「もう魔力切れかよ……いや、この感じだとまだ持つかな?」

すぐに紫音は自分の魔力が尽きそうになっていると体で感じていた。どれも初級魔法とはいえ、これまで大量の魔法を発動させていた。
魔力が減少したことによって体にも異変が起こり始めているようだ。

「もらった!」

目線を上にあげると、こちらに向かってくるクライドの姿が見えた。
今の紫音がとった不自然な行動を見て体力的にもう限界だと察知したのか、勝負を仕掛けてきた。

「《クイック・ステップ》!」

目で追っていたクライドの姿が一瞬にして消えてしまった。

「今のは……身体強化系の魔法。奇襲狙いかよ!」

こうしている間もクライドは高速で移動し、確実に紫音を殺すために動いている。

「まだだ!」

自分を鼓舞するかのようにそう叫びながらクライドの姿を捉えるために行動する。

(視覚共有!)

瞬間、紫音の頭の中に大量の映像が送り込まれる。様々な角度で紫音の姿を捉えた映像が映し出されていた。
これはすべて分身ライムが見ている光景。そこからクライドの姿を追っていた。

「見えた!」

高速で流れる映像に頭が痛くなるのも我慢しながら見ていると、クライドの姿を捉えた映像を発見した。
後方の右斜め後ろ。急いで体を後ろに捻り、後ろを向く。

「っ!?」

そこにはクライドの驚いた顔が見えた。まさかこの速度に付いてこれるわけがないとでも思ったのだろう。この顔を見れただけでも気分の良いものだった。しかし、

(こ、これはまずい……)

反応がほんの少し遅れてしまった。もうすでに剣を振りかざした状態ですぐ近くまで迫っていた。
魔法を発動させる時間もなく、このままではあの剣の餌食になってしまう。

(このまま終われねえ! ワン、頼む!)

まだ負けるわけにはいかない紫音は緊急回避手段をとる。服の中に忍ばせていた分身ライムを自分の盾となるように飛び出させる。
クライドは一瞬怯むもライムごと斬る勢いで剣を振り落とした。

「ガハッ!?」

「くっ!」

二人の間に小さな爆発が起きた。
その爆発の衝撃によって二人は後方に飛ばされてしまった。

「な、なんだ今のは……」

ってえ! ……けど、あいつの剣を喰らわずに済んだぜ」

涙目になりながらもまだ生きていることに紫音は喜びを感じていた。

「危なかった……ポムルの実のおかげで命拾いした」

紫音を救ったのは魔境の森に自生しているポムルの実であった。この世界において紫音が考案したダイナマイトの原料になっており、驚異的な進化を遂げた植物であるが今回においては大いに役立ってくれた。

分身ライムの内部にポムル実を吸収させ、そのライムをクライドが斬ることによってポムル実に強い衝撃が加わり、爆発を引き起こしてくれた。

自分にも被害が出る諸刃の剣でもあるが、あのまま斬られるよりは随分とましな方だ。

「今回はなんとか耐えたがそろそろ限界だな……」

紫音は力の差を痛感していた。ライムとのコンビネーションでもクライド相手にはあと一歩足りない。
このままでは続けても負けるのは必至。そんな戦況に思わず紫音がため息をついていると。

「……?」

敵であるクライドがこちらに目もくれず空を見上げていた。声も出さず大口を開けており、そんな不可解な行動に紫音も空を見上げた。

「た、助かった」

空を見た紫音は、ほっと安堵した。それもそのはず、空にいたのはこの状況において紫音が求めていた存在。そして同時にクライドが探し求めていた存在でもあった。

「他の三人の始末は終わったというのにお前からの連絡がないから心配したわよ」

「来るのが遅かったな……フィリア」

紫音はその存在の名前を呼んだ。
羽をはばたかせ顔を覆いたくなるような強風を巻き起こしながらフィリアは地面に着陸した。

「ド、ド、ドラゴン!?」

この森に侵入した目的のドラゴンに出会えたことに喜びと驚愕の感情が同時に溢れた。
いざ対峙してみると、武者震いからか、それとも恐怖からなのかクライド自身も知らないが、腕と足が微かに震えている。

「や、やっと見つけたぜ……。さあ、かかってこいドラゴン! このオレと勝負しろ!」

「やっぱり私が傍にいないとダメなようね。これから私のことをフィリア様と呼んで態度を改めることね」

「絶対に呼ばねえよ! 格上相手に俺の力がどれだけ通用するか確かめたいって言っただろ。むしろお前のタイミングの良さに俺は驚いているんだけど……まさかとは思うが、ずっと見ていたわけじゃねえだろうな」

「な、なんのことかしら……」

「この野郎! あからさまに目を泳がせてんじゃねえよ! 図星だろ!」

「うるさいわね! この私をいいように使っているんだから痛い目に遭ってくれた方が私の気分がすぐれるんだからしょうがないでしょう!」

「こいつ! これが終わったら絶対にぶっ飛ばしてやる」

クライドを放っておき、二人は言葉のぶつけ合いをしていた。先ほどの言葉に耳を傾けることもなく、まるでクライドなど眼中にないといった様子だった。

「オイお前ら! このオレをムシするな!」

たまらず二人の言い合いに割って入る。クライドの言葉がようやく届いた二人は会話をいったんやめ、クライドに視線を移す。

「ようやくこっち向いたな! ドラゴン、オレと勝負しろ!」

ついさっき自分が言った言葉を繰り返すように発した。

「紫音、お遊びはここまでよ。さっさとあの人間を倒してきなさい」

「……そうだな。ライムとの連携でも倒せないようだからな奥の手を使わせてもらう」

クライドの予想とは異なり、紫音が前に出てきた。

「もうお前なんかお呼びじゃないんだよ。今オレが戦いたいのはそのドラゴンだ。お前がドラゴンとどういう関係か知らねえが、お前はオレには勝てねえんだから引っ込んでろ!」

先ほどの戦いで二人の格付けは終わり、自分の方が有利だと判断したクライドは紫音を突き放すように言った。

「まだ勝てないと決めつけない方がいいぜ。今から奥の手見せてやるから覚悟しろ」

紫音は地面に手をつきながらある言葉を唱える。

「リンク・コネクト!」
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