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第二章 冒険者都市アトラス編

遺跡の守護者

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(まさか……これほどとはな)

お目当てのアンデッドがいる部屋に辿り着いたリオンたち。
しかし、その部屋の前から伝わる霊力の強さにリオンは圧倒されていた。

これまで何件か、依頼人からアンデッド系の魔物の討伐依頼を出されてきたが、正直言ってどれも手ごたえがない魔物ばかり。
そればかりか、リオンが森を出てからというもの本気を出せるような相手すらおらず、不満は募る一方だった。

そんな中、ようやく見つけた本気を出さなきゃ勝てないような相手。
リオンは姿を知らないアンデッドに圧される反面、武者震いを起こしていた。

(……そういえば)

このまま向かってしまおうかという、はやる気持ちを抑え、リオンは大事なことをふと思い出す。

「グレイブさん、いまさらなんですがこの部屋にいるアンデッドについて教えてくれませんか?」

「ん? ……ああ、すまない。依頼をするのに夢中ですっかり忘れていたな」

グレイブたちもいまになって気づき、例のアンデッドについての情報をリオンたちに話していく。

「そいつは、人型で牛の頭をしたスケルトンで、強力な魔法攻撃を使ってきます」

「魔法攻撃ですか……」

「それでですね、オレたちも何度か挑戦して分かったんですが、ヤツにはいくつかの攻撃パターンがあるんです」

「どういうパターンですか?」

「まず、オレたち敵の姿を確認すると、十体ほどのスケルトンを召喚してきます」

「召喚魔法持ちですか……」

自分と似たようなことができるスケルトンに少しだけ共感を覚えてしまっていた。

「スケルトンはどれも魔獣型ですが、それほど強くありません。……ですが、半分以上の数が倒されてしまうと、すぐに別のスケルトンを召喚されてしまうので、かなりやりづらいです」

「それってずっとですか? 普通、召喚系の魔法は呼び出して維持するだけでも魔力を消費してしまうので、そう何体も召喚できるはずがないのですが……」

「オレたちが思うに、何度も召喚可能のはずです。ニ、三度ほど半数以上の数を倒してきましたが、その度に再召喚してきましたから」

「それなら、そのスケルトンたちはみなさんが相手をしてください。俺は、敵の親玉に挑むんで」

「ひ、一人でか!? それはあまりにも無謀だぞ」

自殺行為ともいえるリオンの言葉にさすがのグレイブも止めに入る。

「大丈夫ですよ、アンデッド相手は慣れていますので。それに、だれかと協力して戦うなんてこといままでなかったので一人のほうが戦いやすいんですよ」

「……そ、そういうことなら悪いが頼む」

「アリシアは、後方でみんなへの指示や、状況を見て魔法での援護をしてくれ」

「分かりました。任せてください」

戦闘が始まってからの各々の持ち場を決めた後、リオンは再度グレイブに問う。

「それで、他にはなにかないか?」

「……そうですね。実際に戦ってみて分かりましたが、相手は接近戦ではなく、魔法を使った中遠距離での戦法を取っていました。それと、注意すべきなのが広範囲にわたっての魔法攻撃です。あれをまともに喰らうと全滅するほどの威力なので、気を付けたほうがいいですね」

「じゃあその魔法が来たときだが……」

その後も綿密な作戦会議を行った後、いよいよリオンたちは、例の強大なアンデッドに挑むことにする。

リオンたちの前にある両開きの扉を開け、部屋の中へと入る。
部屋に足を踏み入るとそこには、先ほどスケルトンの群れに遭遇した広間よりさらに広々とした空間が広がっていた。
中央には、大きな魔法陣が描かれており、その中にだれかが立っている。

リオンが使役しているジャイアント・オークに匹敵するほどの背丈に、基盤となる骨格は人型に近い。
見た目は人の形をしているが、頭部は磨き抜かれた二本の角を持った牛の骨だった。
灰色の古びたローブに身を包み、年季の入った魔導杖を手に携えている。

(……あのスケルトンが持っている杖……なんか見覚えあるな。前にどこかで似たようなものを見た覚えが……)

魔導場を目にした瞬間、どこかで見たことがあるような既視感に襲われたが、結局のところなにも思い出せずにいた。
ひとまずそのことは胸の内にしまっておくことにする、

「あれがそうか……」

「はい。そろそろ前口上が来るはずです」

「ま、前口上……?」

いきなり訳の分からないことを言ってくるグレイブに困惑していると、牛頭のスケルトンの口が開く。

「懲りずにまた来たのか? 下等種族ども」

「…………」

「どうやら新たな仲間を引き連れてきたようだな。その意気やよし! ……だがしかし、数を増やしたところでこのマスターの第一守護者であるこのゴーシュに勝てると思うでないぞ」

「……なあ、もう攻撃してもいいか?」

なんだか話が長くなりそうな予感がしたので、たまらずグレイブたちに訊いてみるが、

「やめたほうがいいですよ。最初、話している最中に攻撃したら怒り狂って強力な魔法を連発してきたので……」

こちらとしても無駄な体力を消費したくないので、おとなしく話が終わるのを待つことにした。

「――それでだな」

あれから十分後。
話はいつの間にか、リオンたちのことではなく、ゴーシュのマスターの話へと変わっていた。

要約すると、どれだけ自分のマスターが素晴らしいお方なのかという、ただの自慢話だった。
聞きたくもない話を延々と聞かされ、リオンはもちろん、グレイブたちも飽き飽きしている様子でいた。

「つまりだな! これより先には、マスターの大事な研究資料が眠っている。マスターより与えられた使命! そして、この部屋の守護者として何人たりとも先へは行かせない!」

そう口にした瞬間、ゴーシュが持っていた魔導杖に埋め込まれていた闇色の魔石が光り出す。
いくつもの魔法陣とともにゴーシュの前に魔獣型のスケルトンが召喚されていく。

「……なんだ? 話はもう終わったのか?」

召喚されたスケルトンたちを見て、ため息をつきながらリオンは戦闘へと頭を切り替える。

「グレイブさん、モニカさん、テレジアさん。この後も先ほど説明したとおりにお願いしますね」

「ああ、任せてくれ。頼んだぞ、リオンさん」

「気をつけてください」

「なにかあったらすぐに下がるのよ」

三人から激励の言葉をかけられながら、最後にリオンはアリシアに目を向ける。

「アリシアもサポートよろしく頼むな」

「はい!」

アリシアの元気のいい返事を耳にした後、リオンは戦いに出る。

向かってくるスケルトンたちはグレイブたちに任せ、リオンはそれを無視して一直線にゴーシュのもとへと駆け出していく。

「単身で挑んでくるか……。だが、それは無謀というもの! 下等種族がこの我輩に勝てると思うなよ!」

ゴーシュは魔導杖を前に出し、魔法を放とうとしていた。

「《魂爆》」

発動する前に、リオンは先に攻撃を仕掛ける。

「くっ! な、なんだ!」

ゴーシュの周辺で突如、爆発が起き、予想していなかった事態に慌てふためいている。

「死霊剣術――《魂魄・斬》」

刀の柄を握り、居合切りのように鞘から刀身を素早く引き抜く。
鞘から現れた刀は、ゴーシュの胸元へ牙をむく。

「チィッ!」

冷静さを乱された状況でも身の危険を感じたのか、咄嗟に障壁を張り、リオンの攻撃を防いだ。

「フッ……。なかなかやるでは……ん!? マ、マズい!?」

またもや危機を察知したゴーシュは、慌ててリオンから距離を取る。

「……なにやら異様な気配を感じるな。我らアンデッドにとって脅威になるような力がその剣に宿っていると見る」

まるで犯人を名指しするかのように、刀を指差しながら推測を口にしていた。

(あれだけでこの刀の本質を見極めるとは……。予想通りなかなかやるな)

改めてゴーシュの実力を痛感し、リオンはさらに気を引き締めることにした。

「どうやら今回は、本気で我輩を倒そうと思っているようだな。だが、下等種族の人間ごときに負けるゴーシュではない!」

瞬間、ゴーシュの周囲に数十発にもおよぶ魔力弾が出現した。

「さあ人間よ! その気があるならこの我輩に討ち勝って見せよ!」

ゴーシュの叫びとともにすべての魔力弾がリオンへと襲い掛かる。
それに対してリオンは、負けじと無詠唱で同数の魔力弾を形成し、応戦していく。
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