鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

文字の大きさ
上 下
42 / 59

旅立ち13(過去編②)

しおりを挟む

「うああ! 痛い! ハアッハアッ」
小太郎が床の上で苦しんでいた。
「え?また?」
見張りの兵士は困った。先程と同じ展開だからだ。小太郎に噛み付かれた事を思い出し、腕を触る。
「どうしよう、さっきの事もあるし…」
「どうした?」
犬養が様子を見にきた。小太郎の苦しむ姿に呆然とする。
「仮病かもしれないですし…。犬養様?」
犬養の辛そうな表情に、兵士は首を傾げる。
「あ、いや…。さっきは仮病じゃなかったろ?」
「まあ…ひどく苦しそうで、汗も凄かったですし。でも考えてみれば、鬼なのに病気なわけ…」
「兄ちゃんオレ、元は人間…だよ。ぐっ…うっ!」
小太郎が言う。
「え!? そういえば、桃寿郎様も言ってた。鬼が心臓に住み着いて、君自身も鬼になったって」
犬養が納得したように言った。
「時々、オレの中の鬼が…暴れて…う! ぐっ…ゲホッゲホッ…あぁ‼︎」
小太郎は胸を押さえて、のたうち回った。
「お兄ちゃん…苦しい…助けて…」
「カギを…」
「え?」
「早く」
「は、はい」
犬養は兵士からカギを貸りると、牢屋の扉を開け、小太郎を抱き上げた。
「大丈夫?」
「う…兄ちゃん…」
「ん?」
小太郎は苦しむ顔から、スッと笑顔になると言った。
「騙してごめんね」
「え?」
小太郎は犬養の腹を殴って、後ろから近づく兵士も殴った。
「う!」
犬養と兵士は痛みで立てない。
「バイバイ」
小太郎は牢屋から走り去った。
「待て…くそ…鬼だからか、あんな子供でも、一発が重い」
兵士が悔しそうに言う。
「そんな…子鬼くん…」
犬養は弟に騙された気分だと嘆いた。

 ちょうど桃寿郎は刀のお祓いでいなかったので、小太郎は建物から楽々逃げられた。
すぐ見つからないように、東京を出ることにした。

《そういえば、あの猿女っておじさんは小太郎に噛まれて熱出してたけど、見張りの兵士さんは大丈夫だったよね?》
『そういえば…』
《なんでだろう。もしかして、小太郎が鬼化していた時に噛まれたから熱が出たのかな? 兵士さんの時は鬼化してなかったもんね》
『そうかも…』
小太郎と朱丸はそんな話をしながら、歩いていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます

ジャン・幸田
キャラ文芸
 アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!  そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鬼の御宿の嫁入り狐

梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中! 【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】  鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。  彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。  優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。 「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」  劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。  そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?  育ててくれた鬼の家族。  自分と同じ妖狐の一族。  腹部に残る火傷痕。  人々が語る『狐の嫁入り』──。  空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符

washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。

処理中です...