鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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旅立ち10(過去編②)

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廊下で猿女が待ち構えていた。
「待て!」
「ハアッ!」
小太郎は猿女の腕を爪で引っかいた。
「ぐっ!」
爪に付いた血を見た小太郎は、その匂いに一瞬めまいを覚えた。
「う…」
次の瞬間には衝動的に舐めていた。
「ハア…」
小太郎はうっとりと血を舐めとる。
「う…」
猿女は小太郎の行動に若干引き、変化し始めた瞳に慄く。
赤く光って、瞳孔が猫のように細くなっている。
「ねえ、おじさんって、桃太郎の部下の子孫なんでしょ?」
「なんだ、突然」
「霊力が高いんだね。血を舐めたらわかるよ。もっと欲しいな。オレが鬼として覚醒するのに必要だ」
禍々しいオーラを発しながら近づく小太郎に、猿女は後退る。
「や、やめろ! 来るな!」
「どうしたの?怖いの?」
猿女の血を舐めた後、小太郎の様子は明らかに違っていた。
小太郎が猿女の腕に噛み付く。
「うあ!」
猿女の血を多く舐めた小太郎は、さらに変化した。
髪が赤く染まり、角が二本生え、小さかった牙も長く伸びた。
「ふふ…」
「覚醒したのか⁉︎」
騒ぎを聞きつけた桃寿郎がやって来た。
「くそ! 間が悪い。破鬼の剣が穢れた時に…」
「桃寿郎様」
「猿女…コイツに噛まれたのか?」
「申し訳ありません」
「ももたろの子孫。あんたが一番、霊力高そう」
小太郎は不敵に笑うと、桃寿郎に近づく。
「桃寿郎様、お逃げください」
猿女が拳銃を小太郎に向け発砲した。
「ぐっ!」
小太郎の体に穴を開けるが、すぐに弾が出て傷が塞がる。
「そんなもの効かないよ」
「うう…」
猿女は噛まれた腕を押さえ、膝をついた。
「猿女!」
「ハアッハアッ」
腕の傷は熱を持ち腫れ出した。猿女自身も熱を出したのか、ひどく苦しそうだ。
「コイツに何をした?」
「知らない。噛んだだけだよ?」
そこへ牢屋を見張っていた兵士が来た。
「桃寿郎様。申し訳ありません。私の不手際で」
「いいから猿女を連れて行ってくれる?」
「はい」
兵士が猿女を抱えて去っていく。
「ねえ、ももたろの子孫さん。鬼を殺す刀もなくて、オレに勝てるつもり?」
「…君…小太郎くん…だったよね? ねえ、僕とかくれんぼしない?」
「かくれんぼ?」
「うん。君が鬼で…。もし、君が勝ったらここから逃がしてあげる。もう君を殺そうとしないよ」
「…ウソだ」
「本当だよ」
「…わかった。いいよ。どうせ、オレが勝つし。その時にはももたろの子孫さんも部下たちも、みんな殺してるから、オレを殺そうとする人はいないし」
小太郎がそう言うと、桃寿郎は震えた。
「…そ…そうだね」
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