鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

文字の大きさ
上 下
36 / 59

旅立ち7(過去編②)

しおりを挟む
 年の瀬も迫るころ、店に軍服を着た大柄な男が現れた。
ちょうど店先で作業をしていた小太郎は、男を見てギクリとした。
(軍服…)
「ようやく見つけた」
「…いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
普段、客に接するように応対した。
「小太郎…だったよな?」
「…人違いじゃありませんか?」
奥から女将さんが出て来た。
「小太郎…あ…お客さまだったのね」
「やはり君は小太郎くんじゃないか」
男は笑う。
「…あの、お米を買わないのなら、お帰りください」
「どうしたの?」
女将さんが近寄った。
「自分は、猿女さるめといいます。吉備津隊という、鬼を斬る部隊に所属してます」
「鬼…ですか」
「最近夜になると、化け物が出るという噂がありまして、その化け物は鬼だというんです」
「まあ」
女将さんは不安そうに頷いた。
「そしてこれがその鬼らしいです」
猿女が取り出した紙には似顔絵が描いてあった。
その顔は、小太郎にそっくりだ。
「小太郎?」
女将さんが呟く。
「はい」
「何かの間違いではありませんか? 小太郎は夜は遅くまで仕事をして、朝も早く起きています。夜中この家から出ていったりしていません」
「ですが、コイツは確実に鬼ですよ。見ていてください」
猿女は石ころを拾うと、小太郎に投げつけた。
「っ!」
「何するんですか⁉︎」
石ころが当たった額が赤くなっている。しかし、少ししてそれは消えた。
「あら?傷が…」
「これくらいの傷なら、鬼はすぐ治る」
「…そんな…小太郎が…鬼?」
信じられないという表情で、女将さんは小太郎を見た。
「……」
「でも、小太郎はとても良い子ですよ」
「女将さん。演技ですよ。そのうちあなたのうちの小さな者から喰われてしまう」
「……」
「とにかく、この子鬼は我々が責任持って、処分する」
猿女は小太郎の首に、輪っかを取り付けた。
「え?何これ」
「一族が開発した鬼用の首輪だ」
「ヤダ!外して!」
外そうとつかむと、首輪が締まった。
「ぐっ⁉︎」
「抵抗すると締まる。鬼の力を弱めるため、鬼の苦手なイワシの血を塗ってある」
「う…く…ゲホゲホッ…」
小太郎は、膝をついた。
「小太郎」
女将さんは小太郎を支えた。
「やめてください」
「鬼をかばうと、あなたも捕縛しますよ」
「そんな…」
小太郎は立ち上がると、女将さんにお辞儀した。
「女将さん。迷惑かけられません。オレ行きます。今までお世話になりました」
「小太郎…」
女将さんは悲しそうに名前を呼んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

おっ☆パラ

うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!? 新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!

あやかし蔵の管理人

朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。 親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。 居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。 人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。 ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。 蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。 2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました! ※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』

郁嵐(いくらん)
キャラ文芸
お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓ https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI 【ストーリーあらすじ】 ■■室町、花の都で世阿弥が舞いで怪異を鎮める室町歴史和風ファンタジー■■ ■■ブロマンス風、男男女の三人コンビ■■ 室町時代、申楽――後の能楽――の役者の子として生まれた鬼夜叉(おにやしゃ)。 ある日、美しい鬼の少女との出会いをきっかけにして、 鬼夜叉は自分の舞いには荒ぶった魂を鎮める力があることを知る。 時は流れ、鬼夜叉たち一座は新熊野神社で申楽を演じる機会を得る。 一座とともに都に渡った鬼夜叉は、 そこで室町幕府三代将軍 足利義満(あしかが よしみつ)と出会う。 一座のため、申楽のため、義満についた怨霊を調査することになった鬼夜叉。 これは後に能楽の大成者と呼ばれた世阿弥と、彼の支援者である義満、 そして物語に書かれた美しい鬼「花鬼」たちの物語。 【その他、作品】 浅草を舞台にした和風歴史ファンタジー小説も書いていますので 興味がありましたらどうぞ~!(ブロマンス風、男男女の三人コンビ) ■あらすじ動画(1分) https://youtu.be/AE5HQr2mx94 ■あらすじ動画(3分) https://youtu.be/dJ6__uR1REU

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...