鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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旅立ち4(過去編②)

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それからも変わらない日常。小太郎が倒れたことで、家族は少し過保護気味になった。
畑の作業をしていても、少しフラついただけで休むように言われる。小太郎は、本当に大丈夫だから。と苦笑するしかなかった。


 ある日、友達と遊んだ帰り道。夕焼けの中、小太郎は家路を急いでいた。
「小太郎君だよね?」
突然名前を呼ばれて振り返る。見覚えのある軍服を着た少年。
「…桃太郎の子孫の…」
「14代目、桃寿郎だよ」
小太郎は警戒心をあらわにして、後退った。
「なんの用?」
「君と一緒にいた子鬼、どこにいるの?」
「し、知らないよ。あの後、別れちゃったから…」
「ふーん」
目を泳がせる小太郎。桃寿郎は一歩近づく。
「何?」
「君さ…。なんで生きてるの?」
「え?」
小太郎はギクッとする。
「僕の刀で斬られてさ。もう死にそうだったじゃん」
「…それは」
「後遺症も無さそうだし…」
小太郎は走り出した。
「待って」
桃寿郎は小太郎の腕をつかむ。
「離せ!」
「背中見せてよ」
「ヤダ!」
桃寿郎は小太郎の着物の隙間から手を入れた。
「ヒッ!」
「傷ないね。君、小太郎君じゃないでしょ?」
「え⁉︎」
「あの子鬼くんなんじゃない? 死んだ小太郎君を食べて、子鬼くんは小太郎君に成り代わってる」
「そんな…」
朱丸は怒った。
《オイラが小太郎を食べるわけない! そんな高度な術使える鬼、300年前ならいたかもしれないけど、人間を食べなくなった今の鬼が使えるわけない‼︎》
「朱丸はオレを食べたりしないよ」
「君は本当の小太郎君かい?」
「そうだよ」
「じゃあ、君はなぜ生きている?」
「……」
桃寿郎はハア…と息を吐いた。
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「当たり前だ! 朱丸は大事な友達だ」
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「え?」
小太郎は、キョトンとした。
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「そんな、父ちゃんが…」
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小太郎は頭の中で朱丸に話しかける。
『どうしよう朱丸』
《…小太郎の父ちゃんが捕まったら大変だよね。話すしかないかな》
「あの…朱丸は…その…」
「うん」
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「そうか…。じゃあさ、今君は鬼なの?」
「鬼…かも…しれないです」
桃寿郎は、破鬼の剣をとり出した。
「え⁉︎」
「鬼なら斬らなきゃね。おそらく、君が日本で最後の鬼だ」
「ヒッ!」
小太郎は逃げ出した。
「待て!」
小太郎は桃寿郎に捕まった。
「助けて!」
《小太郎! 反撃!》
朱丸の声に、小太郎は鬼の爪を出し、迫る刀を防ごうとした。
だが、爪は割れ、そのまま刀は小太郎の腕を切り裂いた。
「うあ‼︎」
《小太郎‼︎》
「あれ? 刀が…」
破鬼の剣は以前と同じように穢れてしまった。
「なんで⁉︎ 人間なの? ああ…そうか。小太郎君は鬼と人間の中間なんだね。これから徐々に鬼になるのかな…」
桃寿郎は刀を仕舞う。
「今日はもうダメだね。また来るよ」
桃寿郎が去っていく。小太郎は腕を押さえて座り込んだ。
「ぐっ…う…」
《小太郎、怪我を治そう》
傷に当てた手に、集中して力を注ぐと、傷は小さくなって消えた。
「ハア…ハア…」
《破鬼の剣で斬られても、こうやって治せたし、小太郎の体はまだ大部分が人間なのかもね》
「う…くっ…」
小太郎は、胸に手を当てて呻いた。
《あ、怪我治したから、妖力…少なくなっちゃった…ハアッ…》
「う…痛い…ハアッ…ハアッ」
そこに、大きな影が近づいた。
「小太郎!」
「父…ちゃん」
「帰りが遅いから…」
「ごめん…なさ…っう…あ!」
胸の辺りをぎゅっとつかむ。
「小太郎⁉︎ 苦しいのか?」
「…助け…て…」
小太郎を抱えて、正太郎は走った。
「すぐ医者に見せるから」
正太郎が走って行くと、小太郎の目に、皆で使っている井戸が見えた。そこには小さな河童がいて、井戸に何やら投げ入れ、イタズラしていた。
「父ちゃん…止まって…」
「え? どうした?」
井戸の前に止まった正太郎は、地面に小太郎を降ろした。
「…っ」
立っているのも辛そうな体を、正太郎は後ろから支えた。
「おい? 水がほしいのか?」
井戸にイタズラする河童の存在は、正太郎には見えていない。
小太郎は、鬼の爪を振り上げ、河童を倒した。
粒子となった河童を食べる小太郎。
《これで妖力回復したね》
「はあ…」
「大丈夫か? 小太郎」
「うん。大丈夫」
「…おまえ、やっぱり様子変だよな。この間から…」
心配そうな父に、小太郎は話しはじめた。
「父ちゃん。オレさ、この前一回死んだんだ」
「え?」
「桃太郎の子孫が朱丸の村人みんな殺して、残ったのは朱丸一人。
オレ、朱丸を庇って代わりに斬られた」
「そんな…」
「朱丸が、止まったオレの心臓を動かしてる。秘術でオレの心臓と混ざって…。だから朱丸はオレの中で生きてる」
正太郎は、複雑そうな顔をした。
「さっきまた桃太郎の子孫が来た。オレを殺そうとした。オレは今、鬼と人間の中間らしい」
「桃太郎の子孫は、また小太郎を殺しに来るのか?」
「たぶん」
「そうか…」
「オレの体、これから完全に鬼になるのかもしれない。今まで通り村にいたら、また狙われる」
小太郎は辛そうに、腕をさすった。さっき斬られた場所だ。すでに治っているが、斬られた時の感覚が蘇った。
「…小太郎。村を出なさい。きっとおまえは、人間よりもずっと長生きで、成長もゆっくりになっていくだろう。ここにいては、桃太郎の子孫に狙われるし、みんなにも人間ではないとバレてしまう」
小太郎は涙を流した。
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「父ちゃんも、小太郎と別れるのは辛い。母ちゃんも、正雄もハナも、おまえの友達だって、みんなおまえが好きだ」
正太郎も目に涙をためた。
「でも、小太郎には生きていてほしい」
「うん」
せっかく朱丸に助けてもらった命を守るためにも、小太郎は村を出る決意をした。
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