鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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少年は桃太郎と対峙する19(過去編①)

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小太郎は、目を覚ました。
「あ…オレ…死んで…」
《死んでないよ》
どこからか声がする。
「朱丸? どこ…?」
《オイラは小太郎の中だよ》
「は?」
《小太郎の止まった心臓、オイラが動かしてる》
「…どういう…ぐっ!」
起き上がろうとして、酷い痛みに呻く。
《小太郎…オイラの体なのか…魂なのか…わからないけど、小太郎の心臓ととけ合わさってるのかな…たぶん》
「たぶん…って」
《オイラもよくわかってない。詳しい話はまた後で。それでね、小太郎の体の傷は治ってないんだよ。心臓をかろうじて動かしてる状態》
「ハアッ…ハアッ…ぐ…うう…治せ…るのか?」
《今、オイラの妖力がだいぶ少ない。だから、増やせたら、治せる》
「どうやって…増やす?」
《目の前に、オイラの爺ちゃんが倒れてる》
「ああ…」
《そこまで、なんとか移動して…》
小太郎は、ずりずりと体を移動させる。動くたびに激痛が走った。
「あ…ぐっ! うう! ハアッ…ハアッ…」
《頑張ったね。じゃあね、爺ちゃんを食べて…》
「え?」
《…無理かな? 人間は死んだ人食べないもんね》
「鬼は…食べる?」
《親が死んだ時、その妖力を子どもが引き継ぐためにね。でも、全部じゃないよ。体の一部だ。鬼も人間と一緒で、死んだら埋葬して墓を作るよ。本当は、母ちゃんがよかったけど、だいぶ離れてるから、移動大変だもんね》
小太郎から、一番近かったのが祖父だった。
《無理なら血だけでもいいよ。それでもだいぶ回復する》
小太郎は、覚悟を決めて、朱丸の祖父の血を舐めた。
瞬間、体に熱が走り、血液が巡る感覚がした。
小太郎の目が赤く光る。大きく口を開けて、肉にかぶりついた。
《小太郎…》
しばらくして、朱丸の声がした。
《小太郎、もういいよ。もう充分》
小太郎が、ハッと気づくと、朱丸の祖父のお腹の部分を、だいぶ食べていた。
《大丈夫? 無意識だったかな?》
小太郎は、手や口の周りについた血が気になった。
「オレ…あ…どうし…」
小太郎は呆然とした。
《小太郎、妖力回復して、傷も治ったよ。ねえ、大丈夫?》
「オレ…食べ…」
《食べるつもりなかったんだね? 大丈夫だよ。爺ちゃんの体残ってるからね。ちゃんと埋葬してあげよう。母ちゃんや他のみんなも》
小太郎がショックを受けているのは、無意識のうちに、食べてしまったという事実。
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