鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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少年は桃太郎と対峙する17(過去編①)

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小太郎が村へ入った時、見たのは、後ろから朱丸の腕をつかみ、その背中に刀を振り下ろそうとしている、桃寿郎の姿だった。
「朱丸!」
小太郎は、朱丸に思いっきり抱きついた。
「わ!」
バランスを崩した朱丸は、仰向けに倒れていく。桃寿郎がつかんでいた朱丸の腕は自然に離れ、刀は、勢いのままそのまま振り下ろされた。
「うああ‼︎」
小太郎が叫ぶ。桃寿郎の刀は、小太郎の背中をざっくりと斬っていた。
「え⁉︎ 小太郎⁉︎」
小太郎の下敷きになっている朱丸は、なんとか這い出し、傷の酷さに愕然とした。
「小太郎…! あ…やだ…! ウソでしょ⁉︎」
「うう…ぐっ…」
「あーあ」
慌てる朱丸と苦しむ小太郎の横で、桃寿郎は気の抜けた声を出す。
「人間斬っちゃった。この刀、人間斬るの御法度なんだよね。鬼を斬るための特別な刀だから、人間を斬ると穢れるんだよ。こうなるともう鬼は斬れない。お清めしないといけないんだ。お清めも時間かかるんだよね」
やれやれというように、一人言を呟く桃寿郎。
「…穢れ…?」
朱丸が呟く。
「この刀は、鬼の血が大好きなんだ。でも、人間の血は嫌いでさ。嫌いなもの食べて、へそ曲げちゃってるっていうか…。もう、今日は鬼を斬れないからさ、命拾いしたね君…」
桃寿郎は立ち上がると、大木のウロに向かった。
「ねえ! 小太郎を助けて!」
「あー、残念だけど、小太郎君は助からない。もうすぐ死ぬよ」
桃寿郎は結界を抜けていった。
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