鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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少年は桃太郎と対峙する3(過去編①)

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「なあ、おまえ名前は? オレは小太郎っていうんだ」
「オイラは朱丸」
「オレ7歳だけど、朱丸は?」
「オイラも7歳だよ!」
小太郎は驚いた。
「本当か? ずいぶん小さいな…」
その言葉に、朱丸は少し怒った。
「小さくない! 小太郎が大きいんだ!」
「ええ~?」
小太郎は苦笑いを浮かべた。

山の中を進んで行くと、少し霧が出てきた。
歩いて行くと、大きな木の下に着いた。
「ここだよ」
朱丸は、その木に空いた、大きなウロに入った。
小太郎は戸惑いながら後に続く。
すると、突然めまいが襲い、小太郎は頭を押さえて目を瞑る。
次に目を開けた時には、目の前に小さな村があった。
「え? 本当に村が…」
小太郎が呆然としていると、村の入り口に女の人がやってきた。
「母ちゃん!」
朱丸は駆けていき、女の人に抱きついた。
髪色は朱丸と同じく、赤い色。歳は小太郎の母と同じ20代前半くらい。ただ違うのは、彼女は明らかに人間ではないということだ。
彼女の頭からは二本の角が生えていて、口には牙がのぞいている。
「…鬼…?」
小太郎が呟くと、朱丸の母は朱丸の頭を小突く。
「いたいよ!」
「朱丸。ここに人間を連れてきてはいけない。早くその子を帰しなさい」
「でも、仲良くなれたんだよ? いい人間もいるんだよ」
「その子はまだ子どもだから…。もし、大人に見つかったら、私たちは…」
「…ごめんなさい」
朱丸は母親に頭を下げると、小太郎の手を掴んだ。
「ごめん小太郎。村の外まで送るから…」
朱丸と二人で村の入り口にある、木のウロに入ったところに、朱丸の母が、話しかけてきた。
「ごめんなさいね。今日あったこと、絶対に他の人に話してはダメ。もし、約束を破ったら…」
女の鬼は、牙を剥き出し、恐ろしい形相で言った。
「おまえのこと食いにいく」
「ヒッ⁉︎」
小太郎は恐怖のあまり、固まった。

朱丸に体を押された小太郎は、来た時と同じくめまいが襲い、次に目を開けた時には、元の山の中、木のウロの中に立っていた。
「村がない…」
木の外に出ると、ひたすら大きな森があるだけだ。
「オイラの村は結界の中にあるんだ」
隣で手を繋いだ朱丸が呟く。
「結界?」
「オイラたちが連れて行くと、人間でも中に入れる」
「おまえも…鬼…なのか?」
「うん。まだ小さくて、髪の毛に隠れているけど、オイラにも角も牙もある」
小太郎はゴクンと唾を飲み込んだ。
「も…もし、人間の大人に見つかったら?」
「桃太郎に知らされて、殺される」
「桃太郎⁉︎」
小太郎は驚いた。
「知ってる?」
「有名な昔話だよ! 実在してたのか⁉︎」
「母ちゃんたちがいつも言ってる。桃太郎の子孫が生き残りの鬼を探してるって…」
「……桃太郎は正義の味方だと思ってた…」
「小太郎…?」
「朱丸。オレ絶対言わないよ。きっとまた会えるよな?」
小太郎の言葉に朱丸は、頬を赤く染めてとても嬉しそうな笑顔で頷いた。
小太郎は自分の村へと帰っていった。
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