6 / 59
悪意を喰らう5(現在編①)
しおりを挟む
街から少し離れた林の中、小太郎は木に寄りかかり座っていた。
《悪意を食べれてよかったよ。最近補給できてなかったもんね。これでここ数日は、妖力が保てる》
「そうだな。朱丸」
昼間も聞こえた声、“朱丸”に小太郎は頷く。そっと胸に手を当てた。
「誰が悪意を持つ人間かわかるのは便利だけど、朱丸が反応するたびに、心臓がギュッとなるのは慣れないよ」
《苦しい?》
「少しね…」
《それにしても、小太郎はまどろっこしいんだよ。もっと効率よくいかない? 人間を食べるのはいやなのかもしれないけど…》
「オレは人間だった頃の心を忘れたくないんだよ。それに、今現在、人間の悪意…邪心を食べることで保っていられるんだ。それで充分だよ」
《まあ、直接食べているのは小太郎だから、オイラはいいんだけど…でもさ…》
「…っ! くる…し! やめ…!」
小太郎は、胸を押さえて蹲った。
「っ…はあ…はあ…」
《…っ…ごめん…やりすぎ…た…ゲホッ…ちょっとだけ血の巡りを…悪く…するつもりで…》
「そんなことしたら、朱丸だって苦しいだろ? オレの心臓なんだから…」
小太郎は、立ち上がろうとしてふらつき、仰向けに倒れた。
《大丈夫?》
「……もしかして、やきもち焼いてたのか?」
《……うん。あのお姉ちゃんと仲良くしてるのイヤだった…》
「そっか…」
小太郎はクスリと笑った。
「おまえがオレの心臓と融合して、もう百年が経つのに、おまえの心はずっと子鬼のままなんだな…」
(オレだけ大人になって…いや…人間で考えればもう爺さん…いやもう寿命越えてんな…)
小太郎は目を瞑って、小さい頃の朱丸を思い出そうとした。
出会ったばかりの朱丸の姿。
記憶は朧げで、うまく思い出せない。
もう二度と見ることは出来ない。
彼が小太郎の心臓でなくなるなら、小太郎も死ぬのだから。
《あのお姉ちゃんと、恋人になったらイヤだよ》
朱丸の寂しそうな声がした。
「ならないさ。オレはもう誰とも恋はしない。知ってるだろ?」
小太郎は体を起こすと、自分たちの住処へと帰っていった。
《悪意を食べれてよかったよ。最近補給できてなかったもんね。これでここ数日は、妖力が保てる》
「そうだな。朱丸」
昼間も聞こえた声、“朱丸”に小太郎は頷く。そっと胸に手を当てた。
「誰が悪意を持つ人間かわかるのは便利だけど、朱丸が反応するたびに、心臓がギュッとなるのは慣れないよ」
《苦しい?》
「少しね…」
《それにしても、小太郎はまどろっこしいんだよ。もっと効率よくいかない? 人間を食べるのはいやなのかもしれないけど…》
「オレは人間だった頃の心を忘れたくないんだよ。それに、今現在、人間の悪意…邪心を食べることで保っていられるんだ。それで充分だよ」
《まあ、直接食べているのは小太郎だから、オイラはいいんだけど…でもさ…》
「…っ! くる…し! やめ…!」
小太郎は、胸を押さえて蹲った。
「っ…はあ…はあ…」
《…っ…ごめん…やりすぎ…た…ゲホッ…ちょっとだけ血の巡りを…悪く…するつもりで…》
「そんなことしたら、朱丸だって苦しいだろ? オレの心臓なんだから…」
小太郎は、立ち上がろうとしてふらつき、仰向けに倒れた。
《大丈夫?》
「……もしかして、やきもち焼いてたのか?」
《……うん。あのお姉ちゃんと仲良くしてるのイヤだった…》
「そっか…」
小太郎はクスリと笑った。
「おまえがオレの心臓と融合して、もう百年が経つのに、おまえの心はずっと子鬼のままなんだな…」
(オレだけ大人になって…いや…人間で考えればもう爺さん…いやもう寿命越えてんな…)
小太郎は目を瞑って、小さい頃の朱丸を思い出そうとした。
出会ったばかりの朱丸の姿。
記憶は朧げで、うまく思い出せない。
もう二度と見ることは出来ない。
彼が小太郎の心臓でなくなるなら、小太郎も死ぬのだから。
《あのお姉ちゃんと、恋人になったらイヤだよ》
朱丸の寂しそうな声がした。
「ならないさ。オレはもう誰とも恋はしない。知ってるだろ?」
小太郎は体を起こすと、自分たちの住処へと帰っていった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます
ジャン・幸田
キャラ文芸
アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!
そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
鬼の御宿の嫁入り狐
梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中!
【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】
鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。
彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。
優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。
「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」
劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。
そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?
育ててくれた鬼の家族。
自分と同じ妖狐の一族。
腹部に残る火傷痕。
人々が語る『狐の嫁入り』──。
空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
わたしは不要だと、仰いましたね
ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。
試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう?
国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も──
生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。
「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」
もちろん悔しい。
だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。
「きみに足りないものを教えてあげようか」
男は笑った。
☆
国を変えたい、という気持ちは変わらない。
王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。
*以前掲載していたもののリメイク
後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符
washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる