愛を教えてくれた神は今日も隣で愛をささやく

藤波璃久

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契約の証

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「湊人~? 朝よ~起きなさーい」
母の声が聞こえ目を開ける。
昨夜のことは夢だったのか。現実だったのか。区別がつかない。
「はあ…。なんか、体がダルい」
湊人は部屋を出て洗面所へ向かう。
洗面所では2歳下の弟、総一郎が歯を磨いていた。
「兄ちゃん、おはよ」
「うん。おはよ」
湊人はふと鏡を見る。パジャマがはだけて胸の真ん中が見えていた。
「!」
鏡に写った胸には、不可思議な模様が描かれていた。魔法陣のようなその模様は、血のような赤い色で描かれているようだった。
「総くん」
「なに?」
「胸になんかあるんだ。見える?」
「ん~?」
総一郎が拭いていたメガネをかけて見た。
「何もないけど?」
「ホントに?」
「うん。しいて言えば小さいホクロがあるくらい?」
「…そっか」
湊人は、昨夜の悪魔の来訪は夢ではなかったのだと思った。
悪魔の言葉を思い出す。
『オレさまが中に入ったら、お前の胸に契約の証が浮かび上がる。もちろんそれも人間には見えないものだ』
(悪魔がオレの中に…?)
そう思ったら、急に吐き気に襲われた。
「う…」
湊人は口を押さえ、トイレに駆け込んだ。
「兄ちゃん?」
総一郎が心配そうに、トイレのドアを開ける。
湊人は、便器に向かって嘔吐していた。胃の中が空っぽだったので、胃液しか出て来ない。喉が焼けそうだった。
「兄ちゃん大丈夫? 母さん! 兄ちゃんが大変!」
総一郎が呼ぶと、母が慌ててやってきた。
「湊人、大丈夫?」
母は湊人の背中をさする。
「はあ…はあ…」
吐き気が治まって、洗面所で口をゆすいだ。
「湊人…」
母は、湊人の額を触る。
「熱はないみたいだけど…」
「うん。大丈夫、ちょっと風邪気味なだけだと思う」
「そう? 顔色すごい悪いわよ?」
「大丈夫だって…」
母は心配症なので、すぐに学校を休んだ方がいいと言う。
小6の時殴られて意識を失った事も影響しているのだろう。
湊人は部屋で制服に着替えると、まっすぐ玄関に向かった。母がすぐに気づいてやってくる。
「湊人、朝ご飯は?」
「食欲ないんだ。行ってきます」
心配そうな母を置いて、湊人はマンションのエレベーターを降りて行った。
(まさか、悪魔に取り憑かれたせいで具合悪いなんて言っても、信じてくれないよね?)
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