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第七章 勇者するより旅行だろ・・・?
第百二十七話 光と筋肉
しおりを挟む◇第三者視点
楓が大悪魔達を虐殺したあと。魔法少女と不良剣士、肉壁無口にうまいこと乗せられている間、この世界での戦争は大きな変化を見せていた。
この世界に現存する全ての勢力が、それこそ己らの切り札を切ってまで乗り込んできていたのだ。どの勢力も、ここで全てを終わらせる気だった。邪魔な者達を全て駆逐し、自分たちが生きやすい世の中を作るために。
正義の心を持って戦っている戦士達、邪悪な考えの元で殺戮を進める悪役たち。
その全てが何者かに操られているのでは・・・?そう考えてしまうほど、見事なタイミングで相対したのだ。それも、どこからともなく現れた規格外な人外たちを引き連れて。
何者かの掌で踊っている彼らは自分たちこそがこの世界を支配するのだと自軍を大陸の境にまで引き連れてきたが・・・・・・
「いない?」
「はいっ!キアラ様、ドーラン様の姿がどこを探しても見当たりません!!!」
「どこだっ!どこにいるっ!?あの剣士と糸使いっ!どこにもいないではないかっ!」
「龍神様っ!瞬様とナタリア様が探索の手を広げておりますが、未だ確認出来ないとっ!」
「くそっ!このままではっ!」
「スィータとシアンが消えただと?」
「はい。臨時で建てた教会にも、武器庫にもいませんでした」
「あの悪魔の手下・・・・・信じていた訳では無いが、失ったことの影響力は無視出来ない」
今こそ攻め時だっ!
そう、種族の頭たちへと進言していた突如現れた化け物達は全ての勢力から同時に消えていた。
悪魔の手下。何者も追いつけない文字通りの最速の男であった男。その手下たちは力を欲していた各勢力に入り込み、戦争を仕向けてから消えた。
もう既に引き返せないところまで来ている三種族はもう自陣には帰れない。奴らの思惑通り、どれか一つになるまで争いを続けねばならないのだ。兵力の消耗戦。一でも残った種族の勝ち。
最悪の戦争は最悪の状態で始まった。
最悪の時間。
それが訪れたことを知らない前線の者達はいずれ応援が来て、自分たちが勝利するであろうと信じて戦い続けていた。
「光輝、ここで俺と会ったのが運の尽きだったなっ!」
「それは僕のセリフだよ。合宿の時以来だね、あれから更に強くなったと思っても?」
「あったりめぇよ。俺には俺の生き方がある。散った仲間のためにも、お前をここで殺す」
秘められた殺気が解放され、辺り一帯を二人の戦場に塗り替える。既に二人の近くに兵士はいない。巻き込まれたくない、というのと、味方の勝ちを確信しているからこその戦場の委託。
魔術師と人類最強との戦いはまさしく戦争。たった一人で千の、万の軍隊となる怪物同士の戦いが、今始まる。
戦いの合図などは無い。
今だ、そう思った時が戦いの始まり。伊野光輝は身体を閃光に変えて光速の剣を振るう。音を置き去りにし、残像を残すその速さは人の身で耐えられるものでは無い。彼は本当に光となって動いているのだ。
対する吉岡貴史はその場から動かない。伊野光輝の速さは人の目で捉えられるものでは無いため、動き回るのは得策でない。
それならば、その場で動かず、敵の来る場所に拳を放つ方が良いのだ。その間にも、光輝の一撃は吉岡の身体を切り刻んでいくのだが、人類の最上位というのは伊達ではなく、普通ではないその自然治癒能力で次から次へと身体の傷を癒していく。無論、ノーダメージとはいかないが、本来のダメージよりかは遥かに軽くなっている。
「はっ!軽いな!もう少し体を鍛えた方がいいんじゃないか!?」
「ふんっ!君の方は筋肉が重すぎて動きずらそうに見えるけど、ねっ!」
打ち出された光の剣閃を貴史が強靭な右腕ではじき飛ばし、がら空きになった背中を光輝が斬る。皮が薄く切れ、そこから血が垂れる。しかし、その傷も瞬く間に塞がり、傷跡は綺麗さっぱりなくなった。
一瞬のうちに幾つもの傷を受けるが、貴史は自分の治癒力を信じて、全神経を光輝に集中させる。
貴史の一撃は凄まじく重い。
人類の限界値とだけあって、その拳は人間を破壊するには十分事足りる。幾ら修行を重ね、地獄を生きてきた伊野光輝であっても、三発くらえばダウンは避けられない。
「ココだっ!」
「んぐっっ!?」
極限の集中の中で、伊野光輝が次現れる場所を第六感で感じ取り、そこに呼び動作のない懇親の一撃を叩き込む。
光から元の人の状態に戻り、膝をつく。腹の中に溜まっていた空気が全て吐き出され、内蔵がいくつか潰された嫌な感覚が光輝を襲った。気合を入れ、一度距離を取ってから、ゆっくりと立ち上がる。相手は一撃では倒れないくせに、自分は一撃で体の節々を破壊される。嫌な敵である。
世界の果てでも、こうして毎日膝をついてきた。
日本の戦場でも経験出来なかった日々を送っていた。体内の傷を癒すのも慣れたもので、距離をとってから即座に回復の光魔術を発動させ、内部の修復を行った。世界の果てで暮らすうちに嫌でも魔力量は増えたし、自分の長所を幾つも見つけることができた。収穫は間違いなく多かったが、その分絶望も持った。皮肉にもその絶望は彼の力を増大させていったのだ・・・・・・
「君は・・・なぜ魔族の味方をするんだい?」
絶望を繰り返していた光輝には分からなかった。
なぜ人を守らねばならないのか。醜く、愚かな存在たちを。魔族も、亜人も、人間も。世界の果てでは皆同様に醜かった。愚かでたまらなかった。
彼には人を守る理由などない。寧ろ滅べばいい、そう思ってさえいる。こうして人族のために戦っているのも、自分が恋をした相手の役に立つ為であり、綺麗な理由ではない。
歪んでしまった彼は守るという選択などとうの昔に捨てていたのだから。
「俺か?はっ、色々あったんだよ。お前が消えて、会長が消えて、影宮も消えた・・・!!ネメシスの国王も超越者たちもどこかへと行っちまった。魔物の襲撃にも俺は数少ない戦闘要因として参加した。毎日毎日ギリギリの肉体と精神でなっ!」
国防を務められる者などいなかった。ネメシスの兵士は弱い。強い魔物と殺り合えるのは貴史しかいなかったわけだ。故に彼は毎日魔物と戦った。クラスメイトのため、人のために。寝る暇など無かったし、武器のメンテナンスをしてる暇もなかった。楓から貰ったガントレットもメンテナンス不足でいつの間にか壊れていた。
そんな状況が何年も続いた。まさに地獄であった。毎度血塗れになって帰ってきても、それがさぞ当たり前のように人々は彼を出迎えた。誰もが笑っていた。初めのうちは、それでも良かった。その笑顔の数だけ頑張ったのだと思えたから。
だが、いつからかその笑顔が彼を嘲笑っているように見えるようになった。
「最悪の気分だった!自分たちの幸せは当たり前で、それを叶えるのがお前の義務だってなっ!そんなのを毎日聞かされている気分だったさっ!いつも俺は死ぬか生きるかの戦いをしているってのに、アイツらは!!それをまるで分かっちゃいないっ!」
唯一の癒しは恋人で、その子が国にいるから毎日戦った。甲斐甲斐しく彼の治療をしてくれた恋人、その恋人が貴史の戦場に行くことを誇りにしていたからこそ、彼は国を守るという重みを甘んじて受け入れていた。
だが、彼はある日聞いてしまったのだ。
「・・・・・・奴らは、俺のことを繋ぎ止めるために、戦争に出すために、あいつを利用してたんだよっ!許せなかった、殺してやりたくなった、だから俺は、人間を捨てた」
彼女がベッドで啜り泣く声を彼は聞いてしまったのだ。
理由は単純。恋人は元々吉岡が国防に務めることなど反対だった。だが、クラスの連中や国の貴族達はそれを良しとしなかったのだ。だから、恋人に命令したのだ「吉岡貴史を戦場に導け」と。人質をとって。民間人を殺す、と脅して。
それを聞いた貴史はとうとう我慢ができなくなった。
溜め込んでいた怒りを爆発させ、貴族達やクラスメイトの一部をボコボコにしてから国を出た。死人が出なかったことが不思議なくらいだった。
「その点、魔族たちは優しかったよ。人間である俺とあいつを快く受け入れてくれた。餓死そうだった俺とあいつに残り少なかった食料を引っ張り出して食わせてくれた。人間みたいな薄汚い連中には出来ないことだ」
そこで彼は決めたのだ。
戦争となった時、同種の人間をどれだけ殺すことになったとしても、助けてくれた魔族を死んでも守る、と。
「俺は恩義を返すため、お前らを殺さねばならない。お前ら人間を狩り尽くして、俺たち魔族がこの世界を統治するっ!」
そのために、ひとつの目標のために、魔族となった吉岡貴史は人類最強の拳を振るう。
見えない速度で堅牢な肉ダルマに斬りかかる伊野光輝とその場で凶悪な拳を光に当てる吉岡貴史。
どちらが勝ってもおかしくはない。
ただ、お互いにダメージをくらっている分、長期戦とはならないだろう。いずれはどちらかが死に、どちらかがまたどこかでその力を振り回すだけだ。
戦場を駆け回る光と全身を傷だらけにして拳を振るう筋肉。
その二人の耐久力勝負が続き、戦場が血に染まっていく。そろそろ致死量に達する・・・そんな時だった。
「クックック!ハーハッハッハ!世界の支配者たる俺を差し置いて戦争とは、生意気ではないか?ん?」
戦場全体にそんな高笑いが聞こえてきたのは。
――――――
はたつばです。
旅行楽しかった・・・!!
温泉すごく気持ちよかったですっ!!何ていうんですかね・・・露天風呂?・・・うん、あれは最高でした。あの時の気持ちを伝えたいけど、語彙力が足りぬ。
現地の方や向こうで出会った卒業旅行の学生さん達とも仲良くなれましたし、かなり充実した旅行になりました!
必ずまた行こうと誓いました。
次は海の季節に行きたいですね。
(もはや物語関係なし)
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