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第七章 勇者するより旅行だろ・・・?

第九十三話 やりすぎ錬成

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  さすがは辺境領地だけあって、防壁は分厚い。武器を作る工房も至る所にある。逆に、宿はあまり無い。あるのは巨大な寝泊まり施設が数個。これは外から来た冒険者用かな。
  街を歩く冒険者、騎士、兵士いずれもなかなか価値の高い装備を持ってる。装備に着られている者も若干名いるがな。

「それでは皆様、あちらが私の父が持つ屋敷でございます。ここから石畳から芝生に変わりますので、足元ご注意ください」

  怪我をさせない、不快にさせないように必死だな。とくに明日香の機嫌を損ねないようにだろうな。馬車のなかで、俺と奏汰がどれだけ明日香を大切にしているか見せつけておいたからな!

  今更だが、辺境伯ってことは近くに危険地帯があるってことだよな・・・。明日香の運によっては、またテンプレに巻き込まれそうだな・・・。


  辺境伯の屋敷はそこまで大きくなかった。豪勢って程でもない。庶民の家をそのまま少し大きくしただけに見える。その代わり、街道を作る石畳や庭の芝生は細かいところまで丁寧に作られている。
  お嬢さまや騎士様をみてたから金がすべてって貴族では無さそうだったが、お嬢さまの親もそういった思想の持ち主か。この文明レベルでは浮くだろうに。

「父と面会できるか聞いてきますので、控え室でお待ちください」

  屋敷に入ってすぐの客間に通され、そこで三人で待つことになりました。騎士共のうちの二人が警護としてついているが、無駄やで。

「楓、奏汰。ここは辺境地。モンスタービートが起きるわ!」

「モンスタービートってなに?」

「大量の魔物がここに襲いかかってくるのよ!」

  魔物たちの繁殖期が重なり、国落としをはかる。裏で魔人が手を引いてる可能性もあるがな。俺たちには全く関係ないな。

「明日香はどうするの?逃げる?」
「そんな勿体ないことはしないわ。殲滅してお国にお呼ばれするのよ」
「だよねー」

「しないぞ。殲滅してもいいが、お呼ばれは避ける」

「えぇ!?何でよぉ!勿体ない!わたしも王城に行きたい!」

「忍び込め」

  面倒だからな。俺の身バレはまだまだ先でいい。とりあえず、俺の眷属たちがどこにいるか確認しないとどうにもならん。この世界で真面目に生きててくれれば、俺が会いに行く必要も無い。俺は眷属たちの行方はしらない。そこの情報はシャットダウンしてるからな。近くに来たらわかるが、気付かれないようにはするつもりだ。

「いやーだー!わたしも王城に行きたい!」

「わがまま言うなって。300歳超えてそれは見苦しいぞ」

「女性に年齢のことは言ってはいけないのよ」

「あはは・・・明日香、王城は諦めよ?他にもたくさんあるんでしょ?テンプレ」

「・・・・・・」

  奏汰もこちら側に回ってくれたか。これは勝ちでしょう。

「・・・分かったわよぉ」

  ぷっくりと頬を膨らませている。安心したまえ、あれは明日香の演技だ。奏汰が「ごめんね」って言うのを待ってるのだよ。タダでは終わらない。それが山岸家の人間だ。・・・総司令官元気にしてるかな・・・親父がいるからなんとかなるか。

「皆様、父がお会いになるそうです。ご案内します」

  お嬢さまだ。・・・いまだに名前も知らないがいいとしよう。全知にもなると、人のことをいちいち見るのも面倒だ。

  俺達が来たのは謁見の間。

  といっても、縦長の部屋の奥にポツンと机と椅子が置いてあるだけだ。どっちかと言うと、執務室。

「おぉ、ようこそいらっしゃいましたな旅のお方」

  狸親父、いや、狸お兄ちゃんだな。デブとか裸とかというわけではない。腹の底でなにか考えているタイプの人間だ。厄介だろうな、普通の人間ならば。

「ブラングルヘン辺境伯。残念ながら、俺達はあんたの仲間にはならねぇぞ」

  狸お兄ちゃんの眉が動く。
  この辺境伯の名前は『ラーグ・バランデル』辺境伯。本名は『ブラングルヘン』。この国で最も優秀な貴族だと言われている。だが、それは五年前からの話だ。それ以前は馬鹿貴族を絵に書いて引っ張り出してきたような底辺思想の持ち主だった。しかし、何があったのか、五年前から彼は突如として変わった。頭を打ったと言われているが、真っ赤な嘘だ。ブラングルヘンは前辺境伯と街娘との間に出来た隠し子。顔が激似のソックリさんなわけだ。

  騎士様、お嬢さま、側近たちが一斉に剣を抜く。

「やめろっ!手を出すな!」
 
  辺境伯が怒鳴り声をあげ、全員の動きを止め、振りかぶっていた剣を下ろさせた。

「ブラングルヘン辺境伯、安心しろ。この屋敷、この街にいたスパイ共は全員半殺しにして預かってる」

  ブラングルヘン辺境伯はラーグとは違い、理知的な男だ。五年前までは街で商売をしていたようだし、世渡りがうまいのだろう。冒険者や騎士達を見ているから、俺達のこともなんとなくは察するんじゃないかな。

「・・・貴殿はどこまで知っているので?」

「全てだ。辺境伯が生まれてから今に至るまでの全てを知っている」

  俺に情報として流れてくるからな。全て。

「・・・ふぅ。申し訳ない、部下達の非礼を詫びよう」

「いやいいよ。こちらこそすまない。試すような真似をしてしまった。辺境伯が優秀だということも知っているからな。敵対者ではない。安心しな」

  その言葉だけで、安堵する辺境伯。人の表情で嘘か誠か判断できるタイプか。なかなかだ。面白い。

(奏汰、私たち空気だね!)
(嬉しそうにいう言葉ではないね)

  ・・・すまん、二人共。もう少しだけ待ってて。すぐに出番あげるから。

「辺境伯、今回は俺達の『力』を売り込みに来た」
「下に付くわけでは無いのですね」
「もちろんだ。俺よりも、力を持つことが最低条件だ」
「では、売り込みに来た力というのは?」
「ところで辺境伯。あの馬車は見てくれたかな?」
「・・・拝見しました。あのようなもの、世界中の職人を探しても作れないでしょう」
「そこでだ。あの技術、防壁に使ってみねぇか?」

  俺がしたかった話はこれよ。明日香の錬成術と俺の力を使えば防壁は一日で最強の要塞に生まれ変わる。その力を売りに来たわけよ。

「・・・この目で見てみないと何とも・・・」
「だろうな。・・・明日香!ちょっとこれに、細工してくれ『創造』」
「ふぁい!」

  作り出すのは農業で使うようなトラクター。

「いきますっ!『錬成』!」

  空中に幾つもの金銀が浮かび、それがトラクターと合体していく。次第に形を変えていくと、最終的には八輪、主砲付きの装甲車になった。
  ・・・ここまでしろとは言ってない。完全なオーバーテクノロジーだ。

「・・・ははは・・・私は夢でも見ているのか・・・ 」
「残念ながら、全て現実だ」
「錬成なる技術もそうですが、貴殿の『創造』というのは反則ですな」

  ・・・あれ?俺?

「・・・分かりました。それでは、防壁の強化をお願いしてもよろしいですか?」
「お?えらくすんなり通ったな。もっと一悶着あるかと思ったんだが」
「裏切る前提で来るなら、こんな技術を披露しないでしょうし・・・なにより、この街に入れた時点で負けですから」
「いい判断だ。人によっては気分を害すが、俺たち相手なら正解だぜ。この装甲車はアンタらにプレゼンしよう。使い方はあとで奏汰にでも聞け」

「え、僕?」

「俺は機械に詳しくない!」
「私は作れるけど、操縦できない!」

  創る専だから。

「防壁は俺と明日香が強化しよう。奏汰は装甲車の操作を教えつつ、そこの騎士様でも鍛えてやれ」

「是非とも、本気で鍛えてください」

「あはは、本気出したらこの街の人みんな死んじゃうよ」

「あぁ騎士様、そいつに本気を求めない方がいい」

  鬼の状態で、地面でも蹴ってみろ。大陸が割るぞ。

「よし、じゃぁ明日香やるぞ!」
「おぉ!」

  頑張るでおま。


◇◆◇◆◇◆◇◆


  俺と明日香は高い防壁の上で仁王立ちしている。

「不思議ね。この防壁、崩れてないのが不思議」
「そんなにか?普通に見えるが・・・」
「この高さなら、数十年すれば風でも倒れちゃうし、地震なんか起きたら一発かな。魔法の力なのかな?」

  異世界補正か・・・。
  ま、乗りかかった・・・乗りに行った船だからな。神軍もビビるようなもんを作ってやるか。

「明日香、どんなの用意すればよい?」
「さぁてね・・・アルトメタル量産できる?」
「それは無理だな。希少性を持たせるために、無闇に作りたくない、悪いの他ので」
「はいさい。・・・ロンズデーライトは?」
「悪魔○軍の?」
「そうそう。隕石との衝突でうんたんかんたんな鉱物なんだけど・・・」

  ロンズデーライトか・・・。ダイヤモンドよりも硬いみたいな事言われてた気がする。再現できるだろうか・・・。・・・不安だから『強欲』使おうかね。

  適当に宇宙空間から巨大な石みたいな星を連れてきて、それ全てをロンズデーライトに変換する。ロンズデーライトとバレると、防壁を削られる可能性があるので、色を真っ黒なものに変えておく。百に一つもないだろうが、欠けたりすることないように、『不壊』を付与しておく。

  そして、今ある防壁を消し去って、一瞬でロンズデーライトで防壁を作る。民間人を驚かせないようにね。
  俺ができるのはここまで。あとは・・・

「ありがとう。ここからは私も頑張るよ」

  明日香に任せることにするよ。
  賢者の石が八つもあれぱ、加工で失敗することもないだろう。

  賢者の石とはそれほど凄いものなのだ。再生、創造、錬成、加工。物質を弄ることに関しては、俺の強欲よりも使い勝手がいい。
  賢者の石は無数にある小さな手でものをつくる感じ。逆に強欲は、とてつもなく大きな手を使って豪快に作業するようなものだ。明日香には勝てぬ。

  防壁を作るのに余ったロンズデーライト。空中で浮遊するそれに手をかざすと、ロンズデーライトが光となって、防壁に吸収されていく。
  明日香の錬成は釜に入れてグツグツみたいな工程が必要ない。無駄がほぼ無いと言える。代償もほとんど必要が無い。これに関しては賢者の石の力だが、彼女の錬成師としての腕は並ではない。
  防壁に吸収されたロンズデーライトは地面に根を張り、上部には無数の砲台を作り出す。砲台に加工されたものはさすがにロンズデーライトだけで作られてはいない。一種の鉱物で作るのは無理がある。その他諸々もあるが、それも優秀なものなので大丈夫ですよ。

「むむむ・・・あ、これいいかも」

  おー、おーおー。これはこれは。ヘリコプターじゃないですか。またあったな、ヘリコプター先輩。
  それが100機。・・・こんなにいる?しかも、手元で操縦できるタイプのようで、無人ヘリコプターになるそうだ。爆弾や機関銃を詰め込んだ贅沢パックだ。・・・贅沢すぎる気がしないでもない。

「よし、完成だよ」
「お疲れ様。満足できた?」
「まぁまぁかな。でも、この世界の神くらいなら屠れるかな」

  冗談が通じないぜ。

「でも、結構時間かかっちゃったね。もう夜だよ」
「だな。奏汰が寂しそうだし、早めに帰ってやるか」
「ふふふ、放置プレイ、放置ぷれい~」

  やめなさい。乙女が発する言葉じゃなくってよ。

  そんなこんなで、世界最高の要塞を作り上げた。この要塞で、ブラングルヘン辺境伯領地が世界最強の地と呼ばれるようになるのはそう遠くない。


◇◆◇◆◇◆◇


  はい、帰ってきましたよ。辺境伯の屋敷に。帰ってきたら騎士団長がどえらい事になっていたので、すぐに再生させた。ほぼ死んでた。

  その後は辺境伯と少しお話して、お開きになった。

  泊まる宿がないので、今日は辺境伯の屋敷にてお世話になることになりました。
  それから、数日間はここに留まることも決まりました。明日香はお嬢さまの教育者に。奏汰は騎士共を鍛え直すことに。そして俺は、魔法使いたちの常識を覆すことに。

「それでは、辺境伯、数日間よろしく頼む」
「宜しくお願いします」
「よろしくね」

「はい、こちらこそ。よろしくお願い致します」

  この領地の力を押し上げよう。
  ・・・この提案は、明日香が元です。「私たちが最強の領地を育てましょう」だそうです。明日香の異世界ハイテンションはしばらく続きそうだ。

  ・・・ま、すぐに諦めるでしょ。




――――――――

はたつばです。
前々からこの三人で旅をしたいとか考えていたので、叶って嬉しす。

この先、かなり身勝手かつ、自由な旅が繰り広げられるはずです。えぇ、もうそりゃもう。
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