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第七章 勇者するより旅行だろ・・・?

第九十二話 勇者よりも旅行だろ?

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新章スタートです!
むしろ、ここから本編。タイトル回収が九十話ちょいってとんでもないですよね。
でも、これでもうタイトル詐欺とは言わせない!

――――――――――



◇第三者視点


  黒田楓が消失し、各地に散らばっていた化物のうち二名も消えてしまった。

  それでも、この世界、イルタハリアの戦争は障害なく進んでいた。

  魔族、亜人、人間

  異なる三つの勢力がしのぎを削る。しかし、魔王に加担する人間がいれば、亜人に協力する魔王もいた。混戦状態だ。勢力はごちゃ混ぜ。どこに敵がいるか分からない。次の日には隣のヤツが自分を刺しているかもしれない。そんな恐怖に包まれる戦争となった。

  しかし、そこにまた、横槍を入れてくるもの達がいた。

  勢力名は『深淵隊』。謎に包まれた組織だ。だが、実力は確かで、既にいくつもの隊が潰されている。魔物も、亜人も、人間も、なかには半神さえもかの勢力にはいるらしい。
  深淵隊は戦争を荒らした。時には救世主に、時には悪魔に。神出鬼没でいて、絶対強者。

  世界は暗雲が立ち込めていた。

  そうなってから既に十年が経つ。滅亡した国はまだ少ないが、被害はどの国も大きい。それぞれがやめ時と思ってはいるが、自ら退くという選択肢はない。それは敗北だからだ。敗北せずに、戦争を終わらせるための策を練っている各国、及び魔王軍。

  もう既に各地から食料が消え始めている。

  十年間で失ったものばかり。食料はなんとか確保してきたが、それも底をつきそうだ。各地では、農業や家畜をしている者達は権力者となり、金を持つようになった。文明が巻き戻り始めているのだ。科学が薄いこの世界では、武器や防具の制作が盛んではないため、新しい発明品が少なく戦争で大成する人がいないこと、働き口がそこで増えることがないためであろう。
  農業や家畜は博打のある冒険者や経営者に次ぐ金持ち職業になった。
  それは即ち、兵士を希望する人間がかなり減ったということだ。貿易が容易ではない時代、状況が国の財政を悪化させているため、給料は少ない。命はって端金を貰うくらいならば、のんびり農業や家畜を営んだ方が賢いということだ。国力の低下に繋がり、戦争の質は十年前に比べて下がっているし、個の力がものを言う戦争になりつつあるのだ。

  そしてもう一つ、十年前と変わったことがある。

  魔物達がハッキリとした知能を持ち始めたのだ。ゴブリンやスライムのような底辺をゆく魔物から、無能ではあるが力の強いサイクロプスやミノタウロス、元々圧倒的な力を持っていた龍種や不死種たちもそれまでより遥かに高い知能を手に入れたのだ。亜人よりも厄介な存在となった。
  その力は、力を持った魔のものである魔人たちに匹敵する。魔物中でも強いものたちは魔人よりも高みにいるものも多い。
  この現象に関しては『深淵隊』が関わっていると見られている。変化が突然すぎたからだ。突如現れた第四の勢力と、知能を持った統率された魔物達。無関係と切り捨てるわけにはいかなかった。
  それに、この魔物達が厄介なのは、言葉を発することだった。最後の最後に彼らは決まって言うのだ「なぜ・・・?・・・ただ・・・生きたかっただけなのに・・・」と。それは人々の精神を蝕んでいった。兵士の疲弊は止まらなかった。魔物を倒してストレスを緩和していたのに、それがストレスの元に変わってしまったのだ。

  そしてもう一つ。
  十年間争い絶えぬ世の中だったこの世界に戦争の種が再び撒かれたのだ。

究極能力アルティメットスキル

  これだ。
  何かをひたすらに続けていた者が手に入れる傾向がある力で、それは固有魔法などとは比べ物にならなかった。天を操り、緑を作る。そんなことまでできてしまう力。ステータスに表示され、確認されているのは亜人、魔族、人間合わせて八人だけ。

  究極能力に目覚めると、それに関する知識が全て頭に流れ込んでくるらしい。
  戦闘に関することもあれば、それ以外の内政や、人気職である農業に関連するものなど、種類は幾つかあるようだ。しかしそのいずれも、その業界では神に並ぶとされるほどに強力だ。
  究極能力を持った者は各国、各地から引く手あまた。彼らの存在は世界にある全ての宝よりも価値があるのだ。

  戦争の火種は各地に散らばっている。

  そしてまた、新たな火種が追加されることとなる。


「この世界も200年ぶりだな」
「私達は初めてだけどね。でも、またこの3人で陽の光を浴びれるなんてね・・・」
「そうだね。僕もそう思うよ。これからは楽しんでいこう!」

「だな。勇者なんかよりも、旅行が一番っ!」

  異界の化物たちの異世界訪問である。


◇楓視点

  世界の扉が開く。灰の世界で過ごしてはや200年。黒田のアホ共がうるさいので、先に死者の国の扉を開いてから53年だ。とても大変でしたよ本当にもう。
  ようやくこの灰の世界から解放されるのだ。ようやく復活できる。生き返るんだ!

「わーいわーい!」

  みんな喜んでおられるよ。

  サガンは見送ったあと、死者の国に行く。カナンや生贄にされた少女達に会いに行くそうだ。解決した後に、サガンと再び戦ったが、三日三晩寝ずに戦った末に、死者の世界に行けば会えるかも、と言ったら素直にひいた。ちょろい。黒田たちと一度死者のところに行ってあっているので
もう暴れることもない。

  親父は原典で過ごす母さんのところに帰るらしい。今までは何もしてあげられなかったし、忙しかったせいでろくに夫婦生活してなかったから、それをしに行くそうだ。俺が貯めてた金をすべて親父に渡す約束をしたので、それで仲良く旅行にでも行ってこい。

  翔太は開く方法がわかった瞬間に俺から方法を聞き出し、空間を無理やりぶち破り、世界を超えていった。狭間に一生取り残される危険もあるのに、躊躇いなく突入していった。嫁への愛情がとんでもない男でした。女も男も『愛』ってのはとんでもないな。

  覇王は世界の怪物共と戦いに行くらしい。原初の世界へ行くための鍵を作ってやったから、暫くは覇王も楽しめるだろう。本物のバケモノを見るのも経験だろ。

  デュークス、キャサリン、フランは元の世界に帰り、その後はみんなで世界旅行に行くらしい。もちろん、デュークス率いるハーレム軍団と共にね。


「楓、また一緒に遊べるね」
「明日香・・・そうだな・・・次は後悔しないように生きていくよ」


  ここを分岐点として。もう自重はしない。遅くなる前に全てを片付けよう。

  扉をくぐる。俺と明日香、奏汰の新しい旅が始まるのだ。

  目の前に広がるのは、一面緑の草原。
  扉はイルタハリアに繋げたので、ここはそのどこかなんだろうが・・・。

「この世界も200年ぶりだな」
「私達は初めてだけどね。でも、またこの3人で陽の光を浴びれるなんてね」
「そうだね。僕もそう思うよ。これからは楽しんでいこう!」
「だな。勇者なんかよりも、旅行が一番っ!」

  この世界で生きていくんだ。楽しみ。

「うん!それじゃぁ!テンプレを探すわよ!」

  明日香さんが陽の光を浴び、楽しそうに笑う。彼女は何も変わらないな。

  テンプレって言ってもねぇ・・・。

「そんな都合よくテンプレが起きるはずが――」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「――無いのではないのか!?」

  そんな馬鹿な。

「おぉ、明日香すごいね。運高いよ」

  奏汰、これは納得していいことなのか?最も簡単に成り上がるならテンプレを意識することが大切だ。だがしかし、都合が良すぎだろ・・・。

「助けに行くか?」
「ふふふ、任せてちょうだい!私の保有する賢者の石の力を見せてあげるわ!」

  明日香さんの目が光る。右眼は俺と同じ義眼に変えたらしく、青く光っている。青い魔法陣がくるくると周り、辺りを見回している。
  賢者の石がおそらく、世界最大の発明であることは間違いない。その力が果てしないものであることも知っている。明日香が体内に埋め込んだ8つの賢者の石。その全てが俺の持つ賢者の石以上の力がある。
  あったまおかしいね!

「奏汰と楓は見ててちょうだい。私って結構すごいんだから!」

  明日香の立っている所の地面が盛り上がり、一体のゴーレムを形成する。ゴーレムの肩にちょこんと座り、ない胸を張ってビシッと悲鳴の聞こえる方向を指さすと、ゴーレムが音速と同程度の速度で移動する。
  ・・・なんで?あれって土で作ったんだよね?速すぎて土がバイバイするはずなんですが。そうですか、常識はいらないんですね。賢者の石には。

  俺と奏汰も置いていかれないように、特に強化もせずに、走り出す。

  襲われているのは豪勢な装飾が施された馬車だ。乗り込んでいる者達の装備も非常に豪勢。そのうちの一人は、陽の下だととても眩しいきらびやかなドレスを着こんでいる。
  汚れるぞ!

「私のテンプレェ!超越錬成!物質変換!『鋼鉄の大砲』!」

  地面から土でできた大砲が生えてくると、それらは瞬く間に鋼鉄に変わる。そして、

――ドゴンっ!

  放たれる。生えてからすぐに放たれた大砲の玉が盗賊っぽい男に直撃する。というか、貫通する。
  ・・・なして?
  貫通した玉から他の盗賊に向けて鋭い針が伸びる。見事に頭を貫き、絶命させた。
  ・・・なして?

「ふふふ・・・どう!?これが私の錬成能力!」

「あ、うん。凄いね」
「ホントだねー」

「もっと褒めたたえなさいよぉ・・・」

  頑張った割に、反応が薄くてガッカリの明日香さん。いや凄いけどさ。俺さ、200年間ゴミ箱で君と生活してたんだぞ?君が馬鹿でかい城を一瞬で作ったのみたし。見ちゃったし。

「あ、あの・・・」

  たいしたことない盗賊でよかったよ。これが大怪盗みたいな有名人だったら一発で王城に招待されちゃうよ。

「楓きゅん♡被害者の手当、お願いね♡」

「キャサリンの真似かよ」

「さすがね!キャサリンに掘られそうになっていただけはあるわ」

  黙りなさいオナゴよ。私は苦手なのですわよ。キャサリンタイプは。

「あ、あのォォ!」

「「うわっ!?」」

「きゅ、急に大声出すなよ・・・」
「驚いたじゃない・・・」

「いや、さっきから声かけてたよ・・・?」

  ドレス着たお嬢さまが大声出していた。美人ですね。西洋の貴族って感じがします。金髪が陽の光に反射して、キラキラしている。髪染めではでない美しさだ。

「・・・お助けいただいてありがとうございます」

  お嬢さまが頭を下げると、周りにいた騎士共がガチャガチャと音を立てて、俺たちに剣先を向けてきた。

  一瞬目を細めた奏汰が威圧だけで剣をへし折る。

「礼儀がなってないね。恩人に対するものでは無いよ。責任者は誰?楽に殺してあげるから前に出るといいよ」

  奏汰は明日香さんが大好きなので、そこに向けられる敵意には敏感。そして、滅多に怒らにい奏汰だが、明日香や親友である俺が不快になるような状況になれば、歯止めが効かないほど怒る。
  優しい人が怒ると怖いです。笑顔が怖い。

「今すぐ剣を下ろしなさい!」

「遅いよ。僕らに剣先を向けた瞬間にその言葉を発するべきだったね。脅威が去った瞬間に掌を返すようでは相手に不快感を与えるだけだ」

  騎士の1人とお嬢さまの額に冷や汗が浮かぶ。

「責任者は君でいいんだね?じゃぁ、座りなよ。痛みなくいかせてあげるからさ」

  その瞬間、物凄い笑顔を見せる奏汰。普通の人間からすれば、狂気じみていると感じるだろうが、俺たちからしたら、至極当然だ。だって、奏汰がここで前に出なければ、俺か明日香が怒鳴り散らすことになるぜ?それよかマシでしょ?それがわかった上で、奏汰は前に出てるんだ。
  痛みなく殺すなんて、俺と明日香はしないよ。

  奏汰が右手の爪を伸ばす。鋭い爪は、この世界で言う聖剣よりも硬く、よく斬れるだろう。
  そこに、騎士の中で危機感を感じ取った存在格が最も大きな男が前に出てくる。

「待ってくだされ。私が責任者です。お嬢さまは私たちの護衛対象であって、上に立つ者ではございません」

  一礼する騎士。貴族のような洗練された謝罪の一礼だ。鎧の上からもわかる四肢の柔らかさと、流れるような動き。剣を持たせれば、英傑と同等の力を出すだろう。

  だが、奏汰の敵ではないな。

「そうかい。ならば場所を変わりなよ。許したりはしないよ?君も戦場に立つ身なら分かるだろう?二度目なんて存在しないんだよ」

  ・・・俺達がそれ言う?

「分かっています。この首は差し出しましょう。その代わり、お嬢さまだけは見逃しては頂けませんか」

「へぇ、自己犠牲かい?」

「騎士として当然の在り方です」 

  面白い。この男、なかなかに度胸がある。奏汰が爪だけとはいえ、鬼を出している状態で威圧を放っているのに、この男は立っている。よほどの精神力で無ければ無理だ。剣を折られて呆然としている騎士達とは面も心構えも違う。

  この男に免じて、助け舟を出してやろう。

「奏汰。ここでは殺すな。利用価値がある」

  俺がそう言うと、目を見開いて、俺の方を見る騎士とお嬢さま。一筋の希望の光ってやつだろう?

「こちらに来たばかりで、金もなければ伝もない。そちらの辺境伯にお邪魔させてもらおうじゃないか」

  わかりやすくパスを出す。言ってもない辺境伯の名前が出てきたことに一瞬体が動いていたが、力の差を理解してるのだろうが、何も反論はない。これでこのパスを捨てるようなアホどもなら、切り捨ててもいいだろう。金はこいつらから奪えばいい。いざとなれば、辺境伯から頂戴しよう。

「そんな易々と許していいのかい?本来の楓からは考えられないんだけど・・・」
「価値の問題だ。俺もあんまし無闇に力を使いたくはないからな」

  隠蔽、やだ。

「奏汰様、楓様、そちらのお嬢様も是非とも私めの屋敷にご招待させてはいただけないでしょうか」
「私からもお願い致します」

  この好機を逃すほど頭が弱くはないようで、迎え入れる気はあるみたいだ。騎士もお嬢さまも辺境伯においてはかなりの重要人物で、片方でも失えば、痛手は避けられないはずだ。
  それで領地を危険に晒すのはどうかと思うが、俺と奏汰の考えを理解してるんだろうな。こいつらを片付けたら、その次は辺境伯だ。俺たちだという証拠さえ消してしまえば、あとは噂の『深淵隊』になすりつければいい。

「では、馬車の方に・・・」

  お嬢さまと騎士が俺たちに背を向けないように、馬車に向かおうとすると・・・

「あ、お話終わったの?」

  明日香が馬車を『魔改造』していた。

  今目の前にある馬車を言葉で説明しよう。

  馬車に繋がった馬は鋼の鎧を纏い、全身を囲う鎧には強靭化に近い能力が付与されている。頭頂部にはユニコーンのような角がついており、電撃を纏っている。
  馬車本体の外装は鋼、付与は鉄壁。車輪はゴムのような柔らかい素材に軽量化、耐震が付与されている。荷台を隠していた布はヒラヒラの煌びやかなレースになっているが、付与に暗黒があるので、外からは見えないようになっている。
  中は空間拡張(小)が付与され、椅子や机が並べられ、カフェのようになっている。バーカウンターがあるのは明日香の趣味だろう。

  以上、説明終わり!
  うん、やりすぎ!

「いやぁ、いい汗かいたよぉ~」

「いい馬車だね。貴族様には相応しいんじゃないかな。盗賊が来ても轢き殺せるよ」

  奏汰は明日香をあまり否定しない。

「こ、これは一体・・・」
「なにをなされたのですか・・・?」

  魔改造に驚きを隠せないお嬢さまと騎士。これにはさすがの騎士共も気づいて、腰を抜かしている。馬にビビるな。

「大賢者である私には造作もないことよ!」

  ・・・あんた発明家だろ。賢者ではなくない?知識量だったら俺の方が・・・。

  俺は何を張り合っているんだ?

「私なりの謝罪よ。貴方達が悪いとはいえ、奏汰の殺意は本物だったから。そっちの騎士様、直接当てられてキツかったでしょ?馬車でくらいゆっくりなさいな」

  なんかオバハンみたい。いやでも、年齢的にはさんびゃ――いや、やめておこう。女性の年齢を探るのは良くない。良くないったら良くないのだ。

  この世界最高の馬車を提供し、騎士もお嬢さまもご満悦。さっきまでの緊張感が嘘みたいだ。騎士様は意識の二割を警戒に使っているが、多少は安心してくれているようだ。まだ俺と奏汰を見ると少し緊張するようだが。

「みなさん、着きましたよー」

  馬を操っていた騎士の一人が、レースをめくって、中でくつろぐ騎士、お嬢さまに声をかける。

  既に御者をしていた騎士が門外で待つ騎士達に連絡を済ませていたようで、魔改造された馬車もすんなり門を通ることができた。
  ・・・俺たち許可証とか持ってないんですけど、オーケー?




――――――――――

はたつばです。

キリがいいので!
本当は毎回このくらいの文字数にしていきたいんですけど・・・。多かったり少なかったり。すみません。

ここから新章です。
十年後の世界。彼ら彼女らはどこで何をしているのか。そのへんを楽しみにしていただければと思います。

次回更新は不定!ですが、土曜日7時は確定で更新します。
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