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第六章 化物共の戦争

第九十一話 元気出せよ、な?

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過去編です

―――

◇第三者視点


「・・・これで終わりか」
「終わりだな。お疲れさん」
「本当にお疲れだよ。黒歴史を見せつけられてね・・・」

  過去の自分を見続ける。ひたすらに長い時間を過ごした。

「ま、・・・感謝してるよ」

  自分を見失い、半ば暴走していた世界も過去の自分を一つ一つ振り返っていくうちに冷静さを取り戻していた。最後の方は悟りを開いた僧侶ばりに澄んだ目をしていた。

「ふん。これから忙しくなるんだ。シャキッとしろ」

「分かってるよ。異能者、種族変化はやりすぎてる。パワーバランスを立て直すさ。消すことは出来ないから、もう片方を持ち上げるしかないんだけどね・・・」

  特殊な力を持ったもの、人間ではないものの誕生。
  それは一度生まれてしまえば、元を絶やすことができないものだ。

「何するんだ?」

「はぁ・・・人々の才能開花を促すって言うのと・・・僕の能力を解放するよ」

「ほぉ、太っ腹だな」

「これで多少ズレはあれど、だいたい均衡するはずだよ。・・・しばらく戦争は絶えなそうだけど」

  新たな力への目覚め。それは人々を混乱させるだろう。だがそれも仕方ないこと。世界の滅亡よりはマシというものだ。

「君も手伝っておくれよ?」
「それはもちろん。何をする?」
「記憶改変。レコードの変更までよろしく」

  重労働を押し付けられて楓は嫌そうな顔をするが、やるといった以上断るのも悪いので、早速準備を開始する。

「今回能力を与えるわけだけど、十五年前のちょっとした小競り合いおぼえてる?」

  この時から、十五年前の小競り合い。戦争などではない。楓が生まれてすぐの話だ。化物同士の喧嘩が原因だ。
  主人公は覇王とカール
  発端は、覇王が世界旅行中に、誤って(笑)カールの研究所を破壊したこと。とんでもなく軽く謝る覇王にブチギレたカールが暴走した話。

  それは現世の原典にも影響を及ぼした。

  ある地点では死の雨が降り注ぎ、ある地点では海が割れ、ある地点では感染症が蔓延した。
  極めつけは、超巨大な隕石。カールが奇跡的に作り上げた『アルトメタル』の『オリジン』だ。たった一つのオリジンで、カールにもオリジンがなければ複製できない様な代物であるアルトメタル。それでできた太陽20個分の隕石が放り投げられたのだ。
  覇王、疾風、颯馬が未知の隕石を粉々にしたまでは良かったのだが、それらが現世の原典に少しだけ飛んでしまったのだ。
  災害に次ぐ天災。
  人々は恐怖とともに、新たな鉱石への興味を示していた。

  そんな小競り合いだ。

「あれってさ、ある地では『神の奇跡』って呼ばれてるらしくてね。そこでだ!能力付与も、その時の産物ってことに出来ない?」

  丸投げだ。

「できんことは無いが・・・」
「んじゃ、よろしくね」

  やるかやらないかではない。やれ。

「はいはい。んじゃとっとと始めるぞ」

  そこで思いついたのだ。楓は密かにニヤリと笑う。

「よし、それじゃぁ行くよぉ!これが僕からのッ世界からの『恩恵』だ!」

  世界から光が放たれ、原典に降り注ぐ。
  能力が与えられたところで、世界は付与をやめようとする。だがしかし・・・

「あ、あれ?止まらないんですけど・・・」

「あ、まじ?でももう世界の改変始めてるから諦めてね」

  世界は驚愕する。やられたと。

  楓は、強欲の力を使い、世界の持つの力を解放した。いくつかネコババしたが。

「か、か・・・楓ェェェ!!」

  世界が変わる。
  人々は十五年前に新たな力『恩恵』『魔術』『天才』が生まれた。

「はっはっは!どーだ!どやぁ!」

「おまっ!どれだけ苦労して貯めてきたと思ってるんだよ!僕の手元に『世界王』しか残ってないんですけどォ!」

  一つ残しただけ褒めて欲しいとでも言わんばかりの楓。その顔はとてもいやらしい笑を浮かべている。
  このままじゃ殺されると言う世界だが、残念。世界さんはそんな簡単に負けません。

「まぁまぁ落ち着けよ。手伝ってやったんだからお駄賃だよ」
「お駄賃なんて可愛いもんじゃないよ!?銀行強盗よりも強引だよ!」
「俺、強欲なんで」
「我慢しろよォ!少しくらいは欲を抑えようよぉ!」

  叫ぶ世界。だが、能力はもう既に人の手に渡り、世界改変も行われた後だ。もう住人から回収することもできやしない。
  膝をつき、俯く世界だが、その肩をポンッと楓が叩く。

「まぁまぁ、元気出せよ世界。気持ちも力も一からまた再スタートしようぜ」

  澄ました顔で、スポコンの大会負け後みたいなことを言う。その言葉は世界の心に刺さった。フルフルと肩を震わせている。

「泣くなって。元気出せよほら。世界の住人はみんな、あんなに輝いてんぜ」

「・・・」

  無言で立ち上がり、眼前に広がる世界の様子を見る。

「な?」

  楓が凄まじく爽やかな笑を見せると・・・



「な?・・・じゃねぇよォォ!それとこれとは話が別だァ!絶対に許さないからな!僕の絶望見て嘲笑うかのように光り輝く原典住民皆殺しにしてやろうかと思ったわ!君だけは許さないからな!」



  プンプン
  世界さん、久しぶりにお怒りである。しかし、至極当然の反応である。世界を管理するために、必死に力を掻き集めていた世界が保有していた力はかなり多い。馬鹿にならない数だ。
  その大量の能力が今や彼にしか扱えない『世界王』のみ。

「俺も暫くは『強欲』を封じるからさ。おあいこおあいこ」

「全然違うよ!君は自主的!僕は無理やり!・・・って、せっかく覚醒したのに封印しちゃうの?」

「まぁな。つっても封じるのは五年後くらいだな。暫くは遊んでるが、その後は縛りプレイでもしてみるよ」

「後悔させてやる」

「やってみろ。俺は今、お前の力を幾つか奪ってあるからな!」

  ドヤ顔の楓に世界さんはイラッとくる。

「その顔良くない!死んでほしい!」
「断る!」


  これから数日間、こんな罵倒と悪ふざけが続いた。

  ・・・悪いのは間違いなく、楓である。



――――――

はたつばです。

次回からは新章です
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