異世界に来たら勇者するより旅行でしょう

はたつば

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第六章 化物共の戦争

第八十一話 『覚醒せし王』の顕現

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「・・・楓・・・奏汰・・・どこいったのよ・・・」

  夜空に輝く満点の星空を見上げるのは明日香だ。楓に助けられ、父である山岸総司令官の元に送られた明日香は何も出来ないことに苛立ちながら、どこかで戦っている楓のことを思い続けた。
  そこに現れたのは

「こんにちわ~というよりも、こんばんは~だね。はいはいどうも明日香ちゃん」

  真っ白な少年。

「だ、誰よあんた!?」

  ここは彼女の実家の二階ベランダ。完全に不法侵入だが、警報は作動しない。

「僕が誰かなんてのはどうでもいい。それよりもコレだ」

  差し出されたのは、頭部以外がほぼ残っていない楓と半分の体しかない怒鬼である奏汰だった。

「か・・・えで・・・?そう・・・た・・・?なんで?どうして!?なんでよ!なんで!なんで!どうなってるのよ!楓!?奏汰!何が一体・・・どうして・・・」

  泣き叫ぶ。ありったけの声を張り上げる。疑問をぶつける。名も知らぬ白い少年に向けて。
  しかしその声は届かない。
  なにも。なにもかもが響かない。白い少年は表情一つ変えず、残酷に現実を告げた。

「なんでもいいけどさ。早くしないとその二人死ぬよ?まだ辛うじて生きてるけど、それも時間の問題。泣くより先に君にはやることがあるんじゃないの?」

  なにを?とは言わない。明日香の研究していたものは2人の体を生き返らせることが出来る。できるが、成功率はほぼゼロ。0.1%も確率はない。

「さて、どうする?」
「くそっくそっくそっ!分かったわよ!やればいいんでしょ!やれば!!」

  すぐに世話用ロボットを呼び出して2人を運ばせる。
  明日香も道具だけ持って研究室へと走っていった。

  残された白い少年は一人で夜空を見上げて笑う。

「期待してるよ、山岸明日香。我らが英雄を救ってみせろ」




「・・・私だけ置いてくなんて・・・!そんなの・・・そんなの絶対にさせない!2人は助け出す!必ず!必ず!!」

  研究室に一人で立ち、楓と奏汰を横にする。
  必死に頭を回すが、時間だけが無くなっていく。助け出す方法はあっても、二人に施す時間が無いのではないか。その考えが頭をよぎり、手が出せない。

「私はどうすれば・・・!!」

  一人嗚咽のようにそう呟き続ける明日香の手をそっと握る手があった。

「あ・・・すか・・・」
「!?奏汰ッ!想太!」

  手を握ったのは優しき怒鬼。鬼の顔であっても、その穏やかで優しそうな表情は消えず、涙で顔をぐちゃぐちゃにする明日香を見守っていた。

「・・・時間が・・・ない・・・。僕の体を・・・つか・・・え・・・。ぼくの・・・体が死・・・ぬ前・・・に・・・!楓を・・・助け・・・てあげて・・・くれ」
「まって、それじゃぁ・・・!」
「・・・僕なんて・・・どうでもいい・・・!・・・楓が・・・一番・・・だ・・・」
「・・・いいのね・・・?私はやるわよ?後悔だけはしないでちょうだいね・・・?」
「・・・わか・・・ってるよ。・・・はや・・・く・・・!時間が・・・ない・・・」
「分かったわ・・・。麻酔をうつ。最後に言い残したことは?」

  横になった奏汰は穏やかな表情のまま目を瞑って言った。

「最後まで・・・気付いてくれなかったね・・・大好きだよ・・・愛してた・・・明日香・・・」

  明日香は答えずに即効性の麻酔を打ち込んだ。
  握られていた奏汰の手から力が抜けていく。

「・・・最後の最後で告白なんてするんじゃないわよ、馬鹿ッ!」

  奏汰の体を少しずつ楓の体に合わしていく。残された右半身を丁寧に、丁寧に。

「死なせない!楓だけは!」

  脳の機能と怒鬼を繋げる。
  奏汰は死んだ。命を支えていた怒鬼の力が楓にうつってしまったから。奏汰は眼球と右半身を失い、穏やかな顔のまま死んだ。

「はぁ・・・なんで・・・なんでなのよ・・・」

  泣きながら、研究してきた脳とつなげる完全なる機械の体を作り上げる。

「起きてよ・・・動いてよ・・・なにが・・・なにが足りないのよ・・・」

  研究の成果は実らない。
  何年もかけて研究してきた機械の技術は一番大切な時に動かない。

「・・・・・・分かったわ・・・。私も・・・」

  明日香は痛覚を失う薬を体に打ち込む。
  そして、自分の体を切り開き、心臓に手をつけた。

「・・・これが・・・私の結晶・・・。楓、お願い。・・・起きてちょうだい・・・」

  楓の左半身に繋がれた機械の体。その核に明日香は自らの心臓から取り出した一つの宝石を埋め込んだ。

「私が作り上げた最高傑作。賢者の石・・・私と奏汰・・・必ず生きてね・・・。あはは・・・意識が遠くなってきたな・・・私も最後に言っておこうかしら」

  楓の左手をギュッと握る。

「大好き・・・あなたに会えてよかった・・・一度くらい、キスでもしておけば良かったのかな・・・そうすれば・・・少しは変えられたのかな・・・」

  そのままスルリと手が抜ける。
  明日香はここで、息絶えてしまった。

  親友二人の体を取り込んだ。

  生かされた楓が目覚めたのは、それから1時間先の事だった。




  絶望とはこのことか。
  体の違和感と部屋に満ちた血の匂い。その原因は彼の力によってすぐに判明した。

「なんで・・・俺なんかのために・・・」

  目の前が真っ暗だった。
  視界は狭いし、右目から見える景色は赤く血のようで、左目から見える世界は青く情報を伝える騒がしかった。

  違和感がある。だが、忌避感は感じない。力だけがドンドンと高められていく。

「・・・明日香・・・奏汰・・・」

  生き返らせたくても出来ない。
  既に明日香と奏汰の魂は消滅している。間に合わなかった。力だけを残して、2人は楓の前から去ってしまった。

  なぜ2人が死んだのか。
  それは黒田楓が弱かったから。

  理由はそれだけ。単純明快だ。

「・・・俺は生きる・・・。必ず生き残る。この体に傷を付けさせないくらい圧倒的な力の差ででやつをねじ伏せる。絶望も、悲しみも今の数分で味わった。あとはこの怒りを解消するだけだ」

  急激な感情の変化に怒鬼の体が反応する。高まっていく右半身に合わせるように本物の賢者の石を埋め込まれた左半身も力を上げていく。
  見えるはずのない血管が赤く外皮に見えるようになる。
  鬼の体はよりいっそう濃く、深い黒に変わっていく。その体に惹かれるように黒が集まってくる。霧のような、泥のような。人の憎悪を体現した醜さを感じさせるその黒は、情報を、能力を次から次へと運んでくる。その様はまさに王や神への貢ぎ物のようにも感じさせる。



「そうだ。・・・俺は『強欲王』!!欲しいものは全て手に入れる。なにもかも、圧倒的な力で、全てを持ってッッ!!」



  無敵の肉体を手に入れ、大量の異物を巻き込んだ異能『強欲』は覚醒した。

「待っていろ、理不尽野郎。本当の理不尽を教え込んでやる」

  負ける要素など、1ミリも残ってはいなかった。


◇◆◇◆


  侵略組の中枢は破壊されつつあった。
  無数の敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げていく覇王。その全てに消滅の効果を付与しているのだから驚きだ。それは敵方の幹部でも例外はなく、いとも簡単に消滅させた。そして木下柚香も第二幹部を操り、四番目の幹部を消滅させた。2キルです。
  楽勝を遂げたのは覇王、柚香だけではない。
  翔太もその1人だ。仲間内でどの方角を誰が担当するかを決めてから、翔太の無双は始まった。彼の前では例外なく全てが無力と化す。

「がハッ・・・!はぁ・・・はァ・・・!」

  侵略組自称第三幹部も同じであった。雷の魔術を極めた彼女は開幕の瞬間に翔太へと特攻した。雷の鞭を振り回し、隙ができれば雷魔術の最高峰にて迎撃するつもりだった。確実に仕留められると確信していた。
  だが、現実は常に無情だった。
  翔太は強すぎた。対化物最強は伊達や酔狂で掲げられるものでは無いのだ。
  開幕特攻は脇腹を喰われて防がれ、退くために準備していた広範囲迎撃魔術は発動せず、魔力の無駄遣いに終わった。

  どんな魔術を発動しようとしても無駄だった。

「・・・退屈だね。相手になんないよ」

  その言葉は隣で傍観するWBN2T3oへの言葉だったのだが、その幹部である女性には屈辱的だった。
  魔術を制すれば全てに勝てると思ってた。勝てないのは理不尽の王だけだと思ってた。それ以外の者に負けるとは思えなかったし、それどころか自分が遊ぶ側だと思い込んでいた。

  恐怖しかない。

  目の前の化物は開幕から一歩も動いていない。わけも分からず足を喰われ、手を喰われ。『虚無』という同じ魔術のはずなのにまるで違う魔術。魔術としては異端の力にねじ伏せられた。

「他のところに応援にいかないといけないかな・・・。僕らはもう終わらせようか」

  終わらせようか。
  その一言は自分への死の宣告であるが、彼にとっては食前の挨拶でしかない。

  自称第三幹部、彼女の魂は『虚無』の力に捕食された。


◇◆◇◆


  マーリンもまた、圧倒していた。
  彼女の相手は『闇』の魔術師。その少女も闇を極めていた。闇に潜み、闇にて討つ。大きな鎌を背負い、死神のローブを身にまとった少女。第五幹部。侵略組の中枢を統べる幹部の第五位。決して弱い存在ではない。類まれなる闇の才能と、500年に一度現れるかどうかという程の魔力保有量。
  例え相手が同じく魔術を極めていても、負けるとは思っていない。

「あァ・・・アアアア・・・あぐぐぅァ・・・」

  それはその通りだ。
  単に魔術を極めた者ではその魔力量の前では意味をなさないだろう。だがこれもまた、敵が悪い。

「若いね~。魔術を極めた程度で何を言ってるの~?雑魚は雑魚~」

  相手は魔導を極めたもの。世界の真理に最も近い武器。一属性魔術を極めた程度で彼女に勝負を挑むこと自体が間違っているのだ。
  闇の敵には『太陽』の魔導をあてる。
  彼女は既にいくつもの魔導を極めており、いかなる敵が相手だろうと勝てるように日々研究を止めない向上心の高い魔導師なのだ。

  闇の斬撃は太陽の光で消された。
  捕食する闇の魔術を発動しようとも、配置された太陽に晒された瞬間に消え去った。

  燦々と輝く太陽は少女の存在を蝕んでいた。

「太陽はね~利も損も振り撒くのよ~私には利を、貴方には損をあげる~」

  太陽は体を蝕み、やがて少女の存在を消し散らしてしまった。

「・・・つまんないの」

  大魔導師マーリンは踵を返し、太陽が消えると、少女の大好きな闇だけがそこに残っていた。


◇◆◇◆


  矛盾の姫もまた、同じである。
  主人のマリアを守りながら余裕の戦闘をしていた。時にはマリアの助けを借りることもしたので、余裕すぎであった。

「くそっ!舐めやがってぇぇえ!」

  六人目の幹部は悪態をつきながらも、自慢の拳をナタリアに向ける。
  それを左手に持つ何ものも通さぬ盾で防ぎ、全てを貫く矛で腹に穴を開ける。

「ぐがぃぁぁぁぁぁ!!」

  叫んでも変わらない。
  彼は拳と再生能力に自信があった。だが、その再生は行われることなく、その拳も弱々しいものであった。
  これはマリアが持つ能力『堕落』の力だ。
  対象の肉体を怠け者にする力。
  彼の力は赤子と変わらず、再生能力もまるで活動しない。心臓や脳が停止しないのはそれだけ彼が優秀だからだろう。並のものでは生きることすら辞めてしまうのだから。

「なぁ、マリア様。私と一緒じゃない方がいいんじゃないか?ゴリ蔵やアルシャルカでは幹部相手はきついと思うんだが・・・」
「・・・私がなっちゃんと一緒にいたいの。・・・ダメ?」
「ダメじゃないが・・・」

  目の前の男を無視して話をするくらいには彼女達は余裕だ。
  それもそうだ。子供と化物が勝負しているのと変わらないのだから。

「それだけじゃなく、カールもきついと思うぞ・・・?」
「・・・でいじょーぶ」
「グーサインって・・・」
「・・・多分だけどマーリンが行く。ゴリ蔵さんの所には翔太行く」
「・・・アルシャルカは?」
「・・・さぁ?」
「マリア様ってたまに酷いよな」

  哀れなりアルシャルカ。

「てめぇら・・・!ぶっ殺す!」

  いい加減頭にきたのか、男幹部が先ほどと変わらない工夫も何も無い拳を向ける。・・・マリアに。
  それを察知したナタリア。
  手に持つ最強の矛に力を溜めて、解き放った。

「お前そろそろ死ねよ」

  矛は容易くその男を貫通し、消滅させた。

「たわいもない。私がマリア様に触れさせるわけがないだろ」

  蔑んだゴミを見るかのような目で消えゆく男を睨みつけた。

「・・・なっちゃんかっこいい」


◇◆◇◆


  ナタリアの予想通り、カールは苦戦を強いられていた。
  使った薬は『神』『龍』『死と闇』『魔帝』。4種も薬を使ってようやく互角。厳しい戦いである。
  言い訳をするのであれば、彼は科学者であり、戦士ではないということであろう。どれだけ頑張っても素のステータスは本職には届かない。

「あんた強いな・・・!はぁ・・・はぁ・・・」
「あなたこそ・・・!なかなか・・・やるじゃない・・・!」

  ギリギリの戦い。これが模擬戦だったならば、2人は良い経験値を得られてハッピーなのだが・・・これは殺し合い。負ければ消滅。そう簡単には諦められない。
  きれかけの薬の補充として、新しく神と魔帝を打ち込む。

「ぐぅ・・・」

  いくらカールの特殊な体を持ってしても、何度も何度も薬を打ち込んでは疲労がたまる。血液が汚染されるというのもあるが、もともとは人体に害ばかりの薬。積み上げれば死が近づくのは必然とも言える。
  そして、相手の相性が悪い。
  相手は守を極めた戦士だった。魔法が使えず、肉弾戦兼拳銃等しか攻撃手段がないカールにとっては最悪の相手だった。

  神の移動スピード、神の攻撃力。
  魔帝の異次元的な力と防御力。

  何度も打ち込んだその二つだが、異物感は否めない。

「その薬・・・限界があるんじゃないのか・・・?」

「あるよ・・・実際のところ、かなりきつい」

  かなりキツイが、やめはしない。
  相手は第七の幹部だ。他のメンバーはこれよりも強い幹部たちと戦っている。ここで生きていたくて逃げるなんて選択肢はない。

  なにより、マーリンが戦っている時に逃げたくはない。

  この男はカッコつけたがりなのだ。いつも最後は失敗しているけど。

「殺す・・・!」
「何度試しても無駄だよ・・・!」

  カールが拳を構えると、七人目の幹部も大きな盾を構える。
  何百という連撃を浴びせるが、盾にはヒビひとつ入らない。あと一撃浴びせて、一度ひこうと考えた時、突然、敵の構えていた盾が闇に喰われた。

  構えていた拳は無防備な七人目の幹部を直撃し、異次元の力によって消滅させた。

  なにが?と、考えるが、内側からの激痛に耐えかねて吐血する。

「あぁ・・・きっついわ・・・」

「相変わらずだね~」

  背後から近づく気配に気付かず、声をかけられてようやく助けをもらったことに気付いたカール。

「・・・マーリン・・・」
「ま、カールにしては頑張ったんじゃない?」
「・・・ありがとう。正直きつかった」
「どういたしまして。・・・なんで溶薬使わなかったの?使えば勝てたじゃない」
「・・・あれは卑怯だろ」
「はぁ・・・変なところで真面目なんだから・・・」

  使わなかった理由は卑怯だから。マーリンに卑怯な男と思われたくないから。
  天才の初恋は何百何千と生きてきた最強の魔導師。そう簡単な相手ではないが、カールの愛は命への執着よりも強い。


◇◆◇◆


  強靭な肉体を持つゴリラの体を十を超える槍が突き刺さる。
  血を吐きながらも戦意を保ち続けるゴリ蔵。

「・・・なんだ?この程度かよ。こりゃ余裕だな」

  そんなことを言いながら剣や槍を射出する八人目の幹部。放たれたものは追尾性能をもっているので、走り回るゴリ蔵を追いかけ回す。逃げる間にも射出されるので、剣や槍はどんどん増えていく。突き刺されれば消えるので、邪魔になることはないが、相手方に返還されるというのが恐ろしい。それ以上に、相手が同時に何本撃てて、何本武器を保有しているのか分からないので、未知の恐怖というのが溜まっていく。

  強い肉体と強い戦士の心を持ったゴリ蔵だが、反撃の糸口を見いだせない敵を前にして、若干焦りと恐怖の念を抱く。

「おいおい、同じ化物と呼ばれるどうし、恥ずかしくない戦いをしようぜ」

  遠距離攻撃の手段が皆無であるゴリ蔵は不利。たとえ近付けたとしても、直前で現れる無数の盾に阻まれてしまう。自慢の破壊力も幾層にも重ねられた盾に吸収されてしまう。その全てを破壊しても、八人目の幹部にとどく力は微々たるものだ。

  しかし、八人目の幹部のドヤ顔タイムはここで終わりを告げる。
  一人の男と、一体の人形機械の登場によって。

「そうだね。それならば僕が相手になろう。彼は友人の眷属でしかない。すこし役不足だろう?」
「あぁ?なんだてめぇ・・・?」
「あはは、君を殺してあげるって言ってるんだよ」

  ボゴっと音が鳴ると、射出準備に入っていた数多の武器が消え去った。

「・・・は?」

  自慢の武器が見事に破壊されたことに戸惑いを見せる八人目の幹部。

「ゴリ蔵さん、下がってて」
「し、しかし・・・」
「いいから、いいから」

  三番目の幹部が相手にならなすぎてつまらなかったので、ここで遊ぼうという考えを持ってるのは秘密である。
  虚無空間を作り出せば、完全に相手は無力なのだが、それはそれでつまらない。翔太はじっくりとなぶることに決めた。

「神宝武器展開!一斉射出!」

  黄金の強力そうな武器が百か千かとにかく大量に現れる。すこしのタメ時間を過ぎるとそれが全て翔太に向けて放たれた。

「はっはっは!神を殺すために作られた一撃必死の武器達だ!さっきのなまくら共とは威力も強度もレベルが違ぇぜ!!」

  それを聞いてゴリ蔵の体が一瞬固まる。手加減されていたこともそうだが、神滅の武器と言うと魔法障壁をバターのように切り開き、オリハルコンの要塞を瞬時に溶かすほどのものだと聞かされているからだ。それが空間いっぱいに。それも、たった一人に向けて放たれたのだ。
  これはいくらなんでも・・・と焦燥するゴリ蔵に対し、翔太は笑う。

  音速を越える速度で一直線に向かってくる武器を見ながら翔太は余裕の笑みを浮かべて考える。

(どうすれば面白い反応が見れるかな。すべて無効化することは雑作もないけれど・・・)

  この化物には神滅の武器でさえ石ころと同価値なのだ。

(あ、そうだ。この武器たちをすごく自慢してくるし、アレやってみようか)

  翔太の前に身長ほどの黒丸が現れる。
  飛んできた武器たちはそこに抵抗なく突っ込んでいった。

  これは翔太の作り出した別空間への入口。虚無の世界へと収納されたわけだ。
  つまり翔太がやりたかったアレとは『お前のモノでも俺が拾えば俺のモノ』という翔太の十八番技術だったりする。

  全ての武器が収納され終わり、無傷かつ、どこにもない自分の武器たちに八人目の幹部は悲鳴をあげる。

「お、おま!なんであれを食らって無事なんだよ!!俺の神滅武器は・・・」

  その言葉をきっかけに、翔太の背後から神滅の武器たちが射出体制に入る。

「・・・な、なんで・・・!おい!所有権は俺がもってるはすだぞ!早く俺の宝物庫に戻れ!」

  八人目の幹部の叫びも虚しく、ニヤリといやらしく笑う翔太の号令の元、神滅の武器たちは主に向かって射出された。
  無限に現れる盾も神滅の武器たちには意味がなく、全て切り開かれ、八人目の幹部を消滅させた。

「うん、なかなかいい反応だったな」
「・・・翔太、容赦がないですね」
「ああいう馬鹿にはあれくらいが丁度いいのさ」

  化物の天敵である化物は最後まで笑を絶やすことが無かった。


◇◆◇◆

(いくら我でも2体同時は無理では・・・)

  マリア親衛隊第2位のアルシャルカは与えられた無理難題に苦戦していた。

「どっちが最後はやる?」
「なんだ?お前がゆずるというのならば私はコヤツをすぐに殺してやるぞ」

ーー・・・物騒な話し合いだな

  いくら救援を待っても来ない。
  マリア、ナタリアや翔太あたりならば来てくれると信じていたのに、来てくれない。相手が強いことは知っているが、あの化物共がそこまで苦戦するとも思えなかった。もしや見捨てられたのではないかと嫌な予感が頭をよぎるが、必死にその考えをどこかに捨てる。

  実際のところ、瞬殺した組である、人たちは思い思いに過ごしていた。
  覇王と柚香は残党狩りをしているし、ゴリ蔵を助けた翔太はWBN2T3oを合わせた三人で雑談しつつ、将棋をしている。マーリンとカールはマリアたちと合流し、翔太達の隣で人生ゲームに興じていた。

  ・・・これでは捨てられていると思っても仕方が無いと思う。

「それでは私が殺すとするか」

  死の宣告をしたのは第一位の幹部。隣にいる小さいのは第九の幹部だ。
  第一位は金ピカの短剣を構え、七色の斬撃を放つ。

ーー・・・これは本格的に死ぬ気がする・・・!!

  だが、アルシャルカを見捨てていなかった人物もいる。
  それは

「うおっ!いきなりな挨拶だな・・・。なんだこれ。・・・殴ってみるか」
「君の方が考え方が物騒だと思うんだけど!?」
ーーウゴウゴ!

  遅れて到着した颯馬、白金、緑色の巨体をもった怪物だった。

  七色の斬撃は颯馬を止めて前に出てきた怪物の棍棒一振りで消えてしまった。

「おぉ!さすがはトロルさんだよ!」
「あぁ、さすがだな。素晴らしい豪腕だ」
ーーウゴ?ウゴゴゴ!

  褒められて喜びの舞を踊る緑色の怪物。
  目の前の光景に唖然とするアルシャルカと幹部二人。
  アルシャルカは二人にはバカげた仲間がいるのを聞いていたが、こんな素の化物がいるとは聞いていなかった。バカ乗りをしてる目の前の3人を信じられないといった目で見ている。
  幹部の2人も自慢の一撃を馬鹿に消されたことに唖然と憤りの両方を同時に表現するという芸当をしている。

「な、なんだ貴様たち!」

  そんな幹部二人の言葉に対し、バカ二人は満面の笑みで答える。

「「不良だよ」」
ーーウゴ!

「・・・一発防いだごときで調子に乗るなよガキィ!」

  調子になっているわけではないと否定したそうな三人だが、とりあってくれそうにない。ならば、やることはひとつ!

「どっちがどっちを相手する?」
「・・・んー。僕はあっちの小さい方がいい!」
「分かった。トロルさんは白金のほうでいいな?」
ーーウゴ!

  担当を決めて、トロルさんのグーサインをみると、三人は頷きあってから二人の幹部に相対する。

「と、いうわけだ。俺の相手は・・・」
  第一位幹部の首ねっこを掴むと、
「お前がやれ!」
  白金たちとは逆側にぶん投げた。

「き、きさ」

「お前はあっちな!」

  第九の幹部の頭を鷲掴みしてトロルさんに向けてまた投げる。
  一連の動作が早すぎて抵抗すらできず、幹部たちは投げられていった。

「あ、きたよ!トロルさん!狙えホームラン!」
ーーウゴッ!

  白金の方向に投げられた第九の幹部は動くことも出来ず、トロルさんのフルスイングにより、消滅させられた。

「さすがはトロルさんだよ!颯馬の送球も素晴らしかったけど、トロルさんのフルスイングはホームラン王を狙えるよ!」
ーーウゴー

  それほどでも~とでも言いたげなトロルさんの手をブンブンと振り回し、白金も大喜びだ。内心で自分の見せ場がなくて寂しいとは思っているが、盟友の偉業(人間ホームラン)達成を心から喜んでいた。
  トロルさんもボ○ト選手のポーズで圧勝アピールををしている。

  これだから馬鹿と呼ばれるのだ。


  第一位の幹部をぶん投げた颯馬は超スピードで吹き飛んでいった幹部の進行方向の先回りをして、その頭を踏みつけた。

「ぐぎゃっ!」

  うつ向けになって頭をふまれている第一位の幹部。なんとかして脱出しようとするが、踏みつけられた頭はピクリとも動かない。

「くそっ!なんだこれはッ!」

「はっ!現実だよボケ。お前弱いなぁ」

  違う。颯馬が異常なだけだ。
  第一位の幹部は理不尽の王を除いた侵略組最強だ。正しく第一位。魔術の腕も、剣の腕もあるし、肉体的強さも魔力量も他の幹部とは一線を画す存在。

  しかし現実は非常で、そんな彼は今、悪魔のような化物『死神』と呼ばれる黒田の一人に地に頭を擦り付けられている。

  地面を陥没させて逃げる作戦も、陥没する前に持ち上げられ、叩きつけられた。

「許さんぞ!私に土をつけるなど!あっては」
「黙れ、うるせぇよ」

  頭を踏みつけられると同時に、四肢に衝撃がはしる。超速で四肢を踏み抜いた颯馬は涼しい顔でそこにプスプスと冬馬と戦っていた第八の幹部のもつ神滅の剣を突き刺していく。

「がァア!!殺してやる!貴様は絶対に殺して」
「はぁ・・・俺お前みたいなやつ嫌いだわ」

  颯馬はそう言って第一位の幹部の頭をグチャっと踏み潰した。

「お前は面白くねぇよ」

  それだけ言い残して、颯馬は姿を消した。




ーーーーーーーーーーー
はたつばです。

なんか呆気なかったですが、幹部の皆様は強いです。本当に強いです。
遊び始めているのは、彼らなりの余裕の表れでしょうね。

はたつばの幼少期は人生ゲームをやりまくってました。

次回更新は来週土曜日です。
楓さんの能力が判明したのにサラッといった感が否めないでござる。

新連載として、颯馬と白金のお話を投稿しました。そちらもどーぞ。完全にコメディ・・・この作品よりもその要素が強いですね。あと、程度の低いネタが多い。・・・なんではたつばの作品ってそんなのばかりなんだろか(白目)
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