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第五章 学園祭。この日を待っていたぜ

第六十九話 激闘・・・?の本戦開幕!

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  おはようございます。
  今日も新しい一日が始まりました。

  えー、今日は観客席ではなく、来賓席でもなく、上空より本戦の観戦を致したいと思います。
  私、黒田楓はただいま、大変混乱しております。
  なぜか!それは、私の隣にマリーさんがいるからです。

  ……ここは空中だぞ・・・。
  マリーさんは空飛べないはずじゃ・・・。

「挑戦したら出来ました」

「君、やばいね」

  つい口に出てしまったが、翼もなく、なぜ空中にいられる?
  え、なに?世界の法則無視できんの?

  おい世界。どうなってんの。

  そしてまた、時が止まる。

〈彼女については僕もこの先の運命を知らないんだよね。僕でも分からないから木下ちゃんに聞いてもわかんないと思うし……。なんでだろうね?〉

  使えねぇ!この世界さん使えねぇ!
  てか、世界でもわかんねぇってことはもう理を抜けたってことか!?

〈いや、まだそこまではいってないね〉

  じゃぁ、なんでお前がわかんねぇんだよ!

〈分からない。もしかしたらだけど、君の一番近くにいた少女だからなのかもね〉

  なに?

〈君の黒田が狂わせたのかもしれない。彼女の運命を〉

  ありそうなことを言うんじゃない。
  世界も木下ちゃんも知らないってことはマリーさんは一体・・・。

〈いずれ分かるよ。多分、彼女はそういった存在なんだよ〉

  お前の言ってることはたまによくわからん。
  ・・・まぁ、世界に出来ることなんてあんまないからな。

〈それを君がいうかい!?君のせいで僕は大量の力を失ったんだよ!?〉

  それはアレやん。自業自得やん。
  俺のせいじゃなくない?

〈よく言えたね……。僕もそろそろ力を返して欲しいな~〉

  やめとけ。
  日本国が終わる。

〈はぁ、だよねー。また一から集めるのか~〉

  お前には寿命も消滅もありえないんだから、気長にやればいいだろ。

〈くそう・・・。いつか返してもらうからね・・・〉

  取るのは俺からだけにしとけ。


  そしてまた、時は動き出す。

  世界も暇なのかな。世界眼さんがいない間はたまにまた話しかけるつもりだそうだ。

  でも、マリーさんについては分からないままだったな・・・。
  それに、いずれ分かる、ね。いつの誰の運命を見たのか……。

「どうかされましたか?」

「いや、なんでもないよ」

  顔に出てたかな?

「はい。ご主人様はわかりやすいですから!」

  そんな笑顔で言われたら惚れてまうやろ。

  細かいことを気にするのはするのはやめよう。
  マリーさんが飛べる、飛べないの問題は忘れよう。そこにいるか、いないかだけだ。マリーはいつも俺の隣にいる。それでいい。

「マリーは今日出場するのかい?」

「はい。一般第三戦、光の勇者と戦います」

  まじかー。伊野とあたるのか~。勝てるかな?……勝てるか。
  マリーさんってさ。俺が思ってるよりも大分強いんだよね。

「ここで応援してるよ」

「ありがとうございます!」

「さ、まずは第一戦。お坊ちゃまと可愛らしい少女だな」

  ちびっこ対決。
  ここからはよろしく、誰かさん。



◇第三者視点

  承りました。

  第一戦。

「さぁさぁさぁ!会場は熱気に包まれております!」

  学内の部第一戦はフィンとたまたま勝ち上がってしまった少女『ユイ』。
  二人共他の参加者の情けで生き残ったのだが、観客はそんなことを知らない。

「ランドレア家のフィン選手VS上級一年ユイ選手。実況は私、新聞部の『ロンド』が努めさせていただきまーす!そして、解説はこの人!」

「どーも、国王です」

  その瞬間、誰もが思った。
『この男、なにしてんだ』
  と。

  来賓席に設けられた実況場所。
  国王の無茶ぶりにより、新聞部ロンドは仕方なし、お偉い様方の目の前で解説することとなったのだった。

「そして!ここ来賓席にはロザリア帝国、ミステラ魔法国家、倭国ジャピンの女帝様、国王様、将軍様がおります!なので!試合終了後!インタビューしていきたいと思います!そちらもどうぞお楽しみに!」

  これに関して女帝、ミステラ国王、将軍は固まった。
  そう、全く話を聞いていないのだ。

「国王様、フィン選手とユイ選手、あの過酷な予選を勝ち抜いてきたこのお二人ですが、いかがでしょうか」
「そうだな。フィンの予選で見せたあの二人で作った爆発。素晴らしい魔法であった。フィンの魔法に注目だな」

  あれを作ったのは、リシアスである。
  ただひたすらにリシアスの手柄である。なぜだ。

「そうですか!それでは、参りましょう!学内の部第一戦、フィン選手VSユイ選手の試合、スタートです!」

ーーゴーン!

  昨日の予選の凄まじさもあってか、会場は熱気に包まれており、会場の温度はドンドンと熱を上げていく。

  しかしこの二人。勝ち上がったのは、たまたまなのだ。
  何度でも言おう、たまたまなのだ。

「睨みあいが続いておりますね・・・。やはりお互いの力を警戒しているのでしょうか」
「だろうな。二人共幼いながら、内に秘めた力は凄まじい。警戒するのは当然だろう」

  ただただビビっているだけである。

(勝てるわけがない!)
(私罰ゲームで出されただけなんですけどぉ!)

  涙めである。

  しかしその直後。

ーードォン!!

  ユイをいきなりの爆発が襲った。

「おっと!ここで、フィン選手が動いたァ!」
「やはり爆発使い。いい腕だ。発動魔力を感じないほどだ」
「これはユイ選手、いきなりダウンか!?」

  そんなことはなかった。
  ユイは謎の黒いなにかに包まれて、無事だった。

(え?)
(え?)

((え?なにこれ・・・)) 

  ユイの体を守っていた黒い何かは地面へと入り、ユイの影へと入っていく。
  そして、再びユイの影が動きだした。槍のように先の鋭い影がゾワゾワとフィンの事を襲う。

(やっぱりすごい人じゃないかぁ!ダメだァ!終わったー!)

  しかし終わらない。
  迫り来る影の槍を受け止める同じ形状の光の槍。その二つは拮抗し、やがてお互いを打ち消しあって、引いていった。

ーーうおぉぉお!

  鳴り止まぬ歓声。
  学生にしては熱すぎる戦いに観客たちは大興奮だ。

(な、何が起きているんだ!?)
(私こんなこと出来ないんですけどぉ!影が勝手に・・・!)

  二人は慌てて周りを見回すと・・・

  フィンの後ろの方にある観客席では悠々と本を読んでいるリシアスがヤレヤレと首を振るっていた。

(頼んでないんだけども~!)

  ユイの後ろの方にある観客席では深くフードを被った、予選終了後に少し仲良くなった勇者影宮さんが、ニコリと控えめに笑って、ピースしている。

(か、かげみやさーん!違うよぉ!勝ちたいんじゃないんだよぉ!はじめの爆発で負けておきたかったんだよ~!)

  本人達の知らぬところで、お節介焼き同士が戦いを繰り広げていた。
  一切魔法の兆候を見せない印刻と、隠す隠れることに長けた暗殺の影魔法。見えないところで戦闘を繰り広げる二人。

  リシアスはユイを、影宮はフィンを見て、あの小さな体からは考えられない魔法使いであり、危険であると感じている。
  お互いの選手を守るために、二人は力を高めていく。


  一方その頃上空では……

「あれ不正ですよね?」
「言ってやるな。面白いから見守っていようぜ」
「ご主人様がそういうなら」

  腕に抱きつくマリーさん。
  やめて上げてください。楓さんがどこかから向けられた冷たい視線を感じて冷や汗をかいております。


  一方その頃来賓席では……

「マーリンあれ」
「分かっている。まぁ、指摘はしないがな。この世界のテーマは私の予想では『自由』だ。それならそれに従おう」
「……私もそう思う。ここの人達のびのびしてる」

  化物二人は当たり前のように気づいていた。
  化物の開発した技術と人間ではあるがそれを極めた者の魔術。そこに踏み入っている者しか気づくことは出来ないだろう。

  なぜ、マリーさんは気づいたのだろうか。


  戻りまして、ステージ。

  白熱した戦いは続いていた。
  二人は動かずに、魔法を撃ち合っている。というか、魔法が勝手に撃ち合っている。

  早めに相手をダウンさせねばと、二人共躍起になっているので、段々と威力が上がっていく。

  爆発が起こり、それから影がユイを守る。
  影が様々な場所からフィンを狙って伸びてくるが、それを青い板状の壁が阻み、横から光の光線がそれを撃ち抜く。

  壮絶な戦い。
  その終わりは、ようやく訪れた。

(まずいですね。魔力が切れそう・・・)
(……この男、想像以上に強い)

  そして、影宮の影がフィンのことを飲み込み、爆発がユイを包んだ。

  最後に立っていたのは・・・


「ユイ選手だァァ!!勝者、ユイ選手!激闘を制し、ユイ選手準決勝出場です!」


  たまたま勝ち上がった二人の戦いは影宮の勝利で幕を閉じた。
  なんだかんだで、ユイは準決勝にまで進んでしまった。

(……勝っちゃった・・・)


  来賓席にて……

「激闘でしたねー!」
「あぁ。一般の部でもおかしくない戦いだった。二人共将来が楽しみだな!」
「はい!それでは、来賓の皆様にも話を聞いてみたいと思います!」

「ミステラ魔法国家のバリアデス様、お願いします」

「素晴らしい魔法使いでした。うちの生徒と戦う日のことを楽しみにしています」

「ありがとうございます!学園対抗戦には上位四名の生徒が出場しますのでユイ選手は出場が確定しております!これは大いに期待できます!それでは続いて、一般の部第一戦です!どうぞ!」



  ステージでは・・・

  次の試合。
  神速の男アルバート・サクリファスVS炎の魔拳士イーバ。

「冒険者であるおふたりの対決ですが、いかがでしょう国王様」
「アルバートもイーバも此度は儂等の護衛を担当している。二人共なかなかに強いからな。どちらが勝ってもおかしくはないとおもうぞ?」
「ありがとうございます!それでは参りましょう。アルバート選手VSイーバ選手です!」

ーーゴーン!

  鳴らされたゴング。

  黒いフードをかぶった男、アルバート・サクリファスはただ立っている。自分から動こうとはしないらしい。
  対するイーバは先手必勝と炎を纏ってアルバートに打ち込まんとする。

  だが、アルバートはゆらりゆらりとそれを躱していく。
  自慢の速さを見せつけるまでもなく、全ての攻撃をギリギリで躱していく。

  遊んでるわけではない。
  ただ対戦相手が過去の知り合いだったから。仕留める気が起きないだけだ。

「くそっ!あったんねぇ!」

「……すぐに悪態を吐くのは直ってないみたいだな 」

「あ?なんだって!?」

  深くフードを被っているせいか、イーバは対戦相手に気づいていない。
  さすがに気づくのが遅い。そう思ってか、アルバートが自らそのフードをとる。

  フードをとると、年相応の童顔と悟りでも開いた加のごとき落ち着きはらった冷たい目をした少年が。

「…む…お前・・・アルか?」

「よぉ、久しぶりだな、イーバ。驚いたよ。連絡もよこさないから、死んだと思ってた」

  イーバの攻撃の手が止まった。

「アルバート・サクリファス・・・。お前あの国でまさか貴族だったのか・・・?」

「没落した過去の貴族だがな。お前がいなくなってからは大変だったよ。お前のことを助けに行ったマルコとタツキは帰ってこなかった。初期からいた年長メンバーはいまや俺だけだ」

「・・・ごめん。……他の子供たちは……」

「俺が従者になることを条件に保護してもらったよ」

「なっ!?俺が今すぐに解放してもらえるように頼んでくる!すぐに助けてやるからな!」

「勘違いするなよ。俺は今の生活になんの不満もない。自由させてもらってるし、子供たちの世話もしてくれてる。孤児院での生活よりも数10倍は贅沢な生活だ」

「……そうか…」

「イーバ。お前が強くなったんだな」

「あぁ!強くなったよ」

「俺も強くなったよ。・・・纏え、雷鳴よ」

  アルバートの体が雷に包まれ、周囲の地面にも亀裂が走る。

「負けないぜ?俺だって・・・」

  イーバとアルバートは同じ孤児院の出身。
  某帝国の孤児院で拾われ、育てられた。
  武芸に長けたイーバと頭のキレるアルバート。年長組はこの二人を中心に金や食料を盗・・・入手していた。

  しかし、ある日貴族の家に手を出してしまい、イーバは帝国に捕まってしまった。
  独裁者でありながら家畜のような容姿をした男が統べる国だ。悪事を働いて、捕まってしまう。それも、孤児院の者ともなると、死刑は免れない。誰もがそう思っていたのだが、天は・・・自由人は見逃さなかった。その時、ある超越者の男に助けられたのだ。
  その場で修行を続けていたのだが、ある時、再び彼を悪夢が襲った。

「俺だって・・・苦労したんだぜ?」

  共に修行をし、信頼しあっていた少女が帝国兵に惨殺されたのだ。幼い体には打撲あと、切り傷が残され、服もすべて剥ぎ取られていた。その少女は最後にこう願った「必ず・・・帝国を・・・」と。

「俺はあの帝国を許さない。その為に制御して、磨いた力だ。負けないよ」

  怒りに狂ったイーバは100名近くの帝国兵を食い殺した。
  肉をやき、皮をはぎながら、叫び声をあげる帝国兵の腕を、脚を、腹を、頭部を食らった。
  そのままの勢いで帝国を滅ぼそうと考えたが、力が足りないとノアに諭され、制御と研磨をノアパーティーにいながらにすることとした。

「行くぞ、『炎帝』!」

  楓の眷属からうけた修行後、研磨に研磨を重ね制御を可能とした技。
  己の体を炎そのものに変える。
  地面を両手で叩くと、そこら中から溶岩が噴き出し、アルバートへと向かっていく。

「甘い」

  アルバートはそう言うと、左手をバッと振る。すると、横一文字に雷が過ぎ去っていき、溶岩全てを消し去ってしまう。

「・・・!?や、やるみたいだな。アル」

  当たり前だ。この男は化物有力候補。絶望竜やゴブマルと同じく、将来有望な生物なのだから。
  半神半龍は伊達じゃない。

  自分の体の至る所から溶岩を噴き出し、ステージ全体を溶岩が埋め尽くす勢いで溜まっていく溶岩を操るイーバ。奇怪な魔法拳士ではあるが、その強さはこの戦いを見届ける者にはよく分かった。

  だが、神速の男も負けるわけにはいかないのだ。
  心の支えとなっている少女達のために、自分を鍛え上げたあの化物を見返すために。

「アル!ぶっ飛べぇぇぇ!!」

  血を埋め尽くしていた溶岩は全方位、全角度からアルバートを覆うように迫る。

「終わりにしようか。……久々に戦って、楽しかった」

  しかし、そのドロドロの溶岩は消え、何事かと思った瞬間に、イーバが前方に倒れた。


「し、試合終了~!!激闘でした!学内一般と第一戦は激闘となりました!勝者はアルバート・サクリファス選手!」
「うむ。激闘あり、感動ありで、非常に満足できる試合であった」

  ・・・感動?

「はい!過去の因縁、過去の親友対決。これほど胸に来る熱い戦いは無いですね!」
「俺も若い頃を思い出したぜ」

  何を言っとるんじゃ、この二人は。

「それでは、来賓の皆様にご感想を……。いかがでしたか、ジャピンの将軍様」

「む、俺か?……そうだな。あの二人、うちの国に引き入れたいくらいであった。冒険者なのが勿体ないな」

「将軍殿、やめておけ。ギルドマスターが怒るぞ」

  防衛以外の目的で冒険者を国が動かすことは出来ない。
  国からの指名依頼にて、協力を仰ぐこともあるが、大量にはできない。そういう制約があるのだ。

「がっはっは!そうであったな!しかし、良かったぞ今の試合!まだまだ未来ある少年達だ。応援したくなった!」

「ありがとうございました!それでは続きまして、学内の部第二戦を行います!」



  学内の部第2戦

「第2戦の対戦カードはこちらっ!機械仕掛けの少女『山内 美香』選手VS筋肉の勇者『吉岡 貴史』選手です!」

  吉岡と機械に乗る少女美香はお互いを見合っていた。

「にゃはは!吉岡っち!覚悟するのにゃ!」

「俺も負ける気は無いぞ、美香!」

  同級生のこの二人はクラスメイト以外の接点こそないが、二人共陽気で誰とでも話せるので、そこそこに仲がいい。
  この世界に来てからはなかなか話せていなかったが、こういう機会があってよかった。天才たちならばいずれ完成させ、戦うことになると思っていたので、今日まで楽しみにしてきたのだ。

「吉岡っち!君が強いのは認めるにゃ!でも、私たちの努力はこんなところで負けたりしないのにゃ!」

  日本にいた頃から天才的才能で、様々な便利機械から戦闘用兵器まで作り上げてきた彼女達の再スタートしてから初めての戦い。
  日本ではかなりちやほやされてきたが、この世界では結果が出せずに、王国兵士達からは邪魔物として扱われてきた。

  だがそれも、今日で終わり。
  ここでいい結果を残せば、勇者と渡り会えれば、また研究や開発を続けられる。その期待と興奮を背負ってここに立つ彼女は非常に強い。

「ま、どの程度まで性能をあげたか、見てやるよ!」

  しかし、この男も普通ではない。
  人類の最終地点。素の人間の上限に立つこの男は言ってしまえば人類代表だ。機械にはまだ負けられない。

ーーゴーン!

  会場を震わせる程のゴングが鳴り、美香が動き出す。

「ビーム!からの、顕現するにゃ『断絶の剣』!」

  美香の纏う機械からガシャンと音を立てて出てきた無数の銃口から水色の光線が放たれる。
  そして、美香の右手には大きなこれまた水色の刀身をした剣が現れる。

「ちっ」

  直線に、曲線にと、自由自在に飛んでくる光線を吉岡は余裕を持って躱していく。
  断絶の剣を警戒してか、黄金のナックルを装着する。

  吉岡貴史には光線も撃てなければ、全てを凍らせることも、影を操ることも出来やしない。
  その体だけが全ての力。
  魔法はほぼ使えないし、スキルも有能なスキルは数える程。日本にいた頃はそれすらなかった。 
  ではなぜ、彼は厳しい世界での戦争を生き残れてきたのか。
  それはただ単純な理由。彼が、所有する肉体が普通でなかったからだ。

ーーパァン!

  吉岡は光線をナックルを使って弾いた。
  無数に飛んでくる光線を取捨選択して、当たるものだけを後方へ弾いていく。

「にゃにゃにゃ。やっぱり吉岡っちは凄いのにゃ。伊野っちよりも速いと思うんにゃけど!」

  巧みな軽業によりその尽くを躱し、弾く。

「むにゃー!食らうにゃ!断絶剣!」

  命名の才能はないらしい。

「ふん!」

  光線が迫る中で振り下ろされた大剣を親友から授かったナックルにて跳ね返す。

「んにゃ!?むむむ・・・やるにゃ、吉岡っち」

「美香もな。流石に今のは手が痺れたぞ」

  美香の持つ断絶の剣は凄まじい重量かつ、目を見張るほどの斬れ味がウリなのだが、それを手が痺れただけとは・・・。
  見た目の派手さでいえば、アルバートとイーバの試合の方が勝っているが、細かい所への力の使い方が上手い二人の戦いは、派手というよりはキレイであると表現した方が良いだろう。

  全国の格闘家の皆さん、見ていってやってくださいよ。

  この国の兵士達はこの戦いに釘付けだ。というか、吉岡の身のこなしに目がいっている。
  ここで目立とうとした美香的には現状は宜しくない。
  何とかせねばならない。

「そのナックル、アルトメタルとみたにゃ。厄介だにゃ・・・」

「自慢のナックルだ」

「ならば、こちらはとっておきの一つを披露するにゃ。あんまり使いたくなかったけど、ここで打ち止めよりは遥かにマシにゃ」

  美香はそう言うと、吉岡の届かない上空へと飛ぶ。
  今まで所々から出ていた銃口は収納された。
  そして、右手に持つ断絶の剣とは別にもう一つ、左手で新たな剣を掴んだ。

「にゃはは!吉岡っち!覚悟にゃぁ!」

  水色に輝く巨大な剣と怪しく赤く輝く巨大な剣をクロスさせる。

ーーキィィィィン!

  金属が擦れ合うあまりよろしくない音が鳴り響き、会場を光が満たす。

「食らうがいいにゃ、クロノスブレイドにゃぁ!」

  振り下ろされた二つの大剣から馬鹿みたいに大きな斬撃が飛んでくる。

「くそっ!」

  吉岡は対抗するように飛んでくるそれに向けて拳を向ける。

ーーズドォォン・・・!

  今日一番の衝撃が会場を抜ける。
  爆風は観客席の人々の髪を揺らし、来賓席のハゲを加速させる。

  皆が目を凝らしていると、そこには筋肉がボロボロの状態で立っており、その近くに機械少女が「にゃ~」と目を回していた。

「これは勝負ありかァ!あの攻撃をどう凌いだのか!どのようにして美香選手を地面に落としたのか!聞きたいことは沢山ありますが、勝者は……」

「ギブアップ」

「よしお……え?」

「ギブアップだ。この勝負は美香の勝ちだ」

  吉岡は右手を上げてギブアップ宣告をした。
  試合を見ている全員が呆気に取られるが、それを尻目に吉岡はどこかへと行ってしまった。

「……勝者、山内美香選手でした・・・?」

  なぜだか、微妙な雰囲気のまま終わってしまった。

「・・・いかがでしたか、国王様」
「う、うむ。よかったと思うぞ。開発専門の勇者達はこれからも頑張ってほしい・・・な」

「で、ではロザリア帝国女帝様、いかがでしたか」

「なかなかに興味深い戦いであった。キカイというものは凄いな」

「ありがとうございました。えーでは、続いて、一般の部です」



  一般の部第2戦

  微妙な雰囲気のまま進められたが、選手は文句を言えないので、遮るものなく進行していく。

「皆さん!テンション上げていきましょー!一般の部第2戦対戦カードは……コレだァ!氷の勇者氷姫こと氷河 雪選手VS元不良、今は冒険者の憧れバルザック選手です!」

  大きな戦斧を持ったガタイのいい男と氷の杖を持った美しい少女。

「うげ、女で子供かよ・・・」

「気にしなくていいわ。私もそれなりに強いから」

「そういう問題じゃねーんだよ」

  まだ試合は始まっていないのだが、身のうちから溢れ出るやる気により雪の足元は凍りつき、通った後はすべて凍っていた。

「まだ試合始まってねぇぞ」

「こればっかりは仕方ないわ。あの人が私を見てくれているもの」

  あの人とはあの人ではない者である。
  現在は空中にいて、雪からは見えていないはずなのだが、そこは乙女の恋するパワーだろう。・・・そうでなければなんなのか。

「それでは皆様!一般の部第2戦、スタートです!」

  先手必勝、バルザックは担いだ戦斧を地面に叩きつけ、地面に地割れを起こす。
  グラグラと地面が揺れ、ステージは崩壊しかける。

「ふふふ。楓、見ててね」

  そう呟くと、地面が一気に凍りつく。
  地割れを起こし、崩壊しかけていたステージを氷によりつなぎ止める。

  バルザックは雪とは違い、慣れない足場で大変そうである。

「・・・俺と相当相性が悪ぃな・・・。破壊すればするほど足場を失うわけか」

  この世界の人間も勇者のいた世界も氷の足場において自由に動けるものは少ない。
  その白い世界でたった一人、どの地面よりも動ける者が氷河雪である。平面のしっかりと土台の整った地面よりも素早く、しっかりと地を捉えることが出来る。

  彼女にとっては氷の上こそがホーム。

  時間を与えれば与えるほど、地面は凍りついていく。
  つまり、彼女の独壇場へと近づいていくわけだ。

「むっ!」

  バルザックは地面に突き立てた戦斧を勢いよく担ぎ上げ、ジャンプして一歩ひく。

「よく気づいたわね。今ので死んだ人も多いのだけど・・・」

  バルザックがいた場所は既に凍りつき、立っていた場所には大きな氷柱が地面から生えている。
  間違いなく死人がでる技だ。

(わー、この女、容赦ねぇ・・・)

  バルザックも危機を感知して、それを避けたわけだが、気づいていなければ今頃永遠に近い眠りについていることだろう。

「ぬぬぬ、将来のお婿様にいいところ見せないと・・・。よし、頑張ろう」

「・・・はぁ。やっぱし、女は怖いなぁ・・・」

  雪はあの男のことを夢見、バルザックは自分に厳しいあのギルドマスターを思い浮かべる。

  愛用の杖を壊さないよう慎重に振るうとステージ上の空気から熱が奪われていく。
  一気に温度が下がっていき、あたりは更に凍りつく。

  氷以外の地面はステージ上既に無い。
  バルザックは全てがダメージに繋がる敵地へと足を踏み入れたわけだ。

  空中の至る所から氷の弾丸が迫り、地面からは氷の蔦が巻きついてくる。

  それを大きな戦斧でたたき落とすのだが、抜け目からそれが体に当たる。

「ちっ!」

  当たった箇所から凍結が進んでいき、そこかしこが凍って、関節が動くことを忘れる。
  有効な攻撃を出来ないうちに、バルザックは全身を氷漬けにされた。

「終わり。審判」

「勝者、氷河 雪選手です!」

  それから、会場に少しづつ熱が戻り始める。
  バルザックを閉じ込めていた氷も溶け、バルザックは「負けちまったか~」とその場で愚痴って、会場を後にした。

「国王様、いかがでしたか?」

「うむ、勇者の強さを再確認できたな。あのバルザックに手も足も出させまいとは」

  手も足も氷漬けにされたのだが。

「それでは、ミステラ国王様、いかがでしたか?」

「氷の少女は凄いですね。周囲の温度を下げたり、会場全体を凍らせたり。並の魔法師では出来ない芸当だと思います」

「魔法国家の国王様が認めるほどとは!さすがは勇者!私達も安心して生活できますね!それでは、今から小休憩となります!皆さん!第3戦、第4戦も白熱した戦いになると予測されます!お腹いっぱいで元気な状態で観戦してくださいねぇ!」

  と、言うわけでお返しします。


◇楓視点

  一般の部第2戦が終わり、休憩に入るらしい。
  俺は今、マリーさんが懐から取り出したポティトォチップスを片手に、もう片方にはブラックコーヒーを持っている。
  ブラックコーヒーとポティトォチップスが合わないって?のんのん。マリーさん特別ブレンドのコーヒーとマリーさんが完璧に再現したポティトォチップスだぜ?よく分からない不思議な力が働いてめちゃくちゃ美味いよ。

  そんなマリーさんは

「マリーさんはまだ行かなくていいの?」

  第3戦だけど。

「ふふふ、私は直前でも大丈夫ですよ。ご主人様は心配性ですね」

  え、いやでも、運営的に・・・

「この国の中枢には私の部下が混じっています。少しくらいの我儘は通ってしまうのですよ」

  ・・・なにしたの。
  あれ?マリーさんっていつも俺の近くにいたはずじゃ・・・。

「ご主人様のためならば、私は何だっていたしますよ。身を差し出せというのならば、今この場でも構いません」

  いやさすがに、言わねぇよ。
  豚と一緒にしないで下さいまし!

「冗談ですよ。私の一度汚された醜い体など面白くもないでしょうから」

  今のは自爆であって、俺のせいじゃないよね?
  だが、ここで主人らしく返答したい。

「マリーは綺麗だぞ。内も外もね」

  ふっ、あまり気の利いたことは思いつかないから言えないが、これで少しは慰めになるだろう。
  割と俺も昔のことは気にしているんだぞ。
  俺と一緒の時間よりも奴隷だった時間の方が長いだろうし。

「・・・いつ私の裸見たんですか・・・?」

  ……なんか思ってたの違う。

「いや、あのだな。マリーさん、決して俺が風呂をのぞき見たとかでは無いぞ。着替えを覗いたというのも無い。ただただ、俺の再生の力を信用してだな、かつて、若しくは進化による肉体の良さが帰ってきたと考えていてだな・・・。この前一緒のベッドで寝た時に見たマリーさんが妙に魅力的だったというかなんというか……」

  ・・・くそぅ!
  いくら説明しようとしても、言い訳にしかならねぇ!

「へ、へぇ・・・。私が魅力的ですか・・・」

  そこか!?
  俺はてっきり「覗き最低・・・」とか言われるかと!

「ふふふ。私が魅力的・・・私が魅力的・・・」

  なんか惚けている・・・。
  このまま触れずにいこう。主人としての尊厳は保たれた・・・か?

  ・・・信じよう。俺の覗いた疑惑はどこか遠くへ行ってしまったよ。うん。

「あ、ご主人様。覗く際は一声かけてくださいね?乙女には準備というものがあるんです!」

  おかえり、確信。

  ・・・覗いてねぇよ?ホントだぞ。

「お願いしますよぉ?」

  ぷんぷんと頬をふくらませて指を立てるマリーさんはとても可愛いが、疑惑が晴れていないので、俺は覗き魔主人のままなんだよな。
  ・・・でも、マリーさんの風呂は覗きたい。

「わかったよ。それに、覗きもしないから安心しろ」

「えー。ご主人様は私に対してもっと積極的でもいいんですよ?」

「あー、はいはい。そろそろ休憩終わるぞ。マリーさんも行ってきなさい」

「えへへ。はーい!応援お願いしますね!」

  最後にハートでも付きそうな声でそう言ってくれたマリーさん。
  やべ、惚れる。





ーーーーーーーーーーーー

はたつばです。

世間では文化祭が行われているそうですね。
現在高校生である友人の文化祭に別の友人と共にお邪魔したのですが、最近の高校生って凄いですね。
想像力が豊かというか、なんというか。お化け屋敷や迷路の他に、焼き鳥やらカレーやら。
久々に高校生気分に帰って楽しめました。美味しかったな~。
楓達もこんな文化祭を楽しんでいるのかと思うと、羨ましく思います。

あー、高校生に帰りたい!

次回更新は10日土曜日です!よろしくお願いします!
学生を楽しむためにはどうすればいい・・・
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