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第四章 自由な時間は女帝達と共に

第五十二話 魔導王と惰王

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  その女は美しかった。
  造形物。人が語る理想が詰まったような女性であった。顔、首筋、鎖骨、胸、腹、腰、太もも、膝、その裏、くるぶし。目に見える全てが追求された美の形をしている。

  周りに集まった冒険者や聖騎士達は釘付けだ。同性の騎士さえも横目でチラチラと顔を見ている。

  その中で女帝を見ない存在は三つ。
  こちらをガン見してくるマリーさん。
  俺があげた子供撮影用カメラをニヤニヤしながら見続ける黒鎧の絶望竜。
  そして、俺だ。
  翡翠は初めてそういった女に出会ったのか、顎をおさえて女帝を見ている。

「皆の者。今日は集まってくれてありがとう。最近、ロザリア周辺にSランク、SSランクの魔物が目撃されている。そこで、ロザリアの勇敢かつ優秀な騎士達に目撃情報の多かった『迷いの森』の調査を依頼した。その結果、三体の魔物を発見した。Sランクの剣蛇『ブレードスネーク』。SSランク指定された特殊個体の『ミノタウロス』。SSSランクの霊獣『麒麟』だ」

「SSSランク!?」

「馬鹿なっ!そんな……!?この帝国は終わるのか!?」

「落ち着け、そのための君達だ。……頼む。力を貸して欲しい」

  SSSランクか……。
  聞くだけでは初めてだな。フェンリルと同格。オリジナルだとすればかなり強いはずだ。麒麟か。俺が知ってるのは白雷を使うヤツだが……。オリジナルだった場合、単体で勝てるのは俺一人。ここにいる他のヤツらでは無理だろう。強そうな人もいるが、麒麟程ではない。

  女帝が頭を下げると「無理だ」と呟いていた人間達が「うっ」と断りずらそうにする。そして……

「ま、任せとけ女帝様!」
「あ、ぁあ!やってやるからよ!待ってなって!」

  各地から「俺も俺も」と声が聞こえてくる。

  冒険者ってちょろいわぁ……。

  それを聞いた女帝は何度も「ありがとう」と言って頭を下げている。

  その姿に俄然やる気を出した冒険者や聖騎士達は……

「よーしっ!任せとけ女帝様!いつ討伐に向かう?今日でもいいぜ!」

  この調子だ。

「出発は四日後を予定している。集合場所は門前。時間は朝日が出る頃にしよう」

  そう聞くやいなや

「よっしゃ!それじゃぁ準備してきますかねぇ!」

  そう言って城にある講演何かをしそうなこの場からダダダと冒険者、聖騎士達が出ていく。今日は武器屋、防具屋、雑貨屋は大賑わいだろうな。

  冒険者、聖騎士が全員退出し、俺達だけになったので、そろそろ帰るかと考えた時……

「待て、そこの者達よ」

  女帝に声をかけられた。なんだよ……

「貴様ら何者だ?人ではないだろう?」

  ……はぁ。全く。この場で言うかね?

「……」

「騎士団は退出せよ」

「し、しかし……」

「いいから、いいから」

  そう言われ、渋々部屋から出る女騎士達。

『守護』

  防音対策をしなければならないのだよ。

「久しぶりだなぁ!」

  もう安心して声が出せるぜ!この詐欺女ァァァ!!

「大魔導師『マーリン』!!!」

「はっはっは!久しぶりだね、楓!」

  この野郎!ガッカリだよ!滅茶苦茶期待して来たのに女帝がマーリンとかァ!

「なんじゃ?知り合いか?」

「あぁ。大魔導師『マーリン』。唯一『魔術』を超えた魔を手に入れた変人さ。人間を辞めたのはいつだっけ?あと男を辞めたのも」

「魔導に入った時に、爆発的に増えた魔力に体を押し潰されて死んだよ。その時に人間を辞めて生き返ったんだ~。男を辞めたのは飽きたからだね。それからは男も女も思いのままさ」

  このど変態が。
  俺の知る中で、最も知力に長けた魔を扱う者だ。予言者と呼ばれ、王に近い存在とされていた者でもある。次元の超越を果たし、世界を行ったり来たりして遊んでいると聞いていたが、まさかこの世界に来ていたとは……。

「お前が出れば麒麟も楽に殺れるだろ……」

  俺と違って星や歴史の改変まで可能な化物だ。麒麟を絞め殺すことくらい造作もない。

「それを言うなら楓が出ればコソコソ動いてる古の神々の下僕も瞬殺できるのになぜやらないの?勇者が大切なんでしょう?」

「干渉をしないようにってか?ならなぜ、彼らの死を急がせた?」

「死を急がせてるわけじゃないよ。来たる試練の日を迎える前に育ててあげてるだけさ」

  物好きなヤツだな。人類の成長なんて待ってれば数千年とかかる大事業だぞ。失敗すれば人類は最も長けているはずの智を失うことになる。そうすれば確実に滅亡だ。長所を失った生物は簡単に死ぬからな。

「私達化物はなるべく干渉しないのが正しい在り方だろう?暴れすぎると王に怒られてしまうぞ?」

「あれは俺たちだけの責任じゃねぇよ。そもそもの原因は化物相手に神とかいう地位に縋りつこうとした奴らの責任だ。そのせいでどれだけのモノを失ったか」

「それでも喧嘩を買ったのは私達ではないか」

「あれは仕方ねぇだろ」

  俺が暴走したのだって原因はアイツらだ。
  戦う必要の無かった化物たちが戦争を始めたのもな。

「君達のことは私でも予知できないんだから。いつ誰が世界を襲うかヒヤヒヤしていたんだよ?」

「お前はその役目から逃げたろ」

「あはは。それもそうだね。……また戦争が始まるのかい?」

「さぁな。原典が支配された時。俺が完全復活を遂げる。それを警戒するか、無視するか。キッカケは向う側だろうよ」

「それだけはやめてほしいね。君らの本気は私でも抑えられないんだからさ~。世界を守るのにも一苦労だよ」

  嘘つけ。前回の戦争では前線にいたじゃねぇか。

「そういや、霧崎とかWBN2T3oとかには会ったか?」

「この前会ったよ~。楓が来たからそろそろ原典が心配だって言ってたよ」

「やっぱりか。マーリンはどーするよ。王が取りに行くって言ったら行くか?」

「行くよ~。久々に暴れるのも悪くないしね!」

  人間基準でいけばそんな時間経ってないけどな。

「楓はどうする?殺りにいく?」

「俺は原典にあるアレが狙われない限りは俺の復活を待つかな」

「遅くならない?」

「大丈夫だろ。以前の力が戻れば今度こそ根絶やしに出来るかもしれないからな」

  原典には俺が本気で封印したあるモノが眠っている。
  物や者ではない。世界に関わるモノなのだが……。敵側が知っているかどうかも怪しいよな。

「そもそも俺達自由組が戦いに混ざったのが良くなかったんだよ。自称守護者としているヤツらに任せりゃいいだろう」

「え~。でも弱くない?」

「そりゃ俺達に比べたらな」

「いやいや、私達だけじゃなくてあの混合軍が本気出したらゴミみたいなものだよ?」

  神と悪魔の混合軍。世界を恨んだ、または世界を我がものにしようとする者共が手を組んだ人類の敵だ。

「人の領域に居続けようとしたせいで中途半端な力を手に入れてしまった無能者達。「俺達が守る」とか言ってた割に、最終的には私たちに頼って、私達が蹴散らしたのを我がもの顔で人類の前に姿を出した馬鹿ども。ま、人間らしいといえば人間らしいけどさ!」

「俺達も少なくない被害を受けたからな。アレには驚いたよ。それで?神を殺した犯罪集団なんて呼ばれてな」

「本当だよ!私は時空移動が出来るからよかったものの……楓達はものすごく叩かれたでしょ?」

「まぁな。つっても最後は王が何とかしてくれたからな」

「私は王以外の人間は嫌いかな!弟子達も人間を信じきってるし……。本当に……!ぶち壊してやりたいよ」

「辞めとけ。王がキレるぞ。それに他のメンバーがほとんどこっちに来てるんだ。守護者共が守りきるしかねぇだろ」

「え?『マリア』とか、いっちゃんとか『シロガネ』君とかは?向こうにいるんでしょ?」

  最強の調教師『マリア・アルカネ』。彼女の手に掛かれば例えそこらにいる雑魚ゴブリンでも神になる。彼女の親衛隊は数で押せば俺ら自由組から一人出しても手古摺る程強い。ある世界から連れてきたミノタウロスはそれが持つ雷を宿した戦斧を振るうだけで、ある世界を次元ごと吹き飛ばした。自由組でも出来るものが限られているレベルのことをしてのけた。その後のドヤ顔にはムカついた。
  化物量産機としたら俺よりも遥かに優秀だ。洗脳して国を転覆させたり、他の世界で人工的にゾンビパニックもどきを完成させたアホでもある。それを動画に収めて俺達に見せるあたりがさらにアホである。

  いっちゃんこと『カール・システール』。『イッちゃってる薬学王』と呼ばれ、作るもの全てがとにかくアホ。銃を1発分撃つだけで星を吹き飛ばす程のアホ製品を作り出し、「なるほど、成功か」などとほざく。そして、その銃は毎秒二万発撃てるとかいうチート性能。なにあれ。ほぼ同時やん。それを量産して自慢してくるとなに?世界壊す気?極めつけは『究極の液体』とかいうアホ商品。自由組に向けて売られたモノで、垂らすだけで全てのものを溶かしていく。そして、気化しないという謎。並べた百五十枚の守護のうち、百枚を溶かした悪魔の如き液体だ。人体、神体、化物の体までも溶かす。かけられたやつは死ぬ。自由組は生きてる。なぜか?例えば俺なら、反射できるから。いっちゃんなら液体、気体が肌に触れることが出来ないように肉体を改造したから。

  自由組は頭がおかしい。

  不可視の王『白金 時也』。彼の技は全て見えないことが特徴。それが例え化け物だとしても見えやしない。ある女の魔眼以外では見る方法が無く、感知することが出来ないので、死んだことにさえ気付けない。過去には神との対談で笑顔を見せていながら神の住む地にカール特製の液体をぶっかけた男だ。色が目立つ液体の色を完全な不可視状態にしてふりかけた。結果、神の都市は全壊。神たちは他の場所へ移ることを余儀なくされた。そして、それを行ったのが白金とはいかなる神も気付いていない。

  やはり、頭がおかしい。娯楽で殺すくらいには。

「少なくとも白金は来てるな。白金の弟子を見つけた。似たようなことをしていた。間違いないだろう」

「あらら~。それじゃぁ他のみんなもこっちに遊びに来そうだな~」

「もしかしたらもういるかもしれないぞ?」

「どうして?」

「マリアが麒麟持ってたろ……」

「……」

  洒落にならん。

「本当にマリアの麒麟だったらどうしよぉ~。冒険者達間違いなく消されるよ……?というかこの世界が吹き飛ばされない?」

「余計なことをすれば恐らく……」

「楓、ちょっとデートしに行かない?」

「断る!……と言いたい所だが、行くしかねぇか。本当に来てるならカールの事も聞いとかねぇとな。いたらヤベェ」

  あのマッドサイエンティストが星改造とかし始めたらここが原典と間違われかねん。
  他にも来てるやつがいるがもしれないし……。

「おい、楓。儂等空気なんじゃが……」

「あ、あぁ。ごめんごめん。久しぶりに出会ったもんだからな」

「ということは、貴様の言う化物仲間か?」

「あぁ。こいつは大魔導師『マーリン』。特殊な魔法により、全能とまではいかんが、俺達の中でも万能タイプの化物だ」

「よろしく~。君絶望竜っていうんだろ?結構いい線まで来てるね!あとは死ねば完成っぽいかな?」

「多分な」

「儂に死ねと!?」

  それが一番手っ取り早いからね。
  死とは化物への近道だよ。

「三人も迷いの森へと向かうぞ」

「むぅ。……わかった」
「かしこまりました、ご主人様」
「かしこまりました」

『転移』

  場所は城の一室から辺りを霧に囲まれ、木々から見下ろされた池の近くに移る。
  昼間だとは思えないほど薄暗く、少し肌寒い。そして、周りから鋭い視線を感じる。殺気のこもった強い視線。この世界でも上位者の魔力を感じる。完全に囲まれたね。

「さて、どうする?楓」

「マリアの従魔だったらマズイな」

「うん。あの子拗ねちゃうから」

「ゴリ蔵さんあたりの話のわかる従魔が出てきてくれればいいんだけど……」

ーーぎゃぁあす!!!

  そんなうまくいかないか!

「絶望竜!マリー!翡翠!お前らは自分の身を守ることに専念しろ!!」

「し、しかし……!」

「いいなァ!?」

「……かしこまりました!」

  大きな蛇の魔物が毒を撒き散らしながらこちらへ飛んでくる。

「くっそ!俺の恩恵は殺すようばっかだってのに!!」

「あれ?『絶対』とかは?」

「アレは面白くない!」

  反射の能力とかは絶対に使えない。敵の体が吹き飛んじまう。

「じゃぁどうするの?」

  決まってんじゃん!自由組の中で俺が二番目に強いアレだよ!

「身体能力でごり押す!!」

  毒を撒き散らす蛇の首を掴みとり、何も障害物のない方向へと投げる。その勢いのまま前方へ回転。うん百と迫り来る蛇型の魔物を己の身一つで抱え込むと……

「『睡』の魔導『惰眠の肯定』」

  俺が抱えた蛇が全て眠ってしまう。

「やっぱり便利だな~。魔導」

「楓も習う?」

「三日で出来るならな」

  そんなことを言いつつも、未だ迫り来る蛇を適当にやり過ごしていく。
  すると……

ーーグルぉぉあァァァァ!!

  今までの蛇とは比べ物にならない覇気を持った虎が現れた。体は白く、所々で黒い線が入った虎。伝説上で言えば『白虎』。そして

「お久しぶりです。楓殿、マーリン殿。先でマリア様がお待ちです」

  調教師マリアのペットの中の一体である。

「来てくれて助かったよ『虎吉』君」

「あぁ。危うく殺すとこだった」

  虎吉君はマリアのペットの中でも上位のクラス。マリア親衛隊と呼ばれるうちの一匹で、神ぐらいなら軽く殺れる。

「その蛇たちはうちのものではありませんよ。マリア様も見境なくテイムするのは辞めたようで私たちとしては非常に助かっています」

  ん?マリアの従魔ではない?

「え、なに?殺していいの?」

「はい。邪魔でしたが、雑魚だったので手を出さなかっただけです」

  なるほど。
  なら……

「『殺』の魔導『バク』」

  と思ったけど、マーリンが怒りの『殺』魔導を放った。
  夢を食べると言われるバクをバグらせて召喚する魔導。食べるのは夢ではなく、魂。生物としての魂がハッキリしているものであれば即死だ。

  殺バクは一拍吐いて、思いっきり息を吸いむ。

「見事です」

「便利だな~魔導」

  一瞬後にはヘビの死骸だけがその場に取り残されていた。

「よし!それじゃぁ~行こうか!!」

  良しじゃねぇよ。

  いろいろと驚愕して魂が抜けそうな絶望竜、翡翠だが、そこは無視の方向で。

  迷いの森の中で虎吉君の後ろをついていくと、開けた場所に出る。そこには透き通った水色をした池と、メルヘンチックに建てられた木造の家がある。
  木こりでも住んでいそうな家だな。

「ここが、私達の今の拠点になっています」

  適当についてきたが、やっぱりマリアがいるってことだよな。今更だけど。
  自由組が本当に集まり出してる。俺には何が何だかさっぱりだわ。

  虎吉君がメルヘンハウスのドアを開け、中について行くと……

  そこは大きな大きな庭だった。

  ははは。やはり常識は捨てるべしだな。
  まさか家の扉に時空移動の魔術を仕込んでいるとは……。自由組らしいといえばらしいな。
  従魔の多いマリアだからこそやる事だけどな。
  俺がこんな事したら落ち着いて寝付けない。

「おや、これはこれは楓様、マーリン様お久しぶりでございますねぇ」

  よ、ゴリラ。
  口には出さねぇよ?

「お久しぶり、ゴリ蔵さん」

「また筋肉量が増えましたなゴリ蔵さん」

  六メートルの巨体が扉の奥でこんにちわ。
  ゴリ蔵さん。マリアの従魔の中で二番目に仲間となったマジモンの化物。もちろん親衛隊の一匹。能力無しの腕相撲では俺の勝率が七割。つまり、三割の確率で負けてるわけだ。あ、俺もマジでやりましたよ?化物と機械の体をフルに使ってこれよ。このゴリラマジでやべぇ。神々との戦いではデコピンだけで数百の神を吹き飛ばした。

「ええ。今度の腕相撲対決では負けませんよォ!」

「また今度な。星壊したの忘れたのかよ」

  寝転がった状態で腕相撲をするのだが、力を入れすぎて星にヒビ割れ、遂には壊してしまったのだ。それからは自重している。

「おや、来たみたいだよ楓。マリアだ」

  クマのぬいぐるみを抱えた超絶可愛い幼女。毎度思うが、ロリコンに目覚めそうだ。
  紫色の髪をした身長百二十センチの幼女。小さい。ナイスサイズ感。

  幼女体型の女の子は結構好きだ。愛でるのだよ。
  自由組でもあと一人。幼女体型の女の子がいる。といってもそいつは百四十三センチという普通の小さい女の子レベルだけどな。

  なんで俺必死になって説明してんだろ。

「……二人共、久しぶり。神竜さんとスライムさんとメイドさんは初めまして」

「久しぶりだなマリア。お前が問題を起こす前に出会えてよかったぜ」

「……むぅ。それは心外。私は別に何もしてない……」

  実はそうなのだ。
  ゾンビパニックも、国家転覆もマリアの意図は全く入っていない。やらかしたのは親衛隊達だ。人間にいじめられて泣いてしまったのを感じ取った親衛隊が独断でやったことだ。

「つってもお前も止めなかったんだがな」

「むむむぅ……」

ーー我が師よ。それ以上お嬢をいじめないであげてくれ。悪いのは堪えられなかった我ら親衛隊なのだから

  遂に来たな、統括が。
  神聖龍『アルシャルカ』。現存する龍で最も強い。実力で言えば第二位。しかし、親衛隊の中では最もキチッとしているので纏め役となっている。そして、俺の弟子でもある。全盛期の俺と、最強の調教師マリアが手を組んで育て上げた魔物。初めは小さな小さな龍だった。聖龍の血筋を持つのにも関わらず黒い体を持っていた為に異端者として扱われていた。だが、たまたま通りかかったマリアに助けられ、俺の元へと連れてこられた。そこからは地獄の修行パレード。そして、神聖龍の亜種にまで上り詰めた。爪で次元を裂き、ブレスを使えば横並みに存在している全ての世界が吹き飛ばす程だ。
  ゴリ蔵さんの次に入った古参組だ。

「それで?ここで何してんの?」

ーーここには迷い込んで来た。無理に帰る気もないので、ここに住んでいる。

「……力使うのめんどい」

  相変わらず無気力だな。
  それに迷い込んだか……。翔太も迷い込んだと聞いた。自由組だけがってことか?

「いつくらい前からいる?」

「二週間くらい前」

「ロザリアでの目撃時期と重なるな」

「……ロザリア?」

「私の持つ国だ。マリアも来るか?」

  ん?なんか、話が……

「……いいの?」

「もちろんだ。いっちゃんや楓のような問題児は遠慮するが、マリアのような癒しになる者ならば大歓迎だよ!」

「待て、俺をいっちゃんと一緒にするな」

「戻せばいいと言って太陽を破壊して氷河期を生み出したのは誰だ?結界を張っていなければ人類が絶滅していたぞ」

  あれは……俺のせいだね。

「だが、いっちゃんよりはマシだろう……」

「私からしたら同じようなものだ」

  ……くっ!あいつと一緒にされる日がこようとは……!!

「……行く!私、マーリンの国に行く!」

ーーお嬢の為ならばどこへでも。

「俺もです。マリア様の為ならばたとへ火の中水の中!そこがブラックホールだったとしてもついて行きます!!」

「私達、親衛隊は未来永劫、マリア様の傍に」

  忠誠心か。絶望竜にも見習って欲しいね。
  いやまぁ、絶望竜は今絶望してますけどね。違いすぎるレベルに。同じ獣に負けるのが相当悔しいと見た。

「よし、決まりだね。楓、文句は言わせないよ?」

「マジで言ってんの?」

  一つの国に自由組の化物が二人住むことになるんだぞ?豚帝国を殺す気か?
  自称最強の化物である俺と世界の溺愛を受けた王様の二つがいる恐らく現最強のネメシス王国。
  魔導王マーリンと惰王マリア、神聖龍、ゴリ蔵さん、虎吉君、帝王、熊太郎氏、幻ゲン君、兎丸、蛇子さん、そして矛盾王ナタリア。無数の化物ひしめくロザリア帝国。

  挟まれてる帝国オワコン。

  ん?そう言えば……

「ナタリアちゃんは?魔力ねぇんだけど」

「……なっちゃんは魔王やってる」

  ……ん?

ーーナタリア様は現在魔王としてご活躍なされている。手加減はしているそう

  ナタリアちゃん魔王やってんの?なにそれ。世界滅ぼすの?
  あんなのに勇者が勝てるわけねぇじゃん。伊野が本気でぶっぱなしても軽く避けられるぞ。てか、技撃つ暇さえ無いぞ。

「ナタリアちゃんはいつ来たんだ?お前らよりも前だろ?」

  あの人親衛隊なのに適当だし。

ーー三十年程前だな。我々も初めは驚いた。迷い込んだ先で懐かしい気配があったからな

  親衛隊の謎の繋がりがあるらしい。

「……魔王ってのは私も初耳だな~。他の魔王側?人間側?」

ーー中立になりたいとおっしゃっていた。しかし、ある片方に肩入れするのなら、我らもそちら側へ

「……私もなっちゃん好き」

  いやまぁ、俺も面白いから好きだけどさ……。ナタリアちゃんが敵とか絶対嫌なんだけど……。

「でも、しばらくは大人しくしているんだよな?」

  ね?ね?問題は起こしてないよね?

「私が聞く限りではないな。自由組が歴史の表に出たという報せはないぞ」

「ってことは俺もあんまり出ない方がいい?」

「だろうね。隠居するくらいの感覚でいいと思うよ」

  ……俺も学園行っちゃう?

「実際に翔太とWBN2T3oが隠居してるって話じゃない?」

「……あの二人、いつも仲良し」

  夫婦だからね。

「話変わるけど、お祝いあげた?」

  ……あげてねぇ…。

「……あげてない」

ーー初耳だぞ。

「俺はあげましたよ?」

「私もです」

  なるほど、ゴリ蔵さんと虎吉君は裏切り者らしい。

「私もあげたからね?この前あった時に」

  ……。

「今から行くぞ!!」

「どこへ?」

「翔太の家に決まってるだろぉ!」

  今から渡せばまだ間に合う。結婚祝いはまだ間に合うぞ!

「どうやって行くのさ。場所知らないでしょ?」

  甘いな。俺には超便利スキルがある!

『世界眼』!

〈いかがなされましたか?〉

  翔太の家を探してほしい。あいつの事だ。この世界のどこかにあるはず。わざわざ虚無空間なんぞに住まないだろう。

〈霧崎翔太の家を発見しました。座標を開示します〉

  よし。

「俺に任せとけ!」

「……楓、かっこいい」

ーー流石は我が師だ

  渡してない組が俺をたててくれる。
  渡した組は冷めた目を送ってくる。
  マリーさんは俺を見てニコニコしている。額に青筋が浮かんでいるのは錯覚だと信じたい。
  絶望竜は自分の弱さに絶望している。
  翡翠は自分の世界に入り込んでいる。

『転移』!!

(儂等空気!!)←絶望竜



ーーーーーーーーー
はたつばです。

化物登場回!
今回と次回で化物が出まくるよ。そして、楓がアレするよ。……アレってなんだよ。出なかったら思いつかなかったってことです。
はたつばの推しはあともう一人のちっちゃい子。
皆強スギィ!!状態については今は許せ……

次回更新は四月一日土曜日です。
今回は私生活に余裕がありました。
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