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第三章 御一行様は冒険者になるようです

第四十四話 国の王と世界の王と

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◇第三者視点

  日が沈んでからしばらくたち、街の者達が眠りにつき始める時間。
  ハゲ頭の男が白銀の髪を持った小さな男と真剣な表情で話をしている。

「義樹……。お前を時期国王に指名したい。受けてはくれないか?」

「私がか。元の世界でも王ではあったから、断る気は無いが、反対するものが多かったのではないか?」

「……今も尚反対しておる者もいる。だが、バホカアには任せられん。レオンは義樹の下につくのだろう?ならば義樹に頼るしかない」

「血統はどうするつもりだ。この世界の王族は血統を重要視しているのだろう?」

  彼らが元いた世界では血統など意味をなさず、資格あるものが王となる世界であった。百を救うために一を切り捨てることができる。それでいて絶対に国を裏切らないものが王となる。
  個人の力が世界を変えるその場所では、一般人を守る事のできる王が求められていた。故に、戸塚義樹が選ばれた。

  しかしこの世界では血統に重きを置いている。現王が優秀でもその次が必ずしも優秀であるとは限らないのだ。

「そう考える者も少なくないが、俺はそう思っていない。それに、俺の親父は元国仕えの聖騎士だったしな。俺も民も、求めているのは国を繁栄させるための人材だ。反対してるのは貴族のヤツらと議会のジジババ共だからな」

「そうか。ならば受け入れよう。元の世界に帰ることも考えていたが、向こうの世界は息が詰まるのでな。こちらで緩りとやらせてもらおう。それに、私が育てた人材も多くいる。問題ないだろう」

「すまねぇな。うちの息子が迷惑をかける」

「構わんよ。レオンは優秀だ。私の仲間達も彼を認めている」

『レオン・ネクシー』は貪欲に知識を求めていた。
  この世界で人間が知れるほぼ全ての知識を手に入れた彼は、勇者に興味津々であった。異界の者。それもとびきり優秀と聞いていたので、彼の知識欲に応えてくれる者もいるだろうと夢を抱いていた。しかし、一人一人聞いてみても自慢話ばかりで彼の欲したものを提供してくれる勇者はいなかった。最後の駄目元で勇者について来てしまった子供に話しかけた。
  その子供こそが戸塚義樹だった。
  戸塚義樹は子供と間違えたことに怒ることも無く、進んだ知識を次々と教えてくれた。原理はわからなかったが、彼の教師役はいつの間にかどんどん増えていった。勿論、戸塚義樹の愉快な仲間達だ。時代の裏に潜む執事、不老の賢者、人類最大知識を持った人間図書館などなど。
  レオンが心から望んでいたものを戸塚義樹は全て提供してみせた。今では神や仏を見る目で戸塚義樹を見ているほどだ。

  そんな自分の息子を頭の中で思い出し、苦い顔をした国王はカップに入った紅茶をずずずと飲む。

「熱っ……。そう言えば義樹。前々から聞きたかったのだが、お前と『黒田 楓』とはなんなんだ?明らかに他の勇者達と違うだろう?」

「ふむ……。あまり詳しくは言えないのだが、私と楓はある役割を担っている。楓はあまり深く考えていないがね。私の力は役割を果たす為に与えられた。楓は役割を押し付けられたから、それの代価として力を奪った。そう言っていたな。その時私は理解していなかったが、ようやく分かってきたよ」

  昔を思い出すように笑う戸塚義樹。
  ハゲ王は話を理解出来なかったようで、考えるのを辞めて紅茶を飲み干す。

「つまりだ。私と楓は少し変わった世界で生きていたのだよ。楓に至ってはその世界で中枢を支配していたくらいだ。この召喚に応じたこと自体不思議で仕方が無い。神々を足蹴にし、次元を超越した者共を握り潰す男が、原典からしたら端数とも呼べるこの世界に留まること自体が奇跡だ」

「その奇跡を起こした理由で思い当たるところがあるのか?」

「私を、世界を守るためだろうな」

「敵でもいるのか?」

「勿論。私の仲間達は強いが、私の器を狙うものの方が遥かに強い。争いになった時、奴らを殺せるのは楓だけだ。そして奴らも楓達を恐れている」

  その話にまたもハゲ王は頭を傾ける。

「達?他にも何かいるのか?」

「まぁな。原典の世界を支配していた種族だぞ?楓と同等の化物がいてもおかしくは無い。と言っても数は奴らよりも少なかったがね。今、原典はどうなっているだろうか……。もしかしたらもう乗っ取られてるかもしれないな。ふふふ……」

「笑っている場合なのか?故郷が占領されてるかもしれないってのに」

「大丈夫さ。その時はその時。……奴らに再び絶望を教えてやるだけさ」

  ニヤリと笑う戸塚義樹にハゲ王はゾッと背筋が凍るのを感じた。
  彼の頭の中で危険信号が鳴る。その笑みが、幾度の危機を乗り越えてきた国王を、そんなもの生温いと言っているように見えた。

(原典とはなんだ?今聞いた話と勇者のいた世界とではまるで違うぞ。なにか巨大な力。それこそ戸塚義樹のような世界を丸ごと改変するほどの力同士がぶつかり合ってるような……。彼らの異能と俺らの魔法が違うのは分かる。だが、俺が考えていることとは決定的に違う何かがあるってことなのか……)

  ハゲ王は取り戻した若い脳を回転させる。しかし、どれだけ考えても答えには行き着かない。

(違う。行き着かないんじゃない……。考える事を阻害されている?他の思考はスムーズだが、原典に関することを知ろうとするとどうしても思考が逸れる……)

「国王。それ以上は知らない方がいい。知ればタダでは帰れない。ただの人間が入り込んでいい次元ではないぞ。そこに行くならば全てを失くす覚悟を決めるんだな」

「……戸塚義樹。貴様は一体何者だ?敵か?味方か?」

「敵ではないし、味方でもいたいと思っているよ。私の正体としては……そうだな、『化物の気まぐれで生まれた被害者』とでも言ったところかな。安心したまえ、敵ではないし、この国を潰そうとも考えていない。我が国の民がいる時点で、この国は守るべき対象だ」

「本当だな?」

「本当さ」

  探りを入れる国王に対して、終始笑顔を崩さない戸塚義樹。

  王の才を持つ戸塚義樹。人間にはその程度しか分からないが、彼にはさらに重要な秘密がある。それこそ、原典を破壊しに来る化物全てが恐れ、狙う秘密が。

  世界の溺愛を受けた王と世界最強と言われた化物の誤算は一つ。
  この世界の住人は少しばかり頭がよすぎたこと。
  それに気づき、後悔するのはまだまだ先の話。だが、確実に厄災は近付いてきている。



ーーーーーーーー
はたつばです。
如何でしたでしょうか。頭よさげなパートですよ。
はたつばの頭が沸騰しそうです……

この撒き散らした伏線の終着点についた時が楽しみです。……想定からどれ位変わるんだろうか……。

次回更新は三月七日火曜日です!!よろしくぅ~!
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