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第三章 御一行様は冒険者になるようです

第四十三話 突然の修行

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◇ノア視点

  僕の拘束を一瞬で解いた覚醒デュラハン。
  本気を見せてやると言わんばかりに、馬から降りると、馬は黒い霧となり、デュラハンの剣となって彼の空いた片手に握られる。
  二刀流のデュラハンなんて初めて見たよ。

「やべぇぞ、ノア!回復薬は一人一つまでしかねぇし、今の攻撃で回復せざるをえんくなった!」

「くっ!もう一度やりたいところですが、今のデュラハンに僕の拘束が効くとは思えません」

  僕らが話している間に、デュラハンはイーバの近くに現れ、イーバに向かって、二つの剣を振るう。
  何とかして躱し、回復薬を飲んで再び『炎腕』を発動。炎を固めて二刀流を受け止めているが、厳しそうだ。
  冬華も斬りかかっているが、まるで効いていなさそうだ。

「ノア!俺と冬華だけでは長くはもたん!何とかならないかッ!」

  どうする……?
  挑んだことを後悔している場合ではないぞ。

「なるほどのぅ……。仕方あるまい……」

ーードッガン!!

  絶望竜さんの蹴りがデュラハンの鎧にめり込み、デュラハンを軽く吹き飛ばした。

「『黒の堅牢』。ふむ、これで良いじゃろう」

  デュラハンを黒い檻が取り囲み、閉じ込めた。

「やはりまだ早かったようじゃのう。なに、恥じることは無い。今から儂等が君達に新しい戦い方を教えてやる。難しいことは無いから安心せい」

  絶望竜さん達が僕らに戦い方を?

「魔法は翡翠に聞けば全ての答えを教えてくれる。強化魔法は儂が教える。
そこの刀を持った少女はマリーに師事してもらうといい」

  翡翠さんって確か闘技場で大穴を作った人だったはず……。
  火焰系魔法師じゃないのだろうか。まさか翡翠さんも多重魔法師とか?

「デュラハンはひとまず閉じ込めてあるから大丈夫じゃよ。試し撃ちにでも使えばよい」

  ……贅沢な使い方ですね。
  戦闘中に教えを受けることになるなんてなぁ……。もしかしたら楓さんのパーティーは皆お人好しな人達なのかもしれない。

  僕らは戦闘中であることはひとまず置いておいて、別れて師事してもらうこととなった。

「翡翠さん宜しくお願いします」

「宜しくお願いします!」
「お、お願いします……!」

「……三人は魔法についてどこまで知っている?魔法における威力の初期値についてって分かる?」

  しょ、初期値?
  魔法に初期値も何もあるのか。

「初期値っていうのは、魔法発動に必要なMPの最低値を使った威力のこと。君達は多くのMPを使っても初期値の威力しか出せてない。無駄が多いんだ」

  なるほど……。
  つまり、今の威力をだすのに今程のMPを使わなくても済むって事かな?
  となるとたしかに無駄だ。回復薬の効果でMP残高を気にしていなかったけど、実践ではそうも言ってられない。この講義はかなり有意義なものになりそうだ。

「では翡翠さん。僕らの使った魔法の消費MPはどれ位までに減らせるんでしょうか」

「ざっと、百分の一くらい。勿論、初期値を覚えてそれ以上を重ねようと思えば威力も高くなる」

「百分の一ですか!?」

  百分の一……。それは僕達がとんでもない量を無駄にしていたことになるね……。
  翡翠さんからしたらかなり僕達が滑稽に見えただろう。

「大丈夫。この世界に居る魔法師の一割が気付いてない。マスター出来てるのはその中の一パーセントくらい」

  ……そこに違いがあったのか。
  この世界の魔法師の中の格差。才能や道具の力だけかと思っていたが、気づいたか気づいていないかの問題だったわけか。

「習得は簡単。固有魔法で『魔力操作』を覚えられればマスター。スキルで『魔力感知』が出てくれば、自然と分かるようになってくる」

  簡単ではないね。スキル習得にも歳月をかけるし、固有魔法なんて一人一つあれば奇跡のレベル。二つ以上持っている人なんて最低でも聖騎士以上でなければ無理だ。

「翡翠さん。私に魔力操作を手に入れる方法を教えてください。私にはそれが必要なんです!」

  サイカ……。

「……わ、わたしもお願いしま……す」

  アーシャ……。

「……僕もお願いします。教えてください!」

  僕ら三人が頭を下げると、僕ら一人一人の頭を撫でて、翡翠さんは言った。

「わかった。教える。といっても、魔力感知を極めれば自然と魔力操作が手に入るんだけどな」

  魔力感知。
  ここに何日もいるわけにはいかない。短期間で覚えなければならない。

「さっき頭を撫でた時に、君たちの体内にめぐる魔力に熱を与えた。体の中で動く熱のあるものを感知すれば魔力感知は取得できる。血液よりも熱量があるからわかりやすいはず」

  もう修行は始まっていたらしい。

  体内で動き回る暖かい何かを探す。
  確かに何かあるが、それの場所を特定することが出来ない。

  むずかしいな……。

「ノア……クリア」

  !?ええ!?もう!?

「翡翠さん!?僕まだ感じれただけで、特定なんて出来ませんよ!?」

「特定できたら魔力感知はマスターできてるはず。スキルを手に入れるだけなら感じ取れるだけでいい」

  必死になって修行するのが馬鹿らしくなってきた……。

「あとはひたすら魔力を追うだけ。一度見つければ、熱が戻っても心配ない。これを日常的に繰り返せば魔力操作はすぐに手に入る。魔力操作を手に入れたら『魔法操作』の習得を目指すといい」

  サイカもアーシャも無事習得出来たようだ。
  僕もどんどんスキルレベルが上がっていくので、面白くて仕方が無い。

「そろそろ向こうと合流しようか」

  ……いよいよだ。
  デュラハンへのリベンジ戦が始まる。

「ノア!俺はめちゃくちゃ強くなったぜ!絶対に勝つぜぇ!!」

  イーバがブンブンと力強い腕を回している。

「僕らもですよ。負ける気がしません」

「私もかなり鍛えて貰った。以前の私と同じだと思うなよ?」

  冬華も自信満々だ。
  何をしてもらったのだろうか。二人共体がボロボロだ。

  そんなにハードだったのかな。

「フフン!私もよ!翡翠様の教えにより数段階成長した私を見なさい!」

  サイカの中で翡翠さんは『様』扱いするまでレベルアップしたらしい。

「よし、勝ちましょう!作戦はさっきと同じでいきます!ふたりが抑えて、その隙に詠唱。その後全員で最大火力です」

  穴だらけの作戦かもしれないが、先程からの成長を知りたい。
  勝てる。御三方の教えに従えば必ず勝てる。冬華の言うことを聞いて、楓さんに手伝いを頼んで本当によかった。

「グハハハハ。それではデュラハンを解放するぞ。怒り狂っとるじゃろうが、今の五人なら余裕じゃろ。……解除!」

  絶望竜さんが暴れ回るデュラハンを解放する。
  二つの剣を構えた黒い鎧が迫ってくるが、僕らの前にイーバが立つ。

  ただただ立っているだけで、構えたりはしていない。自信満々な笑顔を浮かべているだけだ。

  その様に余計イラついたのか、思いっきり振りかぶった剣でイーバに斬り掛かる。

ーーブオンッッ!

  速く、強い一撃は空を斬る。イーバの体を中央から切り裂かんとする刃はかすりもしなかった。
  半身を下げただけで剣をかわしたイーバはニヤリと笑みを浮かべて、五本指でデュラハンの冑を押し返す。力を込めているとは思えないくらい滑らかな動きにデュラハンは押し戻される。

  すぐさま体制を整え直し、剣を再び構えて突進せんとするデュラハンだが、いつの間にかその背後に居た冬華により阻止されることとなった。

「刻め……!」

  冬華が刀を振るうと、デュラハンの鎧が見事に解体された。
  地面に落ちたバラバラの鎧が修復を始める。けど、終わりだ。

「……〉『魔帝炎雷』!!」
「……〉『聖魔消滅波』!!」

「無属性魔法『核融合爆発』!!」

「はっ!くらえぇ!!『強靭なる炎帝  バースト』!」
「独創魔法『虚無光線』!!」

  五人で最大火力を出す。リベンジバージョンだ。

ーーズドォォォォン……

  ダンジョンの壁を壊し、次層への門も破壊した僕らの攻撃により、デュラハンは倒すことが出来た。
  絶望竜さんも、翡翠さんも、マリーさんも満足気な顔だ。……あの三人も巻き込まれていたと思うんだけど……。

「……勝ったぞぉぉぉ!!」

「遂にやったな!」

「当然ね!」

「はぁ…はぁ……。やったね皆……」

  みんな満身創痍で、安心感から床に倒れ込む。

「ははは……。やっと勝てましたね……」

  全力を出したおかげで魔力欠乏症になりましたね……。MPが底をついてる。……ははは。このまま少し眠ってしまおう……。デュラハンが復活しても御三方がなんとかしてくれるでしょうし………………。



ーーーーーーーー
はたつばです。

デュラハンが惨めです。せっかく無双できると思ったらボコられるという……。
今回は短いのでもう一話上げます。そちらも宜しくお願いします!
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