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第三章 御一行様は冒険者になるようです

第三十六話 神速少年のダンジョン攻略!(余裕)part4

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  なぜ少女が……?
  いや、人間基準で言えば尋常ではない魔力の質、量だが、見た目は魔族の女の子だ。いや、悪魔っつう可能性も?
  背中に生えた翼とゴスロリの格好が目立つ極々普通ではない少女。

  しかしなぜ少女なんだろうか。
  この流れできたら普通巨人だろ。

「おい、あんたがダンジョンマスターってことでいいのか?」

「もっちろんよ!私は魔天奏のダンジョンマスター『キューレ・アクワイル』!なみいる攻略者達をぶっ飛ばしてきたさいっきょーのダンジョンマスターよ!!」

  ……弱そう。
  そもそも化物共を知っている俺からしたら「何言ってるのこの子」状態だ。
  あれかな?ちょっと強いからって調子に乗ってるパターンか?

「あ、アル様……あの人凄い強そう……」
「ど、どうしましょ~……」
「ふふふ……」

  え、えぇ!?
  強いのか!?この子!?嘘でしょ!

「……下がっててくれ」

  ま、まぁ怯えてるなら下がってた方がいいだろう。
  見た感じそんな強そうでもないけどな~。
  ……俺が変なのか?

「ふっふっふぅ~!そこのお嬢さん達は賢明みたいだね!そんな小さな体で私に挑もうなんて!それは勇気じゃなくて蛮勇よ!」

  いらっ!
  小さくねぇよ。お前よりはデカイはボケェ。
  
「はぁ。ンなことはどーでもいい。いくぞクソガキ」

  キレテナイヨ?
  一ミリもきれてねぇよ?えぇ全く。

  ……『龍神化』五十パーセント。
  人間状態のまま龍神の力を引き出す。尻尾とか翼とか角とか鈎爪とかあるけどね。一応人間の大きさと同じだから人間状態といえる。
  人の状態を保っている場合は龍神化の半分しか力が出せないが、まぁ十分だろうよ。

「え……な、なによそれ……!あんた……!」

  驚いてる驚いてる。
  そして後ろの三人は気絶してる。

  やっちまったぁ……。
  覇気に耐えられなかったか……!
  まだまだ制御が甘いな。もっとこうキュッと纏められるようにならないと。魔法とか纏うのは楽なんだがな。
 
「いくぞ……」

  俺は『神速(改)』を使って、神にすら勝る速度で少女に肉薄する。
  そして殴るっっ!

ーーピキッ……!

  うおらっこいせぇぇー!!!

ーーヒュン……ズドンッッ!!

  一瞬抵抗を感じたが、気にせずそのまま殴った。
  吹き飛ばされて、ボス部屋の壁に衝突した少女。
  我ながら酷い男だ。少女でも構わず殴っちまうんだぜ?

「……いてて、何よ今の……ってあぁ!!私の盾がぁぁ!」

  生きてんのか……。結構硬いな。龍神の半分+俺の自力+神速改だぞ?
  単純な力でいえば楓の振りかぶった殴りぐらいはあるはず……。
  ……ごめんなさい。ちょっと盛りました。
  絶さんの振りかぶった一撃くらいはでてる!!……はず。ゴブマルと渡り合えるくらいは出来るはずだ。
  それで生きてるとは……。絶望深淵でも生きていけるぜ?

  にしても盾とは?
  あ、もしかしなくても少女の前で粉々に砕けてるあの銀色のやつか?もしかして俺の攻撃を守ったのもアレか?
  そうだとしたらかなり優秀な武具だぞ?
  伝説以上の力持ってるんじゃなかろうか。

「うぅ……うわぁぁぁぁぁんんん!!!」

  えぇ!?なぜ泣いてるんだ!?急に一体……。

「ううう!この人で無し!!壊すことないじゃない!それに壊れるなんて聞いてないんだけど!!」

  知らねぇよ!それに俺はもう種族的には人じゃねぇよ。
  壊れるなんて聞いてないって……。もしかして不懐の能力でも備わってたか?いやそれはねぇか。不懐の場合、壊せるのは楓か絶さんか……。神話レベルを軽く乗り越えられる連中じゃなければ無理。となるとダメージ減少系か?

「おい、攻撃してこなくてもいいのか?御自慢の盾が壊れたんなら潔く死んどくか?」

  軽く脅しておこう。
  戦うと言うならば次は首を刎ねる。一発目は様子見。二発目からは白刀『神滅』を使っていく。

「う、うう……。あなた一体何なのよー!」

「あんたが殺してきたやつと同業。攻略者だが?」

「殺したって何よ!正当防衛よぉ!うわぁぁぁぁぁん!」

  駄目だ。泣きっぱなしで話が進まん。少しばかり落ち着かせるか。
 
  龍神魔法『夜照の陽射し』

  龍神化した場合のみ使えるようになる龍神魔法。龍神魔法は決まった形が無いため、自分で好きな魔法を組み立てる。そしてこの『夜照の陽射し』は俺の初めて作った魔法だ。
  俺を中心に闇が広がり、自分と対象、その二つを完全に呑み込むまで広がり続ける。その世界には大きな光が七つ。赤、青、緑、紫、金、白。そして、一際目立つ、闇の中でも何故かわかる黒。赤青緑紫金白の光が俺と少女の周りで浮遊している。黒の光は天に。
  素晴らしい威圧感だ。
  楓の言葉にこんなものがある。
「恐怖は生物の声を、動きを殺す」
  と。
  ふっ。これ程の恐怖はあるまい。闇の空間で凄まじい魔力で作られた光たちに囲まれる。怖いだろぉ……。

「あ、あはは……。もう無理……。うわぁぁぁぁぁん!助けてお父さん!お母さん!漆黒竜様ぁ!!」

  楓の嘘つき。
  そして何故かここで絶さん登場。漆黒竜って絶さんの進化前だって聞いてるんだが……?
  絶さんの知り合いとなると話がものっそい面倒くさいんだが?

「おいあんた。絶さ……漆黒竜と知り合いなのか?」

「ええそうよ!驚いた!?私がいじめられたって知ったらきっとすぐにあなたを倒しにくるわよ!いいの!?」

  ……んー。あの人子供大好きだからなぁ。可能性としては無きにしも非ずか?  
  聞いてみるか。だが一旦……

  高速移動!!からの背後に回って首トンっ!!
  取り敢えず眠っててもらおう。

  少女の体が前に倒れる。それを優しくキャッチして壁を背に座らせておく。
  『夜照の陽射し』を中断し、闇や光の玉を消す。誤爆とかしたら怖いし。

  さて、後は……。
  耳についた機械をいじる。通信機の番号、2番を選択し、コールする。

  ぷーぷー。ガチャ

〈アルバーット!久しぶりじゃなぁ。全然連絡せんから寂しかったぞ~。どうしたんじゃアルバート。わしに出来ることなら何でも言っておくれ〉

  ……うわ、テンション高いなー。
  孤児院の子供と丁度遊んでたって感じか?

「あー一つ聞きたいことがあってな。絶さん『キューレ』なんちゃらって少女を知ってるか?」

〈む?『キューレ・アクワイル』のことか?それなら知っておるぞ?〉

「あー、まじか。実は今『魔天奏のダンジョン』にいてな。その子と会ったんだが、やっぱ知り合いだったんだな」

〈本当か!?両親が相当心配しておるので、早めに帰って欲しいのだが……〉

「今ダンジョンマスターやってるぞ?」

〈……。どういうことじゃ?待て待て待て。その子は確かに魔族でも優秀な子じゃったがそこまでなはずが……〉

  成程。ということは少女の家はここではないと……。
  ならば

「絶さん。この子に関する事で、ダメージを減らす白銀の盾について知らないか?自動防御付きだ」

〈……そうか。その盾を持ち出していたのか。その盾は『マドリアの盾』と言ってな、その子の父親の盾だ。ちなみに死に形見でも何でもない。やつは今も元気だ娘を探し回っているらしいがな〉

  やっぱりか。
  マドリアってのは魔大陸の伝説に出てくる英傑の一人。智勇に長けた女性で、非常に美しい魔族だったとか。
  そんな伝説の女性の持っていた盾だ。そりゃ強いわな。
  これで身を守りつつ戦ってた感じね。

「わかった。これから絶望深淵に戻ろうかと思ってるんだがこの子も連れて行こうと思う。その後のことを任せていいか?」

〈うむ、いいぞ。楓にも教えて、迎え入れる準備をしておこう。待っておるぞ〉

「あぁ。よろしく頼む」

  プツッ。ぷーぷー

  そう言って、通信機を切った。
  そうか、この子を連れて帰るしかないか。結構遠いからな。道中でしっかりと説明しないといけないかな。 

  まぁまずは、四人が起きてくる前にダンジョン攻略の方を終わらせておこう。ダンジョンマスターを倒したって事でいいんだよな?

  はぁ~。これで俺もダンジョンマスターか。実感わかねぇな。
  でも、もしも攻略者が一冒険者で、家に妻子残してきたとかだったらどーなるんだ?ダンジョンマスターの委託とか可能なのか?  
  ……多分、というか単なる俺の考察なんだが、出来ると思う。
  理由はなんてことは無い。このダンジョンマスターが弱過ぎるからだ。
  楓の話では、ダンジョンとダンジョンマスターのレベルは同じ。ダンジョンが得た経験値、マスターが得た経験値は一つの器に集中し、それを片方がコピーする。それがダンジョンとダンジョンマスターの関係と教えられていた。
  おそらく、ダンジョンマスターの方が圧倒的にレベルが低く、ダンジョンのレベルをコピーした例だったのだろう。この少女がこれ程の魔力を自分で手に入れたとは思えない。それに、戦い慣れた歴戦の魔族のもの、という訳でもなさそうだ。ボス部屋までくるような攻略者に勝てたのも力任せの雑魚魔法とマドリアの盾を駆使した結果というわけか。

  ……そうなるとここまでこの子が来れたこと自体が奇跡的だ。
  それにさっきの様子を見るに、ギリギリの戦いなんぞした事が無いんだろう。ならばどうやって……?

  まさか……誰かがここに少女を連れてきた?

  だが動機は?理由もなく誘拐じみたことをするか?
  それに漆黒竜と仲のいいやつの娘を誘拐する。そんなことをしたら戦争にでもなりかねんぞ。
  ……戦争?まさか。そんなはずはない。魔王達は序列争いを未だにしてるらしいが、この世界ではもう戦争は終わったはずだ。
  魔の国のやつらはまだ世代交代の時期ではない。
  しかし人間側も考えられない。帝国の可能性は少なからずあるが、あの豚が魔の国を敵に回すようなことをしでかすとは思えない。強きからは逃げる。それがモットーみたいなやつだからな。
  ではどこが?ラドレアは無い。あそこは他の大陸に干渉しないことで有名だからな。

  では一体誰が……何の為に……?

  すると、一つの足音がコツコツと聞こえる。
  バッと振り返ると、そこには……

「あれ?彼女は負けてしまったようですね」

  シルクハットを被った黒服の男が立っていた。楓の故郷で言う『マジシャーン』という職業のやつが着ていた服装に似ている。ちなみに着ていたのは楓だ。宴会芸というのを見せてくれた。
 
  しかしこのシルクハットの男……かなり強い。
  一対一ならなんとか勝てるか……?だが相手の手札が見えない以上無闇に戦おうとするのは得策ではないか。

「あんたがこの子を誘拐した犯人か?」

「ゆ、誘拐ですか。言い掛かりですよ。僕が外で仕事をしていた時から勝手についてきてしまったんですよ」

「本当か?この子は有名な魔族の家の娘だそうだが?」

「!?……そうですか。初耳です」

  頭に手をやり、失敗したと呟く。
  意図して連れてきた訳では無い。そう言う事なのだろうか。だが、この男只者ではない。話の内容を鵜呑みにするわけにもいかないだろう。

「……あなたはその子の回収をしに来たわけですか?」

「いや違うね。俺はただの攻略者だよ。現ダンジョンマスターだがな」

「やっぱりですか……。その子がダンジョンマスターをやってみたいと言うので少しの間譲渡していたのですが……」

  これに関しては多分ガチだろうな。

「それでどうする?このダンジョンは今俺の物のわけだが、やるか?」

「それもいいですが、遠慮しておきますよ。あなた強そうですし、それにあちらで座っている化物はもっとやばそうです」

  化物……?まさか……!!

「化物とは言ってくれるな。俺にも一応名前があるし、見た目は人間だろ?」

  なんでここに楓が!?
  いつの間に……!?気配を全く感じなかったぞ!?楓ほどのやつが気配を消すなんてできるのか……!?

「よお、アルバート。お前は女の子でも守っとけ。こいつは俺がもらう」

  はっ!?

「おい待て!!俺も話したいことが……!」

「待たん。『転移』」

  楓はそう言ってシルクハットの男と共に消えていなくなってしまった。
  ……なんだったんだあいつ……。あいつに魔天奏のことは教えてなかったはずだが……。絶さん経由か?それならなぜ気配なんか消して現れたんだ?
  なにがしたいんだ?

  ダンジョンのボス部屋には俺の疑問に答えてくれるものは誰一人としていやしなかった。



◇第三者視点

  ビル群が建ち並ぶ街の中心。そこには二人の男が立っている。
  しかし他には誰もいない。彼ら二人を残して生き物は全て消えてしまっている。

「あなたは誰ですか?この世の者ではないですよね?死者か神か。あなたからは世界との繋がりが全くといっていいほど感じられない」

「ンなことはどうでもいいだろうが。お前はアルバートを殺そうとしていた。だから俺に殺される。それで十分だろ?」

  黒田楓は殺気をシルクハットの男に向ける。
  全方位に発せられたその殺気は凄まじく、周辺のビルについた窓を次々と割っていく。

  シルクハットの男は冷や汗で全身を濡らしながら、引きつった笑みで口を開く。

「嘘を言っても無駄でしょうね。えぇ殺そうとしてましたよ?彼は気付かなかったようですがね。戦場では対話中でも油断してはならない。当たり前のことでしょう?」

「そうだな。当たり前だろうよ。だがな、それを見過ごせるほど主人として腐ってねぇ。阻止するのは当然だろうが」

「……見逃してもらったりは出来ませんよねぇ」

「そりゃぁなぁ。今すぐにでも握り潰したいくらいだ」

  黒田楓は言い終わると同時に足元の地面をぶち抜く。

ーーバンっっ!!

  地面が割れ、暴風が吹き荒れた。暴風はビル群を纏めて吹き飛ばし、辺り一帯を更地へと変えた。遥か遠くでグチャグチャになった建物が積まれているが楓は一切表情を変えず、シルクハットの男を睨み続けている。

  その光景を見て更に冷や汗が溢れ出すシルクハットの男。必死になって地獄からの解放条件を探る。

「ははは。ならなぜ僕はまだ生きているのかお聞かせして頂いても?」

「あんたらの目的さ。魔物の件もお前らが関係してんだろ?何がしてぇんだテメェら」

  シルクハットの男はようやく生きる可能性を見つけたのにも関わらず口を開くのを躊躇った。
  それもそうだろう。彼がその目的のために費やしてきた時間が全て無駄になる。そうなることが分かっていて話したいと思う者はいない。

  男はただ黙っている。
  彼の命一つで計画を遂行できるのならば、安いものだ。計画に人生をかけているような男だ。ここで裏切る訳にはいかないのだろう。

「答えたくないか。そうか。ならば……死ね」

  黒田楓が手をかざすと、男の胸のあたりに黒い玉が現れ、全てを引きずり込まんとする引力が発生する。
  ブラックホールに近いものだ。一介の生物が凌げるようなものでは無い。
  男は抵抗するが、ズルズルと引きずり込まれていく。

  やがて、男は姿を消した。

  それを見届けた黒田楓は自分が創り出した空間の中で空を見上げる。
  なにが不満だったのか、最強は宙を見て忌々しげに舌打ちをした。

「チッ。邪魔するんじゃねぇよ、クソザル共が。次こそ滅ぼすぞ雑魚」

  彼がそう言って、空に沿って腕を横に振るう。
  するとそれまで確かに存在していた月や太陽、無数にあった星々が物の見事に消滅していた。

  世界最強の化物はぶつけられない怒りを抱きつつ、ひたすら自分の創り出した世界を壊し続けるのだった。


◇アルバート視点

  ひとまず楓のことは置いておこう。楓が負けることは有り得ないだろうしな。

  まずは気絶した三人を起こそう。
  その後魔族の少女を起こして、事情を話してから絶さんの元へと向かおう。……いや、来てもらうか?その方が四人に負担を掛けなくて済むかもしれない。

  てなわけで、二番ポチッとな!

ぷーぷー。ガチャ

〈む?どうかしたかアルバートよ。まだ何か聞き残したことでもあったか?〉

「いや、そういう訳じゃないんだが……。絶さん、魔天奏のダンジョンまで来てくれないか?」

  了承してくれたらいいんだけど。

〈それは構わんがどうしてじゃ?楓も何故かいなくなっておるし、何かあったのか?〉

「楓のことはあとで話すよ。ひとまず魔族の少女を家に返してやりたいんだ。だから知り合いの絶さんがいればことがうまく運ぶかなぁっとね」

〈なるほどのぉ。……わかった。行こう。少し待っておれ〉

  少しで来れる距離か?いやまぁ絶さんなら無きにしも……

「久しぶりじゃのうアルバート~」

  あらず……。って……

「早すぎねぇ!?幾ら何でも速すぎねぇ!?」

  目の前に人間状態の絶さんが現れた。
  この人たちは人を驚かせないと気が済まないのか。そして、相変わらずの美丈夫って感じだ。俺もいつかあんな風なイケメンになりたいぜ。

「ぐははははは。なみいる者をフルボッコにしてきた儂ならばこれくらい余裕じゃよ」

  ……。
  あえて突っ込まないぞ。

「絶さん。あっちの壁でぶっ倒れてんのがキューレ嬢(笑)だ」

「分かっとるよ。儂は向こうを起こしておく。アルバートはどうする?」

「つれの女の子たちが寝てる。そっちを起こしに行くよ」

「わかった。ではまた後でな」

  よし。ナターシャ、マナリス、ミーナを起こそう。
  その前に龍神化を解いとかないと。起きて速攻で気絶。なんてことも有り得るからな。
  
  馴染みのある肉体に戻し、三人の元へ行く。肩を揺らして「起きろ~」と声をかけてみる。
  一番初めに起きたのはミーナだ。優秀。

「んん……あ、あれ?さっきの少女は……?」

「きっちり倒しておいたよ。向こうにいる男の人については二人を起こしてからにしよう」

「は、はい。かしこまりました……」

  引き続き肩を揺らす。時折耳元で「起きろ~起きるのだ~」と言っていみているのだが、なかなか起きてくれない。
  耳元起きろ~をやること五回。遂にマナリスが目を覚ます。

「起きたか?」

「うぅ……うっ!?あ、アル様!?お、お顔がお近いですぅ!は、はぅあ……」

  しまった。相手は女の子。こういうのを嫌がる年頃なのかもしれない。
  好感度アップ作戦に支障が出てしまう!

「あぁ、悪い悪い」

  平常心を装いながら、身を引きつつマナリスの手を取って体を起こす。
  残りはナターシャだ。
  これが強敵だ。ナターシャは朝起きるのも遅い。いつも三人で無理矢理起こしている。水をかけたり、タライを落としたり、川に落としたり、電撃を流したりして起こしている。

  今回はどうしようか。
  ちなみに今日の朝は上空4千メートルから落として、ギリギリキャッチを行った。しかし効果が薄く、起きてはくれなかった。なので、作戦変更をして、俺が楓から教わったクソまずい肉料理の作り方を参考にして作った『死人すらも体を動かしたくなるようなステーキ』を口にねじ込み、ミーナの水魔法で流し込んだ。
  結果は「うごごががごががごが……」と言って、数秒心臓が止まった後に、起きた。結果オーライ。
  朝は上手くいったので今回も上手くいくといいんだが……。

「アル様。私に一つ考えがあるのですが宜しいですか?」

「ん?なにか考えがあるならやってみたらいいさ。なにか手伝おうか?」

「お願い致します。では……」

  ミーナ、マナリス、俺による作戦会議が始まった。
 
  数分後……

  俺の手にはビチバチと青白い光を発する雷。
  ミーナの手の周りで浮遊するのは川などで獲れる極々普通の水。
  マナリスの手には水の入ったバケツ。

  お気付きだろう。感電だ。
  やりすぎだろうって?レベルが上がるとな、耐久値も上がるんだぜ?これくらいやらないと気付いてすら貰えないよ。

「いくぞ?」

  ゴクリと喉を鳴らし、互いに頷き合う。

「ミーナ!マナリス!やれぇー!」

「「はい!」」

  二人が一斉に互いが持つ水をぶっかける。
  ビショビショになったが、ナターシャは起きない。死んだように眠っている。
  だが、ここで作戦は終わらない。

「くらえ!!〈雷砲〉!」

  貯めた電気をナターシャに向けて放つ。
  雷魔法の一つで、一般的な区分では中級魔法と呼ばれている魔法。無詠唱なのは今更説明もいらないだろう。

  真っ直ぐに伸びていった雷はナターシャへと命中し、ナターシャの体を痙攣させる。
「あばばばばばば!!!……はっ!!」
  ふっ。ようやく起きたか。待たせやがって。……心配したんだぞ。

「し、死を見ました。楽園の花畑を目撃してしまいました!!」

「おはよう。ナターシャ。やっとのお目覚めだね」

「あ、アル様……。もっと優しく起こしてくださいよぉ~」

  起きなかったろ!!  
  三人の心は一つになった。

「まぁこれで全員揃ったな」

「何しとるんじゃアルバート。普通の女の子にそんなことしたら死ぬぞ?」

  あ、絶さんだ。少女も一緒にいる。
  ナターシャを心配しているようだが、大丈夫。

「大丈夫だよ。俺の仲間だぜ?普通なわけないだろう?」

「そうじゃったな。お主楓の弟子じゃったわい」

  絶さんもだよ。忘れんなよ。寂しいだろ。

「あ、あのアル様?」
「一体この方達は」
「どなたですか~」
 
「あぁ説明してなかったな。忘れてた。この人は絶望竜の絶さん。んで、その隣が絶さんの知り合いの娘さんだそうだ」

「よろしくのぅ。この子も悪気があって襲った訳では無いのだ。許してやってほしい」

「……ごめんなさい」
  
  しおらしい少女。さっきとはまるで違うな。知り合いがきて落ち着いたってことなのか、それとも単に怒られたのか。
  俺は絶さんに免じて許そう。

「俺はもういいよ。三人ももういいな?あんまり引きづるのも良くないだろう」

「はい。アル様にお怪我がなかったのなら」
「私も一応許します。一応ですけどね!」
「許します~ゆるすのですよ~」

  よかったよかった。

「さてこの件は終りとして、どうする?アルバート」

「んー。俺は楓に聞きたいことがあるからな~。一度絶望深淵に戻ろうと思ってる」

「そうか。儂は一度この子の両親にあってくる。無事だと伝えねばなるまい」

「んじゃよろしく頼むわ」

  絶さんが渋い顔をしてる。
  伝えにくいことでもあったのかな。さっきのやつが関係してるとか?

「……それでなんじゃが……この子を一時的に預かってはくれんか?」

  ……なぜ?
  絶望深淵の連中は急に訳の分からないことを言う。

「実はこの子両親が相当荒ぶっておってな。取り敢えずボコって来ようと思う。だが、その瞬間を見られるわけにはいかんだろう?」

  ……成程?
  つまり凄惨な事件が起こると?絶さんがそう言うとかなり怖い。この竜まじで強いからね!マジで!シャレにならないくらいだから!
  でも娘の前で両親の暗い未来を語ってよいものか?……絶さんだし仕方ないか。

「分かった。任せとけよ。俺達は一足先に帰ってるから、また後でな」

「うむ。迷惑をかける」

  それだけ言うと絶さんは暗い霧の中に消えていった。どんな原理だ。
  さて、色々聞きたいことがあるし、俺達も帰りますかね。

  いざ出発!!


ーーーーーーーー
はたつばです。
気付いたらこんな字数に……!!

次回更新は二月十七日金曜日になります!!
次回は午後七時の更新にさせてください。間に合わせます。
この文字数は今回で終わらせたかったことのあらわれ。
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