異世界に来たら勇者するより旅行でしょう

はたつば

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第一章 召喚されたからって勇者はしない

第二十一話 国王の休日

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  帝国から帰還したその日。
  只今俺『黒田 楓』はネメシス王国の国王の寝顔を見ている。

  気持ちよさそうに寝やがって。楓さんが来たんだぞ 

「起きろボケなすがァ!!」

  国王がくるまっていた掛け布団を引き剥がし、国王を床に叩きつける。ゴンッと音が鳴るが、まぁいいでしょう。
  国王が頭を抑え、床をのたうちまわっている。鍛錬が足りないんじゃございませんの?

「いったぁ!誰だお前はァ!……って黒田楓かぁ!」

「おう。楓さんだ。数週間ぶりだな国王様よぉ!」

「おま、さも自分が弱いかのごとく振舞って旅に出ておいてどの面下げてここ来た!?」

  どの面下げてって……。別に対して反省も後悔もしてねぇよ?だって今の生活めちゃめちゃ楽しいし。

「んなもん別にどうでもいいだろ。それよりももう聞いたか?超常の魔王の話」

「あ?魔王が生まれたってのは信託で聞いたが、超常ってのは初耳だぞ」

「だろうな。超常の魔王。国王も名前くらいは知ってるんじゃないか?異世界転移者であり、俺たちと違ってれっきとした元勇者『神谷 瞬』」

「……嘘だろ?まさか神谷のやつが?ダンジョンではぐれたって聞いたが・・・お前が助けたって……」

  嘘つくなよ。俺は助けたければ助けてくれって聞いたぞ。確約すなよ。俺の記憶力は鶏並みだぞ?

「悪いな。忘れてた。んで、死にそうになってたのを助けたら魔王になった」

「……それ。それお前のせいじゃねぇかァ!!」

  そうとも言う。

「安心せい。この国には近づけさせないから。いざとなったら俺とその愉快な仲間達が助けに来るからよ」

「本当だな!?絶対だな!?今のうちの戦力じゃ滅びるからな!?」

  国王が必死である。伊野が進化するか、本物の光魔術師として覚醒すれば滅びはせんだろう。
  だが、その二つとも自分の意思で何とかなるものではないので、死にかけるか、俺が何とかするかしかないだろうな。

「はぁ。マクベスさえいればこんなことにはならんのだが……」

  ……誰?マクベス誰?

「マクベスって誰だ?俺は多分あったことないよな?」

「ないな。うちの騎士団の団長で、超越者の一人なのだが。マクベスのやつは適当でな。滅多に帰ってこんのだ」

「なんだそれ……。やっぱし超越者ってのはとんでもないな」

「お前もな」

  ごもっともでございます。
  しかしそうか……超越者かぁ。会ってみたいな。どんな戦いをするのだろうか。

「あぁそんなことを言いに来たんじゃねぇわ。忘れてた忘れてた。実は『初心のダンジョン』ってあるだろ?」

「あぁ。今では難易度が遥かに高くなり、ランクはSSS認定されたんで、簡単には入れなくなったな」

「おう。そのダンジョンのダンジョンマスター今俺だから。名前も正式名称の『絶望深淵のダンジョン』に戻したから」

  国王が不思議な顔をしている。ネタかな?

「ん?ん?ん?待て待て待て。お前が?ダンジョンマスター?」

「おうともよ。新しくダンジョンマスターになった。ダンジョンが凶悪になったのも俺のせいだな」

  ヤハハと笑い、国王に悪魔の如き笑みを浮かべる。

「そこで、ダンジョン産のアイテムをプレゼントしよう」

  俺は皇帝と同じく剣と、指輪を渡す。

「その剣は『飛翔』っつう剣で、二つに分かれて空を舞う剣だ。空中では自動で動いてくれる。俺が知る最強の剣士の剣筋を再現してるからかなり強いぞ。それに絶対に壊れない。指輪の方は『超速再生』っつう機能を付与してあって、国王が怪我をしたり、欠損したり、病気になったりしても直ぐに治るっていう優れものだな。再生回数の限度はない。何度でも回復してくれるぞ」 

  この国は俺のお気に入りだからな、皇帝よりも遥かに上質なアイテムをプレゼントした。指輪の方はほぼ不死に近い存在になれる。俺が作るものの中でも大人気の代物だ。

「は?こ、こんなの国宝級のアーティファクトだぞ!?こんなの貰えるわけが……!」

「貰っとけ。俺ならいくらでも創り出せる。損失なんぞない」

「……まじかよ……。お前やばいな……」

「あとは勇者達へのプレゼントだな」

  俺は創造空間かれ大きい箱が三つ、小さな箱を二つ取り出す。

「これを渡しておいてくれ。箱に名前を書いておいた。その人に渡せよ?そいつ以外は装備すらできないから。あ、それは国王にあげたのも同じな。お前以外は使えない」

  会長、吉岡、伊野、戸塚、影宮。この五人分のプレゼントだ。伊野と戸塚には頼まれていたものを。影宮には適当なものを。会長と吉岡には魔改造セットをプレゼントした。

「よし、これでいいな。んじゃ俺はいくから!後はよろしく」

  そういってすぐ様転移を使用する。
 
  国王が「待てっ!!」って叫んでいたが知らん。もうすぐ日が昇る。あいつらにバレたくない。神谷救出できてないし。

  あばよぉ~


◇◇◇国王side

  なんだったんだあいつ……。いつの間にか俺の寝室に忍び込み、俺をベッドから転げ落とし、言いたいことだけ言ってよく分からんもんを俺に押し付けて帰りやがった……。
  無茶苦茶だ……。
  ……少し眠いが、寝る前に指輪を付けておくか。

ーーーキィン

  眠気が吹っ飛んだ。眠気が状態異常と判断されたのか?いやまぁ仕事しなけりゃならんかったから眠気は邪魔だったが……。
  折角寝なくても良くなったのだ、少しでも仕事を減らしておくか。
  執務室へと移動し、電気をつけて資料に目を通す。老眼気味だった眼も治り、資料の文字がはっきり見える。頭も冴えに冴えており、内容がすんなりと入ってくる。治らないと思っていた腰痛も、膝もすべて治っている。
  マジでアーティファクトじゃねぇか。いやそれを超えるぞこれは……。ははは。あの野郎飛んでもねぇやつだな。
  化物なんていう言葉じゃ説明出来ねぇぞコレ。

  仕事をしてから数時間が経った。日も昇り、王国を照らしている。
  積まれていた資料は綺麗に纏められ、机の上からすべて撤去された。
  いつもなら数日かける作業をたった数時間で終わらせてしまった。ゆったりと時間を楽しむというのは久しくなかった。尊いものだな。
  楓には感謝せねばならんな。

ーートントン

  執務室のドアがノックされる。

「陛下。今よろしいですか?」

  この声は宰相だろうか。今暇だしいいか

「あぁ。入ってこい」

「失礼します。陛下も忙しいかと思いますが、今日くらいはお休みに……ってあれ?」

「ふっふっふ。宰相よ。私の仕事はもう終わったよ」

  宰相が目を点にしている。くっくっく。面白い顔をするな。

「一体何が……?昨日まで積んであったはずの資料も纏まっていますし……」

「実は今日楓が来てな。その時貰った神級に匹敵するアーティファクトを使って仕事を終わらせた。この指輪だ」

  自分の指に嵌めた指輪を宰相に見せる。簡素な指輪だが、存在感がありよく目立つ。

「この指輪には全てを癒す効果が付与されているらしく、肉体も脳も若返っているっぽくてな。多少無理をしてもすぐ治るもんだから仕事の方も楽に終わった。悪いが今日は休ませてくれ、久々に休日を楽しみたいのだ」

「……。わかりました。構いませんよ。今まで頑張ってきたのですから思う存分休みをとってください」

「ありがとな。あ、それと今から言うやつを呼んできてくれ。楓から預かりものがある」

  楓からのプレゼントを勇者に渡さねばならん。あいつとは敵対したくないからな。魔王を生み出すような化物を敵に回したらこの国は終わる。帝国だけでも厄介だってのに、あのダンジョン含めた『黒田 楓』の相手をするなんざ絶対に無理だ。

「かしこまりました。少し待っていてください 」

  宰相がそう言い、部屋を出る。
  しばらくすれば彼らがやってくるだろう。それまではゆっくりしていよう。


「王様入っていいっすか?」

  来たか?貴司っぽいな。

「入ってこい」

  五人纏めて来たようだ。吉岡貴司。氷川雪。伊野光輝。戸塚義樹。影宮……なんだっけ。
  と、とにかくこの五人だ。勇者の中でもとびきり優秀な者達。

「……それで何のよう?」

  雪の言葉は冷めきっている。うわぁ興味無さそうに聞くなぁ。

「実はな……今日楓が俺のところに来た」

  事実を話す。すると興味無さそうだった雪の表情が急に明るくなった。しかし数秒でもとの表情に戻る。今この場にいないことに気が付いたからだろう。

「色々話したかったろうが、帰っちまったもんは仕方ない」

「なに?自慢したかっただけ?」

  ……雪さん冷たすぎるぜ……。貴司いわくいつもは違うらしいのだが……。俺嫌われてんのかな。

「違う違う。それお前らへのプレゼントらしいぞ」

  執務室の端っこに置いておいた大小五つの箱を指さす。正直邪魔なので早く持って帰ってくれ。

  紙に書かれた自分の名前に気がついたのか各々自分の箱を取りに行く。

「……なんだ?これ」

「プレゼントって言ってたけど……」

「…ありがとう…楓。嬉しい」

「私にもくれたのか…?」

「……」

  各々様々な反応を見せた。
  雪はまたも嬉しそうに微笑んだ。こんなにも楓のことを好いているのに楓はなぜ逃げる様に帰ってしまったのか・・・。

「中身は自室で見ろ。あまり他人がじろじろと見るのも良くはないだろ」

「了解です」

  光輝がそう言うと皆そそくさと帰っていった。
  あいつらも有り得ないようなアーティファクトを貰っているのだろうな。楓からの「こいつらを絶対に死なせるな」というメッセージだろうか……。

  ……俺が死んでも彼らを守らねばな・・・。そうでなくては・・・

「国が滅ぶ……」

  俺の心の中にある最大の懸念。『黒田 楓』と我が騎士団の団長『マクベス・ダルクルス』。この二人が、またはどちらかが王国を敵と認識してしまうこと。帝国に寝返ったなどとなってしまっては最悪だ。国が滅ぶだけでなく、民達全員が奴隷と化す。それだけは避けねばならない。かといってこの二人との接点をなくし、もう二度と会わなくする。などとなっても駄目だ。いつでも頼れる状態を保っておきたい。
  マクベスとの約束。
  勇者の一部を必ず生きて返す。
  この二つは俺が果たすべき使命だ。たとえ俺が死ぬことになっても。

  この国を守る為に死ぬのならなんの文句もない。俺はこの国が好きだ。民が笑顔で過ごせる日々を守らねばならない。


  よし、早速仕事をしよう。

  ……ねぇ。仕事がねぇ・・・。すべて終わっちまってるわ…。

「あぁ……。暇ってつまんねぇな・・・。よし。久しぶりに息子とでも話しに行きますかね。」

  あいつはボンクラだが、一応俺の息子だからな。弟の方が時期国王になってくれればいいんだが、あいつはその気がないらしい。兄がアレだったからなぁ・・・。なぜこうも差ができちまうのか・・・。
  そういえばそろそろ弟の方の学園対抗戦があったな。校内選考もかなり白熱するらしいし、勇者達を練習材料にさせてみてもいいかもな。くっくっく。それがいい。面白そうだ。

  ならばまずは弟の方に会いに行ってみるか。生徒会長らしいしな。俺から頼めばなんとかなるだろ。

  あー楽しみだ。楓も見に来ればいいが……。次あった時に誘ってみるか、マクベスと一緒にな。あの二人を会わせてみたらどうなるか。戦闘になっても余興になるし、意気投合すれば一気に引き込むチャンスになる。いつも俺が振り回されてんだ。たまには仕返ししねぇとな。



ーーーーーーーー

はたつばです。
出したぞ~。昨日出せなかったので危機感を持ちました。
うぅ……。明日大丈夫かな……?出せれば出します。できなかった場合は明後日に必ず更新します。(信用出来ない一言 )

これからもよろしくお願いします!
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