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第一章 召喚されたからって勇者はしない

第十三話 目的達成と事情

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  超速で漆黒竜を追う。俺たち以外誰もいないこの世界では障害物はない。強いていえば寝ているマリーだけ。
  漆黒竜は必死に逃げているようだが、逃がしはしないし、逃げられやしない。あっという間に追いつき再び殴る。俺が殴った部分。漆黒竜の腰から右の足先までがそこから消える。

――グァァァ!!

  バランスをとりにくいのかフラフラと揺れながらまた飛び、逃げる。

「させねぇよ」

  戦闘系恩恵シリーズ『重力操作』
  対象のもの、場所の重力を自由に操作する。普段の俺は自分に三倍の重力をかけているので、制限をはずした今、めちゃめちゃ体が軽い。

  漆黒竜にかかる重力を二百倍にする。
  漆黒竜は地に落ち、動けなくなった。死んではないが、動けはしないだろう。今のうちに・・・

ドパンッ!!!

  黒く硬い鱗で覆われた翼に穴が開く。これで重力を戻しても、飛べはしないだろう。

――グ、グハハ。やはり強いな貴様。手も足もでんかったぞ。後半は特にな。さぁ儂を殺れ。貴様のような強者に殺られるならば悔いはあるまい

  辞世の句を読みそうな程衰弱しているようだが、死なさねぇよ?
  すぐに再生をかけてもいいのだが、その前に……

「漆黒竜。俺のペットにならないか?今俺は旅をしている。それについてくる気はないか?」

  ペットのお誘いを忘れない。これで手に入ればもう最高の収穫だね。

――ペット・・・?わしが?竜種の頂点の一人である儂が?ペット?

「何かおかしなことを言ったか?」

――クク、クハハ、グハハハハ。面白い。全く・・・お主らは本当に面白い男達だな!よし分かった!!儂はお主に付き従おう!

「よしきた!これから宜しくな。ってことで、まずは傷を癒してやる。『再生』」

  神威も、制限解放も行った状態で使った再生により、漆黒竜の傷は一瞬にして癒える。欠損部位も再生し、元の状態へと戻った。
  俺ももう戦う必要はない。神威解こ。これむっちゃ疲れるんですわ。
  別で隔離しておいた皮膚は戻ってきて、機械の腕は隠れた。もう片方の黒い体も元の色に戻っていく。

――ふむ。これは凄いな。古傷まで治っておるわ。貴様等異界人の力は便利なものだ。

「まぁ、ここまで出来るのは俺ぐらいだがな。おっと、自己紹介をしてなかったな。俺の名前は黒田楓。異世界の恩恵使いだ」

――儂は天を統べる五帝竜の一体。この迷宮の支配者である闇を統べる竜。漆黒竜だ。名前はないので名乗ることはできん。許せ。

  アホでかい巨体を起こし、頭を下げる。
  改めて見るとやっぱりデカイな。

「お前もう少し小さくなれないか?こう・・・きゅっと」

――なれるぞ

  なれんのかい。お前すごいな。
  漆黒竜は一度「ふんぬっ」と気合を入れる。するとみるみるうちに縮んでいき……

「これでどうじゃ?なかなかじゃろ?」

  人間の男になった。しかもかなりの美丈夫。そして、アロハシャツを着ている。アホっぽい。
  訳が分からない。なんでもありか異世界・・・。

「人間にもなれるのか・・・。最悪俺の創造空間で飼われてもらおうかとも思ってたがこれなら普通に家に入るな」

「その年でもう家を持っているのか。場所はどこの大陸なんだ?」

「大陸ではないな。強いていえば俺の創造空間といったところか。持ち運び可能な家だな」

  あまり意味を理解できていないのだろう、漆黒竜は首を傾げている。だがいちいちここで説明してやれる程楓さんは甘くない。一度目で理解しないなら実物を見ろ。

「それよりもここのダンジョンを攻略するぞ。ここが八十一層ならばお前よりも強いやつがわんさかいるわけだろ?」

  一番奥のボスとかどんだけ強いんだよって話だよな。俺も死ぬ可能性がある戦いになるだろうな。

「は?何を言っているんだ?お主は。さっき言ったろここのダンジョンの支配者は儂だと」

「……ん?あなたは階層主ではいらっしゃらない?」

「おう。儂は人間で言うところのダンジョンマスターじゃからな」

「なぜあなたはここにいらっしゃるので?」

「急にかしこまってなんだ?ここにいるのは強者の気配がしたからだな。あの光魔法師達は弱かったから勘違いかと思っていたが、お主と出会えて満足じゃよ」

  それ男に言われても嬉しくないし。てかあいつら魔術師と天才だし。

「なるほどな。つまりお前以上に強いやつはここにはいないと?」

「いたら儂ダンジョンマスターじゃない。というか今のダンジョンマスターはお主、楓じゃぞ。」

  ・・・めんどくさい予感がががが。
  でもそうか……ここが俺の家になるわけか・・・悪くない。
  ダンジョン暮らしも悪くなくね?転移あるから旅の途中で帰っても言い訳だ。
  昨日は草原で寝たが、これから先の旅で凶悪な魔物に襲われんとも限らん。我々も空間で寝泊まりすることになると思っていたが……。

「ダンマスの部屋ってあるのか?あるならそこに家を設置しようと思うんだが」

「あるぞ。今は宝物庫のようになってしまったがな」

  そうか……。では行ってみるかな。

「案内してくれるか?そこでこれからの方針を話していこうぜ」

「あいわかった。では飛ぶぞ……」

  なんか忘れているような……っっ!!マリー!!!!

「ちょい待ちっ!!」

  いっそいで回収する。未だ気絶しているようだ。全身から汗が吹き出ていた。危ねぇ・・・。空間に取り残して行くところだったぜ……。
  額の汗を拭い、俺は何も無かったように世界眼にダンマスの部屋へのナビを頼む。
 
「ふぅ。良かった良かった。では行こうか『転移』」

  再び景色が変わり、周りが金ばかりの部屋へと移った。
  わお……財宝の山やぁ……
  一面金金金。もううざいくらい金。部屋の光が金に反射して眩しいったりゃありゃしない。
  こいつ、ここに住んでて嫌にならんかったのか……?

「ん?なんだ?……おお!ここは!帰ってきたぞ愛しのマイホーム!!」

  テンション上がってるし・・・。ここが漆黒竜さんのお家で間違いないようです。漆黒竜の全身を包む鱗は闇を宿しており、真っ黒なはずなんだが・・・。合わなすぎる。こいつ竜形態の時からここに住んでるんだよな・・・。眩しくないのか・・・。

  漆黒竜のテンションがアゲアゲのところ悪いが、問答無用で空間にポイする。  
  
  頭を抱え、嘆き、俺に文句を言ってくるが俺には慈悲などない。無駄な物はこの場から消す。今この財宝はいらない。後で俺かマリーが売ります。

「貴様楓っ!こんな空間寂しいだろ!!戻せ!財宝を戻すんじゃぁ!!」

  口調を統一してくれ。キャラが掴みにくい……。
  
  漆黒竜は無視する。
  別空間に置いておいた家(屋敷)を取り出し、中央に設置。
  その流れで地面に手をつけ『創造』する。なにをかって?畑と田んぼですよ。俺達には力があるし、金も今手に入れた。あとは食料確保ですよ。水なら創造で無限に作れる。日本の水道水レベルなので飲料水にもできるよ!
  というわけで食料がないのだ。魔物の養殖もしないと……。したいことが多すぎるぜ。楽しすぎるぜ異世界生活。

「うおっ!これはすごいな。本当に家じゃないか……。畑までっ!楓すごいな!」

  テンションの浮き沈みが激しすぎる!めんどくせぇなこの蜥蜴!!今は人間か!

「あーはいはい。わーったから中に入れ。部屋の説明をするから」

  マリーをリビングのソファーに寝かせて、家(屋敷)の説明をする。
  異世界の品物にいちいち驚いているので若干うざい。
「楓!この人が入っている薄っぺらな板はなんだ!?」
  とか
「楓!このベッド凄いな!ふっかふかで体が沈むぞ!!」
  とか。兎に角はしゃくはしゃぐ。
  さっきまでの威厳はどうしたんだか……。


  それから数時間が経ち、現在食事前。それまではダラダラと過ごしたり、マリーが飛び起きて気絶したことをひたすら謝り、腕によりをかけて料理を作るので許してほしいと懇願されたりして今に至る。

  朝の効果があったのか、夜ご飯は全員豪華飯だった。昼飯は食っていない。そんな暇がなかったからな!決してマリーが寝てて誰も作れなかったわけではない。

「んじゃ食うぞ。いただきます」
「はい。いただきます」
「……いただます?」

  いただきます、な。

   マリーの伝説級の料理に俺と、漆黒竜は満足気に笑う。漆黒竜もこんなに美味いのはなかなか食べられないらしい。

  今回のダンジョン探索の目的一つ目『ペットの確保』は成功。そして二つ目の目的『マリーのレベル上げ』。これを今から確認しようじゃないか。

  世界眼。マリーと漆黒竜それから俺のステータスを除きたい。今いいか?

〈すみません。少し待ってください〉

  ……え?はい?固有魔法に待つとかあるのか……?

〈申し訳ありません。あと10秒ほどお待ち下さい〉

  あ、はい。
  なにしてるんだろ。固有魔法の世界とかあるのかな……。いや流石に……ねぇ・・・

〈ありますよ。魔法やスキルの世界〉

  ……マジで言ってんのか!?

〈まじですよ。大マジです。楓様のフォローに回れていない時はそちらにいます。緊急のもの以外は抜け出さないようにしているんですが、こちらの世界も少し問題が起きておりまして、申し訳ございません〉

  ……お、おう。それはいいんだが……。大丈夫か?そっちの世界で忙しいのなら無理してでてこなくていいぞ?

〈申し訳ございません。もしかしたらそのような事態になってしまうやもしれません。〉

  りょーかい。あ、でもその際は鑑定的な能力は置いてって下さい。よろぴく

〈かしこまりました。それと楓様に助けを求める場面もあるかもしれません。その際は本当に宜しく御願いいたします〉

  あいよ。助けんのは別に構わんよ。ただし俺が助けるのはどうしても困った時だけ。万策尽きたら俺に頼れ。絶対に助けてやる。

〈ありがとうございます。……すみません。話が逸れてしまいましたね。では初めにマリーのステータスを覗いて見ましょう〉

  あぁよろしく頼む。




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はたつばです。
今回はここで終わり!ステータスは次回ですね。
色々あるので忘れないようにしないと……(白目)
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