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第一章 召喚されたからって勇者はしない
第九話 勇者達の一日(伊野 光輝)
しおりを挟む僕達はペネイト姫達ネクシス王国の皆さんにより、異世界に召喚された。ペネイトさんはすごく美しかった。まだ僕らとそう変わらないのに凛々しくて、綺麗だった。まるで女神のよう……って僕は何を言ってるんだ!?
「光輝様?どうなされたのですか?お顔が真っ赤ですよ?」
「わっ!?」
び、びっくりした。ペネイトさんが僕を心配して声をかけてくれたみたいだ。
変なこと考えてて顔が真っ赤になっていたとは…言えない…。
「な、なんでもないですよ。それよりも今から訓練でしたよね」
「はい!今日は勇者様方の初めての訓練です。兵たちも私も気合が入っています!勇者様達のお役に立てるようがんばりますね!!」
そう。この世界に来て初めての訓練が今日行われる。
悪い魔王を倒すために必要な力を付けるためだ。といっても訓練は学校や軍で毎日やっていたので、苦にはならないと思う。
そもそも、訓練さえもいらない気がする。こっちには世界最強の男、黒田楓がいるのだから。性格に難はあるが、味方の時の頼もしさは凄まじい。彼がいれば勝てると確信している。
「宜しくお願いしますペネイトさん」
「はい!」
そうして、訓練所へと僕らは案内された。
訓練場はかなり広かった。学校の敷地の数十倍はある。こんなところで訓練するのか。
「よし!始めるぞ勇者様達よ!俺はこの国の副騎士団長マーク・アルベルトだ。聖騎士の一人でもある。さっそくだが、君たちの力を見せてもらいたい。聞くところによると、君達にはステータスに表示されない力もあるらしいからな」
マークさんは筋肉がすごい人だった。身長は180cmを優に超えており、腕や腿もかなり太い。そしてなにより、威圧がすごい。さすがは聖騎士だ。前に立つとかなりの緊張感だ。
そんなマークさんが自分の後ろを指さす。その先には、無数の人形が並べられていた。なんか怖いな。
「あれは測定器だ。威力、規模を勝手に測定してくれる便利道具だな。あと、本気でやってくれ。こいつらが壊れることは心配するな。替えはある」
なるほど、あれに向けて自分の能力を使えばいいのか。
一人ずつ呼ばれて、自分の力をぶつける。うちのクラスは向こうの世界でもレベルが高い。それでも人形達は倒れない。
そして僕の番だ。
「光輝様。がんばってくださいね?」
ペネイトさんが僕にだけ聞こえるように耳打ちをした。ペネイトさんの一言で僕はなんでもできる気がしてきた。浮かれているのかもしれない。でも、それでいい。ペネイトさんにもいいとこみせないと!
僕が最後のようだな。よし、僕も本気をだそう。僕は光魔術師だ。この世界の法則に縛られた魔法とは違う。術者のイメージにより、形も威力も変わる。僕の魔術適性は光。それもSランク。魔術界の最高ランクに位置する。光とは攻守の両方に優れた万能属性。
楓くんの分解の壁を越えたあの魔術を想像する。音速を超え、光速にあと少しで届く速度。僕の放つ魔術内最強最速の一撃。光。太陽の光を。この世界一帯を照らしている光から力を授かる。
放つまでの時間は十分ある。楓くんとの戦いでは一瞬たりとも無駄にできなかったが、今は違う。できる限り多くの力を集め、凝縮させる。
訓練所の上空に太陽とは別の光の塊が一つ。小さい。小さいが確かな存在感がある。
初めて見た兵士やペネイトさんは光を見上げてポカンとしている。
光を増幅させたり、複雑な操作をしたりはしない。
僕はただ光を人形に叩きつけた。
腕を振り下ろし、それに合わせて閃光が訓練所を満たす。光から一本の柱が落ちる。超速で放たれた光の柱は人形を飲み込んだ。
ここにいた何人が知覚できたか。数人もいないと思う。光で眩しかったのもあるかもしれないけど、光速手前の一撃を捉えたものは少ない。
僕が把握してるだけでは六人。副団長のマークさん。氷河の生徒会長。拳王の吉岡くん。暗殺の影宮くん。王才の戸塚くん。
この国のお姫様。ペネイト・ネクシーさん。
はじめの五人は初めから分かっていたがペネイトさんまで見えていると思っていなかった。偶然じゃないことも分かってる。一度見ただけで、魔術の原理を見抜いている。
何者なんだ?ペネイトさん……。
先程までの閃光は消え失せ、ほかの人たちも目が慣れてきたのだろうあちこちで声が上がっている。
人形たちは大地ごと消え失せた。多くの兵士達は感嘆の声を出している。その他は少し嫉妬が混ざってるかな。
「す、すごいです光輝様!!どうやったのですか!?今の!?」
ペネイトさんが笑顔で声をかけてくれた。
嬉しいのだが、演技なのかと思うと少し残念だ。
この日はその場で解散となった。ペネイトさんのことがどうしても気になった僕と、話を聞いてみたいと思った副団長さんを残して。
僕が話があると言うと、副団長さんは二つ返事で了承してくれた。
「光輝どうした。なにかあったのか?」
「……はい。ペネイトさんは一体何者なのですか?」
「……というと?」
「僕の魔術を完全に見えた人が六人いました。会長。吉岡くん。影宮くん。戸塚くん。副団長さん。それとペネイトさん。あれは普通の人間が見えるものでは無いはずです」
僕の話に「ふむ」と一言呟くと、副団長さんはあたりを見回りした。
そして少し距離を縮めて答えを教えてくれた。
「……姫はこの国随一の魔法師なんだよ。転移、召喚を得意とする魔法師だ。世界に二人しかいない召喚魔法の使い手だ。MPも保有魔力も異常としか言えん。戦争に参加することもある」
「一国のお姫様がですか?」
「姫たっての希望だ。民たる兵のみを向かわせるのはおかしい、とな」
「そうですか。ではなぜ、彼女は嘘をついたんですか?見えていたんですよね。やっぱり」
「そうだな。見えていたろうな。あれくらい聖騎士なら楽にやってみせるだろうからな。その嘘が癇に障ったなら申し訳なかった。でも、姫をせめないでやって欲しい。姫にはわからないんだよ、男への接し方ってやつがな。男をたてるべきなのか、親しくするべきなのか」
副団長さんは神妙な顔で語った。副団長だけあって城勤務が長いのだろう。孫や娘を思う者のような表情を浮かべている。
僕も戦場で生きてきた人の身だ。姫の気持ちが分からないわけではない。物心ついた頃には魔術を使って癒していたし、中学生になった時には人の首を飛ばしていた。
ランクの高い魔術師、天才、恩恵持ちは皆そうだ。一般的な生活など送ったことは無い。普通の暮らしをしたくても国からの招集がかかれば、強制連行。楓くんや今の僕くらいのランクなら国に逆らうことも意見を言うことも許される。敵にならない条件で戦争の参加を拒否することも可能だ。でも幼い頃からの習慣は抜けない。今でこそ、能力を持った生徒が通える学校があるから良いが、数年前までは無かったので大変だった。常識など誰も教えてくれなかった。怖がられていたから。
だから人への接し方がわからないという姫の気持ちは痛いほどわかる。
「……僕はどうすればいいんでしょうか。僕はペネイトさんともっと仲良くしたいです。一緒に笑って、一緒に泣いて、本音を分かり合えるような関係になりたいです」
ペネイトさんの本物の笑顔が見たい。彼女の為なら僕は魔王だろうと、敵国の王だろうと殺してみせる。
歪んでるって?仕方ないよ。僕は最高位魔術師。今まで普通じゃなかったんだ。これから普通になればいい、なんてことは思わない。何も変わらない。自分がしたいことをするだけだからね。
「そんな気負うなよ?姫はお前ら異世界人を酷使することには反対らしい。それにお前らは聖騎士と同等の力を持ってはいるが、スキルやレベルが足りん。とりあえずは訓練だぞ」
「ええ。分かってます。……少し気になったんですけど楓くんはどこにいるんですか?」
人形を使った測定にはいなかった。僕以外に人形を壊したのは会長と吉岡くんだけだった。楓くんなら簡単に壊せるだろうから……別訓練とかあったのかな?
腕を組んで少し悩む仕草をみせた副団長さんは渋々といった感じで口を開いた。
「これは言ってもいいのか分からんが……実は彼と石田怜、篠崎桜は魔法の才能が皆無でな。魔法が使えないんじゃ勇者にしては弱い。MPも1しかないようなんでどうするかと王と悩んでいたんで、あいつらに意見を聞いたら旅に出るとか……。異世界人の考えはよく分からんな」
ん、んん?た、旅に出た?というか彼等が弱い?
楓くんは言わずもがな。怜くんは様々な炎を操り、軍を燃やしたっていう伝説がある。篠崎さんも癒し手の中ではかなりの有名人だ。
「あの副団長さん?彼らの能力は聞きましたか?僕らでいう魔術や才能というやつなんですが」
「あー。忘れてたわ。でもあいつらもそんなこと言ってなかったし、悪いが大したことないんじゃないか?」
わっはっはと豪快に笑う副団長さん。
副団長さん……ランクの高い恩恵持ちは本当に凄いんですよ。複数持ちなんて化物ですよ?それが彼等ですよ?
「副団長さん……」
「ん?どうかしたか?まさか……そうでもなかった感じか?」
「えぇ……。彼等はうちのクラスでも上位です。一人で軍隊を相手取るレベルの」
衝撃の事実を知った副団長さん。口を開いたまま固まった副団長さんは段々とかおが青ざめていく。
「……まじか・・・」
僕らだけいる静かな訓練所で副団長さんのその声だけがひびいた。
これからの戦い結構厳しくなるかも……ね。
ーーーーーーー
はたつばです。
今回の更新は
主人公side短い
勇者side長い
でした。
時間かかったのは勇者が長かったからです。言い訳じゃないよ。難しいんです。はたつばさんの文才じゃ大変なんです。
失礼しました。
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