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第一章 召喚されたからって勇者はしない
第五話 盗賊討伐のお時間です
しおりを挟む悲鳴が聞こえた馬車のすぐ近く。大きな木に隠れ、様子を窺う。気分は忍者とかスパイとかです。つい口で「サササ」とか言ってしまった。
しかし、俺のウキウキな心境とは裏腹に現場は悲惨な状況であった。
馬はぐったりとして横に倒れ、数人の男達が無残にも斬り殺されている。殺された男達の内訳は豚が一人に、若い護衛であろう男が四人。豚の服は街の住人のものよりも高そうだ。貴族か商人ってとこだろうか?
男には興味無いので、声の主たる女性を助け出したいのだが、見当たらない。馬車の外には殺された男達と、盗賊が数人だけ。
俺の耳が正常ならばここに女性がいるはずなのだが……。そう考えると馬車の中ってことか?
これだけの惨劇が起こってて一度も外に顔を見せないのもおかしな話だが……。うん。気にしても仕方が無い。盗賊を先に退治しちゃいますかね。
よし、まずは実験も兼ねて……ってあれ?
あー…あ…武器ってどうやって取り出すんだ……?・・・駄女神から貰った刀の出し方がわからん。
駄女神が埋め合わせでくれた黒刀・月姫……。黒刀・・・。使いてぇ…!絶対かっこいいじゃないかっ!
だが、時間が無い。くぅ!!仕方ない、ここは俺の恩恵に頼ることにしよう。
便利系恩恵シリーズ『創造』
自分がイメージした形ある物を創造する力。武器や部品、金属までも量産可能な素晴らしい恩恵なのだ。面倒くさい手順を踏めば武器の改造もできたりする。
本当は黒刀・月姫を使ってみたかったのだが、出ないのだからどうしようもないのだ。
イメージするのは鋭さと軽さを追求したナイフ。それをなんと二十本!!
多いと思うかもしれないが、俺の国にはこんな言葉がある。「多いに越したことはない」、と。余れば捨てます。いいんですよ。倒せればそれで。
敵は馬車の外に見えるだけで三人。馬車はそれ程大きくないので、中にもあまり人はいないは〈馬車の中には盗賊が二人、女性が一人います。〉ず・・・。……ナイスフォローです世界眼さん。
さて、慎重にいこうか。馬車の外の敵は声を出させず殺す。中の盗賊に気付かれたら中にいる女性が人質になりかねんからな。
まずはナイフの投擲で二人纏めて殺る。手前のやつの一直線上にもう一人が来る瞬間を狙う。鋭さと軽さを求めたこのナイフなら問題なく殺れるはずだ。
……今だ!!
数々の戦いを生き抜いてきた俺が放つ最速の一撃。避けることなど出来るはずもなく、いとも簡単に盗賊aの頭が飛ぶ。ナイフの勢いは止まらず、奥にきた盗賊bを射抜いた。声を出すことも出来ず、a,bは地に伏した。
死体が盗賊cに気付かれるとまずいので、すぐさま盗賊cの後ろにまわる。そして、創造したナイフを取り出し、首に突き立てる。盗賊cはa,bと同じく静かに死んでいった。
うしっ!外掃除完了!!
小さくガッツポーズをして、第一関門を突破したことに喜ぶ。
残りは馬車の中だけなんだが……。ナイフだけでは心許ないか?便利系恩恵シリーズの『転移』と併用すれば楽に終わりそうだな。
この『転移』という恩恵。自分の任意の場所に好きなものを飛ばすことが出来るというなんとも便利な恩恵なのだが、戦闘でもなかなかに使えたりする。
では、参る!
まず馬車に乗り込む前に、二本のナイフを馬車とは逆の方向にぶん投げておく。すぐに馬車に乗り込み、状況を確認する。
中では、つるつるの頭を持ったガチマッチョと、金髪モヒカンの細マッチョが、十五歳くらいの少女の服に手をかけていた。
おっと、危ない。もう少しでアダルティーな展開を目撃するところだった・・・。童貞の俺には見知らぬ人の行為など目に毒でしかない。
これ以上はまずいので、
「はっはっは!!そこまでだ小悪党共!!この俺の前で跪くがいいっ!」
叫ぶ俺にマッチョズと女の子の視線が突き刺さる。
視線が痛いが、これも作戦のうちだ。まずは俺に注目を集めることが重要だった。なるべく早く女の子を解放してあげないといけないしね。
俺のことを見て、数秒固まったあと、ガチマッチョ兄さんはニヤニヤと笑う。
「おいおい誰だ?テメェは。さっきの連中の中にはいなかったはずだが、隠れてたのか?」
「俺か?俺は通りすがりのお兄さんだ」
「……なんだ、ただのアホか」
「ゲヘヘへへへ。兄貴!俺が殺っちまってもいいでーーー
グサリ
「……っ!!モヒカーー
グサリ
ナイフがマッチョズの脳天を突き抜ける。
俺は待たないよ?そんなお決まりなセリフ言わせるわけがなかろう。
ちなみに、脳天グサリは転移の応用です。さっき逆方向に投げたナイフを、運動エネルギーそのままにマッチョズの頭上に転移させました。
セリフの途中でグサリされ、倒れたマッチョズを馬車の外に放り投げる。むさい男はポイッ!
俺が見たいのはマッチョズではなく、隠された美少女だけなのだ。
「大丈夫か、あんた。襲われてたみたいだけど」
しまった!!生徒会長以外の人の女の子と話すのなんて久しぶりだから緊張しすぎてぶっきらぼうに言ってしまった!!これでは、怖がられてしまうか!?
しかし、いくら化物と呼ばれた俺でも時は巻き戻せない。
俺の声に反応して、美少女が顔を上げる。
実は今まで美少女と言ってきたが、はっきりと顔を見ていないのでこれが初めてのお顔拝見なんだよね。
だが、現実は甘くなかった。
その少女は、顔が潰されていた。
「あなたは……?また、私を殴るんですか?」
額は凹み、眼球は潰され、鼻は折れ曲がっている。女の子がしていていい顔ではない。目が死んでいる。精神的にもう限界が近いのだろう。悲鳴をあげることもない。自分の命を諦めているのだろう。
なぜだろうか、自分とは無関係なのに、怒りが湧いてくる。これをしたのはマッチョズでもその他の盗賊でもないだろう。
この元凶はあの豚だ。
なぜか。理由は単純で明快。
この女の子が先程から小声でだが、何度も何度も繰り返している言葉を聞いてしまったからだ。
「……申し訳ございません……ご主人様。申し訳ございません……ご主人様。申し訳ございません……ご主人様」
そうずっと呪いのように呟いているのだ。洗脳のようだな。逆らうことを許さない。肉体を虐め、反抗する意思をへし折っていたのだ。
この世界の金持ちは全員こんなことをするのだろうか。許せない。
「嬢ちゃんじっとしてな」
俺は彼女の顔全体を軽く撫でた。俺が触れたところから再生が始まり、彼女の顔を美しいものに戻す。
便利系恩恵シリーズ『再生』。あるべき姿に戻す力。
豚への怒りは収まりそうにないが、彼女にぶつける訳にはいかない。
「今、一体何が……。痛みが消えて・・・あれ?」
美少女は自分の顔を何度も触って確かめる。丸みを帯びた綺麗な額を。よく前が見える目を。整った鼻を。
「『創造』……見てみな」
俺は鏡を創造して、少女の顔を映した。
その瞬間ーー
「えっ……!目が、鼻が・・・顔が戻ってる・・・?……えっえっ?……うぐ、ひぐ、ううう。うわーーーん、びえぇぇぇぇんんんん」
少女は自分の顔を見て驚愕し、涙を流した。相当辛い思いをしてきたのだろう。今までの鬱憤を晴らすように嗚咽を漏らし、泣きじゃくっている。
諦めていた生を手にし、自分を虐めていた主人も死んでいる。久しぶりすぎる生きた心地。溢れ出る喜びに涙が止まらないようだ。しばらくすれば、洗脳され、固まった考えも少しずつ変わっていき、生への執着が出てくるだろう。
数分泣き続けて、ようやく収まったようで、今度は向こう側から話しかけてきた。
「あの……あなた様が顔を治してくれたんでしょうか?」
「落ち着いたか。一応、顔を治したのは俺だ」
「あ、あの!!なにかお礼をしたいんですけど……!」
ほお……。お礼とな?この血気盛んな高校生にお礼とな?相手は美少女。問題ない。問題ない……?いや、大問題ですよね。アダルティーダメ絶対。
だが、この手のタイプはお礼を受け取るまで終わらない。ならば……
「ならば、俺についてこい。俺の旅に付き合ってほしい」
「・・・はい?」
俺の返答が予想外だったのか、美少女は鳩が豆鉄砲くらったような顔をした。リアルでこんな顔する人初めて見ました。でも、美少女だと様になりますね。可愛い。
「俺について来い。俺の旅に付き合って欲しい」
「え……えっ?そんなことでいいんですか?身よりもないので、私としてはありがたい話ではあるのですが……」
「構わん。俺の隣にいてくれればそれでいい。これから先、何かあったら俺が助けてやる。どうだ?」
「お、お供させていただきます!!私はマリーと申します。宜しくお願いします。ご主人様!」
ご、ご主人様だと……?やけに大胆ではないか。まさか、俺を誘っているのか?いやまて、落ち着け俺。今まで何度も勘違いしてはフラれてきたではないか。ここは慎重にだな。お付き合いというのはお互いのことをよく理解した者同士がするものだ。俺達はまだ出会って数分の関係。もう少し待つべきだ。結果に急いではいけない。この世には出会って数秒ラフラブカップルなど有り得ないのだ。
冷静に、俺は紳士だ。なるべく澄ました顔で、いい声で話すんだ!
「お、俺は黒田 楓。これからよろしくな」
「はいっ!宜しくお願いします!!」
何この子の笑顔。女神様やー。
向こうでも、この世界でもぼっちたる俺はどうせなら多くの仲間と旅をしたいと思っていた。一人ではストレスで死んでいただろう。
ここで、マリーと出会えたのは幸運だった。
それにこのままハーレム目指してもいいかなとも思ってる。異世界少女可愛すぎるんだもの……。
異世界に来てまだ一日もたっていないが、取り敢えず美少女確保ーーー!!!!!
ーーーーーーーー
どうもはたつばです。
読者様よりご指摘頂きました誤字の修正を致しました。
ご迷惑をおかけしました。
その他にも誤字や矛盾点があれば、教えて下さると助かります。
失礼しました。
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