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第七章 勇者するより旅行だろ・・・?

第百三十一話 最凶

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「・・・なにが、起きたんだ?」


  辛うじてそれを口に出したバルザックは恐らく元凶であろう男を目線を動かすだけで見た。
  バチバチと音を立てている雷を纏ったアルバート。この中で邪竜を丸ごと消し飛ばすことが出来るのは彼だけ・・・・・・彼だけなのだが、なぜ彼はアレを殺せたのか。バルザックにはそれが真実なのかも分からなかったが、アルバートのドヤ顔を見るに見たままな気がしてくる。

  人類種が生み出した邪の塊。
  それは定められた運命の中では人類種が力を集結して倒さなければならない存在のはずだ。選ばれた英雄の中にいる真の英雄が必要なはずだった。

  なのに。

  彼は殺ってみせた。


  前提が崩れる。
  人外の存在である彼はなぜ邪竜を殺せたのか。
  人外の者が殺した際に起こる厄災は?その影さえも見えず、戦争が続いているのはなぜだ?


  そんな中で、唯一同じ人外である存在がアルバートに説明を求めた。ケモナー大興奮の最高の毛並みを持った獣。フェンリルだ。神に属する一人として、聞かねばならなかった。
  何がどうなっている?と。


「裏方が思ったよりも早く動いていてな。邪魔者を先に消した迄だよ」

「邪魔者じゃと?」

「アジ・ダハーカ。この世界にはまだ早い。奴は戦力が揃った時にしか現れないはずだ。見合った人材が見合った力になるまではその世界に来ることは無い・・・らしいからな」

「・・・・・・貴様、何者だ?神の領域にいるとは思っていたが、世界の裏側を知るものは今の神にはいないはずだが?」

「今の神が知らねぇなら、知っている神か、その世界にいるやつに聞けばいいだけだろ。・・・っと、これ以上言うと怒られそうだ」

「逃がすと思うか?」

「逃げれないと思うか?てか、皆殺しにしないだけ良かったろ」


  殺気が漏れる。

  ここに長いこといたくない。そんな感情が伝わってくる。アジ・ダハーカを殺した時点でもう理から外れていることは理解出来た。フェンリルも神の端くれ。それらの区別くらいはつく。
  アルバートが数いる化物の一人ではなく、ピラミッドの上位に構える化物であることもよくわかった。

  そして、今ある異常事態。
  戦争の長期化、他世界の神や悪魔による侵略、化物たちによる荒らし行為、次々消えていく神々、終末の訪れ、世界の各地から溢れ出てくる闇の気配。

  それの黒幕、もしくはそれに通じる者。
  フェンリルは確信していた。アルバートはそのどちらかであると。








「この世界最後の試練はすぐに始まる。そこに俺たち化物は必要ない。・・・・・・このままでは、世界がひとつ消える事になるぜ」








  そう言い残し、アルバートは美女達とともに足跡を残すことなく消えてしまった。


  アジ・ダハーカはイレギュラーによって討たれた。
  世界最後の試練はすぐに始まることだろう。しかし、その場には他世界の神や悪魔、理を失った化物たちの席はない。

  あるべき物語のいるべき登場人物たちによって世界は救われなければならない。
  そうならなければ、世界はいつまでたっても前へへは進まない。人類の守護者はいつまでたっても解放されない。





 



  アルバートが偵察を終え、英雄達の元から消えたあと。進む戦争が終わりに近づき、強きもの達が疲弊してきたあたりだ。全員が種族のために命を削って戦う。

  そんな時だ。

  最後の試練が始まったのは。





「クックック!ハーハッハッハ!世界の支配者たる俺を差し置いて戦争とは、生意気ではないか?ん?」






  様々な存在を喰い殺してきた一欠片の正義も持っていない悪。

  この世界が産み落とした最後の試練。
  スキルが当たり前にあるこの世界。そこに生を受けた『侵略者』。スキルたちの悪を背負った悪の化身。


「悪魔を殺した。龍を殺した。そして、神を殺した。スキルの神も、創造神もこの俺が。殺したァ・・・・・・いや、喰った。くっくっく、あーハッハッはァァ!」


  片手で持つ大剣『人喰い』はもはや当初の原型を留めていない。
  喰った者によって変わる最凶の武器。当の本人が言っていたように、悪魔、龍、神を殺したことにより、人喰いは様々な能力、権能を補充する。そして、その力は侵略者へと流れていくのだ。

  そんな不敵な男とその連れたちがこの戦場、世界全体に見えるよう、姿が空に映し出される。
  空は曇り、世界を暗く照らす。

  闇の気配がたちこめる。
  世界各地、割れた地面から瘴気が盛れる。
  作物は腐り、人は咳を出す。世界はマイナスに動いている。あるはずの場所から正しい何かが抜け、そこにあるはずのない闇が紛れ込む。

  なぜ自分たちの肌が黒くなっているのか。
  それが空に映る男のせいだと分かるまでの道は険しくない。一直線だ。

  畑にいる農夫も宿屋の女将も、盗賊の下っ端男も娼婦も孤児院の子供たちも、誰も彼もが空に映る男のことを見た。

  この世界に存在する全てのスキルの大元。スキルを作り出したかの『神』を殺したこの男は全てのスキルを手に入れた。スキルを創り出す権能さえも吸収した。
  この男はこの世界における全権を握ったのだ。

  あぁ、これはまずい。

  そう思った時にはもう眠っていた。
  定められた力に満たないものはすでに命を引き取った。彼の姿を見るだけ命として散らされたのだ。

  この世界に潜む化物や神々はそれを察知した瞬間に思った。




  あぁ、なんて寂しい世界なんだ、と。





  世界から活気が消えたのがよくわかった。
  正気は失われた。世界は暗い闇が支配している。なんて寂しいんだ。たった一つの怨を持ったスキルが世界をイタズラに変えてしまった。

  この世界が育つのにどれだけの時が経ったのか、どれだけの歯車が動かされたのか。世界のテーマである『自由』とは本当にこの結末を望んでいたのか。
  自由意志を持ったスキルに潰されてしまう。

  ココ最近の世界は酷かった。命は軽く散り、そして遊びの中で呼び戻される。魂はすり減り、やがて輪廻に戻れないほどの痛みとなるのだろう。
  なんて悲しいことか。
  自由とは、自由とはどれだけの地獄だったのか。


  全てをリセットし、見直した『化物』とその全てを知っているたった一つの『世界』は別の状況に置かれながら、同じ涙を流す。
  やはりダメだった。
  化物が世界に介入するべきではなかったのだ。これがその末路だというのならば、なんて残酷か。世界を知らぬ、真理を知らぬこと、知らせぬことがここに繋がるのか。


  激動の数年間だった。
  とある世界からの勇者召喚を皮切りに、流れ入っていった『黒』が世界を腐らせた。もし、その勇者召喚に『黒』が混じっていなければ、こうはならなかった。
  化物を恐れさせるメイドが生まれたのも、絶望に塗り替える竜が誕生したのも、世界一恐ろしいあの場所が出来たのも、世界バランスを崩すようなジョーカーたちが量産されたのも・・・・・・それ全てがたった一つの『黒』による汚染だった。

  全て遊びだった。

  それならば、なんの後悔もあるまい。
  現実、無意識だったとしても彼に限らぬ『黒』はみな世界を幾つも破壊している。崩壊させている。そこには一片の同情すらない。
  黒に限らず、化物たちは皆そうだ。普通を目指す青年も、全ての限界に挑む王も、調教師も、魔法使いも、研究者も。世界を破壊したとしても、彼らは心など痛まないし、反省してその行動をやめることもない。
  目障りだから消した。

  それが化物の世界だ。



  今回はそれの一つ・・・・・・ではない。



  違う。
  破壊してきた無蔵の世界とは違う。初めの出来事、あの女神の殺害未遂事件だ。あのあと、黒は召喚された。その時、その女神が言った言葉「・・・・・・頑張ってね」・・・たったそれだけの言葉で『黒』にとってこの世界は『どうでもいいもの』ではなくなった。

  人類の守護者が、自主的に護りたい・・・そう願った世界だった。

  なのに、終わった。
  全て。育んできた命。


「・・・クソが・・・」


  最悪だ。
  やっと訪れると思っていた平穏がまた崩れる。

  これが貴様らの狙いなのか。
  そうなのか、そうなんだな?















「黒田 颯馬」
















  敵と言うならば、たとえ身内なのだとしても、たとえ相手が目を逸らし続けてきた最強であったとしても、殺すしかない。

  俺の平穏を返せ。
  俺の敷地に入ることは何人たりとも許さん。土足で乗り上げたその罪、全てで支払ってもらおうか。



  ここからが本当の最後。

  黒田 楓の最終章。
  平和を手に入れるために無理やり作られたシナリオに沿って、彼は黒田の頂点を絞め殺さねばならない。





「正解だ、楓」





  いつの間にかキアラたちはいなくなっている。
  どうやら足止めは終わりらしい。

  なぜこの男に関しては一切強欲の力が働かないのかは知らない。その裏にどんなトリックが隠されているのかは楓にもわからないが、この男が今回の一件の黒幕であることは間違いない。


「俺達がいない十年間でアンタに何があった」


  このずる賢い化物がわざわざ黒田楓を敵に回すというのにはそれ相応の理由があるはずだ。
  しかし、それをラスボスがラスボスに問いかけたとしても、


「理由なんてもんはねぇよ」


  答えてくれるはずもない。


「それに、俺を殺せば強欲が使えるはずだ。知るのがそん時だったとしても、遅くはねぇだろ?」

「遅い。アンタが俺の前に現れたってことは、俺側の化物たちは『侵略者』の相手ができないわけだろ?」


  今頃、この世界にいる自由組たちは颯馬の仲間たちに行く手を阻まれている事だろう。翔太も、WBN2T3oも、マーリンも、マリアも、ナタリアも。どれだけ上位の化物であったとしても、それに対応できる人間は颯馬が準備しているはず。
  この男はどこまでも抜け目ない。
  どうせ楓たちがいない十年のあいだに根回しや味方の強化を徹底的に行ったのだろう。キアラたちが頂点たる楓を押し留めることができたのもそれの成果だ。


  侵略者が世界を破壊するであろうその時、彼らは一つも手を出せない。


  それが彼らの狙い。

  何が原因でそんなことをしてるのか。
  楓には一切分からなかった。


「あんたら、頭おかしいよ」

「はっ、それで構わん。俺には俺でやらねばならん事がある。悪いな」

「・・・・・・後悔するなよ」

「あぁ。・・・まぁ、ちっとばかし遊んでやるよ」


  黒田颯馬は最強である。

  その力、そのスピード、その再生能力、その異能、全てにおいて彼はずば抜けている。もともと、黒田の中でも異質であった彼がその特殊な道を突き進んだ結果が今。いつどこで何をして過ごし、どのような場所で生きていればこんな化物が出来上がるのか。
  それを知るのは仲間の中でも、悪友『白金 時也』だけだ。

  チートキャラとバグキャラ。

  黒田颯馬と黒田楓。

  全世界の終わりくらいでしか戦わないような反則級化物二人がたった一つの世界のためにその反則を振りかざす。
  そこに意味があるのか・・・・・・ない。
  戦うことに意味なんてものは無い。最強が衝突する理由なんてものはそうそう簡単に作り出せはしない。

  エゴとエゴ、正義と善性、憎悪と邪悪。



  争いだ。

  黒田颯馬の邪悪な笑みが楓の脳に焼き付く。
  ここからは本気の戦い。黒田颯馬が滅多に見せることの無い最凶としての力。邪悪の化身としての力。




「かかってきな」




  最凶が雷を纏ってそう言った。









  






  そして、世界の危機は。
  現れた厄災。本当の最後の試練。誰が誰なのかは一切関係ない。その悪を滅するために動け。世界よ、今こそひとつになるのだ。

  それしか、世界を救い方法はない。

  この世界に1人でも、侵略者を単体止めることが出来る者がはたして残っているだろうか。
  答えは否だ。
  絶対悪を相手に個では戦えない。

  討伐は困難を極めるだろう。

  だがまぁ、言えることとしては。

  やるしかない、ということだ。



「ふはははは!俺は余裕だからな。少しばかりの猶予をやろう。この俺を倒すために精鋭をよこせ。送り先は『絶望深淵のダンジョン』だ。では、待っているぞ」



  世界の表と裏で同時に二つの争いが始まった。










―――――――

はたつばです。

納得いく形に持っていくのが難しいですね。
結末は決まっていても、そこまでがっ!語彙力うぅぅ!!文章力うぅぅ!!

というわけで、
もう少しで完結です。最後まで頑張りますのでお付き合いよろぴこ!!!!!
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