上 下
19 / 34

第十八話 VS金髪魔人少年

しおりを挟む

◇キアラ視点

  いくつもの魔法陣が展開され、その全てが私たちに向く。その魔法陣全てが同時に完成し、完成された魔法が発射された。それらはいずれも違う魔法。多種多様な魔法が数え切れないほど放たれた。

  ばかげています。

  こんな魔法陣を乱用するような戦闘方法始めてみました。魔法陣を同時展開するだけでも普通の魔法使いではできません。ましてや、部屋を埋め尽くすほどの魔法陣を作り出すなんて・・・。

  魔法陣は詠唱をする魔法と比べて難易度が高く、それに比例して威力も高くなります。それがこれだけあるということは・・・。

「非常ォにまずィなァ」

  その通りですね。

「・・・死ね」

  放たれた魔法とともにミイラ男が走り出す。ミイラ男が来ずとも逃げられないため、死ぬだろうと思うんですが・・・。

  私とルシウスさんが死を覚悟した時、

――ゴッ!

  ミイラ男の体に穴が空き、横から打撃を受けたようにくの字で吹き飛んでいった。私たちに迫ってきていた魔法も突如として虚空に溶けた。
  その何もかもが、一瞬の出来事だった。

「・・・・・・貴様・・・なにものだ」

  金髪少年が誰もいない場所に目をやり、話しかける。
  まさか・・・!

「ありゃりゃ・・・気付かれちゃったね。うーん、いい作戦だと思ったんだけどな~」
――ウゴ・・・・・・

  何も無いところから現れたのは、白金さんとトロルさんだった。

  ミイラ男への初撃は白金さん、その後吹き飛ばしと魔法を消したのはトロルさんでしょう。ミイラ男は体の殆どを失い、激突した壁に背を預けて座っています。ミイラ男に関してはもう気にせずとも良さそうです。
  白金さん・・・奇襲なんてできたんですね。

「・・・なめてくれるっ!!」

  白金さんとトロルさんの登場に苛立ちが募っていく少年。悪態をつき、再び魔法陣を展開させ始めました。
  トロルさんが魔法を打ち消したことはバレているでしょう。
  これだけの魔法陣を同時に展開できる魔人ですから、トロルさんを避けて私たちに魔法を当てることなど容易いことだと思います。
  そうなると・・・一番危険なのは白金さん・・・ですかね。

  魔法陣が完成し、そこから魔法が出現すると――

「・・・死ねっ!」

「させんよ」

  ギルド内に突風が起き、全ての魔法が魔方陣ごと破壊された。黒い髪に黒い服。引き締まった体に長い手足。不敵な笑みを浮かべる最強の戦士。

  私たちのリーダーが駆けつけてくれました。

「颯馬さん!」
「颯馬っ!」

「ふっふっふ!僕の方が速かったようだね颯馬!」

「うっせー馬鹿。だが、よく時間を稼いだな」

  もう何も心配はいりません。
  我らがリーダーは最強なんですから!

「さて、魔人。お前の強者タイムもここで終わり。さっさと退場していただこうか」

「・・・ぬかせ、雑種が・・・」

  再び魔法陣が展開される。しかし、次は少年も動く。自分の周りに展開した完成済みの魔法陣をいくつかくぐると、速度が数倍になり、少年から感じる力、威圧感が増していった。

「ほぉ、面白い戦闘方法だな。俺も少しばかり本気を見せてやる」

  颯馬さんが動き出すと、その姿が消え、攻撃用の魔法陣がすべて破壊される。

  原理はわかりませんが、凄いことだけは分かります。展開された魔法陣は術者を止めなければ消えないはずです。どうやったのでしょうか・・・。

  それを見た少年はそれ以上攻撃用の魔法陣を展開させることはなく、支援用の魔法陣ばかりを作り、颯馬さんと肉弾戦を続けながら魔法陣を通過するという芸当を見せていた。

  颯馬さんの一撃を受けても死なないというのは、魔法陣による強化の影響でしょうか。とてつもない腕前です。

  二人の戦いはギルド内では収まらず、天井を突き抜けて空中戦へと発展していく。

  速さでは圧倒的に颯馬さんが上ですが、魔人の防御力が高く、現在は互角の戦いを繰り広げています。

  颯馬さんが苦戦している姿は初めて見ました。
  ですが、その顔は笑っていてとても楽しそうです。戦闘狂というやつでしょうか。今までの敵は颯馬さんの満足いく敵ではなかったのでしょう。今をとても楽しんでいるように見えますね。

  化け物同士の戦いは私や白金さんの目では追うことはできず、ルシウスさんも動いている二人の姿が線のようにしか見えないようで、私達は何も出来ないでいました。
  トロルさんは今、ミイラ男をボコボコにしています。そろそろやめて上げてください。剣の手はバキバキに折られ、ミイラ男の包帯が血で染まっています。颯馬さんと魔人の戦いも気になりますが、鼻歌交じりに痛めつけているトロルさんも気になるんです!白金さん飼い主なんだから注意しに行ってくださいよっ!

  無言の圧というものを送っていますが、白金さんは気づきません。

「キアラ、このままなにもしねェわけにはいかんだろう。民間人の手当やら瓦礫の撤去やら。俺たちに出来そォなことを街で探すぞ」

  それもそうです。

「わかりました」

  このまま棒立ちしていてはなんの役にも立てませんからね。

「ほら、白金さんも行きますよ!」

「え?あ、うん。了解」

  さっきからうわの空状態だった白金さんを正気に戻して、引っ張っていく。トロルさんもこちらの動きに気が付き、ベチャベチャになったミイラ男をその場に捨てて私たちを追いかけてくる。

  颯馬さんの手伝いはできません。
  ・・・絶対に勝ってくださいね、颯馬さん。


◇◆◇◆◇◆◇


◇颯馬視点

  ちっ、こいつなかなか強いな・・・!
  ギルド内でこれを出していなかったのはありがたい限りだな。あの場でこの状態だったならば、あいつら三人は死んでいた。

「・・・貴様強いな・・・!」

  魔人の少年も俺に対して同じ感想を抱いているようだ。
  だが、話す余裕、考える余裕があるだけに、あいつもまだ本気ってわけじゃなさそうだ。
  さっきから腹へのダメージを避けているあたり、なにか隠し持ってるか、そこが弱点なのか・・・いずれにせよ、腹部を狙うのがいいってことだな。
  もしかしたら、こいつが本気を出さないのも、腹に隠しているなにかが原因なのかもな。もしもそれが、であった場合ギルドを襲ったことにも納得がいく。王都では無く、わざわざこのミアの街を襲ったことにもな。

  魔人っつう殺戮兵器が大量生産されたことも気掛かりだった。
  こいつを見た瞬間にある組織または国の犯行であることが確信に変わった。ここに来るまでに殺した魔人は俺がギルドに向かうのを死ぬ気で止めようとはしなかった。それから見ただけでも、こいつがラスボスってことは無いだろう。
  つまり、こいつは今、こいつより上位のものの御使いで来てる。んで、腹ん中にあるのはそいつへの捧げ物ってわけだ。
  そうなると・・・この辺で・・・

「貴様が強いのは分かった。・・・ここはお互いのために退くのはどうだ?」

  ほらきた。
  俺が執拗に腹を狙っていたことに気付いたのだろう。それを傷つけないため、確実に運ぶため。これ以上の消耗は考えられない。それに、こいつが警戒していたギルドマスターがいつ帰ってくるかもわからないからな。ここで延々バトルってわけにもいかないのだろう。

  俺的にも、この辺でひいてくれると助かるんだが・・・・・・ただ引き下がるのは癪。バカのふりでもしてみるか?

「なぜこの街を襲った!目的を言え!」

  俺に演技の才能があると期待しよう。
  
「崇高なる目的のためだ」

「その目的は・・・」

  俺がそう尋ねようとした時、やつの右手の甲が光った。
  あれはまさか・・・

「させねぇよっ!」 

  俺の読みが正しければ、転移に似た魔法陣だろう。速さでは勝てないと踏んで転移を選択するとは。少々バカにしすぎだぞ。

  神速で魔人の右肩を吹き飛ばす。

  敵の全貌が見えない以上、下手に手札を晒すような真似をしたくなかったのだが、盗まれた物を知るためならば使うこともやむ無し。

「さて、まだ逃げる算段があるはずだが・・・そこに抱えてるものの使い道くらいは教えていってくれや」

  多少余裕を見せておけば、話してくれるかもしれないからな。

「・・・複製。・・・おっと、時間のようだ」

  ニヤリ、と不敵に笑って魔人はその場から姿を消した。

  ・・・時間差の転移魔法陣・・・か。

「ちっ、・・・こーれは・・・・・・やられたわ」

  この世界の全てを知っている訳では無い。ある程度予想できることはいくつもの視点から見て確かかどうか判断する。しかし、時間差のは想像していなかった。
  俺の知識不足が招いた結果だ。
  こりゃ一本取られましたな。
  だが、『複製』これはキーワードっぽいな。魔人が嘘をついている可能性は高い。複製されたものなのか、複製するものなのか。いずれにせよ、相手側が厄介なものの二つ目を手に入れたことに変わりはない。

  こりゃ、ギルドマスターに詳細を語って頂きたいな。

  ま、この程度の被害で収まってよかった。俺ひとりでは絶対に無理だった。黒田だからと奢らずに仲間を増やしておいて良かった。俺が死なないだけではダメなのだ。守れなければその力には何も意味がない。
  俺は俺の力を使うために仲間が必要だった。周りを気にしないで戦えるだけの頼れる仲間達がな。

「・・・・・・俺も瓦礫撤去に向かうとするか」

  ここで何もせずにいるわけにもいかん。
  ・・・俺達の家が無事ならばいいんだが・・・・・・壊れてたら白金の負担がさらに増える。

  あーあ、めんどくせぇなぁ・・・




――――――

はたつばです。

つい最近、六話分の溜めをつくって、みんなで旅行に行ってきました。みんなで京都の町並みを悠々と眺め、インスタへと集合写真をアップしました。いいねも沢山貰えて、最高の休日を送りました。


・・・・・・という、悲しい夢を見ました。
溜めなんてありません。毎度ギリギリです。旅行に行ったのは以前秘宝感に行ったあの二人です。お寺の前で鷹のポーズをとったむかつく写真だけが送られてきました。

あ、はたつばは八○橋が大好きです。|ω・)チラ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...