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43 囚われのパメラ 前編
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ガイルが審問官ユーリの囚われの身になった直後、パメラはガイルを助けるために必死になって伝手を求めた。
王都には親しい友人もおらず、第三王子マティアスの側近と名乗った二人の若い騎士――レックスとアルフレッドの力になるとの申し出に連れて行かれた王子府にはマティアスの姿はなかった。
豪華な調度品のある応接室で待たされるパメラは、剣を帯びたまま応接用の椅子に座っている。目の前には、王都で流行っている香草茶がこれまた見事なカップで出され、対面に座るレックスが自身も口にしながらにこやかに勧めてきた。
ただの冒険者としての待遇ではない、貴賓としての扱われようにパメラは困惑を隠せない。
立ち上る湯気の香りはとても複雑でパメラとしてはあまり好みではなかったけれど、気がつけば飲み干してしまっていた。ガイルが捕まってから落ち着くこともなく歩き詰めの身が、喉の渇きを想い出したのである。
さらに一杯勧めようとしたレックスがポットに手を伸ばしたところで応接室の扉が叩かれた。部屋の入口に立ったままだったアルフレッドが王子府の役人らしき者を導き入れる。男は二人に耳打ちをしてすぐに退室した。
「ここへお連れしろと言っておいて、またあのお方の悪い癖が出たか」
「だったら俺は王子に言われていた手続きを正式に済ませてから行くことにする。何もかも気に入らんが命令だからな。あとは任せたぞ」
「仕方ありませんね。そちらはお願いします」
困ったように笑うレックスを残して不機嫌そうなアルフレッドは足早に去った。
ここまでの道中で二人を観察していたパメラは、まだ話がしやすそうなレックスが残ったことに安堵を覚える。
アルフレッドは、パメラに対して最初から口調も態度も厳しく、パメラは苦手意識を持っていた。
「パメラさん、もう少しここでお過ごしいただくことになってしまいそうです。本当に申し訳ない」
「でしたら時間が惜しいので冒険者ギルドの方へ行こうと思います。どうもありがとう――」
できるだけ早くガイルを救いたかったので、権力者へ近づくなんて普段であれば決してやらないようなことをしてみたもののうまくいかない。都合の良い時だけ利用しようなど、ムシの良すぎることだったとパメラは考え直した。
第三王子には会えなかったけれど、労を取ってくれた若い騎士へ礼を述べて立とうとしたパメラの体が崩れ落ちる。
ほとんど開いていない彼女の目に口が裂けたように笑うレックスが映った。
「宮廷特製の麻酔用薬湯はいかかでしたか、と言っても聞こえていませんよね。本当はこのようなことをしたくはないのですが宮仕えの辛いところです」
まったく辛そうに見えない、それどころか楽しそうでさえあるレックスは、部屋の端にある瀟洒な装飾が施された真っ白い家具へと向かう。
ゆっくりと引き出しを開け、この美しい家具とは縁遠いにも程があるような太い鉄の枷を取り出した。
「最近のあの方の趣味をどうこう言うつもりはありませんが、これだけはよくわかりませんね。どうしてこんな無粋なものがいいのでしょうか。私としては以前のように荒縄で縛るほうが女性のエレガントさを引き出すと思えるのですが」
レックスは誰に聞かせるわけでもなく独り言を口にしながら、パメラの両手首と両足首へ鉄枷をはめて、そのまま肩に担ぎ上げた。
意識を失ったパメラのみぞおちがレックスの肩に当たるとパメラは苦悶の表情を浮かべる。
レックスは殊更楽しそうに豪奢な応接室を出て用意された馬車へと乗り込む。
行き先を告げられることなく動き出した馬車は王子府を出て暫く走ったところの大きな屋敷の裏門を通り、敷地の角にそびえ立つ塔の前で停まった。
「本日の獲物はこれまでにない逸品ですから王子のお気に召すのはもちろんのこと、さらに王子が満足されるように準備をしましょうか。囚われの姫の居る場所はやはり塔の最上階ですよね。シチュエーションまで完璧にするなんて、まったく私は部下の鏡です」
レックスはパメラを担いで馬車を降りるとゆっくり階段を昇る。階段を三階くらい昇ったところの木造りの扉を開けて入った壁際に、担いでいたパメラをゆっくり肩から下ろして壁にもたれ掛けて立たせる。
壁に四カ所埋め込まれた鉄環へパメラの両手の鉄枷を繋ぎ、両足も同じように繋ぐ。力なく項垂れた大の字のパメラをレックスはマジマジと見入った。
「本当に見事な髪の色ですね。それにこの肢体。罪なエルフですよ、あなたはっ」
レックスは右手でパメラの髪を掴み、左手で彼女の豊かな胸を激しく揉みしだく。
薬物で昏睡しているパメラであったが、レックスの乱暴な手つきに眉間に皺を寄せる。
「おっと、私としたことが主人より先に手を出してしまいました。危うく勘気を被るところです。私の無比の忠誠を食い物にするなんて本当にハイエルフとは魔性の生き物ですね」
己の欲望を棚に上げてパメラのせいにするレックス。
皮肉そうな笑みを浮かべた彼はもう一度強くパメラの胸を揉みしだきながら、足元に転がる鎖のついた鉄球を眺めた。
王都には親しい友人もおらず、第三王子マティアスの側近と名乗った二人の若い騎士――レックスとアルフレッドの力になるとの申し出に連れて行かれた王子府にはマティアスの姿はなかった。
豪華な調度品のある応接室で待たされるパメラは、剣を帯びたまま応接用の椅子に座っている。目の前には、王都で流行っている香草茶がこれまた見事なカップで出され、対面に座るレックスが自身も口にしながらにこやかに勧めてきた。
ただの冒険者としての待遇ではない、貴賓としての扱われようにパメラは困惑を隠せない。
立ち上る湯気の香りはとても複雑でパメラとしてはあまり好みではなかったけれど、気がつけば飲み干してしまっていた。ガイルが捕まってから落ち着くこともなく歩き詰めの身が、喉の渇きを想い出したのである。
さらに一杯勧めようとしたレックスがポットに手を伸ばしたところで応接室の扉が叩かれた。部屋の入口に立ったままだったアルフレッドが王子府の役人らしき者を導き入れる。男は二人に耳打ちをしてすぐに退室した。
「ここへお連れしろと言っておいて、またあのお方の悪い癖が出たか」
「だったら俺は王子に言われていた手続きを正式に済ませてから行くことにする。何もかも気に入らんが命令だからな。あとは任せたぞ」
「仕方ありませんね。そちらはお願いします」
困ったように笑うレックスを残して不機嫌そうなアルフレッドは足早に去った。
ここまでの道中で二人を観察していたパメラは、まだ話がしやすそうなレックスが残ったことに安堵を覚える。
アルフレッドは、パメラに対して最初から口調も態度も厳しく、パメラは苦手意識を持っていた。
「パメラさん、もう少しここでお過ごしいただくことになってしまいそうです。本当に申し訳ない」
「でしたら時間が惜しいので冒険者ギルドの方へ行こうと思います。どうもありがとう――」
できるだけ早くガイルを救いたかったので、権力者へ近づくなんて普段であれば決してやらないようなことをしてみたもののうまくいかない。都合の良い時だけ利用しようなど、ムシの良すぎることだったとパメラは考え直した。
第三王子には会えなかったけれど、労を取ってくれた若い騎士へ礼を述べて立とうとしたパメラの体が崩れ落ちる。
ほとんど開いていない彼女の目に口が裂けたように笑うレックスが映った。
「宮廷特製の麻酔用薬湯はいかかでしたか、と言っても聞こえていませんよね。本当はこのようなことをしたくはないのですが宮仕えの辛いところです」
まったく辛そうに見えない、それどころか楽しそうでさえあるレックスは、部屋の端にある瀟洒な装飾が施された真っ白い家具へと向かう。
ゆっくりと引き出しを開け、この美しい家具とは縁遠いにも程があるような太い鉄の枷を取り出した。
「最近のあの方の趣味をどうこう言うつもりはありませんが、これだけはよくわかりませんね。どうしてこんな無粋なものがいいのでしょうか。私としては以前のように荒縄で縛るほうが女性のエレガントさを引き出すと思えるのですが」
レックスは誰に聞かせるわけでもなく独り言を口にしながら、パメラの両手首と両足首へ鉄枷をはめて、そのまま肩に担ぎ上げた。
意識を失ったパメラのみぞおちがレックスの肩に当たるとパメラは苦悶の表情を浮かべる。
レックスは殊更楽しそうに豪奢な応接室を出て用意された馬車へと乗り込む。
行き先を告げられることなく動き出した馬車は王子府を出て暫く走ったところの大きな屋敷の裏門を通り、敷地の角にそびえ立つ塔の前で停まった。
「本日の獲物はこれまでにない逸品ですから王子のお気に召すのはもちろんのこと、さらに王子が満足されるように準備をしましょうか。囚われの姫の居る場所はやはり塔の最上階ですよね。シチュエーションまで完璧にするなんて、まったく私は部下の鏡です」
レックスはパメラを担いで馬車を降りるとゆっくり階段を昇る。階段を三階くらい昇ったところの木造りの扉を開けて入った壁際に、担いでいたパメラをゆっくり肩から下ろして壁にもたれ掛けて立たせる。
壁に四カ所埋め込まれた鉄環へパメラの両手の鉄枷を繋ぎ、両足も同じように繋ぐ。力なく項垂れた大の字のパメラをレックスはマジマジと見入った。
「本当に見事な髪の色ですね。それにこの肢体。罪なエルフですよ、あなたはっ」
レックスは右手でパメラの髪を掴み、左手で彼女の豊かな胸を激しく揉みしだく。
薬物で昏睡しているパメラであったが、レックスの乱暴な手つきに眉間に皺を寄せる。
「おっと、私としたことが主人より先に手を出してしまいました。危うく勘気を被るところです。私の無比の忠誠を食い物にするなんて本当にハイエルフとは魔性の生き物ですね」
己の欲望を棚に上げてパメラのせいにするレックス。
皮肉そうな笑みを浮かべた彼はもう一度強くパメラの胸を揉みしだきながら、足元に転がる鎖のついた鉄球を眺めた。
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