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41 戻った魔剣
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「実は、王よりも問題は母上でして――」
「ミネルバ様?」
「はい。飛龍にも乗れない出来損ないの息子の嫁にわたくしをよこせなど、身の程を知れと心底お怒りなのです」
「・・・・・・相変わらず過激なお母君だ」
「お恥ずかしいです。でも常々飛龍に乗れない男に娘を嫁がせる気は無いと公言をしてはばからない母ですから。そう言えばおじ様はジルニトラには乗れますよね!」
「違うな、ジルニトラだけに乗れるのであって、他の飛龍には一切乗れない」
「わかっています。でもロックウェル侯爵家を継ぐには十分な資格であることはご存知ですよね?」
「・・・・・・ご存知ありません」
「ウソつき」
美しい蒼銀の瞳を上目遣いにしたフィオリナが、うらめしそうにガイルを見る。整った顔立ちで頬を少し膨らませているのが何ともかわいい。ただ甘えているだけだとわかっていても思わず心が揺らいでしまう。
いくらマティアスとの結婚が嫌だからって自分のようなオッサンと結婚したいとは、よほど思いつめているのかもしれない。
今回の事件が落ち着いたらフィオリナの父母に一度しっかり話をしようとガイルは考えた。
「それよりパメラのことだが」
「もうっ、わたくしのことはどうでもいいのですね!」
「そんなつもりはないが――」
「でしたら真剣にお考えください!」
「お待たせしました――そんな姫様へ朗報がございます」
「サラっ!? は、早かったわね、お入りなさい」
部屋の扉を控え目に叩くと同時にサラの声が聞こえた。フィオリナは軽い咳払いをしてからサラの入室を許可した。
気まずそうなフィオリナを見るサラの目は少し意地悪そうに笑っている。
ガイルは、相変わらず黒づくめの衣装のサラを見た瞬間、息が止まりそうになった。彼女は大事そうに一本の剣を抱えており、その黒い鞘には銀の鎖で半月形のメダルが巻き付けられていた。
「それをどうしてっ!?」
「つい先程、ホコリまみれのみすぼらしい審問官がやって来て、どうしてもガイル様へ返して欲しいと」
「俺に!?」
「はい。そして姫様、いいえ、アレクセイ王弟殿下へよろしくお伝えくださいとのことでした」
「・・・・・・そういうことか」
ユーリと名乗った細目の審問官は、ガイルをいたぶって楽しそうにしていた。罪を認めさせるためではなく、人を痛めつけることで快楽を覚える下衆である。
しかし王弟令嬢が、国の守護龍を駆ってガイルを助け出してしまった。審問は職責を全うしただけと主張をして保身へ走ろうにも、王弟相手では分が悪すぎる。
結局、ガイルの機嫌を取らざるを得ず、彼の装備品の中で最も価値のありそうな魔剣とアーレイの半月メダルを崩れた詰所から必死に探し出して届けに来たのである。
ユーリは腹立たしい男ではあったけれど、木っ端役人らしい振舞いはガイルに少しだけ気持ちの余裕を取り戻させた。
ユーリと同じようにマティアスが考えれば、パメラも無事に帰って来るかもしれない。王弟アレクセイのほうが、第三王子マティアスより王位継承権で上位にいるため権力も強いのである。
動機はどうであれ大切な魔剣とメダルが戻って来たのはとてもありがたい。
サラが両手で差し出した細身の剣をガイルが受け取った時、ジルニトラがいきなり顔を上げた。ちょうど鼻先と剣の黒い鞘が当たるとそのまま刀身が抜け落ちてジルニトラの鱗に弾かれた。
「ジル!! 大丈夫!?」
「デニスの匂いでもしたのか?」
ジルニトラのおかしな反応にフィオリナは大いに焦った。一方のガイルは、冗談を言いながらメダルを首に掛けて、ゆっくり剣へと手を伸ばしたところで動きが止まってしまった。
床に落ちた剣の先から細い白金の糸のようなものが窓の外へ伸びていたのだ。
「――まさか」
パメラと宿で一夜を共にした時に、これと似た様な光景を一度だけ目にしたことがある。あの時は湯気のようなわずかに白い筋だった。その行きついた先は、眠っているパメラだった。
剣から白い湯気が出た時は、パメラが初めて剣に触れた夜の手入れの時。
このクエストを受けてからは、魔剣のことを隠す必要もないため、パメラとキアラの前では普通に手入れをしていた。パメラはいずれこの剣の持ち主になるから手入れをさせろと言って、ガイルを無理矢理手伝って剣に触っていた。
ガイルの導き出した結論は一つ。この糸の先にパメラがいる。
「フィオリナ、俺はこの白金の糸を追いたい」
「こ、これは何ですの?」
「わからない。だけどパメラはこの先にいる」
「どうしてそのようなことがおわかりになられますの?」
「この剣が、彼女を呼んでいる気がするってところかな」
「御冗談を」
「こちらの方角だと――王子府ではなさそうですね。きっといかがわしい噂の飛び交うお忍び先でしょう」
ガイルの言葉を信じようとしないフィオリナの背後へ回ったサラが、窓から顔を出して糸の行き先を確認する。
ガイル達のいる部屋は龍舎横の建物二階にある。龍舎の周囲は、飛龍の飛翔のために余計な建物はまったくないので見通しがとても良い。
「具体的な心当たりは?」
「申し訳ございません。さすがにそこまでは把握できておりません」
「――残念ながらわかりますわ」
「フィオリナ、本当か?」
「はい。一応は婚約者候補筆頭ですから、断る理由づけのために押さえている秘匿情報が結構あります」
「な、なるほど」
「ついでに婚約者候補にふさわしくないことを明るみにできれば、破談になって一石二鳥ですね」
「それが本音じゃないだろうな」
「ほほほ、まさかですわ」
蒼銀の瞳を冷たく光らせる王弟令嬢。間違いなく龍騎士ミネルバの血を引いているとガイルが確信した瞬間だった。
「ミネルバ様?」
「はい。飛龍にも乗れない出来損ないの息子の嫁にわたくしをよこせなど、身の程を知れと心底お怒りなのです」
「・・・・・・相変わらず過激なお母君だ」
「お恥ずかしいです。でも常々飛龍に乗れない男に娘を嫁がせる気は無いと公言をしてはばからない母ですから。そう言えばおじ様はジルニトラには乗れますよね!」
「違うな、ジルニトラだけに乗れるのであって、他の飛龍には一切乗れない」
「わかっています。でもロックウェル侯爵家を継ぐには十分な資格であることはご存知ですよね?」
「・・・・・・ご存知ありません」
「ウソつき」
美しい蒼銀の瞳を上目遣いにしたフィオリナが、うらめしそうにガイルを見る。整った顔立ちで頬を少し膨らませているのが何ともかわいい。ただ甘えているだけだとわかっていても思わず心が揺らいでしまう。
いくらマティアスとの結婚が嫌だからって自分のようなオッサンと結婚したいとは、よほど思いつめているのかもしれない。
今回の事件が落ち着いたらフィオリナの父母に一度しっかり話をしようとガイルは考えた。
「それよりパメラのことだが」
「もうっ、わたくしのことはどうでもいいのですね!」
「そんなつもりはないが――」
「でしたら真剣にお考えください!」
「お待たせしました――そんな姫様へ朗報がございます」
「サラっ!? は、早かったわね、お入りなさい」
部屋の扉を控え目に叩くと同時にサラの声が聞こえた。フィオリナは軽い咳払いをしてからサラの入室を許可した。
気まずそうなフィオリナを見るサラの目は少し意地悪そうに笑っている。
ガイルは、相変わらず黒づくめの衣装のサラを見た瞬間、息が止まりそうになった。彼女は大事そうに一本の剣を抱えており、その黒い鞘には銀の鎖で半月形のメダルが巻き付けられていた。
「それをどうしてっ!?」
「つい先程、ホコリまみれのみすぼらしい審問官がやって来て、どうしてもガイル様へ返して欲しいと」
「俺に!?」
「はい。そして姫様、いいえ、アレクセイ王弟殿下へよろしくお伝えくださいとのことでした」
「・・・・・・そういうことか」
ユーリと名乗った細目の審問官は、ガイルをいたぶって楽しそうにしていた。罪を認めさせるためではなく、人を痛めつけることで快楽を覚える下衆である。
しかし王弟令嬢が、国の守護龍を駆ってガイルを助け出してしまった。審問は職責を全うしただけと主張をして保身へ走ろうにも、王弟相手では分が悪すぎる。
結局、ガイルの機嫌を取らざるを得ず、彼の装備品の中で最も価値のありそうな魔剣とアーレイの半月メダルを崩れた詰所から必死に探し出して届けに来たのである。
ユーリは腹立たしい男ではあったけれど、木っ端役人らしい振舞いはガイルに少しだけ気持ちの余裕を取り戻させた。
ユーリと同じようにマティアスが考えれば、パメラも無事に帰って来るかもしれない。王弟アレクセイのほうが、第三王子マティアスより王位継承権で上位にいるため権力も強いのである。
動機はどうであれ大切な魔剣とメダルが戻って来たのはとてもありがたい。
サラが両手で差し出した細身の剣をガイルが受け取った時、ジルニトラがいきなり顔を上げた。ちょうど鼻先と剣の黒い鞘が当たるとそのまま刀身が抜け落ちてジルニトラの鱗に弾かれた。
「ジル!! 大丈夫!?」
「デニスの匂いでもしたのか?」
ジルニトラのおかしな反応にフィオリナは大いに焦った。一方のガイルは、冗談を言いながらメダルを首に掛けて、ゆっくり剣へと手を伸ばしたところで動きが止まってしまった。
床に落ちた剣の先から細い白金の糸のようなものが窓の外へ伸びていたのだ。
「――まさか」
パメラと宿で一夜を共にした時に、これと似た様な光景を一度だけ目にしたことがある。あの時は湯気のようなわずかに白い筋だった。その行きついた先は、眠っているパメラだった。
剣から白い湯気が出た時は、パメラが初めて剣に触れた夜の手入れの時。
このクエストを受けてからは、魔剣のことを隠す必要もないため、パメラとキアラの前では普通に手入れをしていた。パメラはいずれこの剣の持ち主になるから手入れをさせろと言って、ガイルを無理矢理手伝って剣に触っていた。
ガイルの導き出した結論は一つ。この糸の先にパメラがいる。
「フィオリナ、俺はこの白金の糸を追いたい」
「こ、これは何ですの?」
「わからない。だけどパメラはこの先にいる」
「どうしてそのようなことがおわかりになられますの?」
「この剣が、彼女を呼んでいる気がするってところかな」
「御冗談を」
「こちらの方角だと――王子府ではなさそうですね。きっといかがわしい噂の飛び交うお忍び先でしょう」
ガイルの言葉を信じようとしないフィオリナの背後へ回ったサラが、窓から顔を出して糸の行き先を確認する。
ガイル達のいる部屋は龍舎横の建物二階にある。龍舎の周囲は、飛龍の飛翔のために余計な建物はまったくないので見通しがとても良い。
「具体的な心当たりは?」
「申し訳ございません。さすがにそこまでは把握できておりません」
「――残念ながらわかりますわ」
「フィオリナ、本当か?」
「はい。一応は婚約者候補筆頭ですから、断る理由づけのために押さえている秘匿情報が結構あります」
「な、なるほど」
「ついでに婚約者候補にふさわしくないことを明るみにできれば、破談になって一石二鳥ですね」
「それが本音じゃないだろうな」
「ほほほ、まさかですわ」
蒼銀の瞳を冷たく光らせる王弟令嬢。間違いなく龍騎士ミネルバの血を引いているとガイルが確信した瞬間だった。
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