28 / 46
28 笑うマッドサイエンティスト
しおりを挟む
マリニアもできれば母であるデニスが生きていると信じたいけれど厳しい経験がそうは思わせない。
しかし父であるメフィストは違う。誰もが死んだと思っている母が生きていると疑わない。まさにその証拠のような彼女の足跡が今回の騒ぎで見つかり、最大限に彼女を警戒をしているのにとても楽しそうだった。子供が宝物を発見したかのように無邪気に笑っているのである。
「それよりもキアラがデニスのメダルを使って守護のギアスを発動させたときのことを詳しく教えなさい。ベルゲンクライから遠隔通信で簡単な報告を受けましたが、他聞をはばかってしっかりとは聴けていません」
「承知しました」
メフィストは思い出したかのように口調を事務的にして尋ねた。
実際今の今まで忘れていたのだ。
マリニアもルキウスにしたような馬鹿にした口調は一切なく、アルザスでの出来事を事細かく語った。
メフィストが懸念するように、末端教会から主幹教会を経由する通信はより高い権限を持つ者に傍受されるおそれがある。ルキウスもそのことを知っているのでベルゲンクライからの教会通信では詳しく述べなかった。
また残念なことにガイルへギアスが発動された場にマリニアはいなかったので、キアラが帰ってくるまで正確なことは分からない。つまるところ十分とは言えない説明であったが、メフィストにとって非常に興味深い話となった。
「キアラが、そのガイルという男がデニスの後継者だと言ったうえで隷属をしたのですね?」
「はい。隷属は解除しましたが、ルキウスの命でその者がキアラをこちらへ連れて帰ることになってもいます。しかし後継者とのことですからデニスはやはり――」
「世界は私達が見えているだけではありません。ひと一人くらい何処にでも隠れられる。そうでしょう?」
意味深な笑みをしたメフィストがマリニアを見つめる。その視線は彼女の胸のメダルへと向けられていた。
デニスが死んでいると信じるマリニアは相変わらず不承の表情を浮かべている。
こればかりはデニスの生死が白日の下に判明をしなければ意見の一致は見ないだろう。
メフィストも強いてマリニアの考えを改めさせようとはせず、話の続きを始めた。
「今の時点ではデニスの後継者がキアラを連れている。そしてルキウスはキアラをその男に奪われただけでなく、スタンピードを起こせてもアルザスを混乱させただけで大した成果はなかった。今回の結末に間違いありませんね?」
「それは――」
丸眼鏡の向こうで何か言いたげな様子のマリニアにメフィストが目を細める。
少なくともマリニア達がオリジナルダンジョンへ入って魔物達の活性化と生成には成功をしている。あの後にキアラが来さえすれば、マリニアのメダルをダンジョンのコアとされる最奥部の壁へ投げて、その向こうに棲むものをこちらの世界へ誘引できれば今回の任務は完了のはずだった。
しかし肝心のキアラがダンジョンへ来ることはなかった。途中でデニスの後継者と目される男に出会ってしまい、そのまま男の言うことを聞いて道を引き返したのである。
今回の任務で最重要の役割をマリニアが担っていたため、ダンジョン最奥部の攻略は彼女が率先せざるを得なかった。その間にキアラの側を離れたがゆえの失敗とも言える。
このことについて彼女の責任はないものの、大切な妹分をみすみす奪われ、作戦が中途半端になった悔しさは拭いようがない。
またメフィストの成果なしとの評価は彼女のプライドをさらに傷つけた。
「先にこの話を聞けていればあのような適当な者達を迎えにやらなかったのですが、やはり人伝はダメですね。自分の目や手足で相手を確認するフィールドワークは本当に大切です。今さらあの人の後継者らしき男に教えられるとは――。それでは彼女の後継者の実力を少し試させてもらいましょうか」
メフィストが、己の娘でもあり監視の目とも考えるマリニアへ再び向けた顔に彼女は背筋を寒くする。
白亜の塔のマッドサイエンティストの呼び名にふさわしい口角と眦が接するような醜悪な笑みが浮かんでいた。
しかし父であるメフィストは違う。誰もが死んだと思っている母が生きていると疑わない。まさにその証拠のような彼女の足跡が今回の騒ぎで見つかり、最大限に彼女を警戒をしているのにとても楽しそうだった。子供が宝物を発見したかのように無邪気に笑っているのである。
「それよりもキアラがデニスのメダルを使って守護のギアスを発動させたときのことを詳しく教えなさい。ベルゲンクライから遠隔通信で簡単な報告を受けましたが、他聞をはばかってしっかりとは聴けていません」
「承知しました」
メフィストは思い出したかのように口調を事務的にして尋ねた。
実際今の今まで忘れていたのだ。
マリニアもルキウスにしたような馬鹿にした口調は一切なく、アルザスでの出来事を事細かく語った。
メフィストが懸念するように、末端教会から主幹教会を経由する通信はより高い権限を持つ者に傍受されるおそれがある。ルキウスもそのことを知っているのでベルゲンクライからの教会通信では詳しく述べなかった。
また残念なことにガイルへギアスが発動された場にマリニアはいなかったので、キアラが帰ってくるまで正確なことは分からない。つまるところ十分とは言えない説明であったが、メフィストにとって非常に興味深い話となった。
「キアラが、そのガイルという男がデニスの後継者だと言ったうえで隷属をしたのですね?」
「はい。隷属は解除しましたが、ルキウスの命でその者がキアラをこちらへ連れて帰ることになってもいます。しかし後継者とのことですからデニスはやはり――」
「世界は私達が見えているだけではありません。ひと一人くらい何処にでも隠れられる。そうでしょう?」
意味深な笑みをしたメフィストがマリニアを見つめる。その視線は彼女の胸のメダルへと向けられていた。
デニスが死んでいると信じるマリニアは相変わらず不承の表情を浮かべている。
こればかりはデニスの生死が白日の下に判明をしなければ意見の一致は見ないだろう。
メフィストも強いてマリニアの考えを改めさせようとはせず、話の続きを始めた。
「今の時点ではデニスの後継者がキアラを連れている。そしてルキウスはキアラをその男に奪われただけでなく、スタンピードを起こせてもアルザスを混乱させただけで大した成果はなかった。今回の結末に間違いありませんね?」
「それは――」
丸眼鏡の向こうで何か言いたげな様子のマリニアにメフィストが目を細める。
少なくともマリニア達がオリジナルダンジョンへ入って魔物達の活性化と生成には成功をしている。あの後にキアラが来さえすれば、マリニアのメダルをダンジョンのコアとされる最奥部の壁へ投げて、その向こうに棲むものをこちらの世界へ誘引できれば今回の任務は完了のはずだった。
しかし肝心のキアラがダンジョンへ来ることはなかった。途中でデニスの後継者と目される男に出会ってしまい、そのまま男の言うことを聞いて道を引き返したのである。
今回の任務で最重要の役割をマリニアが担っていたため、ダンジョン最奥部の攻略は彼女が率先せざるを得なかった。その間にキアラの側を離れたがゆえの失敗とも言える。
このことについて彼女の責任はないものの、大切な妹分をみすみす奪われ、作戦が中途半端になった悔しさは拭いようがない。
またメフィストの成果なしとの評価は彼女のプライドをさらに傷つけた。
「先にこの話を聞けていればあのような適当な者達を迎えにやらなかったのですが、やはり人伝はダメですね。自分の目や手足で相手を確認するフィールドワークは本当に大切です。今さらあの人の後継者らしき男に教えられるとは――。それでは彼女の後継者の実力を少し試させてもらいましょうか」
メフィストが、己の娘でもあり監視の目とも考えるマリニアへ再び向けた顔に彼女は背筋を寒くする。
白亜の塔のマッドサイエンティストの呼び名にふさわしい口角と眦が接するような醜悪な笑みが浮かんでいた。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる