万年Aクラスのオッサン冒険者、引退間際になって伝説を残す?

ナギノセン

文字の大きさ
上 下
22 / 46

22 旅の道連れは選べない

しおりを挟む
 翌朝、約束通りに冒険者ギルドの建物へ入ったガイルを出迎えたのは、パメラの驚く声だった。

「ホムンクルスの女の子って聞いていたけれど、ダークエルフのハーフ!?」
「ちがう」
「違わないわ! 色も少し白めで耳や体も小さい気がするけれど、私が間違うはずがない!」
「むう、全部ふつう。そっちがいろいろムダに大きいだけ」
「む、無駄ですって!? ガイル!! 良い所に来たわ! まさかこの生意気な子じゃないでしょうね!?」

 ガイルは突然の指名に苦笑いを浮かべる。
 キアラの視線はパメラの顔ではない、別の大きく揺れる場所へと向いていた。ホムンクルスの少女にも乙女心が宿っていることを改めて知った瞬間だった。
 パメラは困って何も言わないガイルへ業を煮やし、キアラの側に立ったロキへと詰め寄った。
 
「益々この人のクエストに参加せざるを得ないわ!! 私にも依頼を!」
「ちょっと待てよ!」
 
 さすがに礼を失していると思ったガイルが、鼻息の荒いパメラの肩を掴もうとした。ロキは軽く首を振ってガイルに目配せをする。
 
「町の防衛線に加わってくれたハイエルフのお嬢さんだな?」
「そ、そうよ」
「わかった。おかしな言い方だが、謝礼代わりあんたにも頼もう」
「え!?」
「まさか? 本気か!?」

 ロキの余りにあっさりとした返事に驚きの声を上げたのは当のパメラとガイル。
 抗議をしようと身を乗り出したガイルへロキは手のひらを向けて押しとどめた。

「お前はこれから小さな女の子とずっと二人っきり、それこそ朝から晩までずっとだぞ? 何から何まで面倒を見られるのか?」
「いや、だってホムンクルスだから、その辺は―――」
「ルキウス導師が、その子は何ができるって言って、お前は気分を害したんだ?」

 ロキの言葉にガイルは顔をしかめる。
 キアラは普通の女性と同じように男と寝ることができる。口にした端正な顔の男の歪んだ表情を想い出す。
 彼の師であったデニスも女性だったし、色々なクエストで女性冒険者と一緒になったことはある。彼女達とホムンクルスの少女は変わらない。着替えやトイレなど男と同じようにいかないとロキは言いたいらしい。

「だから女性であるパメラを連れて行く方がいいと?」
「それだけではないが――お前よりは遥かに気が利くだろう」

 言葉を一度区切ったロキは、パメラとキアラの二人を交互に見遣った。

「よろしいですね、キアラ様」
「納得はいかない。しかしギルドマスターの言い分に理がある。その男は少し手が早い気がするので、もう一人くらい女がいた方がいい」
「何のこと! 手が早いって何!?」
「おかしなことを言うな!」
「痴話げんかは町を出てからにしろ。で、そちらのエルフのお嬢さんもこれでいいな?」
「え、ええ、ありがとう」
「だそうだ」

 ガイルを介抱していた時のことをキアラが突然持ち出した。うろたえるガイルと焦ったパメラを、ロキがギルドマスターらしい迫力で黙らせて三人の旅が決定した。
 三十路を半ば過ぎて恋人の一人も作れない男に、女心がわかるなどと反論できる余地はない。

 ロキはいそいそとクエストの依頼書を作り直して、キアラ、パメラ、ガイルのサインを求める。
 ルキウスは、ガイルにキアラを送って来るように命じただけなのにアルザスからログレスへのおおよその行程はロキが作成し、大きな町の冒険者ギルドへは紹介状も書いて渡した。
 アーレイ教に町を救われた恩義を返すと同時に、頼まれた以上に格別の配慮をした証拠となる書類なのだから念には念を入れている。
 ロキの力の奮発ぶりを見たガイルは、思ったよりも面倒な旅になりそうな予感に大きく溜め息をついた。

 三人は旅慣れているので何も手間取ることなく出発をした。
 まずはアルザスから北へ向かって歩き王都ウライユールを目指す。その後進路を東へと向けて、クラフト王国の国境とバルバロイ帝国の国境の中間くらいにアーレイ教のログレス教区がある。

 ロキが馬を二頭用意してくれたので、ガイルはキアラを前に座らせて二人乗りをしている。キアラに気を遣って馬車も用意をするとロキは言ったのに、キアラが断ってしまった。おかげでガイルが気を遣わされる羽目になってしまった。

「疲れていないか? あまり乗り慣れないだろうし無理はするなよ」
「ん、だいじょうぶ。こっちのほうがお尻も痛くない」
「ちょっと近づきすぎじゃない!」

 意識的か無意識か、キアラお尻を動かしてガイルの方へ身を寄せた。密着するほうが馬も操りやすいし落馬もしにくい。ガイルは都合がいいと考えたのだが、パメラの視線は妙に厳しい。
 キアラがアルザスへ来る時は、ルキウスが人目につきたくなかったらしく、馬車を使ったのだが何度も酔ったらしい。整地のされた道なら乗り心地は絶対に馬車のほうが良い。逆にデコボコの路面だと激しく揺れてしまうらしい。

 天候にも恵まれた旅程は順調そのものだった。
 アルザスの魔物たちが起こしたスタンピードの影響かはわからないが、魔物どころか動物の影も見ることはなかった。
 三人はアルザスを出て十日目に王弟領ベルゲンクライへと入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...