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22 旅の道連れは選べない
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翌朝、約束通りに冒険者ギルドの建物へ入ったガイルを出迎えたのは、パメラの驚く声だった。
「ホムンクルスの女の子って聞いていたけれど、ダークエルフのハーフ!?」
「ちがう」
「違わないわ! 色も少し白めで耳や体も小さい気がするけれど、私が間違うはずがない!」
「むう、全部ふつう。そっちがいろいろムダに大きいだけ」
「む、無駄ですって!? ガイル!! 良い所に来たわ! まさかこの生意気な子じゃないでしょうね!?」
ガイルは突然の指名に苦笑いを浮かべる。
キアラの視線はパメラの顔ではない、別の大きく揺れる場所へと向いていた。ホムンクルスの少女にも乙女心が宿っていることを改めて知った瞬間だった。
パメラは困って何も言わないガイルへ業を煮やし、キアラの側に立ったロキへと詰め寄った。
「益々この人のクエストに参加せざるを得ないわ!! 私にも依頼を!」
「ちょっと待てよ!」
さすがに礼を失していると思ったガイルが、鼻息の荒いパメラの肩を掴もうとした。ロキは軽く首を振ってガイルに目配せをする。
「町の防衛線に加わってくれたハイエルフのお嬢さんだな?」
「そ、そうよ」
「わかった。おかしな言い方だが、謝礼代わりあんたにも頼もう」
「え!?」
「まさか? 本気か!?」
ロキの余りにあっさりとした返事に驚きの声を上げたのは当のパメラとガイル。
抗議をしようと身を乗り出したガイルへロキは手のひらを向けて押しとどめた。
「お前はこれから小さな女の子とずっと二人っきり、それこそ朝から晩までずっとだぞ? 何から何まで面倒を見られるのか?」
「いや、だってホムンクルスだから、その辺は―――」
「ルキウス導師が、その子は何ができるって言って、お前は気分を害したんだ?」
ロキの言葉にガイルは顔をしかめる。
キアラは普通の女性と同じように男と寝ることができる。口にした端正な顔の男の歪んだ表情を想い出す。
彼の師であったデニスも女性だったし、色々なクエストで女性冒険者と一緒になったことはある。彼女達とホムンクルスの少女は変わらない。着替えやトイレなど男と同じようにいかないとロキは言いたいらしい。
「だから女性であるパメラを連れて行く方がいいと?」
「それだけではないが――お前よりは遥かに気が利くだろう」
言葉を一度区切ったロキは、パメラとキアラの二人を交互に見遣った。
「よろしいですね、キアラ様」
「納得はいかない。しかしギルドマスターの言い分に理がある。その男は少し手が早い気がするので、もう一人くらい女がいた方がいい」
「何のこと! 手が早いって何!?」
「おかしなことを言うな!」
「痴話げんかは町を出てからにしろ。で、そちらのエルフのお嬢さんもこれでいいな?」
「え、ええ、ありがとう」
「だそうだ」
ガイルを介抱していた時のことをキアラが突然持ち出した。うろたえるガイルと焦ったパメラを、ロキがギルドマスターらしい迫力で黙らせて三人の旅が決定した。
三十路を半ば過ぎて恋人の一人も作れない男に、女心がわかるなどと反論できる余地はない。
ロキはいそいそとクエストの依頼書を作り直して、キアラ、パメラ、ガイルのサインを求める。
ルキウスは、ガイルにキアラを送って来るように命じただけなのにアルザスからログレスへのおおよその行程はロキが作成し、大きな町の冒険者ギルドへは紹介状も書いて渡した。
アーレイ教に町を救われた恩義を返すと同時に、頼まれた以上に格別の配慮をした証拠となる書類なのだから念には念を入れている。
ロキの力の奮発ぶりを見たガイルは、思ったよりも面倒な旅になりそうな予感に大きく溜め息をついた。
三人は旅慣れているので何も手間取ることなく出発をした。
まずはアルザスから北へ向かって歩き王都ウライユールを目指す。その後進路を東へと向けて、クラフト王国の国境とバルバロイ帝国の国境の中間くらいにアーレイ教のログレス教区がある。
ロキが馬を二頭用意してくれたので、ガイルはキアラを前に座らせて二人乗りをしている。キアラに気を遣って馬車も用意をするとロキは言ったのに、キアラが断ってしまった。おかげでガイルが気を遣わされる羽目になってしまった。
「疲れていないか? あまり乗り慣れないだろうし無理はするなよ」
「ん、だいじょうぶ。こっちのほうがお尻も痛くない」
「ちょっと近づきすぎじゃない!」
意識的か無意識か、キアラお尻を動かしてガイルの方へ身を寄せた。密着するほうが馬も操りやすいし落馬もしにくい。ガイルは都合がいいと考えたのだが、パメラの視線は妙に厳しい。
キアラがアルザスへ来る時は、ルキウスが人目につきたくなかったらしく、馬車を使ったのだが何度も酔ったらしい。整地のされた道なら乗り心地は絶対に馬車のほうが良い。逆にデコボコの路面だと激しく揺れてしまうらしい。
天候にも恵まれた旅程は順調そのものだった。
アルザスの魔物たちが起こしたスタンピードの影響かはわからないが、魔物どころか動物の影も見ることはなかった。
三人はアルザスを出て十日目に王弟領ベルゲンクライへと入った。
「ホムンクルスの女の子って聞いていたけれど、ダークエルフのハーフ!?」
「ちがう」
「違わないわ! 色も少し白めで耳や体も小さい気がするけれど、私が間違うはずがない!」
「むう、全部ふつう。そっちがいろいろムダに大きいだけ」
「む、無駄ですって!? ガイル!! 良い所に来たわ! まさかこの生意気な子じゃないでしょうね!?」
ガイルは突然の指名に苦笑いを浮かべる。
キアラの視線はパメラの顔ではない、別の大きく揺れる場所へと向いていた。ホムンクルスの少女にも乙女心が宿っていることを改めて知った瞬間だった。
パメラは困って何も言わないガイルへ業を煮やし、キアラの側に立ったロキへと詰め寄った。
「益々この人のクエストに参加せざるを得ないわ!! 私にも依頼を!」
「ちょっと待てよ!」
さすがに礼を失していると思ったガイルが、鼻息の荒いパメラの肩を掴もうとした。ロキは軽く首を振ってガイルに目配せをする。
「町の防衛線に加わってくれたハイエルフのお嬢さんだな?」
「そ、そうよ」
「わかった。おかしな言い方だが、謝礼代わりあんたにも頼もう」
「え!?」
「まさか? 本気か!?」
ロキの余りにあっさりとした返事に驚きの声を上げたのは当のパメラとガイル。
抗議をしようと身を乗り出したガイルへロキは手のひらを向けて押しとどめた。
「お前はこれから小さな女の子とずっと二人っきり、それこそ朝から晩までずっとだぞ? 何から何まで面倒を見られるのか?」
「いや、だってホムンクルスだから、その辺は―――」
「ルキウス導師が、その子は何ができるって言って、お前は気分を害したんだ?」
ロキの言葉にガイルは顔をしかめる。
キアラは普通の女性と同じように男と寝ることができる。口にした端正な顔の男の歪んだ表情を想い出す。
彼の師であったデニスも女性だったし、色々なクエストで女性冒険者と一緒になったことはある。彼女達とホムンクルスの少女は変わらない。着替えやトイレなど男と同じようにいかないとロキは言いたいらしい。
「だから女性であるパメラを連れて行く方がいいと?」
「それだけではないが――お前よりは遥かに気が利くだろう」
言葉を一度区切ったロキは、パメラとキアラの二人を交互に見遣った。
「よろしいですね、キアラ様」
「納得はいかない。しかしギルドマスターの言い分に理がある。その男は少し手が早い気がするので、もう一人くらい女がいた方がいい」
「何のこと! 手が早いって何!?」
「おかしなことを言うな!」
「痴話げんかは町を出てからにしろ。で、そちらのエルフのお嬢さんもこれでいいな?」
「え、ええ、ありがとう」
「だそうだ」
ガイルを介抱していた時のことをキアラが突然持ち出した。うろたえるガイルと焦ったパメラを、ロキがギルドマスターらしい迫力で黙らせて三人の旅が決定した。
三十路を半ば過ぎて恋人の一人も作れない男に、女心がわかるなどと反論できる余地はない。
ロキはいそいそとクエストの依頼書を作り直して、キアラ、パメラ、ガイルのサインを求める。
ルキウスは、ガイルにキアラを送って来るように命じただけなのにアルザスからログレスへのおおよその行程はロキが作成し、大きな町の冒険者ギルドへは紹介状も書いて渡した。
アーレイ教に町を救われた恩義を返すと同時に、頼まれた以上に格別の配慮をした証拠となる書類なのだから念には念を入れている。
ロキの力の奮発ぶりを見たガイルは、思ったよりも面倒な旅になりそうな予感に大きく溜め息をついた。
三人は旅慣れているので何も手間取ることなく出発をした。
まずはアルザスから北へ向かって歩き王都ウライユールを目指す。その後進路を東へと向けて、クラフト王国の国境とバルバロイ帝国の国境の中間くらいにアーレイ教のログレス教区がある。
ロキが馬を二頭用意してくれたので、ガイルはキアラを前に座らせて二人乗りをしている。キアラに気を遣って馬車も用意をするとロキは言ったのに、キアラが断ってしまった。おかげでガイルが気を遣わされる羽目になってしまった。
「疲れていないか? あまり乗り慣れないだろうし無理はするなよ」
「ん、だいじょうぶ。こっちのほうがお尻も痛くない」
「ちょっと近づきすぎじゃない!」
意識的か無意識か、キアラお尻を動かしてガイルの方へ身を寄せた。密着するほうが馬も操りやすいし落馬もしにくい。ガイルは都合がいいと考えたのだが、パメラの視線は妙に厳しい。
キアラがアルザスへ来る時は、ルキウスが人目につきたくなかったらしく、馬車を使ったのだが何度も酔ったらしい。整地のされた道なら乗り心地は絶対に馬車のほうが良い。逆にデコボコの路面だと激しく揺れてしまうらしい。
天候にも恵まれた旅程は順調そのものだった。
アルザスの魔物たちが起こしたスタンピードの影響かはわからないが、魔物どころか動物の影も見ることはなかった。
三人はアルザスを出て十日目に王弟領ベルゲンクライへと入った。
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