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17 クズには誰もが苦労させられる
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クレセント教団はアーレイ教でも選ばれし者の象徴である。ルキウス自身もアーレイ教を動かす導主の一人。メフィストの配下にすぎないマリニアの言いざまはとても看過できなかった。
だが数多いアーレイ教の信徒でも、口の悪さでマリニアに敵う者はそうそう居ない。
「メフィスト様も、よくこんなクズとお付き合いをされることだ。いや、そもそもあの方がクズではあったか」
「マリニア! もう一度言ってみろ!!」
「何度でも言ってあげますよ。王位簒奪のために魔神へ魂を売ろうとしている人間以下のクズだってね」
「バ、バカなことをっ! この女、オリジナルダンジョンへ入って魔神の残滓に心を惑わされたのであろう! 今すぐログレスへ連行しろ!! 私自身が審問にかけてやる!」
少し前までは、まとまりかけていた場が再び混乱し始めている。
様々な経験を詰んだロキにしてみればルキウスの取り乱した様子のほうが見るからに怪しい。アーレイ教の大幹部と目されるメフィストとルキウスをクズ呼ばわりしたマリニアに一切悪びれたところはない。
しかし今はそれを追求するよりも気になることがあった。
「あの、ルキウス様?」
「あ、ああ、ギルドマスターよ。私は急遽帰らねばならない用ができてしまった。キアラは、その男がログレスへ連れてくるように。必ずだぞ」
「承知しましたが、先ほどオリジナルダンジョンへ入ったとか仰られたような」
「それは――だ、そう、スタンピードの原因究明を私が命じていたのだ」
「さようでございましたか。それで何かおわかりになられましたでしょうか?」
「お前も見ての通りだ。これ以上は聞くな」
「も、申し訳ありません」
「大丈夫、前来た時よりも落ち着いていたから」
「マリニア! 黙れ!」
「じゃあ私はクレセントとのバカどもと先に帰るから、キアラはデニスの男と帰ってきなよ」
「むう、わかった」
「メフィスト様も大変。でも間違いなく面白いことになるわね」
マリニアはルキウスや他の者達の背中を押して、率先するようにガイルの家を出て行ってしまった。
残された三人の視線が落ち着かなげに交差する。
「ガイル、一体どうなったんだ?」
「俺に聞かないでくれよ。変な約束をしたのはロキだろう」
「あの場では、ああ言うしかないだろう。それともこの娘の面倒をアルザスで見る気なのか?」
「まさか!」
「私はそれでもいい」
「俺が困るんだ!! こんな少女の主人――じゃなくて一緒に住んでいるなんて知られたら身の破滅だ」
「それは心配ない。誓約はさっきマリニアに破棄された」
「ほ、本当か?」
「残念ながら私がこの町にいる理由もなくなっている。だからルキウスも簡単に帰ることにした」
「そ、それって、俺が主人じゃなくなったてことか?」
「残念?」
「んなわけあるか!!」
「そう。でもログレスへ行ったら、今度は私のしるしで誓約が使えるようになる。安心した?」
「んなわけないだろうっ、て・・・・・・俺も行くのか?」
「そっちのおじさんがルキウスに約束した」
「ロキぃ」
「そこは知らなかったんだから俺のせいじゃないだろう!」
恨めしそうなガイルの視線を、小さなキアラの体の後ろへ回ったロキは避けようとする。まったく意味のない行動だった。
「それでこれから本当にどうするんだ?」
「やっと帰ってきたと思ったらログレス行きって勘弁して欲しいのだけど」
「まあ、ちょっと遠いわな」
「どこがちょっとだ! 行って帰って半年は掛かるんだぞ!」
「どうせ引退は遠のいたのだし、ギルドとして町を救ってくれた恩人への礼物を運ぶクエストを依頼してやる。物見遊山がてら行ってこい」
「俺はアーレイ信者じゃない」
アーレイ教の信者は、数年に一度聖地巡礼と称してログレスの大礼拝堂を訪れる。
ログレスは世界有数の大都市でもあり、一種の娯楽となっている旅の資金を貯めるために働いていると豪語する者もいる。
無難とも言えるロキの配慮に力なくガイルが答えると、キアラが大きな目をさらに大きくした。
「うそ? デニスの男なのに」
「ほう? 怪しいとは思っていたがやはりそうだったのか」
「ちょっと待て! いつからそうなった!?」
「マリニアが言った」
さも当然のごとく不思議そうに首をかしげるキアラ。
その隣のロキも、何故かうんうんとうなずいている。
確かに弟子入りをした頃はよくからかわれたものだった。
デニスは凄腕でとてもスタイルのいいレンジャー。動きやすさを優先させて、体にピッタリはりつくような服や装備を好んで着けていた。肌は日に焼けて黒かったけれど間違いなく美人でもあった。
ガイルがデニスへ弟子入りしたのが十四の時。デニスはちょうど十歳年上だった。
彼をデニスへ弟子入りさせたのは、目の前のむさくるしいギルマスだった。おかしな噂を消すために、もう一人デニスに面倒を見てもらうことにしたのもロキだった。
間違いなく状況を面白がっていることと、多少の気遣いを感じたガイルは不承不承心を決めた。
「行けばいいんだろう!」
目的地は遠く、引退はさらに遠いことに、彼は小さなため息をついた。
だが数多いアーレイ教の信徒でも、口の悪さでマリニアに敵う者はそうそう居ない。
「メフィスト様も、よくこんなクズとお付き合いをされることだ。いや、そもそもあの方がクズではあったか」
「マリニア! もう一度言ってみろ!!」
「何度でも言ってあげますよ。王位簒奪のために魔神へ魂を売ろうとしている人間以下のクズだってね」
「バ、バカなことをっ! この女、オリジナルダンジョンへ入って魔神の残滓に心を惑わされたのであろう! 今すぐログレスへ連行しろ!! 私自身が審問にかけてやる!」
少し前までは、まとまりかけていた場が再び混乱し始めている。
様々な経験を詰んだロキにしてみればルキウスの取り乱した様子のほうが見るからに怪しい。アーレイ教の大幹部と目されるメフィストとルキウスをクズ呼ばわりしたマリニアに一切悪びれたところはない。
しかし今はそれを追求するよりも気になることがあった。
「あの、ルキウス様?」
「あ、ああ、ギルドマスターよ。私は急遽帰らねばならない用ができてしまった。キアラは、その男がログレスへ連れてくるように。必ずだぞ」
「承知しましたが、先ほどオリジナルダンジョンへ入ったとか仰られたような」
「それは――だ、そう、スタンピードの原因究明を私が命じていたのだ」
「さようでございましたか。それで何かおわかりになられましたでしょうか?」
「お前も見ての通りだ。これ以上は聞くな」
「も、申し訳ありません」
「大丈夫、前来た時よりも落ち着いていたから」
「マリニア! 黙れ!」
「じゃあ私はクレセントとのバカどもと先に帰るから、キアラはデニスの男と帰ってきなよ」
「むう、わかった」
「メフィスト様も大変。でも間違いなく面白いことになるわね」
マリニアはルキウスや他の者達の背中を押して、率先するようにガイルの家を出て行ってしまった。
残された三人の視線が落ち着かなげに交差する。
「ガイル、一体どうなったんだ?」
「俺に聞かないでくれよ。変な約束をしたのはロキだろう」
「あの場では、ああ言うしかないだろう。それともこの娘の面倒をアルザスで見る気なのか?」
「まさか!」
「私はそれでもいい」
「俺が困るんだ!! こんな少女の主人――じゃなくて一緒に住んでいるなんて知られたら身の破滅だ」
「それは心配ない。誓約はさっきマリニアに破棄された」
「ほ、本当か?」
「残念ながら私がこの町にいる理由もなくなっている。だからルキウスも簡単に帰ることにした」
「そ、それって、俺が主人じゃなくなったてことか?」
「残念?」
「んなわけあるか!!」
「そう。でもログレスへ行ったら、今度は私のしるしで誓約が使えるようになる。安心した?」
「んなわけないだろうっ、て・・・・・・俺も行くのか?」
「そっちのおじさんがルキウスに約束した」
「ロキぃ」
「そこは知らなかったんだから俺のせいじゃないだろう!」
恨めしそうなガイルの視線を、小さなキアラの体の後ろへ回ったロキは避けようとする。まったく意味のない行動だった。
「それでこれから本当にどうするんだ?」
「やっと帰ってきたと思ったらログレス行きって勘弁して欲しいのだけど」
「まあ、ちょっと遠いわな」
「どこがちょっとだ! 行って帰って半年は掛かるんだぞ!」
「どうせ引退は遠のいたのだし、ギルドとして町を救ってくれた恩人への礼物を運ぶクエストを依頼してやる。物見遊山がてら行ってこい」
「俺はアーレイ信者じゃない」
アーレイ教の信者は、数年に一度聖地巡礼と称してログレスの大礼拝堂を訪れる。
ログレスは世界有数の大都市でもあり、一種の娯楽となっている旅の資金を貯めるために働いていると豪語する者もいる。
無難とも言えるロキの配慮に力なくガイルが答えると、キアラが大きな目をさらに大きくした。
「うそ? デニスの男なのに」
「ほう? 怪しいとは思っていたがやはりそうだったのか」
「ちょっと待て! いつからそうなった!?」
「マリニアが言った」
さも当然のごとく不思議そうに首をかしげるキアラ。
その隣のロキも、何故かうんうんとうなずいている。
確かに弟子入りをした頃はよくからかわれたものだった。
デニスは凄腕でとてもスタイルのいいレンジャー。動きやすさを優先させて、体にピッタリはりつくような服や装備を好んで着けていた。肌は日に焼けて黒かったけれど間違いなく美人でもあった。
ガイルがデニスへ弟子入りしたのが十四の時。デニスはちょうど十歳年上だった。
彼をデニスへ弟子入りさせたのは、目の前のむさくるしいギルマスだった。おかしな噂を消すために、もう一人デニスに面倒を見てもらうことにしたのもロキだった。
間違いなく状況を面白がっていることと、多少の気遣いを感じたガイルは不承不承心を決めた。
「行けばいいんだろう!」
目的地は遠く、引退はさらに遠いことに、彼は小さなため息をついた。
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