万年Aクラスのオッサン冒険者、引退間際になって伝説を残す?

ナギノセン

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5 蠢く者達

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 クラフト王国でも大きな町の一つに数えられるアルザスを、頭からすっぽり白い長衣を被る集団が歩いている。
 王国内でも北に位置することから冷涼な気候で有名ではあるものの、防寒のための衣装でないことは誰もが知っていた。

 彼らは一様に三日月のような白銀のメダルのネックレスを身に着けている。クラフト王国だけでなく周辺の国にも信者を多く持つアーレイ教の内部にあって、独自の勢力を誇る精鋭集団クレセントの者達である。
 五人それぞれが手に木の杖のようなものを握っている。先頭の男の長衣だけは、金糸による繊細な刺繍の縁取りが袖や裾先に施されていた。

 アーレイ教は、一千年前の魔神戦争を勝利へと導いた白き手の持ち主、アーレイを教祖とする。魔神戦争における最終決戦の地ログレスにおいて、その身を犠牲にしてこの世界を救った英雄の一人であり、広く民衆から信望を集めている。

 アーレイ教の最高位者は教主と呼ばれ、その資格は三つ必要とされる。当然のこととしてアーレイ教の信徒であること。次に空間転移魔法を操れること。そしてその身を犠牲にして魔神を討つ覚悟があること、である。
 教祖アーレイがその力を用いて、彼女自身と共に魔神を魔界へと強制送還したことに由来する。

 実際のところ空間転移魔法の使い手は稀有のため、どこの馬の骨ともわからぬ輩が、それだけで教主に据えられたことも少なからずあった。
 このような緩みとさえ言えるものが、結成から数百年を経た教会内部には多くできている。また大きな組織になったがゆえに派閥も多く形成されている。それらを率いる者は導主と呼ばれ、教会の実際の運営は、教主を差し置いて導主会が執り行っている。精鋭集団クレセントもその派閥の一つであった。

 魔神戦争は、己の身の丈以上に力を欲したもの達が引き起こした悲劇であった。そこには一般的に邪悪とされるモンスターだけでなく、人や獣人、ダークエルフも関わり、彼らこそが主導的な役割を担っていたことも広く知られている。

 魔神達の存在する魔界は、こちらの世界とは別に存在する。遥か太古の神代にあった降魔の乱と呼ばれる戦いおいて、太陽と月の両女神に敗れた弟の男神が封じられた場所とされる。この世界との接点があることは古くから知られて、その接点はオリジナルダンジョンと呼ばれる。

 世界には少なくとも7つのオリジナルダンジョンが確認されている。魔界からの影響が強くなれば成長をして、レッサーダンジョンと呼ばれる小規模なダンジョンを作り上げることが知られている。
 いずれのダンジョンも国や教会において厳重に管理をされると同時に、立ち入りるためには一定の資格を要する。
 
 オリジナルダンジョンは魔界との接点と呼ばれるものの、次元の違う空間で隔てられているため、おいそれと行き来をすることはできない。
 さもなければこの世界は魔神であふれかえってしまうが、実際に魔神がこの世界へ出現したのは、一千年前の一度だけである。
 その時のダンジョンは、今ではアーレイ教会の総本山ログレス教区内で厳重に管理をされている。

 そしてこの町アルザスの北にあるナーガ山にも、オリジナルダンジョンが存在していた。

「頃合いだな」
「はい、導主様。教団内でも手練れをそろえて派遣しましたので、そろそろ入口を制圧できていると思われます」
「カッサバの狂人に借りを作ったな」
「目指すところは一致しておりますから」
「一致か―――ならば我々も動くとする――」

 長衣の集団が行く先は、自然と人々が頭を下げてよけている。
 先頭の男は、さも当然であるかのように歩きながら後ろの者へ尋ねた。
 しかしながらその後の会話は続かなかった。
 長衣の中から鋭い目つきで見据えた先では、必死になって逃げ惑う者たちが大挙してこちらへ向かっている。
 導主と呼ばれた男は黙って身を翻し、足早に来た道を引き返し始めた。

「あれを絶対に回収してこい」
「承知しました。しかし何が」
「考えてもどうにもならぬことはやめよ。このようなところで蹟くわけにはいかないのだ。一旦、引いて様子を見る」
「承知しました。ルキウス様もどうぞご無事で」

 導主ルキウスはさらに足を速め、話をしていた男ともう一人が集団を離れて走り出した。
 目深にかぶった長衣の下にある端正の顔は、憎々しげに歪んでいた。
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