65 / 66
65 え? 俺のせい?
しおりを挟む
「それでどうする気じゃ? 此方の準備は整ったことを伝えに来た」
ダ女神様が満足そうに笑いながら白く細い腕に光った腕輪を見せる。
「そうだ! 一体どうやって取り戻したのですか?」
「同盟結成の証にハマームより贈って来たものじゃ」
「わざわざ貰ったものをまた返して来たのですか? 若様は何を考えておられるのやら」
「その辺に本人もおるであろうから直接聞いたらどうじゃ?」
「・・・・・・いや、別にいいです」
俺としてはそれが無くなったせいで散々だった記憶が生々しい。
どうせならもっと早く返してくれと文句を言ってしまいそうなので止めておいた。
「どうせサフィール様へ恩を売っているだけですよ」
「そうであろうな」
何処かに隠れて会話を聞いていたのかと思われるようなタイミングで姿を見せたマルセルさんの言葉にダ女神様が頷いた。
「それでどうするのじゃ?」
「帰ります」
「ほう? 潔いではないか。カマンベールチーズで何か里心がつくような思い出があったか? くくく」
「うるさい」
心を読まれたかのような突っ込みに俺は少し顔が赤くなった。
また照れ隠しではないが、バルコニーに居たお客が部屋へと戻って、この場には俺達三人しかいなくなったのを確認して口調を戻した。
「実は考えていたのだけど、ユーリ様って女神様が入らなければサフィール様になれていないんじゃないか?」
「そうじゃな。地力ではイリスの方が優っておる」
やはり思った通りだった。
俺がそこへと至ったのには理由がある。
お二方がそれぞれ噴水広場で使われたサフィールロッドの歪みを見ると、イリス様の方がかなり激しかった。
ロッドが激しく悩ましく挟んでいた生意気そうな部分は、イリス様よりユーリ様の方が遥かに優っているにも関わらず―――まあそう言うことだ。
おまけに猿ぐつわペンダントのブルブルにも激しく感じておられた。
・・・・・・これもイヤらしい意味じゃないぞ。
「つまり噂通りってところか。本当ならイリス様が次のサフィール様だったわけだ」
「それがどうしたのじゃ?」
「女神様はずっとユーリ様に入ってはいられないだろう?」
「此方は、其方の気持ちが確認できればこちらの用は終わりじゃ」
ダ女神様が一度マルセルさんを見られたが、ニコニコ顔さんは軽く頷かれただけだった。
「となるとユーリ様は以前の状態へ戻ってしまわれるのだよな?」
「仕方あるまい。だがサフィールを辞した第四息女であれば、ユーリの希望どおり待遇も格段に良くなっているはずじゃ」
「俺もケントさんへ体を返そうと思う。ここはケントさんの人生があるべき場所だ。それに俺もやりたいと思ったことはあちらでやり遂げたいことに気づいたんだ」
―――そう、ユーリお嬢様を助けた時に。
「であれば蒼玉の地へ戻してやろう」
「ありがとうよ、女神様。けどその前に一つ頼みがあるんだけど」
「何じゃ、其方もか」
「ゲホっゲホっ」
突然マルセルさんが咳込まれたが、俺は気にすることなく続けた。
「ケントさんの周囲には、ケントさんが再び記憶喪失になったことにしようと思う。俺が居た間のことをケントさんは夢みたいに感じているらしいけど周りには事実なのだし、同じことを求められると酷だろうからな」
「具体的にどうする気じゃ?」
「一石二鳥で行こうと思う。女神様、後は頼んだぜ!」
これはいろいろやらかしたせめてものお詫びだ。
俺は口を抑え苦しみ悶える振りをして、チーズを盛大にばらまきながらバルコニーの手摺から転落した。
チーズに恨みはないけれど、誰もが忌避していたこの場では一番使いやすく説得力があった。
それにこれならきっと若様もケントさんにそう強くは出られなくなるはず。
何せ自分の運んだ食材が原因で事故になったのだから。
アフターフォローも完璧だろ?
そして遠くなる空から俺へ向かって投げられた輝く腕輪を受け取り、その持ち主の蒼い瞳を目にしながら気づくことがあった。
腕輪に見覚えがあったはずだ、これって海ゴリラが小百合に譲った御神宝そっくりじゃないか。
手にして初めて気づくとは、危うく本当に記憶喪失になっていたのではと思うほどの間抜けぶりの中、俺は蒼い優しい光に包まれた。
気がつけば俺の腕の中には小百合が寝ている。
いつもの光景だ。
・・・・・・いつものなのか?
「やっと気づいたようじゃな」
「・・・・・・ダ女神様!?」
「其方は何度生まれかわっても失礼なようじゃな」
「あ、すみません。え、まさか、夢じゃなかったのか!? あれ腕輪は、小百合の?」
「此方も其方を見届けるため一緒に飛ぶつもりが、其方のデコピンのせいでもっと前の時へ飛ばされてしまったのじゃ。心から反省するがよい」
ダ女神様の小百合が笑いながら起き上がり、俺の手から腕輪を取ってそのまま俺にデコピンを喰らわせた。
「ってぇ、うそ? じゃあユーリ様になられていたのって俺のせい?」
「その通りじゃ。まったく余計な手間を掛けさせられたわ。その上、記憶喪失のフリなどしおって厄介事ばかり増えてどうしようもないではないか」
「あ―――ははは、すみません」
「まあ済んだことじゃ。あちらでも何とか腕輪に力を溜めて、そなたを再び日本へ帰すことができるようになってめでたしめでたしじゃ」
もう笑って誤魔化すしかない。
御山から落ちながら俺は神様をデコピンで吹っ飛ばしていたわけだ。
罰当たりも甚だしいな。
しかし妙にあっさりとダ女神様が引き下がったのは気になる。
―――これはきっと何か裏があるぞ。
ダ女神様が満足そうに笑いながら白く細い腕に光った腕輪を見せる。
「そうだ! 一体どうやって取り戻したのですか?」
「同盟結成の証にハマームより贈って来たものじゃ」
「わざわざ貰ったものをまた返して来たのですか? 若様は何を考えておられるのやら」
「その辺に本人もおるであろうから直接聞いたらどうじゃ?」
「・・・・・・いや、別にいいです」
俺としてはそれが無くなったせいで散々だった記憶が生々しい。
どうせならもっと早く返してくれと文句を言ってしまいそうなので止めておいた。
「どうせサフィール様へ恩を売っているだけですよ」
「そうであろうな」
何処かに隠れて会話を聞いていたのかと思われるようなタイミングで姿を見せたマルセルさんの言葉にダ女神様が頷いた。
「それでどうするのじゃ?」
「帰ります」
「ほう? 潔いではないか。カマンベールチーズで何か里心がつくような思い出があったか? くくく」
「うるさい」
心を読まれたかのような突っ込みに俺は少し顔が赤くなった。
また照れ隠しではないが、バルコニーに居たお客が部屋へと戻って、この場には俺達三人しかいなくなったのを確認して口調を戻した。
「実は考えていたのだけど、ユーリ様って女神様が入らなければサフィール様になれていないんじゃないか?」
「そうじゃな。地力ではイリスの方が優っておる」
やはり思った通りだった。
俺がそこへと至ったのには理由がある。
お二方がそれぞれ噴水広場で使われたサフィールロッドの歪みを見ると、イリス様の方がかなり激しかった。
ロッドが激しく悩ましく挟んでいた生意気そうな部分は、イリス様よりユーリ様の方が遥かに優っているにも関わらず―――まあそう言うことだ。
おまけに猿ぐつわペンダントのブルブルにも激しく感じておられた。
・・・・・・これもイヤらしい意味じゃないぞ。
「つまり噂通りってところか。本当ならイリス様が次のサフィール様だったわけだ」
「それがどうしたのじゃ?」
「女神様はずっとユーリ様に入ってはいられないだろう?」
「此方は、其方の気持ちが確認できればこちらの用は終わりじゃ」
ダ女神様が一度マルセルさんを見られたが、ニコニコ顔さんは軽く頷かれただけだった。
「となるとユーリ様は以前の状態へ戻ってしまわれるのだよな?」
「仕方あるまい。だがサフィールを辞した第四息女であれば、ユーリの希望どおり待遇も格段に良くなっているはずじゃ」
「俺もケントさんへ体を返そうと思う。ここはケントさんの人生があるべき場所だ。それに俺もやりたいと思ったことはあちらでやり遂げたいことに気づいたんだ」
―――そう、ユーリお嬢様を助けた時に。
「であれば蒼玉の地へ戻してやろう」
「ありがとうよ、女神様。けどその前に一つ頼みがあるんだけど」
「何じゃ、其方もか」
「ゲホっゲホっ」
突然マルセルさんが咳込まれたが、俺は気にすることなく続けた。
「ケントさんの周囲には、ケントさんが再び記憶喪失になったことにしようと思う。俺が居た間のことをケントさんは夢みたいに感じているらしいけど周りには事実なのだし、同じことを求められると酷だろうからな」
「具体的にどうする気じゃ?」
「一石二鳥で行こうと思う。女神様、後は頼んだぜ!」
これはいろいろやらかしたせめてものお詫びだ。
俺は口を抑え苦しみ悶える振りをして、チーズを盛大にばらまきながらバルコニーの手摺から転落した。
チーズに恨みはないけれど、誰もが忌避していたこの場では一番使いやすく説得力があった。
それにこれならきっと若様もケントさんにそう強くは出られなくなるはず。
何せ自分の運んだ食材が原因で事故になったのだから。
アフターフォローも完璧だろ?
そして遠くなる空から俺へ向かって投げられた輝く腕輪を受け取り、その持ち主の蒼い瞳を目にしながら気づくことがあった。
腕輪に見覚えがあったはずだ、これって海ゴリラが小百合に譲った御神宝そっくりじゃないか。
手にして初めて気づくとは、危うく本当に記憶喪失になっていたのではと思うほどの間抜けぶりの中、俺は蒼い優しい光に包まれた。
気がつけば俺の腕の中には小百合が寝ている。
いつもの光景だ。
・・・・・・いつものなのか?
「やっと気づいたようじゃな」
「・・・・・・ダ女神様!?」
「其方は何度生まれかわっても失礼なようじゃな」
「あ、すみません。え、まさか、夢じゃなかったのか!? あれ腕輪は、小百合の?」
「此方も其方を見届けるため一緒に飛ぶつもりが、其方のデコピンのせいでもっと前の時へ飛ばされてしまったのじゃ。心から反省するがよい」
ダ女神様の小百合が笑いながら起き上がり、俺の手から腕輪を取ってそのまま俺にデコピンを喰らわせた。
「ってぇ、うそ? じゃあユーリ様になられていたのって俺のせい?」
「その通りじゃ。まったく余計な手間を掛けさせられたわ。その上、記憶喪失のフリなどしおって厄介事ばかり増えてどうしようもないではないか」
「あ―――ははは、すみません」
「まあ済んだことじゃ。あちらでも何とか腕輪に力を溜めて、そなたを再び日本へ帰すことができるようになってめでたしめでたしじゃ」
もう笑って誤魔化すしかない。
御山から落ちながら俺は神様をデコピンで吹っ飛ばしていたわけだ。
罰当たりも甚だしいな。
しかし妙にあっさりとダ女神様が引き下がったのは気になる。
―――これはきっと何か裏があるぞ。
0
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める
忍原富臣
ファンタジー
おっさんがもう一度ダンジョンへと参ります!
その名はビオリス・シュヴァルツ。
目立たないように後方で大剣を振るい適当に過ごしている人間族のおっさん。だがしかし、一方ではギルドからの要請を受けて単独での討伐クエストを行うエリートの顔を持つ。
性格はやる気がなく、冒険者生活にも飽きが来ていた。
四十後半のおっさんには大剣が重いのだから仕方がない。
逆行魔法を使われ、十六歳へと変えられる。だが、不幸中の幸い……いや、おっさんからすればとんでもないプレゼントがあった。
経験も記憶もそのままなのである。
モンスターは攻撃をしても手応えのないビオリスの様子に一目散に逃げた。
婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?
三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい! ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。
イラスト/ノーコピーライトガール
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
宵の兵法~兵法オタク女子大生が中華風異世界で軍師として働きます~
あくがりたる
ファンタジー
春秋学院大学の4年生である瀬崎宵は、“武経七書ゼミ”という兵法研究のゼミに所属する女子大生。現在就活真っ只中。
自他共に認める“兵法オタク”で、兵法に関する知識は右に出る者はいない程優秀だが、「軍師になりたい」と現実離れした夢を持つ為、就職活動に苦戦を強いられる。
友人達は次々に内定を貰い、その焦りから心配してくれる母に強く当たってしまう。
そんな時、自宅の今は亡き祖父の部屋の押し入れで古い竹簡を見付ける。そこに書いてある文字を読んだ宵は突然光に包まれ意識を失う。
気が付くと目の前は見知らぬ場所。目の前に広がるのは……戦の陣地??
どうやら異世界に転移してしまった宵は、何とか生き残る為に己の兵法の知識を惜しみなく使い、一軍の軍師として働く事に……!
しかし、念願の軍師の仕事は、宵が想像している程甘くはなかった……。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアップ+」でも連載しています。
イラスト・ロゴ:アベヒカル様
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる