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65 え? 俺のせい?

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「それでどうする気じゃ? 此方の準備は整ったことを伝えに来た」
 ダ女神様が満足そうに笑いながら白く細い腕に光った腕輪を見せる。
「そうだ! 一体どうやって取り戻したのですか?」
「同盟結成の証にハマームより贈って来たものじゃ」
「わざわざ貰ったものをまた返して来たのですか? 若様は何を考えておられるのやら」
「その辺に本人もおるであろうから直接聞いたらどうじゃ?」
「・・・・・・いや、別にいいです」
 俺としてはそれが無くなったせいで散々だった記憶が生々しい。
 どうせならもっと早く返してくれと文句を言ってしまいそうなので止めておいた。

「どうせサフィール様へ恩を売っているだけですよ」
「そうであろうな」
 何処かに隠れて会話を聞いていたのかと思われるようなタイミングで姿を見せたマルセルさんの言葉にダ女神様が頷いた。
「それでどうするのじゃ?」
「帰ります」
「ほう? 潔いではないか。カマンベールチーズで何か里心がつくような思い出があったか? くくく」
「うるさい」
 心を読まれたかのような突っ込みに俺は少し顔が赤くなった。
 また照れ隠しではないが、バルコニーに居たお客が部屋へと戻って、この場には俺達三人しかいなくなったのを確認して口調を戻した。

「実は考えていたのだけど、ユーリ様って女神様が入らなければサフィール様になれていないんじゃないか?」
「そうじゃな。地力ではイリスの方が優っておる」
 やはり思った通りだった。
 俺がそこへと至ったのには理由がある。
 お二方がそれぞれ噴水広場で使われたサフィールロッドの歪みを見ると、イリス様の方がかなり激しかった。
 ロッドが激しく悩ましく挟んでいた生意気そうな部分は、イリス様よりユーリ様の方が遥かに優っているにも関わらず―――まあそう言うことだ。
 おまけに猿ぐつわペンダントのブルブルにも激しく感じておられた。
 ・・・・・・これもイヤらしい意味じゃないぞ。

「つまり噂通りってところか。本当ならイリス様が次のサフィール様だったわけだ」
「それがどうしたのじゃ?」
「女神様はずっとユーリ様に入ってはいられないだろう?」
「此方は、其方の気持ちが確認できればこちらの用は終わりじゃ」
 ダ女神様が一度マルセルさんを見られたが、ニコニコ顔さんは軽く頷かれただけだった。

「となるとユーリ様は以前の状態へ戻ってしまわれるのだよな?」
「仕方あるまい。だがサフィールを辞した第四息女であれば、ユーリの希望どおり待遇も格段に良くなっているはずじゃ」
「俺もケントさんへ体を返そうと思う。ここはケントさんの人生があるべき場所だ。それに俺もやりたいと思ったことはあちらでやり遂げたいことに気づいたんだ」
 ―――そう、ユーリお嬢様を助けた時に。

「であれば蒼玉の地へ戻してやろう」
「ありがとうよ、女神様。けどその前に一つ頼みがあるんだけど」
「何じゃ、其方もか」
「ゲホっゲホっ」
 突然マルセルさんが咳込まれたが、俺は気にすることなく続けた。
 
「ケントさんの周囲には、ケントさんが再び記憶喪失になったことにしようと思う。俺が居た間のことをケントさんは夢みたいに感じているらしいけど周りには事実なのだし、同じことを求められると酷だろうからな」
「具体的にどうする気じゃ?」
「一石二鳥で行こうと思う。女神様、後は頼んだぜ!」
 これはいろいろやらかしたせめてものお詫びだ。
 俺は口を抑え苦しみ悶える振りをして、チーズを盛大にばらまきながらバルコニーの手摺から転落した。
 チーズに恨みはないけれど、誰もが忌避していたこの場では一番使いやすく説得力があった。
 それにこれならきっと若様もケントさんにそう強くは出られなくなるはず。
 何せ自分の運んだ食材が原因で事故になったのだから。
 アフターフォローも完璧だろ?

 そして遠くなる空から俺へ向かって投げられた輝く腕輪を受け取り、その持ち主の蒼い瞳を目にしながら気づくことがあった。
 腕輪に見覚えがあったはずだ、これって海ゴリラが小百合に譲った御神宝そっくりじゃないか。
 手にして初めて気づくとは、危うく本当に記憶喪失になっていたのではと思うほどの間抜けぶりの中、俺は蒼い優しい光に包まれた。
 気がつけば俺の腕の中には小百合が寝ている。
 いつもの光景だ。

 ・・・・・・いつものなのか?


「やっと気づいたようじゃな」
「・・・・・・ダ女神様!?」
「其方は何度生まれかわっても失礼なようじゃな」
「あ、すみません。え、まさか、夢じゃなかったのか!? あれ腕輪は、小百合の?」
「此方も其方を見届けるため一緒に飛ぶつもりが、其方のデコピンのせいでもっと前の時へ飛ばされてしまったのじゃ。心から反省するがよい」
 ダ女神様の小百合が笑いながら起き上がり、俺の手から腕輪を取ってそのまま俺にデコピンを喰らわせた。

「ってぇ、うそ? じゃあユーリ様になられていたのって俺のせい?」
「その通りじゃ。まったく余計な手間を掛けさせられたわ。その上、記憶喪失のフリなどしおって厄介事ばかり増えてどうしようもないではないか」
「あ―――ははは、すみません」
「まあ済んだことじゃ。あちらでも何とか腕輪に力を溜めて、そなたを再び日本へ帰すことができるようになってめでたしめでたしじゃ」
 もう笑って誤魔化すしかない。
 御山から落ちながら俺は神様をデコピンで吹っ飛ばしていたわけだ。
 罰当たりも甚だしいな。
 しかし妙にあっさりとダ女神様が引き下がったのは気になる。

 ―――これはきっと何か裏があるぞ。 
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