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63 思わぬ援軍
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スーが馬車の荷台へ乗せられる!
近づこうとする俺の前には、狡猾な笑みを浮かべキーニャが立ちはだかる。俺の腕ではこの女剣士を排除できない。
クソクソクソッ‼
ついさっきスーにとことんまでつき合うと決意したのに、この様は何だ⁉
どうしたらいい⁉ どうすればいい⁉
悔し涙があふれそうになる。
樫だった頃にはなかったこの感覚は、プリとの別れで思い出したもの。
今回はスーとの別れで感じさせられる。こんな想いをするくらいなら木のままで良かった。
昔の後ろ向きな思考が蘇りつつあることを皮肉に感じる暇もなく、キーニャが斬りつけて来る。俺は再び後ろへ下がってやり過ごす。今回は更に三回攻撃が続いた。最後の剣戟はメイスを立ててからくも防げた。
完全に俺を見くびってくれているらしい。闘技会の時のような緻密で鋭い攻撃ではないのは助かる。
息を切らす俺の耳へ、馬のいななきと馬車の動き出す音がが聞こえた。
この背中を使えば今の攻撃くらい耐えることは可能だろう。でもそれだけだ。あまり傷を負っては、スーを追い掛けることができなくなる。
意地でもキーニャに勝って、行き先を聞き出さなければならない。
「そろそろ限界だろう? 楽にしてあげるよ!」
「その程度の攻撃でやれるものならやってみろ‼」
「一回戦負けが元気なことだ、ねっ!」
「ベアトリスに負けた奴が偉そうに何を言ってる‼」
「お前ーっ‼」
酷薄な口許をさせたキーニャの一撃一撃が急に荒く重くなった。
ひたすら俺を斬り殺そうとする直線的な攻撃。必死にメイスで弾く、避ける。
ベアトリスにつけられた敗北は、思った以上に女剣士のプライドを傷つけていたらしい。
俺を見くびった攻撃が、ただの感情任せになっている。
実力が遥かに上の相手から勝つには意表を突くしかない。
俺は、迫りくる剣先をメイスで受けそこねたフリをして肩口で迎え撃った。キーニャの切っ先はわずかにブレたが、熟練の剣士らしく軌道を修正させ勢いそのままに俺の左肩へ当たる。
勝利を確信して歪んでいたキーニャの表情が別の理由で一瞬にして歪み、うめき声を上げて長剣を落とした。
キーニャの両手へ伝わったのは慣れ親しんだ肉を斬る感触ではない。硬い何かを叩いた激しい衝撃と痛み。
脳と体が想定し準備していた反動がまったく異なったためとても耐えきれなかった。手首がおかしな方向へと曲がり、反射的に握った手を開いてしまったのだ。
予想通りの展開に、俺はその場で持ち上げたメイスをキーニャのみぞおちへ叩き込む。
距離が近すぎたので勢いはない。革の鎧にも邪魔をされて大した威力はなかったかもしれないが、俺も肩口が痛むので今のが精一杯だった。
キーニャは、痺れた両手で腹を抑えながら膝を落としうずくまった。
俺は足元の長剣を思いきり背後へ蹴飛ばす。ありがちに拾って相手の喉元へ突きつけるなんて慣れないことをやったら、逆に奪い獲られかねない。
敵は俺よりも格上の冒険者。気は進まないが、足の一本でも折らなければ逃げられるかもをしれないし、何も話してくれないかもしれない。
スーを取り戻すためなら何でもしてやる。
一度大きく息を吐いてメイスをきつく握りしめ、キーニャヘ近づいた。
「スーをどこへ連れて行った? 目的は何だ? あらいざらい吐いてもらうぞ!」
憎悪と涙を浮かべた目をキーニャは向けたが、心を決めた俺はその程度では揺るがない。
「正直に教えてくれれば、このまま見逃してもいい。だが二度と俺達の前に姿を見せるな」
「一回戦負けがえらそうに!」
「その一回戦負けに負けたのは誰だ?」
命が助かると聞いて、憎まれ口を叩く余裕ができたのだろうか。
余計な時間は俺にはない。
「早く言え。でなければ足から腕からすべて叩き折るぞ」
「行き先なんて知らないね。追い掛けて一緒にいた男達へ聞きなよ」
「嘘をつくな。先に出たお前の相棒が追い駆けて来いと言っていた!」
「知らないものは知らないさ。そんな頭の悪いことだから一回戦負けで、仲間もさらわれるのさ」
「――いい加減にしろよ。何が何でも吐かせるぞ!」
「やれるものならやってみな!」
目の前に差し出されたメイスの先端を、キーニャはいきなり掴んで引っ張る。と同時に立ち上がって俺の腰を目掛けてタックルを仕掛けてきた。
情報の欲しい俺がキーニャを殺せないと踏んで、近づくのを狙っていたのか。
キーニャはダメージが回復していないようで、動きは思ったより鈍い。それでも重いメイスをすぐに振るって間に合いそうにない。
まともにやったら格が違うので勝てないだろう。捕まって関節でも決められてしまえば間違いなく終わる。
俺はメイスを手放して軽く膝を曲げる。飛びつくキーニャを、やや背中向けにした右ショルダータックルで迎え撃った。
振るった長剣からの衝撃で痛い目を見ても、俺の背中側が樫や鉄の盾並に頑丈だと理解できないのは無理もない。
キーニャが伸ばした腕の下をくぐって勢いよく突っ込み、何処でも構わないので体当たりをぶちかました。
出遅れて反応した分、不利だったのは否めない。単純に筋力や体重の差から、俺は三メートルほど後方へ吹っ飛ばされた。キーニャは俺の硬い肩を喰らって、その場で再びうずくまってしまっている。
一見して相対ちと思えなくもないが、頑丈な背中から転がった俺のほうがダメージは少ない。キーニャは荒い息をしながら左の鎖骨辺りを押さえていた。
だけどマズいこともある。メイスがキーニャの足元に転がっている。
あれを持たれたら、さっき蹴飛ばした長剣を取りに行かなければならない。俺はキーニャの出方を窺いながらゆっくり歩を進めたところ、思わぬ援軍が現れていた。
接近する俺へ意識を集中させていたキーニャは反応ができず、ただただ慌てふためき立ち上がろうとして無様に転んでいる。
……スラスラ、お前、何をしている?
近づこうとする俺の前には、狡猾な笑みを浮かべキーニャが立ちはだかる。俺の腕ではこの女剣士を排除できない。
クソクソクソッ‼
ついさっきスーにとことんまでつき合うと決意したのに、この様は何だ⁉
どうしたらいい⁉ どうすればいい⁉
悔し涙があふれそうになる。
樫だった頃にはなかったこの感覚は、プリとの別れで思い出したもの。
今回はスーとの別れで感じさせられる。こんな想いをするくらいなら木のままで良かった。
昔の後ろ向きな思考が蘇りつつあることを皮肉に感じる暇もなく、キーニャが斬りつけて来る。俺は再び後ろへ下がってやり過ごす。今回は更に三回攻撃が続いた。最後の剣戟はメイスを立ててからくも防げた。
完全に俺を見くびってくれているらしい。闘技会の時のような緻密で鋭い攻撃ではないのは助かる。
息を切らす俺の耳へ、馬のいななきと馬車の動き出す音がが聞こえた。
この背中を使えば今の攻撃くらい耐えることは可能だろう。でもそれだけだ。あまり傷を負っては、スーを追い掛けることができなくなる。
意地でもキーニャに勝って、行き先を聞き出さなければならない。
「そろそろ限界だろう? 楽にしてあげるよ!」
「その程度の攻撃でやれるものならやってみろ‼」
「一回戦負けが元気なことだ、ねっ!」
「ベアトリスに負けた奴が偉そうに何を言ってる‼」
「お前ーっ‼」
酷薄な口許をさせたキーニャの一撃一撃が急に荒く重くなった。
ひたすら俺を斬り殺そうとする直線的な攻撃。必死にメイスで弾く、避ける。
ベアトリスにつけられた敗北は、思った以上に女剣士のプライドを傷つけていたらしい。
俺を見くびった攻撃が、ただの感情任せになっている。
実力が遥かに上の相手から勝つには意表を突くしかない。
俺は、迫りくる剣先をメイスで受けそこねたフリをして肩口で迎え撃った。キーニャの切っ先はわずかにブレたが、熟練の剣士らしく軌道を修正させ勢いそのままに俺の左肩へ当たる。
勝利を確信して歪んでいたキーニャの表情が別の理由で一瞬にして歪み、うめき声を上げて長剣を落とした。
キーニャの両手へ伝わったのは慣れ親しんだ肉を斬る感触ではない。硬い何かを叩いた激しい衝撃と痛み。
脳と体が想定し準備していた反動がまったく異なったためとても耐えきれなかった。手首がおかしな方向へと曲がり、反射的に握った手を開いてしまったのだ。
予想通りの展開に、俺はその場で持ち上げたメイスをキーニャのみぞおちへ叩き込む。
距離が近すぎたので勢いはない。革の鎧にも邪魔をされて大した威力はなかったかもしれないが、俺も肩口が痛むので今のが精一杯だった。
キーニャは、痺れた両手で腹を抑えながら膝を落としうずくまった。
俺は足元の長剣を思いきり背後へ蹴飛ばす。ありがちに拾って相手の喉元へ突きつけるなんて慣れないことをやったら、逆に奪い獲られかねない。
敵は俺よりも格上の冒険者。気は進まないが、足の一本でも折らなければ逃げられるかもをしれないし、何も話してくれないかもしれない。
スーを取り戻すためなら何でもしてやる。
一度大きく息を吐いてメイスをきつく握りしめ、キーニャヘ近づいた。
「スーをどこへ連れて行った? 目的は何だ? あらいざらい吐いてもらうぞ!」
憎悪と涙を浮かべた目をキーニャは向けたが、心を決めた俺はその程度では揺るがない。
「正直に教えてくれれば、このまま見逃してもいい。だが二度と俺達の前に姿を見せるな」
「一回戦負けがえらそうに!」
「その一回戦負けに負けたのは誰だ?」
命が助かると聞いて、憎まれ口を叩く余裕ができたのだろうか。
余計な時間は俺にはない。
「早く言え。でなければ足から腕からすべて叩き折るぞ」
「行き先なんて知らないね。追い掛けて一緒にいた男達へ聞きなよ」
「嘘をつくな。先に出たお前の相棒が追い駆けて来いと言っていた!」
「知らないものは知らないさ。そんな頭の悪いことだから一回戦負けで、仲間もさらわれるのさ」
「――いい加減にしろよ。何が何でも吐かせるぞ!」
「やれるものならやってみな!」
目の前に差し出されたメイスの先端を、キーニャはいきなり掴んで引っ張る。と同時に立ち上がって俺の腰を目掛けてタックルを仕掛けてきた。
情報の欲しい俺がキーニャを殺せないと踏んで、近づくのを狙っていたのか。
キーニャはダメージが回復していないようで、動きは思ったより鈍い。それでも重いメイスをすぐに振るって間に合いそうにない。
まともにやったら格が違うので勝てないだろう。捕まって関節でも決められてしまえば間違いなく終わる。
俺はメイスを手放して軽く膝を曲げる。飛びつくキーニャを、やや背中向けにした右ショルダータックルで迎え撃った。
振るった長剣からの衝撃で痛い目を見ても、俺の背中側が樫や鉄の盾並に頑丈だと理解できないのは無理もない。
キーニャが伸ばした腕の下をくぐって勢いよく突っ込み、何処でも構わないので体当たりをぶちかました。
出遅れて反応した分、不利だったのは否めない。単純に筋力や体重の差から、俺は三メートルほど後方へ吹っ飛ばされた。キーニャは俺の硬い肩を喰らって、その場で再びうずくまってしまっている。
一見して相対ちと思えなくもないが、頑丈な背中から転がった俺のほうがダメージは少ない。キーニャは荒い息をしながら左の鎖骨辺りを押さえていた。
だけどマズいこともある。メイスがキーニャの足元に転がっている。
あれを持たれたら、さっき蹴飛ばした長剣を取りに行かなければならない。俺はキーニャの出方を窺いながらゆっくり歩を進めたところ、思わぬ援軍が現れていた。
接近する俺へ意識を集中させていたキーニャは反応ができず、ただただ慌てふためき立ち上がろうとして無様に転んでいる。
……スラスラ、お前、何をしている?
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2020年12月。第11巻 出版しました。
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