俺が少女プリーストに転生したのは神様のお役所仕事のせい――だけではないかもしれない

ナギノセン

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32 迷える俺達

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「カッシーは木と鉄の呪詛を俺に埋め込んだ。このマントは、俺の弱点を克服するためにいただいたものなんだ。でも決定的な解決策ではない。何か良い方法があれば教えて欲しい」
「木のことならエルフへ聞くのが一番だろう。鉄はドワーフ族の師匠がいらっしゃるが、そのマントが一先ずの答えか」
「あんな分からず屋どもを頼るのはやめておけ」

 エルフとは、ファンタジーを知る者なら心惹かれる響きだ。ぜひとも会ってみたい気はするが、師匠は不機嫌そうに顔を横へと向けた。
 定番どおりのエルフとドワーフの不仲だろうか。マットに目で尋ねるが、マットも肩をすくめるだけだ。
 そうなると自分で聞くしかない。

「師匠、何かあったのですか?」
「昔のことなど忘れた。しかし嫌な思いをしたという記憶だけはある」
「師匠の記憶は気になりますが、今は自分の長所短所を把握しながら、短所の補強に必要なことは何でもしなければと思います」
「プリちゃんっ、前向きなのです」
「いや、単に命が掛かってるから……」
「エルフに会いたいなら白亜の大樹林、魔法を学びたいなら自由都市同盟の魔法都市グラッセンなのです」
「あいつらは白亜だけではない。が、お前達ではいずれにしろ難しいだろう」

 師匠の言葉を聞いて、スーに場所を尋ねるとエルフのほうは無理だと言われた。グラッセンも行ったことはないが地図は持っているとのことだった。
 マットヘ顔を向けると、目を瞑って首を振った。知らないという意味ではないだろう。

「一緒には来てくれないのか」
「俺も多忙でな。帝国から離れるなら俺の役目も終わりだ。元気にしろよ」

 何だかんだ頼りになったマットが来てくれないとわかり、俺はかなり落胆をした。しかしこのまま師匠の家に居続けることもできない。
 魔法都市やエルフたちの知識を、嫌がる師匠やマットから根気強く聞き出して、当面は魔法都市を目指すことにした。
 師匠がとにかくエルフを毛嫌いしていたので、感化をされて魔法都市になったようなものだが、エルフのことを下調べができる図書館もあるらしいので都合はいい。

 師匠は、別れ際に入口扉の鍵になるチェスの駒の並びを二通り教えてくれた。近いうちに戻ればそれで入れると言われたが、マットなしでたどり着けるとはとても思えない。
 マットもわかりやすい場所へ出るまで見送ると言ってくれたが、断った。
 何時までも頼ることはできない。これからはスーと二人旅なのだし、今のうちに慣れておく考えもあった。

 俺達は自由都市同盟へ向かうことにして、ダマスカス伯爵領の南端から延びる街道ヘ戻るために森林を突き進んだ。
 師匠の居場所を秘匿する目的から、スーの手持ち地図のどこなのかは教えてもらえなかった。
 言われた森の中をひたすら歩き、木々が少し途切れてはまた森へと繋がる。
 自由都市同盟への距離を稼いでいるのでやって来た道とは少し違う。

「この森が終われば街道に出ると思うのですが」

 師匠のところから出て五日目の午後、マットによるとそろそろのはずだ。八回目の木々の途切れ沿いに真っ直ぐ東へ行けば、荒地の中の細い街道へ出ると言っていた。しかし荒地は直ぐに森になって、再び木々の中へ進むうちに夜になってしまった。

 マットが嘘を言うはずがないので、俺達が何処かで誤ってしまったのだろう。師匠のところへ引き返すかとも考えたが、かなりの距離を歩いているし、遠くないうちに街道へ出られる期待もまだ捨てていない。
 それでも迷ったことがわかると、昨日まで感じていた師匠の隠れ家の森とは別物に思えて来る。現金なものだが、すっかり見知らぬ森に感じ始めていた。

 暗い森で夜を過ごすのは避けたいところだが、今更どうしようもない。
 これからも長い旅が続くのだから、いつも好条件で野宿できるはずもない。
 それに今日こそは森を抜けられると期待していたのに裏切られて、二人共気疲れをしてしまっていた。
 俺達は明日もどうなるかわからない不安を抱えながら、心身の回復をするために野営の準備へ入った。

「昨日よりも森が深い。こんな時は、焚火をするべきか控えるべきかどうなんだ?」
「少し待ってくださいです」

 スーの方が俺よりも豊富な経験と知識を持っている。この場は頼りにさせてもらおう。
 言い残したスーは、周囲を見回しながら木の高さや根元などを確認して木々の中へと入り、しばらくして姿を現した。

「焚火は止めた方がいいと思うのです」
「そうか」
「はい。木が結構生い茂っているので、遠距離攻撃は火があっても的にはなりにくいです。でも、見てきた太い木の幹に剣戟の後がいくつかありました。山賊さんかオークさんくらいは、そう遠くないところにいるのです」
「――本当に?」
「はい。森の雰囲気も少し嫌な感じなのです」
「だったらお互い交代で寝ずの番だな」
「はいです」
「マットの師匠からもらったマントがちょうど黒だから、暗い中だといいカムフラージュになるだろう」
「二人なら温かいのです」

 嬉しそうなスーを見て俺は考えた。
 つまりは、二人でこのマントに包まり、抱き合って寝る?
 いやいやいや、何も興奮などしていないぞ。俺は女だ。
 でも念入りに体は拭いておいた。
 準備は万端ではないが、夕飯を終えてドキドキしたのも束の間だった。
 疲れに勝てなかった俺は、スーの髪の毛を首筋にくすぐったく感じながら一瞬で寝入ってしまった。
 目を覚ましたのは、マントの中でスーが動いたからだが、周りを変なのにすっかり囲まれていた。

 スーが子供のようにあたたかくて、寝ずの番を決める前に爆睡したのが悔やまれる。
 スーも一緒になって気持ちよく寝てしまったようだった。
 寝ずの番をしてくれていたマットの有難味を心から噛み締めた。
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