25 / 71
25 職種チェンジ
しおりを挟む
武器を構えている俺達を警戒しているのか、大狼は一歩一歩小刻みに近づいて来る。
心臓が早鐘のごとく鳴り続け、脳内に真っ赤な危険信号を点滅させる。
わかってるけど、どうすりゃいいんだ⁉
小さなワンコとさえ競争して逃げ切る自信もないのに、こんだけデカいと絶対に無理。
戦って勝つ自信は更にない。
ゴクリ。
溜まった唾を飲み込む音が耳にこだまする。
「これは――ティムのビッグチャンスなのです!」
「はい?」
俺の隣の天然系少女スカウトが、魔道バッグに入っていたと思われる骨付き肉を手に前へ出た。俺は慌てて腕を掴んで引っ張り戻そうとしたが、簡単によけられてしまう。
さすがスカウト、などと感心している場合ではない。
躊躇う気持ちを抑え込み、スーに並ぶように足を踏み出すと、大狼は何故か後ろへ後ずさった。
「スー! 状況を考えてくれ‼」
「プリちゃんはフレアちゃんをティムしたのです! スーも欲しいのです!」
「守護獣を使い魔扱いするな!」
「大丈夫なのです‼ スーもこんな毛並のワンちゃんが前から欲しかったのです!」
ものすごく自信満々で答えるスーに、ひょっとしてとの気持ちが少しだけ芽生えた。
「お前、ティムスキルなんて持っていたのか?」
「ないのですっ、なので餌付けです!」
「アホかーっ‼」
思わず腹の底から声を張り上げた俺に、スーだけでなく大狼も驚いたらしく、再び距離を取るように下がった。
チャンスとばかりに俺は今度こそ間違いなくスーの腕を掴み、メイスを構えたままじりじりと後ずさる。
大狼は一定の距離を保ったままついて来るが、それ以上の行動を起こそうとしない。
何かで読んだ記憶があるが、ドラキュラか何かの魔物は銀の剣には弱いとあった。俺の持っているのも銀のメイスなので、嫌がっているのだろうか。
ともかく理由はわからないが、襲い掛かって来そうな気配がないのはとてもありがたい。
大狼が気変わりをしないように祈りながら、焦る気持ちを抑えて俺たちは入口を目指す。
後ろ向きで登る坂道に苦労をして、行きの倍以上の時間をかけてようやく視界の端に明るい入口をとらえた。
先程のオークたちが居るのではないかと思い出して、背後にも警戒を怠らない。
すると洞窟を出た辺りで争う音が聞こえた。
「あれは先生なのですっ」
「マット?」
「オークさんと楽しそうに追いかけっこをしているのですっ」
俺には見えない光景がスカウトの目には映っているらしく、状況を楽し気に教えてくれた。
マットがいるなら背後を気にする必要はい。正面へ注意を戻すと、いつの間にか俺達と大狼の間が広がっていた。
油断を誘っているのか、入口の戦いを警戒してか。考えたところでわからないけど、俺達を追うのを止めたのであればありがたい。
その後、大狼は一度牙を大きく見せると、踵を返してダンジョンの奥へ姿を消した。
大狼が戻ってこないことを確認した俺達は、マットへ加勢をするためすぐに入ロヘ向かった。その頃には、もうあらかた決着がついていた。
最後の一匹と対峙しながら、マットは険しい顔で俺へと怒鳴った。
「プリ、足元の奴にとどめを刺しておいてくれ!」
えっ⁉ 俺?
たった今、気づいたことがある。
俺はプリーストなので、一般的に錫杖やこん棒が武器になるのだが、正直剣が欲しい。
剣だとスパッと切れて、まだ罪悪感も嫌悪感も少ない。
打撃系の武器は、骨が砕ける時の何とも言えない手応えとか、ぶちまけられる脳漿とか血とかが、あまりにも直截すぎるっ!
動きの止まった俺を気遣ったスーが、まだ息のあるオークの喉笛を手にした短剣でかき切った。
ほんと俺って情けない。何が守ってやらなきゃ、だ。
「――スー、ありがとう」
「プリちゃんはスーを引っ張って来てくれて疲れてるのです。何も問題ないのです」
「……俺も剣を手に入れるよ」
「え? プリちゃんはプリーストです。それで剣を持つと言うことは、聖騎士でも目指すのですか?」
「聖騎士?」
「はいです。魔道士の中でマジシャンと呼ばれる人が剣を持つと魔法剣士ですが、修道士のうちでプリーストが剣を持つと聖騎士になれるです。どちらもすごく大変な道なのですっ」
「ちょっと待て! そんな大それた話のつもりはないから。単に武器を剣に持ち替えたいと思っただけだから」
「そ、そうでしたか。また職種を変えるのかと思ってびっくりしちゃいました」
「それはこっちのセリフだ」
話をしているうちにマットの方も終わったらしく、剣を拭きながら俺達がダンジョンを出るのを待っているようだ。しかしスーは何かに興奮をしているのか、普段より饒舌に続けた。
「神様の祝福と承認を受けて、プリーストが聖騎士になったり、マジシャンが魔法剣士になったり、剣士が騎士になることができるのです。これらは上位職ヘのチェンジですが、修道士が魔道士になったり、スカウトが剣士になったりする等位のチェンジもあるのです」
俺のやったことあるFRPGでもあったが、いわゆる転職だ。しかし神様の承認が必要なあたりが普通ではないし、かなり制限がある気がする。
どんな神様が出てくるのか、見たいような怖いような。
「じゃあ、俺が魔道士になったり、スーが剣士にもなれるのか?」
「……プリちゃんなら可能でしょうが、スーは剣士にはなれないのです」
それまで生き生きとしていたスーの表情が急に暗くなった。聞いてはいけないナーバスな部分だったのかもしれない。
心臓が早鐘のごとく鳴り続け、脳内に真っ赤な危険信号を点滅させる。
わかってるけど、どうすりゃいいんだ⁉
小さなワンコとさえ競争して逃げ切る自信もないのに、こんだけデカいと絶対に無理。
戦って勝つ自信は更にない。
ゴクリ。
溜まった唾を飲み込む音が耳にこだまする。
「これは――ティムのビッグチャンスなのです!」
「はい?」
俺の隣の天然系少女スカウトが、魔道バッグに入っていたと思われる骨付き肉を手に前へ出た。俺は慌てて腕を掴んで引っ張り戻そうとしたが、簡単によけられてしまう。
さすがスカウト、などと感心している場合ではない。
躊躇う気持ちを抑え込み、スーに並ぶように足を踏み出すと、大狼は何故か後ろへ後ずさった。
「スー! 状況を考えてくれ‼」
「プリちゃんはフレアちゃんをティムしたのです! スーも欲しいのです!」
「守護獣を使い魔扱いするな!」
「大丈夫なのです‼ スーもこんな毛並のワンちゃんが前から欲しかったのです!」
ものすごく自信満々で答えるスーに、ひょっとしてとの気持ちが少しだけ芽生えた。
「お前、ティムスキルなんて持っていたのか?」
「ないのですっ、なので餌付けです!」
「アホかーっ‼」
思わず腹の底から声を張り上げた俺に、スーだけでなく大狼も驚いたらしく、再び距離を取るように下がった。
チャンスとばかりに俺は今度こそ間違いなくスーの腕を掴み、メイスを構えたままじりじりと後ずさる。
大狼は一定の距離を保ったままついて来るが、それ以上の行動を起こそうとしない。
何かで読んだ記憶があるが、ドラキュラか何かの魔物は銀の剣には弱いとあった。俺の持っているのも銀のメイスなので、嫌がっているのだろうか。
ともかく理由はわからないが、襲い掛かって来そうな気配がないのはとてもありがたい。
大狼が気変わりをしないように祈りながら、焦る気持ちを抑えて俺たちは入口を目指す。
後ろ向きで登る坂道に苦労をして、行きの倍以上の時間をかけてようやく視界の端に明るい入口をとらえた。
先程のオークたちが居るのではないかと思い出して、背後にも警戒を怠らない。
すると洞窟を出た辺りで争う音が聞こえた。
「あれは先生なのですっ」
「マット?」
「オークさんと楽しそうに追いかけっこをしているのですっ」
俺には見えない光景がスカウトの目には映っているらしく、状況を楽し気に教えてくれた。
マットがいるなら背後を気にする必要はい。正面へ注意を戻すと、いつの間にか俺達と大狼の間が広がっていた。
油断を誘っているのか、入口の戦いを警戒してか。考えたところでわからないけど、俺達を追うのを止めたのであればありがたい。
その後、大狼は一度牙を大きく見せると、踵を返してダンジョンの奥へ姿を消した。
大狼が戻ってこないことを確認した俺達は、マットへ加勢をするためすぐに入ロヘ向かった。その頃には、もうあらかた決着がついていた。
最後の一匹と対峙しながら、マットは険しい顔で俺へと怒鳴った。
「プリ、足元の奴にとどめを刺しておいてくれ!」
えっ⁉ 俺?
たった今、気づいたことがある。
俺はプリーストなので、一般的に錫杖やこん棒が武器になるのだが、正直剣が欲しい。
剣だとスパッと切れて、まだ罪悪感も嫌悪感も少ない。
打撃系の武器は、骨が砕ける時の何とも言えない手応えとか、ぶちまけられる脳漿とか血とかが、あまりにも直截すぎるっ!
動きの止まった俺を気遣ったスーが、まだ息のあるオークの喉笛を手にした短剣でかき切った。
ほんと俺って情けない。何が守ってやらなきゃ、だ。
「――スー、ありがとう」
「プリちゃんはスーを引っ張って来てくれて疲れてるのです。何も問題ないのです」
「……俺も剣を手に入れるよ」
「え? プリちゃんはプリーストです。それで剣を持つと言うことは、聖騎士でも目指すのですか?」
「聖騎士?」
「はいです。魔道士の中でマジシャンと呼ばれる人が剣を持つと魔法剣士ですが、修道士のうちでプリーストが剣を持つと聖騎士になれるです。どちらもすごく大変な道なのですっ」
「ちょっと待て! そんな大それた話のつもりはないから。単に武器を剣に持ち替えたいと思っただけだから」
「そ、そうでしたか。また職種を変えるのかと思ってびっくりしちゃいました」
「それはこっちのセリフだ」
話をしているうちにマットの方も終わったらしく、剣を拭きながら俺達がダンジョンを出るのを待っているようだ。しかしスーは何かに興奮をしているのか、普段より饒舌に続けた。
「神様の祝福と承認を受けて、プリーストが聖騎士になったり、マジシャンが魔法剣士になったり、剣士が騎士になることができるのです。これらは上位職ヘのチェンジですが、修道士が魔道士になったり、スカウトが剣士になったりする等位のチェンジもあるのです」
俺のやったことあるFRPGでもあったが、いわゆる転職だ。しかし神様の承認が必要なあたりが普通ではないし、かなり制限がある気がする。
どんな神様が出てくるのか、見たいような怖いような。
「じゃあ、俺が魔道士になったり、スーが剣士にもなれるのか?」
「……プリちゃんなら可能でしょうが、スーは剣士にはなれないのです」
それまで生き生きとしていたスーの表情が急に暗くなった。聞いてはいけないナーバスな部分だったのかもしれない。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************
もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!
結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)
でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない!
何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ…………
……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ?
え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い…
え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back…
ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子?
無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布!
って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない!
イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる