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25 職種チェンジ
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武器を構えている俺達を警戒しているのか、大狼は一歩一歩小刻みに近づいて来る。
心臓が早鐘のごとく鳴り続け、脳内に真っ赤な危険信号を点滅させる。
わかってるけど、どうすりゃいいんだ⁉
小さなワンコとさえ競争して逃げ切る自信もないのに、こんだけデカいと絶対に無理。
戦って勝つ自信は更にない。
ゴクリ。
溜まった唾を飲み込む音が耳にこだまする。
「これは――ティムのビッグチャンスなのです!」
「はい?」
俺の隣の天然系少女スカウトが、魔道バッグに入っていたと思われる骨付き肉を手に前へ出た。俺は慌てて腕を掴んで引っ張り戻そうとしたが、簡単によけられてしまう。
さすがスカウト、などと感心している場合ではない。
躊躇う気持ちを抑え込み、スーに並ぶように足を踏み出すと、大狼は何故か後ろへ後ずさった。
「スー! 状況を考えてくれ‼」
「プリちゃんはフレアちゃんをティムしたのです! スーも欲しいのです!」
「守護獣を使い魔扱いするな!」
「大丈夫なのです‼ スーもこんな毛並のワンちゃんが前から欲しかったのです!」
ものすごく自信満々で答えるスーに、ひょっとしてとの気持ちが少しだけ芽生えた。
「お前、ティムスキルなんて持っていたのか?」
「ないのですっ、なので餌付けです!」
「アホかーっ‼」
思わず腹の底から声を張り上げた俺に、スーだけでなく大狼も驚いたらしく、再び距離を取るように下がった。
チャンスとばかりに俺は今度こそ間違いなくスーの腕を掴み、メイスを構えたままじりじりと後ずさる。
大狼は一定の距離を保ったままついて来るが、それ以上の行動を起こそうとしない。
何かで読んだ記憶があるが、ドラキュラか何かの魔物は銀の剣には弱いとあった。俺の持っているのも銀のメイスなので、嫌がっているのだろうか。
ともかく理由はわからないが、襲い掛かって来そうな気配がないのはとてもありがたい。
大狼が気変わりをしないように祈りながら、焦る気持ちを抑えて俺たちは入口を目指す。
後ろ向きで登る坂道に苦労をして、行きの倍以上の時間をかけてようやく視界の端に明るい入口をとらえた。
先程のオークたちが居るのではないかと思い出して、背後にも警戒を怠らない。
すると洞窟を出た辺りで争う音が聞こえた。
「あれは先生なのですっ」
「マット?」
「オークさんと楽しそうに追いかけっこをしているのですっ」
俺には見えない光景がスカウトの目には映っているらしく、状況を楽し気に教えてくれた。
マットがいるなら背後を気にする必要はい。正面へ注意を戻すと、いつの間にか俺達と大狼の間が広がっていた。
油断を誘っているのか、入口の戦いを警戒してか。考えたところでわからないけど、俺達を追うのを止めたのであればありがたい。
その後、大狼は一度牙を大きく見せると、踵を返してダンジョンの奥へ姿を消した。
大狼が戻ってこないことを確認した俺達は、マットへ加勢をするためすぐに入ロヘ向かった。その頃には、もうあらかた決着がついていた。
最後の一匹と対峙しながら、マットは険しい顔で俺へと怒鳴った。
「プリ、足元の奴にとどめを刺しておいてくれ!」
えっ⁉ 俺?
たった今、気づいたことがある。
俺はプリーストなので、一般的に錫杖やこん棒が武器になるのだが、正直剣が欲しい。
剣だとスパッと切れて、まだ罪悪感も嫌悪感も少ない。
打撃系の武器は、骨が砕ける時の何とも言えない手応えとか、ぶちまけられる脳漿とか血とかが、あまりにも直截すぎるっ!
動きの止まった俺を気遣ったスーが、まだ息のあるオークの喉笛を手にした短剣でかき切った。
ほんと俺って情けない。何が守ってやらなきゃ、だ。
「――スー、ありがとう」
「プリちゃんはスーを引っ張って来てくれて疲れてるのです。何も問題ないのです」
「……俺も剣を手に入れるよ」
「え? プリちゃんはプリーストです。それで剣を持つと言うことは、聖騎士でも目指すのですか?」
「聖騎士?」
「はいです。魔道士の中でマジシャンと呼ばれる人が剣を持つと魔法剣士ですが、修道士のうちでプリーストが剣を持つと聖騎士になれるです。どちらもすごく大変な道なのですっ」
「ちょっと待て! そんな大それた話のつもりはないから。単に武器を剣に持ち替えたいと思っただけだから」
「そ、そうでしたか。また職種を変えるのかと思ってびっくりしちゃいました」
「それはこっちのセリフだ」
話をしているうちにマットの方も終わったらしく、剣を拭きながら俺達がダンジョンを出るのを待っているようだ。しかしスーは何かに興奮をしているのか、普段より饒舌に続けた。
「神様の祝福と承認を受けて、プリーストが聖騎士になったり、マジシャンが魔法剣士になったり、剣士が騎士になることができるのです。これらは上位職ヘのチェンジですが、修道士が魔道士になったり、スカウトが剣士になったりする等位のチェンジもあるのです」
俺のやったことあるFRPGでもあったが、いわゆる転職だ。しかし神様の承認が必要なあたりが普通ではないし、かなり制限がある気がする。
どんな神様が出てくるのか、見たいような怖いような。
「じゃあ、俺が魔道士になったり、スーが剣士にもなれるのか?」
「……プリちゃんなら可能でしょうが、スーは剣士にはなれないのです」
それまで生き生きとしていたスーの表情が急に暗くなった。聞いてはいけないナーバスな部分だったのかもしれない。
心臓が早鐘のごとく鳴り続け、脳内に真っ赤な危険信号を点滅させる。
わかってるけど、どうすりゃいいんだ⁉
小さなワンコとさえ競争して逃げ切る自信もないのに、こんだけデカいと絶対に無理。
戦って勝つ自信は更にない。
ゴクリ。
溜まった唾を飲み込む音が耳にこだまする。
「これは――ティムのビッグチャンスなのです!」
「はい?」
俺の隣の天然系少女スカウトが、魔道バッグに入っていたと思われる骨付き肉を手に前へ出た。俺は慌てて腕を掴んで引っ張り戻そうとしたが、簡単によけられてしまう。
さすがスカウト、などと感心している場合ではない。
躊躇う気持ちを抑え込み、スーに並ぶように足を踏み出すと、大狼は何故か後ろへ後ずさった。
「スー! 状況を考えてくれ‼」
「プリちゃんはフレアちゃんをティムしたのです! スーも欲しいのです!」
「守護獣を使い魔扱いするな!」
「大丈夫なのです‼ スーもこんな毛並のワンちゃんが前から欲しかったのです!」
ものすごく自信満々で答えるスーに、ひょっとしてとの気持ちが少しだけ芽生えた。
「お前、ティムスキルなんて持っていたのか?」
「ないのですっ、なので餌付けです!」
「アホかーっ‼」
思わず腹の底から声を張り上げた俺に、スーだけでなく大狼も驚いたらしく、再び距離を取るように下がった。
チャンスとばかりに俺は今度こそ間違いなくスーの腕を掴み、メイスを構えたままじりじりと後ずさる。
大狼は一定の距離を保ったままついて来るが、それ以上の行動を起こそうとしない。
何かで読んだ記憶があるが、ドラキュラか何かの魔物は銀の剣には弱いとあった。俺の持っているのも銀のメイスなので、嫌がっているのだろうか。
ともかく理由はわからないが、襲い掛かって来そうな気配がないのはとてもありがたい。
大狼が気変わりをしないように祈りながら、焦る気持ちを抑えて俺たちは入口を目指す。
後ろ向きで登る坂道に苦労をして、行きの倍以上の時間をかけてようやく視界の端に明るい入口をとらえた。
先程のオークたちが居るのではないかと思い出して、背後にも警戒を怠らない。
すると洞窟を出た辺りで争う音が聞こえた。
「あれは先生なのですっ」
「マット?」
「オークさんと楽しそうに追いかけっこをしているのですっ」
俺には見えない光景がスカウトの目には映っているらしく、状況を楽し気に教えてくれた。
マットがいるなら背後を気にする必要はい。正面へ注意を戻すと、いつの間にか俺達と大狼の間が広がっていた。
油断を誘っているのか、入口の戦いを警戒してか。考えたところでわからないけど、俺達を追うのを止めたのであればありがたい。
その後、大狼は一度牙を大きく見せると、踵を返してダンジョンの奥へ姿を消した。
大狼が戻ってこないことを確認した俺達は、マットへ加勢をするためすぐに入ロヘ向かった。その頃には、もうあらかた決着がついていた。
最後の一匹と対峙しながら、マットは険しい顔で俺へと怒鳴った。
「プリ、足元の奴にとどめを刺しておいてくれ!」
えっ⁉ 俺?
たった今、気づいたことがある。
俺はプリーストなので、一般的に錫杖やこん棒が武器になるのだが、正直剣が欲しい。
剣だとスパッと切れて、まだ罪悪感も嫌悪感も少ない。
打撃系の武器は、骨が砕ける時の何とも言えない手応えとか、ぶちまけられる脳漿とか血とかが、あまりにも直截すぎるっ!
動きの止まった俺を気遣ったスーが、まだ息のあるオークの喉笛を手にした短剣でかき切った。
ほんと俺って情けない。何が守ってやらなきゃ、だ。
「――スー、ありがとう」
「プリちゃんはスーを引っ張って来てくれて疲れてるのです。何も問題ないのです」
「……俺も剣を手に入れるよ」
「え? プリちゃんはプリーストです。それで剣を持つと言うことは、聖騎士でも目指すのですか?」
「聖騎士?」
「はいです。魔道士の中でマジシャンと呼ばれる人が剣を持つと魔法剣士ですが、修道士のうちでプリーストが剣を持つと聖騎士になれるです。どちらもすごく大変な道なのですっ」
「ちょっと待て! そんな大それた話のつもりはないから。単に武器を剣に持ち替えたいと思っただけだから」
「そ、そうでしたか。また職種を変えるのかと思ってびっくりしちゃいました」
「それはこっちのセリフだ」
話をしているうちにマットの方も終わったらしく、剣を拭きながら俺達がダンジョンを出るのを待っているようだ。しかしスーは何かに興奮をしているのか、普段より饒舌に続けた。
「神様の祝福と承認を受けて、プリーストが聖騎士になったり、マジシャンが魔法剣士になったり、剣士が騎士になることができるのです。これらは上位職ヘのチェンジですが、修道士が魔道士になったり、スカウトが剣士になったりする等位のチェンジもあるのです」
俺のやったことあるFRPGでもあったが、いわゆる転職だ。しかし神様の承認が必要なあたりが普通ではないし、かなり制限がある気がする。
どんな神様が出てくるのか、見たいような怖いような。
「じゃあ、俺が魔道士になったり、スーが剣士にもなれるのか?」
「……プリちゃんなら可能でしょうが、スーは剣士にはなれないのです」
それまで生き生きとしていたスーの表情が急に暗くなった。聞いてはいけないナーバスな部分だったのかもしれない。
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