24 / 71
24 ダンジョンデビュー
しおりを挟む
村の名前は特にない。ダマスカス伯爵領の南の外れなので、単純に南境の村とか呼ばれるらしい。
俺はどうせ滞在するなら楽しもうと思った。
「どっかダンジョンってないの?」
「ありますよ。二日ほど東へ行った小高い山のふもとに」
「どんな魔物が出るんだ? ギルドの情報はあるのか?」
「それが、フレアバード様がおられると魔物の発生が抑えられて、おられなくなると突然発生するものですから、ギルドも探索を止めたようです」
「フレアバードが居る時に来て空振りだったから、その後は来てないと?」
「二、三回は調査がありましたが、ことごとく失敗でした」
ギルドが調べた地図でもあればありがたかったが、村にとってはいいことなので文句を言うのはお門違いだろう。
「少し前までフレアがいなかったのだから、今なら魔物が居るかもしれないんだな?」
「と思いますが、この辺りでよく見られるオークやコボルド、フォレストウルフ程度でしょう。我々はあまり近寄りませんので、実際はどうなっているかわかりません」
「折角だし行ってみようかな。いずれダンジョンデビューをしなければだし、お手軽なところで慣れるのもいいか」
「ダンジョンデビュー?」
「こっちの話」
「スーも行くのですっ」
俺と村長の話を聞きつけたスーが、目を輝かせて寄って来た。
「勿論頼むつもりだったよ。マットもな」
「断る。俺はこの村でくつろいで疲れた体を癒したい。いいや、永住してもいいくらいだ」
「これまで大変だったから気持ちはわかるけど、マットの師匠のところには行ってくれるんだろうな」
「フレアバードを養うためにってのが目的だったけど、この村で定住が決まったなら必要あるまい。フレアバードが常に居るなんて、本当にいい村だ」
知らない間にやる気なし村人に成り下がった男は、フレアの巣がある大樫に村人達に混じって日参している。ムンムンおねーさんのフレアが見えているのではと疑いそうになるが、単にありがたがってのことらしい。
嫌がる者を無理に誘う必要もない。ともかくダンジョンヘ入れれば、スーとの約束は果たせるのでさっさと出発することにした。
「俺とスーで少しだけ行ってくるよ」
「そうしてくれ」
「えー、先生は来ないのですか?」
「悪いな」
「わかったのです。じゃあプリちゃんと二人っきりです」
「お、おお」
嬉しそうに俺の腕へ抱きついたスーに、今更ながらドキッとさせられた。
村から出て街道を外れて森へ入る。緑が豊かな広葉樹の木立を進むこと二、三時間程度で小高い山の前に立った。
緑の木々の間に、高さが五メートルくらいありそうな穴がポッカリ開いている。入口前まで行くと風が穴の奥から吹いてくる。反対側のどこかに出口の穴があるかもしれない。
「灯りは俺が持つから、スーは周囲を見張って、危険がせまったら教えてくれ」
「はいです」
暗闇から急に敵が出て来ることを想像すると、首筋に寒さを感じる。見た目はお化け屋敷とか鍾乳洞っぽいのだが、これはアトラクションではない。
スカウトのスーは、気配を察知することも暗視も優れているから安心して任せられる。
敵が弓矢とかを持っていれば俺が狙われることになる。気休め程度に灯りをメイスの先にぶら下げて体から離し、俺達は一本道をどんどん下った。
だけど話に聞いていた魔物の影が全然ない。
殺戮フェチではないが、意気込んできてこれでは肩すかしすぎる。気が張って損した気分だ。
入る前は山を登って来て、今はひたすら下ったと言うことは、帰りは別の出口が無ければ再び登らなければならない。
暗くなる前に村まで帰るならばそろそろ戻るかと俺が考えていると、スーが嬉しそうに俺の服の袖を引っ張った。
「プリちゃん、前からオークさんが三人、駆けっこをしてこっちへ向かっているのです!」
「何っ⁉」
俺には全然見えない。言われて耳を澄ますとあわただしい音が近づいて来る。
マットを連れて来なかったのは失敗だったかもしれない。
俺は実際のところ初めての戦いで、数でも劣勢。かなり厳しい気がする。
及び腰の考えを察したらしいスーが、俺より一歩前へ出た。
本当は後ろで守ってやりたいが、エラそうなことは言えない。
俺は剣士でも戦士でもない、プリーストだ。攻撃力や俊敏性ではスーの方が間違いなく上回っている。
しかし、初めての戦いにもかかわらず、緊張で喉の奥が渇くこともメイスを握る手が震えることもなかった。
プリの体は何度も経験をしているから、俺の情けない怯えなど入る余地がないのかもしれない。
俺は迎え撃つべくメイスを真正面に構えていたが、オークは俺達に目もくれず横をすり抜けて、入口への道をひた走って逃げて行った。
「何だ?」
「あ、間違えました、鬼ごっこでした!」
「スー、お前なー」
と、俺の言葉は最後まで続かなかった。
目の前に、真っ黒でとてつもなく巨大な犬が現れたからだ。
村ではフォレストウルフがいると言っていたから、狼なのかもしれない。どっちにしてもオークが逃げた理由など明らかだ
普通に考えたら、ありえない大きさの狼が牙をむいてこちらを威嚇している。
身の丈は単純に三メートルほど、しっぽまでは五メートルくらい。
俺が見知ったもので言えば、ダンプカーなみだ。
フレアがいない間にとんでもないのが住み着いていたな、などと落ち着いてる場合じゃない。
俺はどうせ滞在するなら楽しもうと思った。
「どっかダンジョンってないの?」
「ありますよ。二日ほど東へ行った小高い山のふもとに」
「どんな魔物が出るんだ? ギルドの情報はあるのか?」
「それが、フレアバード様がおられると魔物の発生が抑えられて、おられなくなると突然発生するものですから、ギルドも探索を止めたようです」
「フレアバードが居る時に来て空振りだったから、その後は来てないと?」
「二、三回は調査がありましたが、ことごとく失敗でした」
ギルドが調べた地図でもあればありがたかったが、村にとってはいいことなので文句を言うのはお門違いだろう。
「少し前までフレアがいなかったのだから、今なら魔物が居るかもしれないんだな?」
「と思いますが、この辺りでよく見られるオークやコボルド、フォレストウルフ程度でしょう。我々はあまり近寄りませんので、実際はどうなっているかわかりません」
「折角だし行ってみようかな。いずれダンジョンデビューをしなければだし、お手軽なところで慣れるのもいいか」
「ダンジョンデビュー?」
「こっちの話」
「スーも行くのですっ」
俺と村長の話を聞きつけたスーが、目を輝かせて寄って来た。
「勿論頼むつもりだったよ。マットもな」
「断る。俺はこの村でくつろいで疲れた体を癒したい。いいや、永住してもいいくらいだ」
「これまで大変だったから気持ちはわかるけど、マットの師匠のところには行ってくれるんだろうな」
「フレアバードを養うためにってのが目的だったけど、この村で定住が決まったなら必要あるまい。フレアバードが常に居るなんて、本当にいい村だ」
知らない間にやる気なし村人に成り下がった男は、フレアの巣がある大樫に村人達に混じって日参している。ムンムンおねーさんのフレアが見えているのではと疑いそうになるが、単にありがたがってのことらしい。
嫌がる者を無理に誘う必要もない。ともかくダンジョンヘ入れれば、スーとの約束は果たせるのでさっさと出発することにした。
「俺とスーで少しだけ行ってくるよ」
「そうしてくれ」
「えー、先生は来ないのですか?」
「悪いな」
「わかったのです。じゃあプリちゃんと二人っきりです」
「お、おお」
嬉しそうに俺の腕へ抱きついたスーに、今更ながらドキッとさせられた。
村から出て街道を外れて森へ入る。緑が豊かな広葉樹の木立を進むこと二、三時間程度で小高い山の前に立った。
緑の木々の間に、高さが五メートルくらいありそうな穴がポッカリ開いている。入口前まで行くと風が穴の奥から吹いてくる。反対側のどこかに出口の穴があるかもしれない。
「灯りは俺が持つから、スーは周囲を見張って、危険がせまったら教えてくれ」
「はいです」
暗闇から急に敵が出て来ることを想像すると、首筋に寒さを感じる。見た目はお化け屋敷とか鍾乳洞っぽいのだが、これはアトラクションではない。
スカウトのスーは、気配を察知することも暗視も優れているから安心して任せられる。
敵が弓矢とかを持っていれば俺が狙われることになる。気休め程度に灯りをメイスの先にぶら下げて体から離し、俺達は一本道をどんどん下った。
だけど話に聞いていた魔物の影が全然ない。
殺戮フェチではないが、意気込んできてこれでは肩すかしすぎる。気が張って損した気分だ。
入る前は山を登って来て、今はひたすら下ったと言うことは、帰りは別の出口が無ければ再び登らなければならない。
暗くなる前に村まで帰るならばそろそろ戻るかと俺が考えていると、スーが嬉しそうに俺の服の袖を引っ張った。
「プリちゃん、前からオークさんが三人、駆けっこをしてこっちへ向かっているのです!」
「何っ⁉」
俺には全然見えない。言われて耳を澄ますとあわただしい音が近づいて来る。
マットを連れて来なかったのは失敗だったかもしれない。
俺は実際のところ初めての戦いで、数でも劣勢。かなり厳しい気がする。
及び腰の考えを察したらしいスーが、俺より一歩前へ出た。
本当は後ろで守ってやりたいが、エラそうなことは言えない。
俺は剣士でも戦士でもない、プリーストだ。攻撃力や俊敏性ではスーの方が間違いなく上回っている。
しかし、初めての戦いにもかかわらず、緊張で喉の奥が渇くこともメイスを握る手が震えることもなかった。
プリの体は何度も経験をしているから、俺の情けない怯えなど入る余地がないのかもしれない。
俺は迎え撃つべくメイスを真正面に構えていたが、オークは俺達に目もくれず横をすり抜けて、入口への道をひた走って逃げて行った。
「何だ?」
「あ、間違えました、鬼ごっこでした!」
「スー、お前なー」
と、俺の言葉は最後まで続かなかった。
目の前に、真っ黒でとてつもなく巨大な犬が現れたからだ。
村ではフォレストウルフがいると言っていたから、狼なのかもしれない。どっちにしてもオークが逃げた理由など明らかだ
普通に考えたら、ありえない大きさの狼が牙をむいてこちらを威嚇している。
身の丈は単純に三メートルほど、しっぽまでは五メートルくらい。
俺が見知ったもので言えば、ダンプカーなみだ。
フレアがいない間にとんでもないのが住み着いていたな、などと落ち着いてる場合じゃない。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
【完結】転生幼女ですが、追放されたので魔王になります。(ノベル版)
アキ・スマイリー
ファンタジー
アラサー女子の三石悠乃(みついし ゆうの)は、目覚めると幼女になっていた。右も左もわからぬ異世界。モフモフな狼エルデガインに拾われ、冒険者となる。
だが、保護者であるエルデガインがかつての「魔王」である事を、周囲に知られてしまう。
町を追放され、行き場を失ったユウノだったが、エルデガインと本当の親子以上の関係となり、彼に守られながら僻地の森に居場所を探す。
そこには、エルデガインが魔王だった時の居城があった。すっかり寂れてしまった城だったが、精霊やモンスターに愛されるユウノの体質のお陰で、大勢の協力者が集う事に。
一方、エルデガインが去った後の町にはモンスターの大群がやってくるようになる。実はエルデガインが町付近にいる事で、彼を恐れたモンスター達は町に近づかなかったのだ。
守護者を失った町は、急速に崩壊の一都を辿る。
※この作品にはコミック版もあり、そちらで使用した絵を挿絵や人物紹介に使用しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
転生王子はダラけたい
朝比奈 和
ファンタジー
大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。
束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!
と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!
ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!
ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり!
※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。

転生令嬢シルクの奮闘記〜ローゼ・ルディ学園の非日常〜
桜ゆらぎ
ファンタジー
西の大国アルヴァティアの子爵令嬢、シルク・スノウパール。
彼女は十六歳になる年の春、熱で倒れ三日間寝込んだ末に、全てを思い出した。
前世の自分は、日本生まれ日本育ちの女子高生である。そして今世の自分は、前世で遊び倒していた乙女ゲームの序盤に登場したきり出てこない脇役キャラクターである。
そんなバカな話があるかと頬をつねるも、痛みで夢ではないことを突きつけられるだけ。大人しく現実を受け入れて、ひとまず脇役としての役目を果たそうと、シルクは原作通りに動き出す。
しかし、ヒロインが自分と同じく転生者であるというまさかの事態が判明。
“王太子と幼なじみを同時に攻略する”という野望を持つヒロインの立ち回りによって、この世界は何もかも原作から外れていく。
平和な学園生活を送るというシルクの望みは、入学初日にしてあえなく打ち砕かれることとなった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる