俺が少女プリーストに転生したのは神様のお役所仕事のせい――だけではないかもしれない

ナギノセン

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20 祠にいたのは?

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「いいところがあるのですっ」

 真っ先にそこを見つけたのは、やはりスカウトのスーだった。
 俺達が向かったのは、きれいに掃除をされた小さな祠のような建物だ。
 もし何かの神様が祭られているなら勝手に入るのは失礼にあたるので、軒先を借りて腰を降ろし、休憩を取る。
 マットとスーは、建物に火が燃え移らないように少し離れたところで焚火を始め、湯を沸かして温かい飲み物を作ってくれた。ようやく人心地ついた俺達は改めて話合いを始めた。
 俺は地理に不案内。スーはあまり後先を考えない。必然的にマットが主導権を取った。

「で、どうするんだ? 東方小王国へ向かうのも面白いだろうし、いっそのことダマスカスの境の西を通って帝国へ入ってもいいかもしれない」
「帝国はないだろう⁉」
「帝国と言ってもその辺りになると完全に辺境扱いだ。中央に反抗的な領主の土地を選べば小王国へ行くよりは便利ではあると思う。更に西には自由都市の同盟もあるぞ」
「スーはどう思う?」
「――何かいるのですっ」

 俺とマットの話にスーが加わろうとしなかったのは、聞き耳を立てていたかららしい。スーは足音もさせずに祠の木の扉へ近づき、ゆっくりと開けた。
 鍵が掛かっていなかったのは意外だった。建物の真ん中にはフカフカの布団らしき布が敷かれて、その上には俺達くらいの大きさをした真っ白な卵があった。

「何だあれは?」
「わからないのです」

 俺の疑問にスーも首をひねり、マットはだんまりを続ける。
 このまま見なかったことにして扉を閉めるべきかと俺は思ったが、スーは興味深々な視線を向けている。マットでさえ怪しみながらも立ち去る気配はない。
 冒険者とはそういうものかと改めて知った俺は、気を取り直してかなり失礼とは思いながら、ゆっくりと卵に近づいた。
 何処から見ても白い卵だ。バランスを少しでも崩したり、フカフカの布がなければ転がってしまいそうだ。
 俺は四方八方から観察を終えると、非常にありがちな行動を取った。
 少し慎重さに欠けるスーには頼めないし、マットにはそもそも頼める義理もない。

 コンコン。
 コンコン。

 右手を軽く握って扉をノックするような感じで叩くと、卵の中から同じような反応があった。
 無精卵ではなくて有精卵だったらしい。こんなデカいものから何が生まれるのだろうか。
 卵だとトカゲとかの可能性もあるし、単純にでかいニワトリかもしれない。

 孵化が近いと分かるとさすがに興味だけでなく恐怖も感じる。とにかく俺達と同じくらい大きいのだから、出て来るものもそれなりだろう。
 俺のノックと同じ回数を返して来たのは、単に本能的なものかもしれないが、知能がある証拠かもしれない。
 確認の意味でもう一度叩いてみた。

 コンコンコンコン。
 コンコンコンコン。

 やはり同じ回数だ。ひょっとして卵の中のものと何らかのコミュニケーションが取れるかもしれない。
 スーもマットもノックの音は聞こえていたらしく、恐る恐る近寄って来た。

「そろそろ生まれるそうだな」
「トリさんが一番可能性がありそうですが、ドラゴンパピーも捨てがたいのですっ」
「……ちょっと待て。ドラゴンパピーって何だ?」

 目を輝かせるスーが興奮気味に物騒なことを言ったので、俺は思わず卵から少し離れた。
 それがタイミングだったとは思わないが、俺の居た場所の真ん前辺りの殼に亀裂が走り、面白いほど真ん丸にソフトボールくらいの穴が開いた。黄色い頭にある二つの目が、真っ直ぐにこちらを見つめている。

 ……たぶん、でかいヒヨコだ

 割れた部分が狭かったので、スーの位置なら何とか見えたかもしれない。やや後ろに下がっていたマットには、俺が遮って見えていないだろう。
 卵の割れた音が聞こえた途端に俺が動かなくなり、異変と感じた二人がすぐに俺の両脇へ並んだ。
 この間も、俺とヒヨコの視線は真っ直ぐにぶつかっている。
 俺のノックが孵化を早めてしまったのなら、目を逸らすことは何か悪いことをしたと認めるような気がしたのだ。

 どのくらい見つめ合っていたのかわからないが、誰一人言葉も発さず、重苦しい緊張感が祠の中を漂う。
 俺が喉の渇きを覚えて生唾を飲み込もうとした瞬間、雄叫びとも言えるとんでもない大きな鳴き声をヒヨコが発し、一気に卵の殼を割って出て来た。

「クエーっ‼」

 俺達三人は一斉に身構えたが、すぐにその警戒を解いた。
 ヒヨコにはどう見ても敵意などなく、最初の雄叫びとは比べものにならない小さな声で『クエクエ』と甘えるように繰り返して、俺へ近づいてきたからだ。

「本当に大きなトリさんだったのです」
「マットはこれが何か知ってるか?」
「いや、まさか……な」

 歯切れの悪い男を横目に、俺の顔も手も気がつけばすっかり黄色いモフモフの中だ。ニワトリのヒヨコみたいに、生まれたばかりのビシャビシャじゃなくて本当によかった。
 つまりこれは、少なくともニワトリではないのだろう。しかし今の時点で俺よりデカいって、成長したらどのくらいになるのだろうか。

 この調子だといろいろ考えられる。このままモフモフに使ってもいいし、焼き鳥千人前――はちょっとかわいそうか。とても大きかったのに穏やかな性格で狩り滅ぼされてしまった、ドードー鳥を俺はふと思い出した。
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