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秘密
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通学路の落ち葉も増えて季節も秋の色合いが濃くなり始める。屋上前の階段で会うのは寒くなってきたと、瑞樹がぼやき始めた。
短過ぎるスカートを履いているのだから当たり前だと言いそうになるが、ジロジロ見るなと文句が返ってきそうなのでやめておいた。女だったことを知ってしまうと、話題にしづらい部分になっていたことも理由の一つにはある。
大会を終えてからの俺はできるだけ自然を装い、これまでと変わらないように振る舞うことにした。でも意識をしないなんてのはとても無理な相談だ。
本当に厄介なことになったものだと一人で頭を悩ませていると、瑞樹が学校へ来なくなった。
特選科棟で隣のクラスの大和によると、これまでも早退は結構あったらしい。
俺が全然知らなかったのは、瑞樹が昼休みに俺と会ってから帰っていたからだ。
心配をした俺のメールヘの返事には『少し体調を崩しただけで大丈夫』とだけ入ってくる。それでも気になって見舞いに行こうとして、あいつが引っ越して来た家を聞いていなかったのを今さら気づいた。
前に住んでいたところへ行ってみても誰も住んでいなかった。菜緒や母さんに聞いても知らないと言うばかりだったが、母さんが知らないはずがない。
きっと瑞樹本人から口止めでもされているのだろう。そうなると絶対に教えてくれない。
なぜなら、十年以上も女の子ということを教えてくれなかったのだから。
俺はケガも病気もしていないけれど、放課後は市の総合病院へ通い詰めた。この辺りに住んでいれば、大きなケガや病気になったら絶対にそこへ行くのを思いついたからだ。
そして通い続けて一週間、ようやく求めていた姿を見つけた瞬間、頭を大きな金槌でおもいっきり叩かれたような、息が詰まりそうなショックを受けた。
「み、瑞樹……?」
「え、あ、雅久、どうしたの、ケガ?」
「お前――何やってんだ?」
「とうとう知られちゃったかぁ」
正面階段の二階から降りて来た瑞樹は気まずそうな笑顔を浮かべている。パジャマにパーカーを羽織った入院姿で左手には点滴棒を持っていた。
俺は入院棟の談話室へ連れて行かれて聞かされた話から、母さんが瑞樹の住んでいるところを教えてくれなかった理由を知った。
「実は手術のために転校してきたのだけど、頼りにしていたお医者様が急にアメリカヘ行っちゃって。父さんも母さんもずっと向こうで何とかならないかって頑張ってくれているの」
「ということは、お前は今一人で何処に住んでんだ?」
「この病院よ。患者として転院を受け入れたのに、病院側の都合で医師を居なくしておいて追い出すなんて絶対やらせないって。雅久も良く知っている整形外科の先生が頑張ってくださって、しばらくは入院できることになっているの」
「若先生か」
「良い先生よね」
「そうだな……」
試合会場ヘ一緒に来て、桜ちゃんとも仲良く手をつないでいた理由も知った。でも俺が本当に聞きたいのはそんなところじゃない。病名やら経緯やら山ほどあったが、何をどう尋ねていいのかまったくわからず言葉が続かない。何より瑞樹が話をしたくなさそうなのは、空気が読めない俺もさすがに感じる。
おかげで若先生や桜ちゃんのことをダラダラと話して貴重な面会時間が終わってしまった。『また来る』と俺が告げると、瑞樹は首を横に振りながら『病院はかわいくないから学校で待ってて』と笑って言った。
翌日、俺は学校が終わると急いで若先生のところへ向かった。
病院はあまり混んでいなかったのですぐに診療室へ通された。ケガの治療と偽ってやって来た俺を、若先生は目を細くして睨まれた。しかしながら今回ばかりは引き下がるわけにはいかない。
俺は根性を決めて、瑞樹の入院についてどうしても聞きたいことがあると伝えた。すると若先生はメガネを少し上げて目頭を押さえながら『診察のない土曜の午後に来なさい』と言ってくれた。
さすがに仕事中に申し訳なかったので今日のところは帰ったが、週末まで心がモヤモヤして落ち着かず、何も手につかなかった。
短過ぎるスカートを履いているのだから当たり前だと言いそうになるが、ジロジロ見るなと文句が返ってきそうなのでやめておいた。女だったことを知ってしまうと、話題にしづらい部分になっていたことも理由の一つにはある。
大会を終えてからの俺はできるだけ自然を装い、これまでと変わらないように振る舞うことにした。でも意識をしないなんてのはとても無理な相談だ。
本当に厄介なことになったものだと一人で頭を悩ませていると、瑞樹が学校へ来なくなった。
特選科棟で隣のクラスの大和によると、これまでも早退は結構あったらしい。
俺が全然知らなかったのは、瑞樹が昼休みに俺と会ってから帰っていたからだ。
心配をした俺のメールヘの返事には『少し体調を崩しただけで大丈夫』とだけ入ってくる。それでも気になって見舞いに行こうとして、あいつが引っ越して来た家を聞いていなかったのを今さら気づいた。
前に住んでいたところへ行ってみても誰も住んでいなかった。菜緒や母さんに聞いても知らないと言うばかりだったが、母さんが知らないはずがない。
きっと瑞樹本人から口止めでもされているのだろう。そうなると絶対に教えてくれない。
なぜなら、十年以上も女の子ということを教えてくれなかったのだから。
俺はケガも病気もしていないけれど、放課後は市の総合病院へ通い詰めた。この辺りに住んでいれば、大きなケガや病気になったら絶対にそこへ行くのを思いついたからだ。
そして通い続けて一週間、ようやく求めていた姿を見つけた瞬間、頭を大きな金槌でおもいっきり叩かれたような、息が詰まりそうなショックを受けた。
「み、瑞樹……?」
「え、あ、雅久、どうしたの、ケガ?」
「お前――何やってんだ?」
「とうとう知られちゃったかぁ」
正面階段の二階から降りて来た瑞樹は気まずそうな笑顔を浮かべている。パジャマにパーカーを羽織った入院姿で左手には点滴棒を持っていた。
俺は入院棟の談話室へ連れて行かれて聞かされた話から、母さんが瑞樹の住んでいるところを教えてくれなかった理由を知った。
「実は手術のために転校してきたのだけど、頼りにしていたお医者様が急にアメリカヘ行っちゃって。父さんも母さんもずっと向こうで何とかならないかって頑張ってくれているの」
「ということは、お前は今一人で何処に住んでんだ?」
「この病院よ。患者として転院を受け入れたのに、病院側の都合で医師を居なくしておいて追い出すなんて絶対やらせないって。雅久も良く知っている整形外科の先生が頑張ってくださって、しばらくは入院できることになっているの」
「若先生か」
「良い先生よね」
「そうだな……」
試合会場ヘ一緒に来て、桜ちゃんとも仲良く手をつないでいた理由も知った。でも俺が本当に聞きたいのはそんなところじゃない。病名やら経緯やら山ほどあったが、何をどう尋ねていいのかまったくわからず言葉が続かない。何より瑞樹が話をしたくなさそうなのは、空気が読めない俺もさすがに感じる。
おかげで若先生や桜ちゃんのことをダラダラと話して貴重な面会時間が終わってしまった。『また来る』と俺が告げると、瑞樹は首を横に振りながら『病院はかわいくないから学校で待ってて』と笑って言った。
翌日、俺は学校が終わると急いで若先生のところへ向かった。
病院はあまり混んでいなかったのですぐに診療室へ通された。ケガの治療と偽ってやって来た俺を、若先生は目を細くして睨まれた。しかしながら今回ばかりは引き下がるわけにはいかない。
俺は根性を決めて、瑞樹の入院についてどうしても聞きたいことがあると伝えた。すると若先生はメガネを少し上げて目頭を押さえながら『診察のない土曜の午後に来なさい』と言ってくれた。
さすがに仕事中に申し訳なかったので今日のところは帰ったが、週末まで心がモヤモヤして落ち着かず、何も手につかなかった。
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