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ガールズトーク PART2
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「雅久先輩と大和先輩、ほんとに仲がいいですっ。妬けてしまいますっ」
「少しは試合を見なさいよ」
「もちろん見ておりますっ。雅久先輩を心配して憂いを帯びた大和先輩、たまらないですっ。萌えますっ。三室戸先生も見てあげてください!」
言ったそばから関係のないところで喜んでいるこの子は、雅久君の中学の後輩らしい。
『月島綾音』と元気そうに名前を教えてくれたのだけど、私のほうは名乗る前に言い当てられてしまった。
一応、この女の子たちくらいを対象にしたライトベルを書いて、名前は知られているからおかしなことではないけれど、ペンネームを大声で叫ばれるのは少し抵抗がある。
「さっきから何度も言うけど、苗字で呼んでくれないかしら」
「すみませんです、神崎先生!」
……そういうつもりではないのだけど、まあいいわ。
彼女にも言った手前、私も雅久君の試合に集中しよう。
空手のルールは全然わからないけれど、さっきから試合が中断している。
雅久君の蹴りでケガをした相手選手が治療を受けていて、心配して見守る雅久君の表情まではこの席からは見えない。
相手選手と何かを話していたスーツ姿の審判たちが、雅久君の立つマットへと戻って来た。
「青、危険行為による反則負け! 勝者、赤! しかし赤は負傷のため主審判断で以降は棄権! 以上、礼!!」
「ぐぐ、そうきましたか。先輩の蹴りは強すぎですっ! でも命拾いをしました」
隣の月島さんは、胸の前で強く両手を握って大きくため息を吐いた。
「どうして? 相手選手へ攻撃をして、戦えなくしたから勝ったと思っていたのに負けるなんておかしな話よね」
「雅久先輩っ!! 『寸止め』でなければ勝てていました!! 元気を出して次行きましょーっ!!」
「『寸止め』って何なの?」
私は月島さんのエールに聞きなれない言葉を耳にした。
「この大会は、相手に本気で攻撃を当ててはいけない『寸止め』というルールがあります。もちろん殴ったり蹴ったりする競技なので少しは当たったりしますが、基本は当たった瞬間に止める、です」
「だったら強い弱いではなくて、速い遅いの判断にならないの?」
「だから熟練の審判たちが攻撃の当たった瞬間の威力を推測して、『一本』、『技あり』、『有効』といったポイントを判断しています」
「何だかあいまいというか、はっきりしないものなのね」
「神崎先生は過激なのですっ。空手はケンカとは違うのです」
「初めて知ったわ。だったら、あなたのお気に入りの雅久君と大和君は、勝負をしたらどちらが勝つのかしら?」
「う、答えづらい質問なのです。でも心を鬼にしてお答えしますっ。今なら間違いなく大和先輩ですっ。雅久先輩はずっとおサボりでした」
月島さんは、うなだれる雅久君を拳を握りながらずっと見ている。私は少しだけ彼との答えを期待したのだけど、スポーツの世界もそう甘いものではないってことらしい。
「じゃあもう一つ、あなたはどちらを応援しているの? さっきから二人がくっつくたびに喜んでいるみたいだけれど?」
「そ、それも選べないのですっ。大和先輩は顔と体がすごくおいしいのです! 雅久先輩はすべてがかわいいのです!」
「……体がおいしいって、そんなに親密な仲だったの?」
「大和先輩の大胸筋や腹直筋、上腕二頭筋はきれいに育っているのです! 触ったら恥ずかしがったのです!」
「そ、そうなの。み、見かけによらず大胆なことを言うわね」
「ち、違うのですっ! 絵の話ですっ。大和先輩はモデルをしてくれたのです!! 神崎先生は作家さんなので、妄想がエッチで激しいのです!!」
「あなたがおかしなことを言うからでしょう!」
こんなにかわいい中学生が、体目当てだなんてさすがの私も驚かされたけれど、勘違いでよかった。
「それで、雅久君は何がかわいいの?」
「――雅久先輩は私の目標なのです。でもそれを言うと、いつもかわいく照れるのです」
はにかんで教えてくれる彼女も照れている。つまり慕っているのは雅久君と考えるべきだろう。だとしたらあちらにいる子のことはどう思っているのかしら。
私たち二人から右に五席ほど離れて、小さな女の子と話をしているツインテールの顔見知りへ視線を向けた。
「彼女のことは知っている?」
「え? はい。雅久先輩の幼なじみさんらしいです。先輩がイラストを描いたときに教えてもらいました」
「イラスト?」
「少し前にですが、見ますか?」
「……ぜひお願いするわ」
月島さんが取り出したスマホの待ち受けになっていた画像は、確かに似ていたけれど、今のあの子とは少しだけイメージが違う気がした。
私には描きたくないなんて言っていたくせに、随分前から描いて人目にもつくようにしているじゃない、あの嘘つきめ。今度会ったら少しいじめてやろうかしら。
いいえ、そんなことをしなくても別にいい方法を思いついたわ。
「なかなかかわいいイラストよね」
「そうなのですっ。私も負けていられないのです!」
意気込む月島さんに、彼の描く絵に対してなのか、モデルの彼女のことなのか、聞いてみたい気がしたけどやめておいた。
今日はもう十分の収穫があったし、この子の想いは私が綴ればいい。
「月島さん、用を思いついたから失礼するけど、雅久君によろしくね」
「え? もう帰っちゃうのですか?」
「彼のいいところは十分見れたし、思いついた話があるの」
私の中では、さっきの試合も雅久君の圧勝だからもう帰ってもいい。それよりこの子から感じたこの気持ち、どうしても書き留めたい。
一人の男の子を一途に想う女の子とそのライバル、ううん、ライバルたち。
構成が少し変わるけど、メインヒロインは彼女のまま、サブが二人増えるだけ……小説でくらい私も参戦をして困らせてもいいわよね、雅久君。
月島さんの言葉どおり、私は激しい妄想の翼を広げて体育館を後にした。
「少しは試合を見なさいよ」
「もちろん見ておりますっ。雅久先輩を心配して憂いを帯びた大和先輩、たまらないですっ。萌えますっ。三室戸先生も見てあげてください!」
言ったそばから関係のないところで喜んでいるこの子は、雅久君の中学の後輩らしい。
『月島綾音』と元気そうに名前を教えてくれたのだけど、私のほうは名乗る前に言い当てられてしまった。
一応、この女の子たちくらいを対象にしたライトベルを書いて、名前は知られているからおかしなことではないけれど、ペンネームを大声で叫ばれるのは少し抵抗がある。
「さっきから何度も言うけど、苗字で呼んでくれないかしら」
「すみませんです、神崎先生!」
……そういうつもりではないのだけど、まあいいわ。
彼女にも言った手前、私も雅久君の試合に集中しよう。
空手のルールは全然わからないけれど、さっきから試合が中断している。
雅久君の蹴りでケガをした相手選手が治療を受けていて、心配して見守る雅久君の表情まではこの席からは見えない。
相手選手と何かを話していたスーツ姿の審判たちが、雅久君の立つマットへと戻って来た。
「青、危険行為による反則負け! 勝者、赤! しかし赤は負傷のため主審判断で以降は棄権! 以上、礼!!」
「ぐぐ、そうきましたか。先輩の蹴りは強すぎですっ! でも命拾いをしました」
隣の月島さんは、胸の前で強く両手を握って大きくため息を吐いた。
「どうして? 相手選手へ攻撃をして、戦えなくしたから勝ったと思っていたのに負けるなんておかしな話よね」
「雅久先輩っ!! 『寸止め』でなければ勝てていました!! 元気を出して次行きましょーっ!!」
「『寸止め』って何なの?」
私は月島さんのエールに聞きなれない言葉を耳にした。
「この大会は、相手に本気で攻撃を当ててはいけない『寸止め』というルールがあります。もちろん殴ったり蹴ったりする競技なので少しは当たったりしますが、基本は当たった瞬間に止める、です」
「だったら強い弱いではなくて、速い遅いの判断にならないの?」
「だから熟練の審判たちが攻撃の当たった瞬間の威力を推測して、『一本』、『技あり』、『有効』といったポイントを判断しています」
「何だかあいまいというか、はっきりしないものなのね」
「神崎先生は過激なのですっ。空手はケンカとは違うのです」
「初めて知ったわ。だったら、あなたのお気に入りの雅久君と大和君は、勝負をしたらどちらが勝つのかしら?」
「う、答えづらい質問なのです。でも心を鬼にしてお答えしますっ。今なら間違いなく大和先輩ですっ。雅久先輩はずっとおサボりでした」
月島さんは、うなだれる雅久君を拳を握りながらずっと見ている。私は少しだけ彼との答えを期待したのだけど、スポーツの世界もそう甘いものではないってことらしい。
「じゃあもう一つ、あなたはどちらを応援しているの? さっきから二人がくっつくたびに喜んでいるみたいだけれど?」
「そ、それも選べないのですっ。大和先輩は顔と体がすごくおいしいのです! 雅久先輩はすべてがかわいいのです!」
「……体がおいしいって、そんなに親密な仲だったの?」
「大和先輩の大胸筋や腹直筋、上腕二頭筋はきれいに育っているのです! 触ったら恥ずかしがったのです!」
「そ、そうなの。み、見かけによらず大胆なことを言うわね」
「ち、違うのですっ! 絵の話ですっ。大和先輩はモデルをしてくれたのです!! 神崎先生は作家さんなので、妄想がエッチで激しいのです!!」
「あなたがおかしなことを言うからでしょう!」
こんなにかわいい中学生が、体目当てだなんてさすがの私も驚かされたけれど、勘違いでよかった。
「それで、雅久君は何がかわいいの?」
「――雅久先輩は私の目標なのです。でもそれを言うと、いつもかわいく照れるのです」
はにかんで教えてくれる彼女も照れている。つまり慕っているのは雅久君と考えるべきだろう。だとしたらあちらにいる子のことはどう思っているのかしら。
私たち二人から右に五席ほど離れて、小さな女の子と話をしているツインテールの顔見知りへ視線を向けた。
「彼女のことは知っている?」
「え? はい。雅久先輩の幼なじみさんらしいです。先輩がイラストを描いたときに教えてもらいました」
「イラスト?」
「少し前にですが、見ますか?」
「……ぜひお願いするわ」
月島さんが取り出したスマホの待ち受けになっていた画像は、確かに似ていたけれど、今のあの子とは少しだけイメージが違う気がした。
私には描きたくないなんて言っていたくせに、随分前から描いて人目にもつくようにしているじゃない、あの嘘つきめ。今度会ったら少しいじめてやろうかしら。
いいえ、そんなことをしなくても別にいい方法を思いついたわ。
「なかなかかわいいイラストよね」
「そうなのですっ。私も負けていられないのです!」
意気込む月島さんに、彼の描く絵に対してなのか、モデルの彼女のことなのか、聞いてみたい気がしたけどやめておいた。
今日はもう十分の収穫があったし、この子の想いは私が綴ればいい。
「月島さん、用を思いついたから失礼するけど、雅久君によろしくね」
「え? もう帰っちゃうのですか?」
「彼のいいところは十分見れたし、思いついた話があるの」
私の中では、さっきの試合も雅久君の圧勝だからもう帰ってもいい。それよりこの子から感じたこの気持ち、どうしても書き留めたい。
一人の男の子を一途に想う女の子とそのライバル、ううん、ライバルたち。
構成が少し変わるけど、メインヒロインは彼女のまま、サブが二人増えるだけ……小説でくらい私も参戦をして困らせてもいいわよね、雅久君。
月島さんの言葉どおり、私は激しい妄想の翼を広げて体育館を後にした。
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