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予選会場
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秋の空気が少し肌寒い早朝、まだカーテンの外は薄暗い時間に気持ちよく目が覚めた。
一般的に試合前日の練習は軽めに終わらせる。だが、ようやく勘が戻り始めた俺は一日でもサボったら体が忘れるとの名目で、熊沢は普段と変わらないメニューをやらせた。
そのせいで体が疲れ、緊張することもなく寝つけたのだろう。熊沢がそこまで考えてのこととは思わないが、一応感謝しておこう。
ベッドの横に準備をしておいた道着や防具、試合に必要なものを再度入念にチェックをする。破れたり壊れたりしていたら出場もできないし、笑い話では済まされない。
両手の拳を覆うグローブのような青い『拳サポーター』。
頭部を守るヘルメットにも見える『メンホー』。
向こう脛に着ける『シンガード』。
足の甲へ被せる『インステップガード』。
男の最大の急所をしっかり包んでくれる『ファウルカップ』。
道着の背中には道場名と苗字の書かれた『ゼッケン』。
問題がないことを確認してキッチンへと下りる。朝食を取っていると、大あくびの菜緒が俺の前の席へ座った。
「どうした、こんな早くに?」
「ニイニイが、ガチャガチャして目が覚めたんだよー」
「悪かったな。おわびにバナナ食うか?」
食卓のフルーツ籠に置かれたバナナを取って菜緒の目の前に出す。『むいてくれ』とあごで指図された。
「へいへい、わかりました。ホレ」
「ん」
身を乗り出して、俺のむいたバナナに食らいつく妹。
「猿だな」
「もんな(こんな)、モグモグ、みゃわいい(かわいい)、モグ、しゃる(サル)、いにゃい(いない)」
「左様ですか……父さんは出掛けてるみたいだな」
「とっくにだよー」
「写真日和っぽいもんな。で、母さんは二度寝中か」
フルーツ籠の隣に俺用の弁当箱が置かれている。もっと早かった父さんのと一緒に作ってくれたのだろう。
「ニイニイが一緒に来なくなったって、パパは昨日の夜もブーたれてた」
「俺は随分前から行かなくなったはずだが?」
「そうだよー。随分前からブーたれてる」
「だったら、お前がつきあって行って来いよ」
「やだよ、一緒に行ってもヒマだもん」
「俺もやだよ。じゃあ行くから母さんに弁当のお礼、言っといて」
俺の絵が上達したのは、自らの放置プレイのおかげと言ってのける父親に同情の余地はない。
試合会場の総合体育館へは柳さんの車で連れて行ってもらうことになっている。朝食を終えた俺は、菜緒に見送られながら荷物を自転車へと積んで集合場所の道場に向かった。
「監督、おはようございます」
「おはよう。よく寝られたか?」
「バッチリ大丈夫です」
「そいつは頼もしい」
自転車置き場の横の駐車場へ停めた白いワゴン車の横で、柳さんはウンコ座りをして煙草をふかしていた。
よれよれの白いTシャツに細めのGパン。身長はそこそこあって髪は短い茶髪。今日は黒縁眼鏡ではなく、薄い青色のサングラスをしている。一見すると、そこらのガラの悪い兄ちゃんとあまり変わらない。
「熊沢先輩から激励……というか脅迫があるが、大丈夫そうだな。『最低二回戦を突破しなければ、今月から黒帯特練に復帰しろ』とのことだ」
「あの人はまた勝手なことを。知りませんよ」
「鬼先輩のヤケ酒に付き合わされる、かわいそうな後輩の身にもなって欲しいのだけど?」
吸い終えた煙草を片づけようとした柳さんが、胸元からエチケットポケットを取り出したところ、白いプラスチックケースが地面へ落ちた。急いで俺が拾うと名札のようなものだった。
「悪いな。午前の試合で副審を頼まれていてその時の審判証だ。今みたいに落っことすとシャレにならない。忘れないうちに掛けておくか」
柳さんが黒い紐をプラスチックケースの穴へと通して首に引っ掛ける。熊沢が審判資格を取っていないことを思い出した俺は、さっきの二回戦突破のノルマの意趣返しを思いついた。
「熊沢五段には公式戦の審判なんてできませんよね。きっと資格なんて取れないだろうし」
「そんなことないと思うよ。見た目で誤解があるけど、あの人は結構インテリなんだ」
「え? 冗談ですよね」
「本当。師範代と同級生ってのは知ってるよな。学生時代に一緒に海外留学もしていたらしいから」
「熊沢――五段が?」
「実は英語とブラジル語がペラペラ。少し前も、留学当時に世話をしたって外人さんが来てたし、悪い奴らの取り調べもそこそこ通訳なしでやれるんだよ」
外見からは想像がまったくつかず、俺は眉をひそめたが、柳さんは我がことのように誇らしげだった。
「驚いただろう?」
「ほ、本当にですか? 英語だけでもすごいのに、ブラジル語なんてどうやって」
「師範代に聞いたら、いろいろなところへ出入りして、結構やらかして身に着けたらしいよ」
「やっぱり……どうせ俺にやったように無茶苦茶なことをやってきたんだろうし、英語とかしゃべれてもそんなに感心することでもないと思います」
俺はなぜか悔しかったので話をすり替えて誤魔化す。柳さんは困ったような顔をしてサングラスを外した。そこには血走った眼とクマがあって、いつもと違う眼鏡はカムフラージュだったらしい。
「評価は人それぞれとしか言いようがないな。本当は口止めされているのだけど、今回の一般枠参加も、熊沢先輩が大先生に強く掛け合ってくれたんだよ?」
「熊沢五段が?」
「あの人は単純で強情で真っすぐで、とてもひねくれた困った人だから、期待していても言えないんだよ。あ、田所と支倉が来たか。あと二人だな」
後輩にえらくディスられているが、熊沢のひととなりくらい知りたくもないが知っている。若先生に頼まれたのもあるし、俺を殴るのが楽しいのもあるだろう。でも不甲斐ない俺に呆れながらも、ずっと俺だけの練習に付き合ってくれた。
柳さんは渋い顔をする俺の肩を軽く叩いて、やって来た大和たちと一緒に荷物をトランクヘ入れるよう指示した。
その後、高橋と新川も来て全員が揃い、試合会場へ向かう車の中で仲間の様子を窺った。
俺以外は空手を真面目に続けていたので落ち着いているかとも思ったが、実際そうでもなさそうだった。
見るからに緊張をしていたのは、高校最後の試合になる助手席の田所先輩。柳さんとの会話の端々にぎこちなさが見て取れる。
一番リラックスをしているのは、予想どおりすぎて面白味も何もないが、俺の隣に座る大和。このイケメンは昔から気負いも焦りもあまり見せたことがない。
三列目の高橋と新川は、どちらかと言えばサッカーで試合慣れをしている高橋のほうが落ち着いて見える。
到着した試合会場は、バスケットボールやバレーボールのコートが四面とれるほど大きな体育館。中学時代の大会でも何度か来ているので迷うこともない。俺たちは受付で指示をされた更衣室のロッカーを使って着替え、選手用の入退場口から試合をするフロアーヘ入った。
見上げる観客席には中学や高校、大学、実業団などの応援団が所せましと陣取って、打ち物を使った掛け声や応援の練習に余念がない。中には見知った姿を確認して、フロアーヘ檄を飛ばしている人もいる。
それらが天井と床に反響する不思議な喧騒に、耳が遠くなったような錯覚と、何とも言い難いひさしぶりの高揚感に全身の鳥肌が立った。
机やパイプ椅子が準備をされた試合会場の脇では、準備の柔軟体操や軽い組手、形を打っている者もいる。
九時になったら開会式が始まり、午前は個人戦、午後は団体戦がある。俺たちの出番は午後までないのだが、そんなことは関係ない。この場所に立てるこの気持ち、完全に思い出した。
――やってやる。
知らず知らずに拳を握った俺の目の前に、大和が拳を突き出していた。
「一年ぶりだな、お帰り」
「どこまでも腹が立つイケメンだな」
「お前には敵わないけどな」
「シャッターチャーンス!! いただきましたーっ!!」
拳を合わせた瞬間に、観客席からおかしな叫び声がしたのを俺は無視した。大和は顔を引きつらせて俺を睨んでいる。
そんな怖い顔をするなよ! あの美術部の後輩のおかしな言動は俺のせいじゃないから!
俺たちの応援団も来てくれていたのに気づけなかった俺は、知らず知らず会場の雰囲気にのまれていたようだった。
一度大きく深呼吸をしてから、月島の声のした観客席をもう一度ゆっくりと見上げる。
俺の目には、大きなピンクのポンポンを両手に持って激しく振っている困った後輩、その隣には道場の小、中学生たち、そして神崎先輩が映った。
俺たちの北高空手部も参加をしているので、先輩の同級生がいるのかもしれないが、こちらを向いて不機嫌そうに手を振ってくれているということは、やはり俺の応援か。
先輩には試合へ出るなんて一言も伝えてなかったし、来てくれるとも思ってなかった。
この二週間は文芸部をずっとサボっていたので、わざわざ俺を怒るためにやってきたとは思いたくないのだが、神崎先輩なら有り得る。
既に小説家デビューを果たしているとてもシビアな人だから、謝るにしても成果を出して行かなければならない。勝つべき理由がまた一つ増えてしまった。
俺は神崎先輩に軽く頭を下げてから、フロアの端で大和と柔軟体操を始める。床に座った俺の背中を無茶苦茶な強さで押してくる。
「お・ま・え・の・ほ・う・が・イ・ケ・メ・ン・だっ」
「い、痛えよっ」
「こ・の・ハ・ー・レ・ム・王・がっ」
「変なことを言うな!」
「そこですっ、そこは大和先輩が後ろから優しく雅久先輩の肩を抱き込むっ!」
どうして、あいつの声はこんなにも通るのだろう……。
会場が一瞬静まって、すぐにざわつき始める。『大和』と『雅久』を捜している。
ちなみに月島の隣の神崎先輩は肩を震わせて笑っている。
苗字で呼ばれなくて本当によかった。俺たちの背中には試合用のゼッケンが着いている。バレバレになるところだった。
しかしこの調子をずっと続けられると試合中は困る。開会式が終わったら注意に行こう。
一般的に試合前日の練習は軽めに終わらせる。だが、ようやく勘が戻り始めた俺は一日でもサボったら体が忘れるとの名目で、熊沢は普段と変わらないメニューをやらせた。
そのせいで体が疲れ、緊張することもなく寝つけたのだろう。熊沢がそこまで考えてのこととは思わないが、一応感謝しておこう。
ベッドの横に準備をしておいた道着や防具、試合に必要なものを再度入念にチェックをする。破れたり壊れたりしていたら出場もできないし、笑い話では済まされない。
両手の拳を覆うグローブのような青い『拳サポーター』。
頭部を守るヘルメットにも見える『メンホー』。
向こう脛に着ける『シンガード』。
足の甲へ被せる『インステップガード』。
男の最大の急所をしっかり包んでくれる『ファウルカップ』。
道着の背中には道場名と苗字の書かれた『ゼッケン』。
問題がないことを確認してキッチンへと下りる。朝食を取っていると、大あくびの菜緒が俺の前の席へ座った。
「どうした、こんな早くに?」
「ニイニイが、ガチャガチャして目が覚めたんだよー」
「悪かったな。おわびにバナナ食うか?」
食卓のフルーツ籠に置かれたバナナを取って菜緒の目の前に出す。『むいてくれ』とあごで指図された。
「へいへい、わかりました。ホレ」
「ん」
身を乗り出して、俺のむいたバナナに食らいつく妹。
「猿だな」
「もんな(こんな)、モグモグ、みゃわいい(かわいい)、モグ、しゃる(サル)、いにゃい(いない)」
「左様ですか……父さんは出掛けてるみたいだな」
「とっくにだよー」
「写真日和っぽいもんな。で、母さんは二度寝中か」
フルーツ籠の隣に俺用の弁当箱が置かれている。もっと早かった父さんのと一緒に作ってくれたのだろう。
「ニイニイが一緒に来なくなったって、パパは昨日の夜もブーたれてた」
「俺は随分前から行かなくなったはずだが?」
「そうだよー。随分前からブーたれてる」
「だったら、お前がつきあって行って来いよ」
「やだよ、一緒に行ってもヒマだもん」
「俺もやだよ。じゃあ行くから母さんに弁当のお礼、言っといて」
俺の絵が上達したのは、自らの放置プレイのおかげと言ってのける父親に同情の余地はない。
試合会場の総合体育館へは柳さんの車で連れて行ってもらうことになっている。朝食を終えた俺は、菜緒に見送られながら荷物を自転車へと積んで集合場所の道場に向かった。
「監督、おはようございます」
「おはよう。よく寝られたか?」
「バッチリ大丈夫です」
「そいつは頼もしい」
自転車置き場の横の駐車場へ停めた白いワゴン車の横で、柳さんはウンコ座りをして煙草をふかしていた。
よれよれの白いTシャツに細めのGパン。身長はそこそこあって髪は短い茶髪。今日は黒縁眼鏡ではなく、薄い青色のサングラスをしている。一見すると、そこらのガラの悪い兄ちゃんとあまり変わらない。
「熊沢先輩から激励……というか脅迫があるが、大丈夫そうだな。『最低二回戦を突破しなければ、今月から黒帯特練に復帰しろ』とのことだ」
「あの人はまた勝手なことを。知りませんよ」
「鬼先輩のヤケ酒に付き合わされる、かわいそうな後輩の身にもなって欲しいのだけど?」
吸い終えた煙草を片づけようとした柳さんが、胸元からエチケットポケットを取り出したところ、白いプラスチックケースが地面へ落ちた。急いで俺が拾うと名札のようなものだった。
「悪いな。午前の試合で副審を頼まれていてその時の審判証だ。今みたいに落っことすとシャレにならない。忘れないうちに掛けておくか」
柳さんが黒い紐をプラスチックケースの穴へと通して首に引っ掛ける。熊沢が審判資格を取っていないことを思い出した俺は、さっきの二回戦突破のノルマの意趣返しを思いついた。
「熊沢五段には公式戦の審判なんてできませんよね。きっと資格なんて取れないだろうし」
「そんなことないと思うよ。見た目で誤解があるけど、あの人は結構インテリなんだ」
「え? 冗談ですよね」
「本当。師範代と同級生ってのは知ってるよな。学生時代に一緒に海外留学もしていたらしいから」
「熊沢――五段が?」
「実は英語とブラジル語がペラペラ。少し前も、留学当時に世話をしたって外人さんが来てたし、悪い奴らの取り調べもそこそこ通訳なしでやれるんだよ」
外見からは想像がまったくつかず、俺は眉をひそめたが、柳さんは我がことのように誇らしげだった。
「驚いただろう?」
「ほ、本当にですか? 英語だけでもすごいのに、ブラジル語なんてどうやって」
「師範代に聞いたら、いろいろなところへ出入りして、結構やらかして身に着けたらしいよ」
「やっぱり……どうせ俺にやったように無茶苦茶なことをやってきたんだろうし、英語とかしゃべれてもそんなに感心することでもないと思います」
俺はなぜか悔しかったので話をすり替えて誤魔化す。柳さんは困ったような顔をしてサングラスを外した。そこには血走った眼とクマがあって、いつもと違う眼鏡はカムフラージュだったらしい。
「評価は人それぞれとしか言いようがないな。本当は口止めされているのだけど、今回の一般枠参加も、熊沢先輩が大先生に強く掛け合ってくれたんだよ?」
「熊沢五段が?」
「あの人は単純で強情で真っすぐで、とてもひねくれた困った人だから、期待していても言えないんだよ。あ、田所と支倉が来たか。あと二人だな」
後輩にえらくディスられているが、熊沢のひととなりくらい知りたくもないが知っている。若先生に頼まれたのもあるし、俺を殴るのが楽しいのもあるだろう。でも不甲斐ない俺に呆れながらも、ずっと俺だけの練習に付き合ってくれた。
柳さんは渋い顔をする俺の肩を軽く叩いて、やって来た大和たちと一緒に荷物をトランクヘ入れるよう指示した。
その後、高橋と新川も来て全員が揃い、試合会場へ向かう車の中で仲間の様子を窺った。
俺以外は空手を真面目に続けていたので落ち着いているかとも思ったが、実際そうでもなさそうだった。
見るからに緊張をしていたのは、高校最後の試合になる助手席の田所先輩。柳さんとの会話の端々にぎこちなさが見て取れる。
一番リラックスをしているのは、予想どおりすぎて面白味も何もないが、俺の隣に座る大和。このイケメンは昔から気負いも焦りもあまり見せたことがない。
三列目の高橋と新川は、どちらかと言えばサッカーで試合慣れをしている高橋のほうが落ち着いて見える。
到着した試合会場は、バスケットボールやバレーボールのコートが四面とれるほど大きな体育館。中学時代の大会でも何度か来ているので迷うこともない。俺たちは受付で指示をされた更衣室のロッカーを使って着替え、選手用の入退場口から試合をするフロアーヘ入った。
見上げる観客席には中学や高校、大学、実業団などの応援団が所せましと陣取って、打ち物を使った掛け声や応援の練習に余念がない。中には見知った姿を確認して、フロアーヘ檄を飛ばしている人もいる。
それらが天井と床に反響する不思議な喧騒に、耳が遠くなったような錯覚と、何とも言い難いひさしぶりの高揚感に全身の鳥肌が立った。
机やパイプ椅子が準備をされた試合会場の脇では、準備の柔軟体操や軽い組手、形を打っている者もいる。
九時になったら開会式が始まり、午前は個人戦、午後は団体戦がある。俺たちの出番は午後までないのだが、そんなことは関係ない。この場所に立てるこの気持ち、完全に思い出した。
――やってやる。
知らず知らずに拳を握った俺の目の前に、大和が拳を突き出していた。
「一年ぶりだな、お帰り」
「どこまでも腹が立つイケメンだな」
「お前には敵わないけどな」
「シャッターチャーンス!! いただきましたーっ!!」
拳を合わせた瞬間に、観客席からおかしな叫び声がしたのを俺は無視した。大和は顔を引きつらせて俺を睨んでいる。
そんな怖い顔をするなよ! あの美術部の後輩のおかしな言動は俺のせいじゃないから!
俺たちの応援団も来てくれていたのに気づけなかった俺は、知らず知らず会場の雰囲気にのまれていたようだった。
一度大きく深呼吸をしてから、月島の声のした観客席をもう一度ゆっくりと見上げる。
俺の目には、大きなピンクのポンポンを両手に持って激しく振っている困った後輩、その隣には道場の小、中学生たち、そして神崎先輩が映った。
俺たちの北高空手部も参加をしているので、先輩の同級生がいるのかもしれないが、こちらを向いて不機嫌そうに手を振ってくれているということは、やはり俺の応援か。
先輩には試合へ出るなんて一言も伝えてなかったし、来てくれるとも思ってなかった。
この二週間は文芸部をずっとサボっていたので、わざわざ俺を怒るためにやってきたとは思いたくないのだが、神崎先輩なら有り得る。
既に小説家デビューを果たしているとてもシビアな人だから、謝るにしても成果を出して行かなければならない。勝つべき理由がまた一つ増えてしまった。
俺は神崎先輩に軽く頭を下げてから、フロアの端で大和と柔軟体操を始める。床に座った俺の背中を無茶苦茶な強さで押してくる。
「お・ま・え・の・ほ・う・が・イ・ケ・メ・ン・だっ」
「い、痛えよっ」
「こ・の・ハ・ー・レ・ム・王・がっ」
「変なことを言うな!」
「そこですっ、そこは大和先輩が後ろから優しく雅久先輩の肩を抱き込むっ!」
どうして、あいつの声はこんなにも通るのだろう……。
会場が一瞬静まって、すぐにざわつき始める。『大和』と『雅久』を捜している。
ちなみに月島の隣の神崎先輩は肩を震わせて笑っている。
苗字で呼ばれなくて本当によかった。俺たちの背中には試合用のゼッケンが着いている。バレバレになるところだった。
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