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苦い想い出と仲間
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「次の大会予選の試合に出てくれ」
「いきなり来て何のつもりだ?」
昼休みのスマホいじりの最中の机に影が差したと思ったら、険しい表情のイケメンが目の前に立っている。
「昨日、二年生が二人も組手の練習中にケガをしてまずい状況になってしまった」
「他にも部員がいるだろうよ」
「お前より弱い部員なら山ほどいる。だが俺は絶対に勝ちたい」
大和くらいのイケメンが本気で凄むとなかなかの緊張感が漂う。
俺のような普通科と、大和みたいなスポーツ特選科では、そもそもクラブ活動へのモチベーションが違うから当たり前ではある。他の選手の実力もそういうことなので不甲斐なさもあるのだろう。
だけど、これまで何も部活をしていない人間が、ポッと行って試合に出るって誰が歓迎するんだ、大和以外。
「冷静に考えろよ」
「頼む、この組手の団体戦は田所さんの高校最後の試合になる。だから良い結果で俺は送り出してあげたいんだよ。お前もさんざん世話になっただろう!?」
……そういうことか。
田所さんは道場でも北高校でも俺たちの先輩にあたる、とても優しい人だ。
俺が中学三年の試合で欠場なんてヘマをした時も、文句を言うチームメイトの間に立って俺を庇ってくれた。あの後の俺が道場に居続けられたのも、田所さんの存在がとても大きい。
高校へ入学してからも、引きっきりなしに部の勧誘ヘ一年生の教室まで来てくれたのに俺は入らなかった。
事情は察するけれど部外者がいきなり部員面をするのが受け入れられるはずがない。
「四月からずっと入部を断っている俺では無理だ」
「お前、何か勘違いをしてないか?」
「何を?」
「誰も部活なんて一度も言っていない。道場推薦の一般枠で出るんだよ」
「は?」
「何だかんだ言っても、道場生は学校でも空手をやっている生徒が多いのは知ってるよな?」
痛いところを突いてくるが、俺以外でやってないのはサッカーとか野球をしたい連中だけだ。
俺は文芸部に命を懸けている、などと嘘を言っても大和相手には虚しいだけなのでさっさと促した。
「で?」
「やっと田所先輩を説得できた。部活をやっているのに、そこで勝てないから道場推薦なんて気が引けるって言われたけど、一年生でまだ試合へ出してもらえない俺と、部に入っていないけど試合へ出たい雅久みたいな後輩のためにぜひお願いします、ってな」
「おい、待て。誰が出たいなんて言った?」
「若先生からそう聞いていたけど、違ったのか?」
「はぁ!?」
待て待て、ちょっと整理をさせろ。
大和は一年生でも断トツの実力を持っていて試合に出たいけれど、三年生の引退試合も兼ねる大会予選に出る幕はない。
田所先輩は三年生だけど個人戦に出るには実力が足りないので、団体戦にエントリーをしている。
しかし一緒に出場する予定だった実力者の二年生がケガをしてしまい、団体戦へ出ても初戦さえ勝てる見込みがなくなった。
その枠ヘ一年生の大和が入れれば少しは何とかなったかもしれないが、それも叶わない。
だから他の出場方法を探し、高校の部活という縛りではなく一般参加枠で出場することを思いついた。
ここまでは別にいい。しかし俺がそのメンバーに最初から含まれている点が大問題だ。
それも若先生が何をとち狂ったのか、おかしなことを吹き込んでいる。
そしてもう一つ、今の俺は大和ほどは熱心に練習をしていないので、期待に応えることはとてもできない。
「俺が出たいなんて間違いだから出場はないぞ」
「それは困る!! 先輩もクラブからの出場は止めるって顧問に伝えて、手続きに入ってしまったんだ!」
「何を勝手なことをしてるんだ!?」
ひさしぶりに俺は頭が痛くなった。
「だったら組手じゃない形にしろ。それなら三人でいいから俺は関係ない!」
「それはダメだ。先輩は、部では組手の団体戦にエントリーをしていたから俺も説得ができた。形は別の先輩がいる。その人に不満があるから道場から出ると思われるのは、さすがにマズいだろう」
空手の団体戦は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の五戦勝負で先に三勝したほうが勝つ。
だが今の実力で試合に出て勝つ自信なんて全然ない。
頭を掻きむしりたくなる衝動を抑えながら考えていると、ある疑問が浮かんだ。
「他に二人は必要なはず、誰だ?」
「高橋と新川に声を掛けたら、快くOKしてくれたよ」
「待てよ。あいつらも高校でサッカーとかやってるのにいいのか?」
「向こうの校則上問題ないらしい。それに俺と一緒で、あっちの高校でも一年は何も出られないって言ってる」
高橋は小学生の時からサッカーをやっていて西高校で準レギュラーと聞いている。サッカーは人気が高い競技なのでポジション争いも大変なのだろう。新川は東高校へ行ってからバスケを始めたので、まだまだレギュラーなど狙える実力はないはずだ。
「勝手なことをして、お前ら本当に部活へ戻れるんだろうな」
「まさか雅久に心配されるなんて思わなかったが、部に居辛くなったら辞めるだけさ」
「それってスポーツ特選科の言葉じゃないだろう」
「そうか? 俺は瑞樹や神崎先輩みたいに優秀じゃないから奨学金も出ていないし、万が一、普通科へ転科させられてもこだわりはないけどな」
「イケメンのうえに男らしいってズルいよな。いやそれでは俺が救われないから、単に大和は考えなしの大ざっぱとしておこう」
「おい、心の声が漏れてるぞ」
「もちろんわざとだ。しかし高橋たちか……」
中学時代の最後の団体戦でチームを組んだ二人の名前に、俺はかなり気持ちが揺れていた。
中学一年のあの事件があって始めた空手で、俺は中学三年の春に三段へ昇段した。
その頃の大和と高橋は二段、新川はまだ初段になったばかりだった。
そして中学生最後の秋期大会に組手の個人戦と団体戦ヘエントリーをして、団体戦では中堅を任された。
団体戦は五人で出場して、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の役割が与えられる。先に三勝を挙げれば勝ちになるので、出番が来ないかもしれない副将や大将に強い人間を持ってくることはほぼない。
名称と実力は違って、セオリーでは先鋒または中堅に一番強い選手を置く。
先鋒は、まず一勝をしてチームに勢いをつける重要な役割。
中堅は、先鋒と次鋒が二勝していればその団体戦の勝利を決めに行くことになるし、万が一にも二敗していた時には、挽回の大役を担うことになる。
俺たちの瀧上道場では、大先生の方針で中堅に一番強い選手を持ってくることになっていた。そして俺がそこに指名されたということは、五人のうちでは最強だと太鼓判を押されたのだ。
はっきり言って俺は天狗になっていた。
昇段審査の十人組手で、他の中学生が一本も取れなかった大人で五段の熊沢から、俺だけが何とか一本取れたこと。空手を始めて二年と少しで三段になって、小学校の時からやっていた大和たちを追い抜いたこと。すべて俺が強いからだ、と。
そして試合当日、俺は気の緩みからインフルエンザで寝込んで試合を欠場した。
遅くまでアニメを見て体調管理がなっていないからだとか、風呂から上がって髪を乾かしていないせいだとか、怒りながらもすぐに許してくれた大和なんかはまだよかった。
大和は俺と同様に個人戦にもエントリーをしていて、高校のスポーツ推薦枠を狙って個人戦績を重視していたので、今と変わらずさっぱりしたものだった。
しかし団体戦しか出番のない高橋や新川たちには、天狗になった俺が絶対に勝たせてやるなんて偉そうに言ってしまっていたものだから、完膚なきまでに叩かれた。
自業自得なのはわかっているけど、高過ぎた鼻は折れたらとてつもなく重くなっていて、どんどん地の底へめり込むと、あがく気も失せて今の俺ができあがった。
苦い想い出ですっかりブルーになった俺に気づきながらも、大和は容赦なく話を続ける。
このイケメンは、俺には冷たいところが結構ある気がする――と言ってもやはり自業自得だ。
「高橋たちに決める前は、一般枠なら誰でも参加できるからって、若先生から話を聞いた熊沢五段と柳四段が手を挙げてくれたらしい。だけど大先生が『部活を蹴ってまで参加するなら筋を通せ』と仰って、高校生だけで組むことを命じられたんだ」
「熊沢だと?」
「お前がずっと覇気もなく道場に通っているって聞いて、しごく理由にもなるから嬉々として手を挙げたんだよ」
「クソ熊が」
「けどあの人はそもそも全然道場へ来ていないから、その場で却下みたいだったようだけどな」
「ざまあっ」
「……まだ引っ掛かってるのか?」
「何のことだ?」
「相変わらず誤魔化すんだな」
大和が聞いているのは、中三の試合か中一の例の件か。どっちにしても空手の初めから、俺は後悔だらけだ。
「熊沢五段はともかく柳四段は監督で試合会場に入ることになっているから、忘れるなよ」
「若先生は?」
「あの人は段位こそ高いけど指導者資格は持っていないし、大会の監督にはなれないんだよ。けど柳四段はそっちも持っているから若先生が頼んでいた」
聞くまでもなく、熊沢はそんなシャレた物を持ってはいない。
「メンバーの説明が終わったからもう一度言うぞ。高橋と新川が出てくれる理由、わかってるよな?」
「……ああ」
田所先輩へ世話になったのは俺もあいつらも同じだ。特に俺がヘマをした中学最後の試合の後始末では、本当に感謝しきれない。
その時に迷惑を掛けた四人が、部活もろくにしていない俺とチームを組むと言ってくれている。
そんなの断れるはずがない。
「たぶん迷惑を掛けるだろうけど、よろしく頼む」
「今さらだ」
大和は拳を俺の右胸に軽く突きたてて、女だったら誰でも惚れてしまいそうな清々しいイケメンスマイルを浮かべた。
俺も心は決めた。しかし若先生にはどうしても確認をしたかったので、イラストサイトのメッセージを使って忙しくない時間を教えてもらい、翌日の夕方に病院の食堂で会うことにした。
若先生は夜勤らしく、夕食を食べる時間なら少しだけ話ができるとのことだった。
「いきなり来て何のつもりだ?」
昼休みのスマホいじりの最中の机に影が差したと思ったら、険しい表情のイケメンが目の前に立っている。
「昨日、二年生が二人も組手の練習中にケガをしてまずい状況になってしまった」
「他にも部員がいるだろうよ」
「お前より弱い部員なら山ほどいる。だが俺は絶対に勝ちたい」
大和くらいのイケメンが本気で凄むとなかなかの緊張感が漂う。
俺のような普通科と、大和みたいなスポーツ特選科では、そもそもクラブ活動へのモチベーションが違うから当たり前ではある。他の選手の実力もそういうことなので不甲斐なさもあるのだろう。
だけど、これまで何も部活をしていない人間が、ポッと行って試合に出るって誰が歓迎するんだ、大和以外。
「冷静に考えろよ」
「頼む、この組手の団体戦は田所さんの高校最後の試合になる。だから良い結果で俺は送り出してあげたいんだよ。お前もさんざん世話になっただろう!?」
……そういうことか。
田所さんは道場でも北高校でも俺たちの先輩にあたる、とても優しい人だ。
俺が中学三年の試合で欠場なんてヘマをした時も、文句を言うチームメイトの間に立って俺を庇ってくれた。あの後の俺が道場に居続けられたのも、田所さんの存在がとても大きい。
高校へ入学してからも、引きっきりなしに部の勧誘ヘ一年生の教室まで来てくれたのに俺は入らなかった。
事情は察するけれど部外者がいきなり部員面をするのが受け入れられるはずがない。
「四月からずっと入部を断っている俺では無理だ」
「お前、何か勘違いをしてないか?」
「何を?」
「誰も部活なんて一度も言っていない。道場推薦の一般枠で出るんだよ」
「は?」
「何だかんだ言っても、道場生は学校でも空手をやっている生徒が多いのは知ってるよな?」
痛いところを突いてくるが、俺以外でやってないのはサッカーとか野球をしたい連中だけだ。
俺は文芸部に命を懸けている、などと嘘を言っても大和相手には虚しいだけなのでさっさと促した。
「で?」
「やっと田所先輩を説得できた。部活をやっているのに、そこで勝てないから道場推薦なんて気が引けるって言われたけど、一年生でまだ試合へ出してもらえない俺と、部に入っていないけど試合へ出たい雅久みたいな後輩のためにぜひお願いします、ってな」
「おい、待て。誰が出たいなんて言った?」
「若先生からそう聞いていたけど、違ったのか?」
「はぁ!?」
待て待て、ちょっと整理をさせろ。
大和は一年生でも断トツの実力を持っていて試合に出たいけれど、三年生の引退試合も兼ねる大会予選に出る幕はない。
田所先輩は三年生だけど個人戦に出るには実力が足りないので、団体戦にエントリーをしている。
しかし一緒に出場する予定だった実力者の二年生がケガをしてしまい、団体戦へ出ても初戦さえ勝てる見込みがなくなった。
その枠ヘ一年生の大和が入れれば少しは何とかなったかもしれないが、それも叶わない。
だから他の出場方法を探し、高校の部活という縛りではなく一般参加枠で出場することを思いついた。
ここまでは別にいい。しかし俺がそのメンバーに最初から含まれている点が大問題だ。
それも若先生が何をとち狂ったのか、おかしなことを吹き込んでいる。
そしてもう一つ、今の俺は大和ほどは熱心に練習をしていないので、期待に応えることはとてもできない。
「俺が出たいなんて間違いだから出場はないぞ」
「それは困る!! 先輩もクラブからの出場は止めるって顧問に伝えて、手続きに入ってしまったんだ!」
「何を勝手なことをしてるんだ!?」
ひさしぶりに俺は頭が痛くなった。
「だったら組手じゃない形にしろ。それなら三人でいいから俺は関係ない!」
「それはダメだ。先輩は、部では組手の団体戦にエントリーをしていたから俺も説得ができた。形は別の先輩がいる。その人に不満があるから道場から出ると思われるのは、さすがにマズいだろう」
空手の団体戦は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の五戦勝負で先に三勝したほうが勝つ。
だが今の実力で試合に出て勝つ自信なんて全然ない。
頭を掻きむしりたくなる衝動を抑えながら考えていると、ある疑問が浮かんだ。
「他に二人は必要なはず、誰だ?」
「高橋と新川に声を掛けたら、快くOKしてくれたよ」
「待てよ。あいつらも高校でサッカーとかやってるのにいいのか?」
「向こうの校則上問題ないらしい。それに俺と一緒で、あっちの高校でも一年は何も出られないって言ってる」
高橋は小学生の時からサッカーをやっていて西高校で準レギュラーと聞いている。サッカーは人気が高い競技なのでポジション争いも大変なのだろう。新川は東高校へ行ってからバスケを始めたので、まだまだレギュラーなど狙える実力はないはずだ。
「勝手なことをして、お前ら本当に部活へ戻れるんだろうな」
「まさか雅久に心配されるなんて思わなかったが、部に居辛くなったら辞めるだけさ」
「それってスポーツ特選科の言葉じゃないだろう」
「そうか? 俺は瑞樹や神崎先輩みたいに優秀じゃないから奨学金も出ていないし、万が一、普通科へ転科させられてもこだわりはないけどな」
「イケメンのうえに男らしいってズルいよな。いやそれでは俺が救われないから、単に大和は考えなしの大ざっぱとしておこう」
「おい、心の声が漏れてるぞ」
「もちろんわざとだ。しかし高橋たちか……」
中学時代の最後の団体戦でチームを組んだ二人の名前に、俺はかなり気持ちが揺れていた。
中学一年のあの事件があって始めた空手で、俺は中学三年の春に三段へ昇段した。
その頃の大和と高橋は二段、新川はまだ初段になったばかりだった。
そして中学生最後の秋期大会に組手の個人戦と団体戦ヘエントリーをして、団体戦では中堅を任された。
団体戦は五人で出場して、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の役割が与えられる。先に三勝を挙げれば勝ちになるので、出番が来ないかもしれない副将や大将に強い人間を持ってくることはほぼない。
名称と実力は違って、セオリーでは先鋒または中堅に一番強い選手を置く。
先鋒は、まず一勝をしてチームに勢いをつける重要な役割。
中堅は、先鋒と次鋒が二勝していればその団体戦の勝利を決めに行くことになるし、万が一にも二敗していた時には、挽回の大役を担うことになる。
俺たちの瀧上道場では、大先生の方針で中堅に一番強い選手を持ってくることになっていた。そして俺がそこに指名されたということは、五人のうちでは最強だと太鼓判を押されたのだ。
はっきり言って俺は天狗になっていた。
昇段審査の十人組手で、他の中学生が一本も取れなかった大人で五段の熊沢から、俺だけが何とか一本取れたこと。空手を始めて二年と少しで三段になって、小学校の時からやっていた大和たちを追い抜いたこと。すべて俺が強いからだ、と。
そして試合当日、俺は気の緩みからインフルエンザで寝込んで試合を欠場した。
遅くまでアニメを見て体調管理がなっていないからだとか、風呂から上がって髪を乾かしていないせいだとか、怒りながらもすぐに許してくれた大和なんかはまだよかった。
大和は俺と同様に個人戦にもエントリーをしていて、高校のスポーツ推薦枠を狙って個人戦績を重視していたので、今と変わらずさっぱりしたものだった。
しかし団体戦しか出番のない高橋や新川たちには、天狗になった俺が絶対に勝たせてやるなんて偉そうに言ってしまっていたものだから、完膚なきまでに叩かれた。
自業自得なのはわかっているけど、高過ぎた鼻は折れたらとてつもなく重くなっていて、どんどん地の底へめり込むと、あがく気も失せて今の俺ができあがった。
苦い想い出ですっかりブルーになった俺に気づきながらも、大和は容赦なく話を続ける。
このイケメンは、俺には冷たいところが結構ある気がする――と言ってもやはり自業自得だ。
「高橋たちに決める前は、一般枠なら誰でも参加できるからって、若先生から話を聞いた熊沢五段と柳四段が手を挙げてくれたらしい。だけど大先生が『部活を蹴ってまで参加するなら筋を通せ』と仰って、高校生だけで組むことを命じられたんだ」
「熊沢だと?」
「お前がずっと覇気もなく道場に通っているって聞いて、しごく理由にもなるから嬉々として手を挙げたんだよ」
「クソ熊が」
「けどあの人はそもそも全然道場へ来ていないから、その場で却下みたいだったようだけどな」
「ざまあっ」
「……まだ引っ掛かってるのか?」
「何のことだ?」
「相変わらず誤魔化すんだな」
大和が聞いているのは、中三の試合か中一の例の件か。どっちにしても空手の初めから、俺は後悔だらけだ。
「熊沢五段はともかく柳四段は監督で試合会場に入ることになっているから、忘れるなよ」
「若先生は?」
「あの人は段位こそ高いけど指導者資格は持っていないし、大会の監督にはなれないんだよ。けど柳四段はそっちも持っているから若先生が頼んでいた」
聞くまでもなく、熊沢はそんなシャレた物を持ってはいない。
「メンバーの説明が終わったからもう一度言うぞ。高橋と新川が出てくれる理由、わかってるよな?」
「……ああ」
田所先輩へ世話になったのは俺もあいつらも同じだ。特に俺がヘマをした中学最後の試合の後始末では、本当に感謝しきれない。
その時に迷惑を掛けた四人が、部活もろくにしていない俺とチームを組むと言ってくれている。
そんなの断れるはずがない。
「たぶん迷惑を掛けるだろうけど、よろしく頼む」
「今さらだ」
大和は拳を俺の右胸に軽く突きたてて、女だったら誰でも惚れてしまいそうな清々しいイケメンスマイルを浮かべた。
俺も心は決めた。しかし若先生にはどうしても確認をしたかったので、イラストサイトのメッセージを使って忙しくない時間を教えてもらい、翌日の夕方に病院の食堂で会うことにした。
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