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転校生
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さて、ここはどうするか。
見せ場を作るとしたらその前に伏線が必要だ。どの登場人物を絡ませるか。
うーむ、やはり難しい。
こんなことをあっさりやってのけるなんて、やっぱあの人は凄いよな。
購買部で人気のないパンをさっさと買ってかじりながら、昼休みの教室で新しい小説のプロットに頭を悩ませている。
あれこれ思いついたネタをスマホにチマチマ入力をしていると、にわかに教室が静まり返る。気になった俺が顔上げると……やつがいた。
相変わらず短いスカートを履いて本当に恐るべき注目度と破壊力だ。
「やっほー、雅久ぅー」
「……お前の1―Eは東校舎。ここは普通科の西校舎。間違えるな」
「そんなこと知ってるよー」
手を振りながら1―B教室へ入って来ようとする瑞樹へ俺は慌てて駆け寄る。そのまま手首を握って連れ出した。
「ど、同志よっ! そのお方は何ですか!?」
「し、白石!? まさか噂の転校生と知り合いなのかっ?」
掛けられる声を一切無視して廊下をひたすら歩き続ける。周囲からの視線が痛すぎる。
「ちょ、ちょっと、雅久っ、どこへ!?」
もちろん瑞樹もガン無視して連れて来たのは五階屋上へ続く階段だ。
リア充カップルどもがイチャついているかもしれないと懸念はしたが、運よく誰もいなかった。
「いきなり来るなよ、心臓に悪いだろうが」
「何で?」
「は? お前、自分が目立ってるって意識ないの?」
「うーん、読モとかやってるから少しはあるけど、雅久に比べれば大したことないと思うけど?」
このリア充の言葉の意味がわからなさ過ぎる。
土日絶賛引き籠り中の二次オタの俺に向かって何を言ってるんだ?
たった今も見ただろう! 昼休みに誰とも話さず一人スマホと戯れる孤高の姿を!
いいや、そうだった。大切な昼休みが終わるから余計な話はまた今度にしよう。
「とにかく、用もないのに普通科の教室へ来るな」
「何で?」
「何でって、何でもだよ! 用があれば俺がそっちの教室へ行くから!」
「……ひょっとして、いつもチョコくれるコが教室にいるの?」
「はあ? んなもんいねーよ!」
「じゃあ、私を来させたくない理由って何!?」
特選科だからこそ突出した才能があれば、度を多少越してズレていても周囲は認めてくれる素地がある。
しかし俺の教室は一般人の普通科。
ピアノがいくら上手かろうが『あ、そっ』で終わり、最初はこいつを女と思ってチヤホヤしていたやつらも、男とわかったらきっと手の平を返したような扱いになる。
俺は大切な幼なじみが傷つく姿を見るのが嫌なんだよ。
だけど母さんとの約束で、その部分について直接伝えることはできないから素っ気ない態度になってしまうけど仕方がない。
俺の気持ちを知らない瑞樹は、またチョコとか意味のわからないことを言い出して真っ赤な顔に涙を浮かべている。
本当の女みたいに面倒な性格になってるな。
どう答えればいいのだろうか。
「あのさ、その格好は普通科では少し目立ち過ぎるんだよ。わかるだろう?」
こぼれた涙をスカートから取り出したハンカチで拭きながらは瑞樹は頷いた。
「これは俺のわがままになるけど、高校ではあまり目立ちたくないんだ。でもお前が来ると否が応でも俺まで注目される。できれば平穏な高校生活を送りたいと思ってるんだ」
別に自慢でもない。瑞樹も菜緒に聞いているのだろうけど、中学ではかなり悪目立ちをしていた。
空手の試合欠場で評価が大暴落した時は、自業自得とは言うものの結構堪えた。
その後、絵の入賞で手の平を返したように評価が上がった時も、周りのやつらを信じられなくなった。
瑞樹が側にいるからといってあんなことにはならないだろうとはわかっている。あくまで俺の都合で来させない形にするため、適当に弁を取り繕ったところ、案外俺の本音が出たのかもしれない。そしてえらいことになってしまった。
「ヒック、じゃ、じゃあ、雅久ば、ヒッグ、わだしと学校で会いだくないの?」
「うっ」
そんなきれいな顔で目をウルウルさせながら見るな!
「せ、せっかく会えだのに、ヒック」
「うっ」
母さんと同じことを言うな!
「わ、わたし、雅久の番号、知らないから、教室来でって、言えないよ」
「うっ、そ、それは今教える」
「うん」
まだ鼻をグズグズ言わせているが、瑞樹の涙は何とか止まった。
ポケットから取り出したスマホと瑞樹が握っていたスマホとを重ねて番号とアドレス交換をする。改めて見るとごちゃごちゃデコっているな。
「女子高生のスマホだな」
「へへヘ、だって女子高生だよ」
瑞樹が泣き顔にすごく嬉しそうな笑みを浮かべ、俺は頭が一瞬でクラっとなった。
俺は今、なんて言った?
ぴろーん。
キーンコーン、キーンコーン、キーンコーン……。
真っ白な頭にスマホの赤外線通信音と始業予鈴のチャイムが空しく鳴り響いた。
それから大急ぎでそれぞれの教室へ帰ると、五時間目の後、そして放課後は予想どおりの質問攻めにあった。
時季外れの美少女転校生……の噂は普通科にも届いていた。しかし校舎が違うことと、試合やコンクールで活躍をする特選科に普通科は少し複雑な感情があるので、わざわざ見に行こうとする生徒は少なかった。そこへ初めて実物を目にした興奮が冷めやらぬようだった。
本当に面倒だ。話がしたければ勝手に行けばいいのに、どうして俺に紹介してくれとか番号を教えろとか言うのか。
やっぱりこっちの教室へ来るのはやめさせよう。かと言って、俺があっちへ行くのも変な噂が立ちそうで避けたい。
リア充カップルっぽくて嫌だけど、学校で会うなら今日のあの場所にしようと俺がメッセージを送る。ゴツイおっさんが親指をビシッと立てたスタンプが返って来た。
少し前に菜緒が俺にも送ってきたやつと同じだけど、二人して気に入ってるのか?
瑞樹の場合は、性別が合ってるしいいけどさ。
見せ場を作るとしたらその前に伏線が必要だ。どの登場人物を絡ませるか。
うーむ、やはり難しい。
こんなことをあっさりやってのけるなんて、やっぱあの人は凄いよな。
購買部で人気のないパンをさっさと買ってかじりながら、昼休みの教室で新しい小説のプロットに頭を悩ませている。
あれこれ思いついたネタをスマホにチマチマ入力をしていると、にわかに教室が静まり返る。気になった俺が顔上げると……やつがいた。
相変わらず短いスカートを履いて本当に恐るべき注目度と破壊力だ。
「やっほー、雅久ぅー」
「……お前の1―Eは東校舎。ここは普通科の西校舎。間違えるな」
「そんなこと知ってるよー」
手を振りながら1―B教室へ入って来ようとする瑞樹へ俺は慌てて駆け寄る。そのまま手首を握って連れ出した。
「ど、同志よっ! そのお方は何ですか!?」
「し、白石!? まさか噂の転校生と知り合いなのかっ?」
掛けられる声を一切無視して廊下をひたすら歩き続ける。周囲からの視線が痛すぎる。
「ちょ、ちょっと、雅久っ、どこへ!?」
もちろん瑞樹もガン無視して連れて来たのは五階屋上へ続く階段だ。
リア充カップルどもがイチャついているかもしれないと懸念はしたが、運よく誰もいなかった。
「いきなり来るなよ、心臓に悪いだろうが」
「何で?」
「は? お前、自分が目立ってるって意識ないの?」
「うーん、読モとかやってるから少しはあるけど、雅久に比べれば大したことないと思うけど?」
このリア充の言葉の意味がわからなさ過ぎる。
土日絶賛引き籠り中の二次オタの俺に向かって何を言ってるんだ?
たった今も見ただろう! 昼休みに誰とも話さず一人スマホと戯れる孤高の姿を!
いいや、そうだった。大切な昼休みが終わるから余計な話はまた今度にしよう。
「とにかく、用もないのに普通科の教室へ来るな」
「何で?」
「何でって、何でもだよ! 用があれば俺がそっちの教室へ行くから!」
「……ひょっとして、いつもチョコくれるコが教室にいるの?」
「はあ? んなもんいねーよ!」
「じゃあ、私を来させたくない理由って何!?」
特選科だからこそ突出した才能があれば、度を多少越してズレていても周囲は認めてくれる素地がある。
しかし俺の教室は一般人の普通科。
ピアノがいくら上手かろうが『あ、そっ』で終わり、最初はこいつを女と思ってチヤホヤしていたやつらも、男とわかったらきっと手の平を返したような扱いになる。
俺は大切な幼なじみが傷つく姿を見るのが嫌なんだよ。
だけど母さんとの約束で、その部分について直接伝えることはできないから素っ気ない態度になってしまうけど仕方がない。
俺の気持ちを知らない瑞樹は、またチョコとか意味のわからないことを言い出して真っ赤な顔に涙を浮かべている。
本当の女みたいに面倒な性格になってるな。
どう答えればいいのだろうか。
「あのさ、その格好は普通科では少し目立ち過ぎるんだよ。わかるだろう?」
こぼれた涙をスカートから取り出したハンカチで拭きながらは瑞樹は頷いた。
「これは俺のわがままになるけど、高校ではあまり目立ちたくないんだ。でもお前が来ると否が応でも俺まで注目される。できれば平穏な高校生活を送りたいと思ってるんだ」
別に自慢でもない。瑞樹も菜緒に聞いているのだろうけど、中学ではかなり悪目立ちをしていた。
空手の試合欠場で評価が大暴落した時は、自業自得とは言うものの結構堪えた。
その後、絵の入賞で手の平を返したように評価が上がった時も、周りのやつらを信じられなくなった。
瑞樹が側にいるからといってあんなことにはならないだろうとはわかっている。あくまで俺の都合で来させない形にするため、適当に弁を取り繕ったところ、案外俺の本音が出たのかもしれない。そしてえらいことになってしまった。
「ヒック、じゃ、じゃあ、雅久ば、ヒッグ、わだしと学校で会いだくないの?」
「うっ」
そんなきれいな顔で目をウルウルさせながら見るな!
「せ、せっかく会えだのに、ヒック」
「うっ」
母さんと同じことを言うな!
「わ、わたし、雅久の番号、知らないから、教室来でって、言えないよ」
「うっ、そ、それは今教える」
「うん」
まだ鼻をグズグズ言わせているが、瑞樹の涙は何とか止まった。
ポケットから取り出したスマホと瑞樹が握っていたスマホとを重ねて番号とアドレス交換をする。改めて見るとごちゃごちゃデコっているな。
「女子高生のスマホだな」
「へへヘ、だって女子高生だよ」
瑞樹が泣き顔にすごく嬉しそうな笑みを浮かべ、俺は頭が一瞬でクラっとなった。
俺は今、なんて言った?
ぴろーん。
キーンコーン、キーンコーン、キーンコーン……。
真っ白な頭にスマホの赤外線通信音と始業予鈴のチャイムが空しく鳴り響いた。
それから大急ぎでそれぞれの教室へ帰ると、五時間目の後、そして放課後は予想どおりの質問攻めにあった。
時季外れの美少女転校生……の噂は普通科にも届いていた。しかし校舎が違うことと、試合やコンクールで活躍をする特選科に普通科は少し複雑な感情があるので、わざわざ見に行こうとする生徒は少なかった。そこへ初めて実物を目にした興奮が冷めやらぬようだった。
本当に面倒だ。話がしたければ勝手に行けばいいのに、どうして俺に紹介してくれとか番号を教えろとか言うのか。
やっぱりこっちの教室へ来るのはやめさせよう。かと言って、俺があっちへ行くのも変な噂が立ちそうで避けたい。
リア充カップルっぽくて嫌だけど、学校で会うなら今日のあの場所にしようと俺がメッセージを送る。ゴツイおっさんが親指をビシッと立てたスタンプが返って来た。
少し前に菜緒が俺にも送ってきたやつと同じだけど、二人して気に入ってるのか?
瑞樹の場合は、性別が合ってるしいいけどさ。
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