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美術部の後輩
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今日は土曜で学校もなく穏やかな朝のはずなのに、食卓では俺の冴えない頭の元凶がハムハムとパンをかじっている。
「お、おはよう」
「……おはよう」
今はリボンじゃない髪ゴムでポニーテールにしているだけだが、こちらのほうが好みかもしれない。
ダメだ、朝から本当にダメだ。
俺の気を知ってか知らずか、瑞樹は目を合わせようともしない。
こちらも気恥ずかしいのでありがたいといえばありがたい。しかし雰囲気を察しない人間はどこにでもいる。少し気まずい微妙な空気の中、菜緒が爆弾を投下した。
「ニイニイも何だかんだでミズキちゃん好きなんだねー」
「ブホォっ!!」
「ケホケホっ」
「な、何を言ってるんだ!?」
おもいっきり逆噴射をさせられた俺がこぼれた牛乳を拭きながら妹を睨む。向かいの席の瑞樹は真っ赤々な顔を横へ向けて咳き込んでいる。
「昨日のイラスト、どう見てもミズキちゃんだよ?」
「あ……」
「やっとわかった?」
「お、お前、俺の作品をいつも見てるのか!?」
「違うよ。ミズキちゃんが見たいって言うから。ナオは今のニイニイの絵は好きくない」
「はいはい、日本語は正しくな。お兄ちゃんの絵は好きじゃない、または嫌い……」
自分で言ってて落ち込んできたから止めよう。
妹が俺の投稿を細かくチェックしているのかと思ったら、全然見当違いだった。自意識過剰っぽい聞き方だったのは恥ずかしい気もするが、瑞樹にバレていたほうがもっと恥ずかしい。
「桜ちゃんからメッセが入ってうらやましがられたけど、こんなニイニイいつでもあげるって返しといたから」
「そ、そうですか」
昔は俺の後をついて回って困るほどだったのに、いつの間にか立派に独り立ちをして。
現実を見よう、単に俺が見放されただけだ。
そしてもう一つの現実も。
「あー、瑞樹ぃ」
「な、何っ」
「そんな構えるなよ」
「か、構えてなんかいないわ」
机を挟んでいるにもかかわらず、俺からあからさまに距離を取ろうとしたのは見なかったことにした。
「ならいいけど、あれさ、嫌なら削除するから」
「べ、別に、嫌じゃないけど……」
「そうなの?」
てっきり気に入らないから顔を合わせてないのかと思ってたら、そうではないらしい。
となるとあれか?
薙刀を持ち歩くほど思い入れがあるみたいだし。
「やっぱステッキに変えたのが気に入らなかったのか。でも桜ちゃんに魔法少女物で送っているから、槍はちょっとなあ」
「誰もそんなこと言ってないでしょう!」
「ち、違うよ、ニイニイ! ミズキちゃんも落ち着いて! ファイル名だよっ、ニイニイ!!」
手にしたパンをクシャクシャに握りつぶした瑞樹に、焦った菜緒が慌てて答えをくれた。
絵柄はあんな感じになっているけど嘘はダメだからな、俺って正直者。
だけどこの二人がそこに気づいたってことは、ダウンロードまでしていたのか。
「『男の娘.jpg』だろう? それが何か?」
「バカーっ!!」
「ほんとニイニイって最低っ!!」
朝ご飯の途中にもかかわらず、瑞樹と菜緒は俺を激しく睨んで去って行った。
何か悪いことやったか? きっとやったんだろうな。男の娘の乙女心を傷つけたってか。
『超魔法少女アクアヴィーナス』の敵キャラに、男の娘もいたからおかしくないと思ったんだけど、ダメだったらしい。
二人の表情から非常に面倒な予感がする。大事な友達をわざわざ家まで連れて来て、昨日仲直りしてまた怒らせていたら本当に世話がない。
だから菜緒の部屋の前でひたすら謝って声を掛けたら『さっさとどっか行け』、と愛する妹から邪険にされてしまった。
今日は何かと多忙だから言われなくても市内まで行くのだが、その前にファイル名だけは変えておくことにしよう。
部屋へと戻った俺は、パソコンを起ち上げて考えた。
モデルは瑞樹だけどそのままはさすがにアレだし、少しだけひねっておこう。
『WaterTree.jpg』
水木――なんだか水底へ沈む木のようなファイル名になった。
以前に博物館で見た数万年前の展示が脳裏へ浮かぶ。
とても青く静かな水の中で、朽ちることもなく横たわったブナやニレの巨木たち。
その前で俺は一日中、膝を抱えて座っていた。
まったくいい想い出ではないが、忘れられない記憶だ。
……おっ、なんかインスピレーション? いや、デジャヴュ? どっちでもいいけど何か来たっ!
このイメージが湖底だとすると、見上げて更に水面から顔を出したらどんな光景が広がっているのか?
瑞樹の髪ようにキラキラした世界、それとも……。
胸がモヤモヤして何だか気になる。早く形にしたいのにこんな時に限ってファイルアップロードのやり直しがなかなか終わらない。
俺は仕方なく机の横に立て掛けたスケッチブックを引っ張り出す。抑えられない衝動を忘れないよう鉛筆を走らせる。色を載せるほどイメージは固まっていないので本当にデッサン程度だが、何枚も何枚も納得がいくまで描き直した。
紙に描いたのは本当にひさしぶりだった。満足のいくものができると気がつけばスケッチブックは残り二枚、時間は昼前になっていた。
今さらながらパソコンは紙も使わないし、アンドゥリドゥのやり直しがいくらでもできる素晴らしいツールだと気づかされる。
これをスキャナで取り込むか? このまま紙で仕上げるか?
どうせなら大きいほうが、あの博物館の展示のような雰囲気が出せるよな。
となるとキャンバスを市内へ行って画材屋で調達しなければ……あっ!!
椅子へ座りなおして考え始めたところで、すっかり用事を忘れていたことを思い出した。
慌てて準備をしながらスマホを見ると知らない間にメッセージ届いている。
差出人は菜緒だ。
『WaterTreeちゃんを駅まで送ってくるね
さっき少しだけ部屋をのぞいたけど ニイニイぜんぜん気づかないし
でもなかなかカッコよかったよっ グッジョ!!』
早っ、もう見たのか。
そうなるとイラストサイトの更新通知を受けているということだから、やっぱりいつもチェックしてるんじゃないか!
スマホの画面に、ビシッと親指を立てた髭面のでかいおっさんのスタンプが出ているのは何とも言えない。英語も俺が教えてやってるんだから『Good job』くらい普通に書いて欲しい。
文面から察すると機嫌を直してくれたみたいだし、今回は間違っていなかったみたいだ。
菜緒のメッセージを読んでひとまず安心をした俺は、カバンヘ空手の道着やら昼ご飯替わりの携帯食料やらを突っ込むと慌てて自転車へ飛び乗った。
夏はもう終わりだというのに、十分猛暑と感じられる暑さの中をひた走る。大きな病院と品揃えのいい本屋は市の中心にしかなかったので、小学生の頃から通い慣れた道だ。そして中学の時は空手で、今は高校の通学路でもある。
子供の頃は、市の中心から数えた距離が二桁キロもあると田舎っぽくて嫌だったから九キロと言い張っていた。いい年なので素直に認めよう。俺が住んでいるのは市の外れで優に十キロ以上はあるが、とてものどかで住みよい田園地帯だ。
これなら何となく聞こえもいい。俺は自己満足に浸りながら、キコキコと自転車をこぎ続けた。
本当は朝から出掛けて本屋でライトノベルを心ゆくまであさるつもりだったのに色々とあってできなかった。昼からは人に会ったりする予定が詰まっている。今日は諦めるしかない。
俺は指定された喫茶店へ向かう。お目当ての相手は、探すまでもなくいつもと同じ窓際の奥から二つめのテーブルの前に座っていた。
「悪い、月島、待たせたよな」
「ううん、来たところです」
「……それだけ食器が並んでいたら嘘なのはわかるから」
「えヘヘヘー」
食べ終わったパフェや半分ほど残ったオレンジジュース。どうして照れ笑いを浮かべていられるのか、まったく理解に苦しむ。
少し赤くなった顔には、漫画の読み過ぎ、描き過ぎで悪くなった視力のせいで少し厚めのレンズが入った眼鏡をしている。
月島のことは幼なじみのイケメン大和が『あの眼鏡を外せば相当かわいい』といつも言っていた。
俺はそんな目で見れたことがないのでよくわからない。おかっぱとボブの間くらいに肩で切り揃えた髪は、絵を描く時に下を向いて邪魔にならないギリギリのラインとの信念の長さ。コンタクトにしないのも、髪を眼鏡のフレームで抑えるのに都合がいいからとのことらしい。
端的に言うと、俺なんかよりよほど純粋に絵への情熱に溢れ、強い気持ちで描いている人種だと思う……ある一部が強すぎるきらいはあるが。
数日前に中学校の文化祭で飾る絵の候補を数枚描き上げたから、選ぶのを手伝って欲しいと月島から連絡が入った。こうして道場へ行くついでにやって来たのだが、間違いなく俺のことを誤解している。
なので月島の前の席へ座ってアイスコーヒーを注文するとすぐに切り出した。
「俺みたいなオタに見せてどうする気だ? お前が満足のいく出来のものならそれでいいだろう?」
「それはそうかもしれませんが、私の目標である先輩のご意見を聞きたいですっ。周りのコも結構言ってますよ?」
「何だそれ? 俺なんかの意見を聞いて意味があるのか?」
「何を仰るのですか! 先輩は畏れ多くも、並み居る大人達を差し置いてあの展覧会で審査員特別優秀賞を勝ち取られたお方じゃないですかっ!!」
月島は拳を握りしめて、背中に荒波を背負っているかのように立ち上がると力説を見せる。
事実としてはそのとおりなのだけど、ただのマグレ、フラックだ。それにこの静かで雰囲気のいい喫茶店では恥ずかしいからやめて欲しい。
「頼むから、座ってくれ!」
「いやです!! 市民病院正面階段の踊り場に飾られている、大画伯雅久先輩の頼みでもそこは譲れませんっ!」
「俺が悪かった! わかりました、意見を言わせてもらいます……これでいいか?」
「はいっ!」
満面の笑みで席へ座り直す月島。俺はこの数分のやりとりで一日分は疲れた気がして憂鬱になった。
「お、おはよう」
「……おはよう」
今はリボンじゃない髪ゴムでポニーテールにしているだけだが、こちらのほうが好みかもしれない。
ダメだ、朝から本当にダメだ。
俺の気を知ってか知らずか、瑞樹は目を合わせようともしない。
こちらも気恥ずかしいのでありがたいといえばありがたい。しかし雰囲気を察しない人間はどこにでもいる。少し気まずい微妙な空気の中、菜緒が爆弾を投下した。
「ニイニイも何だかんだでミズキちゃん好きなんだねー」
「ブホォっ!!」
「ケホケホっ」
「な、何を言ってるんだ!?」
おもいっきり逆噴射をさせられた俺がこぼれた牛乳を拭きながら妹を睨む。向かいの席の瑞樹は真っ赤々な顔を横へ向けて咳き込んでいる。
「昨日のイラスト、どう見てもミズキちゃんだよ?」
「あ……」
「やっとわかった?」
「お、お前、俺の作品をいつも見てるのか!?」
「違うよ。ミズキちゃんが見たいって言うから。ナオは今のニイニイの絵は好きくない」
「はいはい、日本語は正しくな。お兄ちゃんの絵は好きじゃない、または嫌い……」
自分で言ってて落ち込んできたから止めよう。
妹が俺の投稿を細かくチェックしているのかと思ったら、全然見当違いだった。自意識過剰っぽい聞き方だったのは恥ずかしい気もするが、瑞樹にバレていたほうがもっと恥ずかしい。
「桜ちゃんからメッセが入ってうらやましがられたけど、こんなニイニイいつでもあげるって返しといたから」
「そ、そうですか」
昔は俺の後をついて回って困るほどだったのに、いつの間にか立派に独り立ちをして。
現実を見よう、単に俺が見放されただけだ。
そしてもう一つの現実も。
「あー、瑞樹ぃ」
「な、何っ」
「そんな構えるなよ」
「か、構えてなんかいないわ」
机を挟んでいるにもかかわらず、俺からあからさまに距離を取ろうとしたのは見なかったことにした。
「ならいいけど、あれさ、嫌なら削除するから」
「べ、別に、嫌じゃないけど……」
「そうなの?」
てっきり気に入らないから顔を合わせてないのかと思ってたら、そうではないらしい。
となるとあれか?
薙刀を持ち歩くほど思い入れがあるみたいだし。
「やっぱステッキに変えたのが気に入らなかったのか。でも桜ちゃんに魔法少女物で送っているから、槍はちょっとなあ」
「誰もそんなこと言ってないでしょう!」
「ち、違うよ、ニイニイ! ミズキちゃんも落ち着いて! ファイル名だよっ、ニイニイ!!」
手にしたパンをクシャクシャに握りつぶした瑞樹に、焦った菜緒が慌てて答えをくれた。
絵柄はあんな感じになっているけど嘘はダメだからな、俺って正直者。
だけどこの二人がそこに気づいたってことは、ダウンロードまでしていたのか。
「『男の娘.jpg』だろう? それが何か?」
「バカーっ!!」
「ほんとニイニイって最低っ!!」
朝ご飯の途中にもかかわらず、瑞樹と菜緒は俺を激しく睨んで去って行った。
何か悪いことやったか? きっとやったんだろうな。男の娘の乙女心を傷つけたってか。
『超魔法少女アクアヴィーナス』の敵キャラに、男の娘もいたからおかしくないと思ったんだけど、ダメだったらしい。
二人の表情から非常に面倒な予感がする。大事な友達をわざわざ家まで連れて来て、昨日仲直りしてまた怒らせていたら本当に世話がない。
だから菜緒の部屋の前でひたすら謝って声を掛けたら『さっさとどっか行け』、と愛する妹から邪険にされてしまった。
今日は何かと多忙だから言われなくても市内まで行くのだが、その前にファイル名だけは変えておくことにしよう。
部屋へと戻った俺は、パソコンを起ち上げて考えた。
モデルは瑞樹だけどそのままはさすがにアレだし、少しだけひねっておこう。
『WaterTree.jpg』
水木――なんだか水底へ沈む木のようなファイル名になった。
以前に博物館で見た数万年前の展示が脳裏へ浮かぶ。
とても青く静かな水の中で、朽ちることもなく横たわったブナやニレの巨木たち。
その前で俺は一日中、膝を抱えて座っていた。
まったくいい想い出ではないが、忘れられない記憶だ。
……おっ、なんかインスピレーション? いや、デジャヴュ? どっちでもいいけど何か来たっ!
このイメージが湖底だとすると、見上げて更に水面から顔を出したらどんな光景が広がっているのか?
瑞樹の髪ようにキラキラした世界、それとも……。
胸がモヤモヤして何だか気になる。早く形にしたいのにこんな時に限ってファイルアップロードのやり直しがなかなか終わらない。
俺は仕方なく机の横に立て掛けたスケッチブックを引っ張り出す。抑えられない衝動を忘れないよう鉛筆を走らせる。色を載せるほどイメージは固まっていないので本当にデッサン程度だが、何枚も何枚も納得がいくまで描き直した。
紙に描いたのは本当にひさしぶりだった。満足のいくものができると気がつけばスケッチブックは残り二枚、時間は昼前になっていた。
今さらながらパソコンは紙も使わないし、アンドゥリドゥのやり直しがいくらでもできる素晴らしいツールだと気づかされる。
これをスキャナで取り込むか? このまま紙で仕上げるか?
どうせなら大きいほうが、あの博物館の展示のような雰囲気が出せるよな。
となるとキャンバスを市内へ行って画材屋で調達しなければ……あっ!!
椅子へ座りなおして考え始めたところで、すっかり用事を忘れていたことを思い出した。
慌てて準備をしながらスマホを見ると知らない間にメッセージ届いている。
差出人は菜緒だ。
『WaterTreeちゃんを駅まで送ってくるね
さっき少しだけ部屋をのぞいたけど ニイニイぜんぜん気づかないし
でもなかなかカッコよかったよっ グッジョ!!』
早っ、もう見たのか。
そうなるとイラストサイトの更新通知を受けているということだから、やっぱりいつもチェックしてるんじゃないか!
スマホの画面に、ビシッと親指を立てた髭面のでかいおっさんのスタンプが出ているのは何とも言えない。英語も俺が教えてやってるんだから『Good job』くらい普通に書いて欲しい。
文面から察すると機嫌を直してくれたみたいだし、今回は間違っていなかったみたいだ。
菜緒のメッセージを読んでひとまず安心をした俺は、カバンヘ空手の道着やら昼ご飯替わりの携帯食料やらを突っ込むと慌てて自転車へ飛び乗った。
夏はもう終わりだというのに、十分猛暑と感じられる暑さの中をひた走る。大きな病院と品揃えのいい本屋は市の中心にしかなかったので、小学生の頃から通い慣れた道だ。そして中学の時は空手で、今は高校の通学路でもある。
子供の頃は、市の中心から数えた距離が二桁キロもあると田舎っぽくて嫌だったから九キロと言い張っていた。いい年なので素直に認めよう。俺が住んでいるのは市の外れで優に十キロ以上はあるが、とてものどかで住みよい田園地帯だ。
これなら何となく聞こえもいい。俺は自己満足に浸りながら、キコキコと自転車をこぎ続けた。
本当は朝から出掛けて本屋でライトノベルを心ゆくまであさるつもりだったのに色々とあってできなかった。昼からは人に会ったりする予定が詰まっている。今日は諦めるしかない。
俺は指定された喫茶店へ向かう。お目当ての相手は、探すまでもなくいつもと同じ窓際の奥から二つめのテーブルの前に座っていた。
「悪い、月島、待たせたよな」
「ううん、来たところです」
「……それだけ食器が並んでいたら嘘なのはわかるから」
「えヘヘヘー」
食べ終わったパフェや半分ほど残ったオレンジジュース。どうして照れ笑いを浮かべていられるのか、まったく理解に苦しむ。
少し赤くなった顔には、漫画の読み過ぎ、描き過ぎで悪くなった視力のせいで少し厚めのレンズが入った眼鏡をしている。
月島のことは幼なじみのイケメン大和が『あの眼鏡を外せば相当かわいい』といつも言っていた。
俺はそんな目で見れたことがないのでよくわからない。おかっぱとボブの間くらいに肩で切り揃えた髪は、絵を描く時に下を向いて邪魔にならないギリギリのラインとの信念の長さ。コンタクトにしないのも、髪を眼鏡のフレームで抑えるのに都合がいいからとのことらしい。
端的に言うと、俺なんかよりよほど純粋に絵への情熱に溢れ、強い気持ちで描いている人種だと思う……ある一部が強すぎるきらいはあるが。
数日前に中学校の文化祭で飾る絵の候補を数枚描き上げたから、選ぶのを手伝って欲しいと月島から連絡が入った。こうして道場へ行くついでにやって来たのだが、間違いなく俺のことを誤解している。
なので月島の前の席へ座ってアイスコーヒーを注文するとすぐに切り出した。
「俺みたいなオタに見せてどうする気だ? お前が満足のいく出来のものならそれでいいだろう?」
「それはそうかもしれませんが、私の目標である先輩のご意見を聞きたいですっ。周りのコも結構言ってますよ?」
「何だそれ? 俺なんかの意見を聞いて意味があるのか?」
「何を仰るのですか! 先輩は畏れ多くも、並み居る大人達を差し置いてあの展覧会で審査員特別優秀賞を勝ち取られたお方じゃないですかっ!!」
月島は拳を握りしめて、背中に荒波を背負っているかのように立ち上がると力説を見せる。
事実としてはそのとおりなのだけど、ただのマグレ、フラックだ。それにこの静かで雰囲気のいい喫茶店では恥ずかしいからやめて欲しい。
「頼むから、座ってくれ!」
「いやです!! 市民病院正面階段の踊り場に飾られている、大画伯雅久先輩の頼みでもそこは譲れませんっ!」
「俺が悪かった! わかりました、意見を言わせてもらいます……これでいいか?」
「はいっ!」
満面の笑みで席へ座り直す月島。俺はこの数分のやりとりで一日分は疲れた気がして憂鬱になった。
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