それでも濡れ衣には感謝している

フォロワーさん

『ガクガク審査員特別優秀賞絵師　様

　　ぜひぜひこれのご講評を賜りたく、伏してお願い申し上げまする。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しがない医師』

　完全に俺をおちょくってるなこの人は。
　更新や三十秒ドローイングをするごとに、メッセージをくれるフォロワーさんからかと思ったら全然違った。空手道場の師範代兼お世話になっている病院の整形外科のお医者様が、新作を見てくれとのことだった。

　たまにあることなので怪しむことなくメッセージのリンクをクリックする。すると水色のワンピースを着た女の子が、キラキラ星をバックに魔法を使っているイラストが目に飛び込んできた。

　これはきっと娘の桜ちゃん作だな。いい年をしたお医者様が、魔法少女アニメの絵を創作はしないだろう。
　だけど桜ちゃんだったら、俺的にとても気恥ずかしいハンドルネームでいつもは送って来る。違ったということは、ログインをするのが面倒だったのか、それとも本当にお医者様が？

　あの人が魔法少女物を大好きなのは否定しないが、あくまで娘と話を合わせるためだと俺は信じている。
　もちろん俺には娘などいない健全な男子高校生だけど、魔法少女が大好きだ。

　胸を張って言えることではないけれど、幼い頃に瑞樹の影響で俺も見始めると、ドンドンはまってしまった。
　かわいい女の子が短いスカートで敵と戦って、パンツが見えるとか見えないとか期待をしていたら、やめられなくなったなんて口が裂けても言えない。
　きっかけこそパンツだったが、今では凝ったストーリとか設定とかでのめり込んでいる。

　とりあえずこのメッセージには返事をするべきだよな。でないと今度病院へ行ったら無駄に痛い治療をされそうだ。
　見たところ普通に小学生レベルだから、デッサンがどうとか、バランスがこうとか言うのは空気読めなさすぎか。
　もともと読めないけど、エラそうに批評でもして『さすが展覧会受賞者は目のつけどころが違う』とか言われるのも嫌だから、適当に褒めておこう。

『しがない医師さんへ

　超魔法少女アクアヴィーナスの雰囲気が出ていていいと思います。
　できれば、もう少しステッキやスカートを丁寧に描いてあげたら、
　アクアヴィーナスも喜ぶと思います。
　また見せてくださいね。
　
　ガクガク』

　これでよし、送信。
　一分後、『ぴろーん』と音がしてまたメッセージが入った。
　なになに『ありがとう。よかったら何チャラ賞絵師の最新作品も見せてください』か。

　この何チャラの修飾はやめて欲しいのだが、言っても聞いてくれないので見ないことにする。
　俺は少し迷いながら、最小化していたペイントソフトを画面一杯に広げた。
　見ようによっては、金髪ツインテールの美少女魔法戦士と思えなくもない。
　でも、何だか納得がいかない俺が保存か破棄を決めかねていると、催促のメッセージが矢継ぎ早に入る。
　ったく、どうなっても知らないぞ。

　あまりにも『ぴろーんぴろーん』とうるさいのにイラついた俺は、桜ちゃんヘアドバイスしたことを少しだけ実践して槍をステッキに描き直した。ファイル名を少し悩んでから保存してサイトヘアップロードをする。

　その結果、予想外に評価ポイントがついて、オーダ元の医師親娘からも大絶賛のメッセージが即刻入った。
　だけどささやかな抵抗をしたのに気づかれなかった俺は、声にならない声を飲み込んでようやく眠りについた。
　おかげで翌朝は、なんだか複雑な気分で目が覚めた。