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濡れ衣
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「見知らぬ小さな女の子をどうする気だったんだぁ!?」
「何回答えればいいんだよ!! 家に送って行くだけって言ってるだろう!?」
「お前!! さっきまでのしょげた態度はどこ行った!! 何だ、その反抗的な目は!」
何度も何度も同じ質問が繰り返され、俺も同じ答えしかしていない。
目の前に二人の警察官が座っているが、パトカーで俺を連れて来たやつらとは別の人間だ。
正面に座っている男はとても大柄で目はギョロリとして少し血走っていた。鼻も口も体に比例して大きいが少し左に歪んでいるように思える。ひたすら俺を疑う口調のまま、責めるように質問を続けていた。
隣の黒縁眼鏡の若い男は、何も言わずにひたすらノートパソコンヘ向かってキーボードをカチャカチャ鳴らしている。澄ました様子で俺に視線を向けることもなく、機械的にやり取りを記録していると思われた。
連れて来られた当初こそ茫然自失だったけれど、まったく言うことを聞いてくれない相手に腹の底からふつふつと怒りが込み上げて、知らない間に俺の言葉も態度も反抗的になってしまっていた。
「白石雅久! お前は本当に強情な奴だな。中学一年でそんな風だと将来ろくな大人にならないぞ! お前の両親にさっき連絡をしたら、かわいそうなほど取り乱していたぞ!」
「父さんと母さんに連絡したってのかっ!?」
「ケツの青い生意気なガキが悪さをしたんだから、保護者が引き取りに来るのは当然だ」
この部屋へ入る前に持ち物検査をされて学生証も見られていた。その警察官は見下すように俺の名前を呼び捨てたが、そんなことはどうでもいい。
完全な濡れ衣なのに、父さんと母さんに余計な心配と悲しい思いをさせたことが、悔しくて悔しくてたまらなかった。
「本当に何もやってないって何回言えばわかるんだ!! おっさん、耳と頭が悪いだろう!」
「このガキ……黙って聞いていれば」
「熊沢先輩、落ち着いてください。ここはビデオが撮られていますよ」
「ちっ」
熊沢と呼ばれた大柄な警察官は、左手を伸ばしながら机に右手を置いて立ち上がりかけたが、隣の若い警察官の言葉に一度天井の隅を見て再び席へ着いた。
熊沢が前のめりに伸ばそうとした左手は俺には届かなかったけれど、スローモーションのように見えているのに避けることもできなかった。
「冷静になってください。相手はまだ中学生です」
「わかったわかった。だったらその中学生が、いい年をして幼い少女を対象にした魔法少女アニメの冊子やグッズを持ち歩いている理由を教えてくれるか?」
「今日買ってきたものだ! 何か文句があるのかよ!」
「どうせ女の子の気を惹くために持っていたのだろう? お前が連れ回していた子からも話題に出たり、絵を描いたとかの確認が取れているぞ!」
「違う! 本当に欲しいから買ってきたんだ!!」
「こんな物まで準備をして、最近のガキの用意周到さには恐れ入るぜ。おい、いい加減認めろよ!」
若い警察官に諭されて一見落ち着きを取り戻したかのような熊沢だったが、化けの皮はすぐに剥がれて元通りの荒い口調になる。
こちらも嘘は一切言っていない。
だがここに大きな落とし穴があったことに、ようやく俺は気づいた。
このでかい熊のような胸糞の悪い警察官ヘカミングアウトしたとおり、俺は中学一年にもなって女の子向けの魔法少女アニメが大好きだ。
今日は、今月のお小遣いを手にして買いに行った帰りに、泣いて困っている女の子に気づいて話を聴き、その子の家へ連れて帰ってあげようとした。
熊沢は、魔法少女グッズを女の子を連れ回すためにわざわざ準備をしたと、最初から疑ってかかっていたのだ。
「さっき取り上げた財布を見てくれよ!! 買った時のレシートが入っているから!」
「それがどうした? そんなものは別に証拠でも何でもない」
「そ、そうだ。家に来て部屋を見てくれ! 好きで集めているのがわかるからっ」
「柳、今の言葉をしっかりと記録しろ。根本的にそっちの趣味があると吐いた」
「承知しました」
「だからっ……」
どうにも話が通じないことに苛立って、思わず机を叩いて立ち上がろうとしたその時、廊下から女の子が激しく泣きじゃくる声が響いた。
「向こうの保護者が来たようだな」
「自分が見てまいます」
柳と呼ばれた若い警察官は一度廊下へ出たのだが、すぐに困った表情をしながら戻り、俺とゴツイ警察官を交互に見比べた。
「熊沢先輩、瀧上先生がこの少年に会ってお話がしたいと」
「瀧上先生が? なぜだ?」
「その……女の子は先生のお孫さんだったようで」
「何ぃ!? 桜だったのか!! 貴様、確認もしていなかったのか!?」
「も、申し訳ありませんっ! 婦警が必死にあやしていたので後からでもと……」
「やかましいっ!! 先にわかっていれば、このガキをもっと厳しく責めてやったんだ!!」
俺への口調など、とてもなまやさしいものだったことがはっきりわかる怒声を熊沢が発して立ち上がる。若い警察官は一本のマッチ棒のように見事な直立不動の姿勢になった。
次に起こるであろうことが自然とわかり、思わず目をつぶってしまったところ、まったく場にそぐわない穏やかそうな声が部屋へと入って来た。
「何回答えればいいんだよ!! 家に送って行くだけって言ってるだろう!?」
「お前!! さっきまでのしょげた態度はどこ行った!! 何だ、その反抗的な目は!」
何度も何度も同じ質問が繰り返され、俺も同じ答えしかしていない。
目の前に二人の警察官が座っているが、パトカーで俺を連れて来たやつらとは別の人間だ。
正面に座っている男はとても大柄で目はギョロリとして少し血走っていた。鼻も口も体に比例して大きいが少し左に歪んでいるように思える。ひたすら俺を疑う口調のまま、責めるように質問を続けていた。
隣の黒縁眼鏡の若い男は、何も言わずにひたすらノートパソコンヘ向かってキーボードをカチャカチャ鳴らしている。澄ました様子で俺に視線を向けることもなく、機械的にやり取りを記録していると思われた。
連れて来られた当初こそ茫然自失だったけれど、まったく言うことを聞いてくれない相手に腹の底からふつふつと怒りが込み上げて、知らない間に俺の言葉も態度も反抗的になってしまっていた。
「白石雅久! お前は本当に強情な奴だな。中学一年でそんな風だと将来ろくな大人にならないぞ! お前の両親にさっき連絡をしたら、かわいそうなほど取り乱していたぞ!」
「父さんと母さんに連絡したってのかっ!?」
「ケツの青い生意気なガキが悪さをしたんだから、保護者が引き取りに来るのは当然だ」
この部屋へ入る前に持ち物検査をされて学生証も見られていた。その警察官は見下すように俺の名前を呼び捨てたが、そんなことはどうでもいい。
完全な濡れ衣なのに、父さんと母さんに余計な心配と悲しい思いをさせたことが、悔しくて悔しくてたまらなかった。
「本当に何もやってないって何回言えばわかるんだ!! おっさん、耳と頭が悪いだろう!」
「このガキ……黙って聞いていれば」
「熊沢先輩、落ち着いてください。ここはビデオが撮られていますよ」
「ちっ」
熊沢と呼ばれた大柄な警察官は、左手を伸ばしながら机に右手を置いて立ち上がりかけたが、隣の若い警察官の言葉に一度天井の隅を見て再び席へ着いた。
熊沢が前のめりに伸ばそうとした左手は俺には届かなかったけれど、スローモーションのように見えているのに避けることもできなかった。
「冷静になってください。相手はまだ中学生です」
「わかったわかった。だったらその中学生が、いい年をして幼い少女を対象にした魔法少女アニメの冊子やグッズを持ち歩いている理由を教えてくれるか?」
「今日買ってきたものだ! 何か文句があるのかよ!」
「どうせ女の子の気を惹くために持っていたのだろう? お前が連れ回していた子からも話題に出たり、絵を描いたとかの確認が取れているぞ!」
「違う! 本当に欲しいから買ってきたんだ!!」
「こんな物まで準備をして、最近のガキの用意周到さには恐れ入るぜ。おい、いい加減認めろよ!」
若い警察官に諭されて一見落ち着きを取り戻したかのような熊沢だったが、化けの皮はすぐに剥がれて元通りの荒い口調になる。
こちらも嘘は一切言っていない。
だがここに大きな落とし穴があったことに、ようやく俺は気づいた。
このでかい熊のような胸糞の悪い警察官ヘカミングアウトしたとおり、俺は中学一年にもなって女の子向けの魔法少女アニメが大好きだ。
今日は、今月のお小遣いを手にして買いに行った帰りに、泣いて困っている女の子に気づいて話を聴き、その子の家へ連れて帰ってあげようとした。
熊沢は、魔法少女グッズを女の子を連れ回すためにわざわざ準備をしたと、最初から疑ってかかっていたのだ。
「さっき取り上げた財布を見てくれよ!! 買った時のレシートが入っているから!」
「それがどうした? そんなものは別に証拠でも何でもない」
「そ、そうだ。家に来て部屋を見てくれ! 好きで集めているのがわかるからっ」
「柳、今の言葉をしっかりと記録しろ。根本的にそっちの趣味があると吐いた」
「承知しました」
「だからっ……」
どうにも話が通じないことに苛立って、思わず机を叩いて立ち上がろうとしたその時、廊下から女の子が激しく泣きじゃくる声が響いた。
「向こうの保護者が来たようだな」
「自分が見てまいます」
柳と呼ばれた若い警察官は一度廊下へ出たのだが、すぐに困った表情をしながら戻り、俺とゴツイ警察官を交互に見比べた。
「熊沢先輩、瀧上先生がこの少年に会ってお話がしたいと」
「瀧上先生が? なぜだ?」
「その……女の子は先生のお孫さんだったようで」
「何ぃ!? 桜だったのか!! 貴様、確認もしていなかったのか!?」
「も、申し訳ありませんっ! 婦警が必死にあやしていたので後からでもと……」
「やかましいっ!! 先にわかっていれば、このガキをもっと厳しく責めてやったんだ!!」
俺への口調など、とてもなまやさしいものだったことがはっきりわかる怒声を熊沢が発して立ち上がる。若い警察官は一本のマッチ棒のように見事な直立不動の姿勢になった。
次に起こるであろうことが自然とわかり、思わず目をつぶってしまったところ、まったく場にそぐわない穏やかそうな声が部屋へと入って来た。
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